ALSのシーティングは「症状変化→調整→同じ活動で再評価」で考えます
ALSの車椅子シーティングは、一度合わせて終わりではありません。筋力低下や疲労、呼吸・嚥下・コミュニケーションの変化に伴い、同じ設定が合わなくなるためです。重要なのは「理想姿勢」を固定することではなく、首下がり、息切れ、食事疲労、前滑り、発赤、上肢操作困難などを見直しのサインとして拾い、目的に合わせて小さく調整し、同じ活動で反応を確認することです。本記事ではPT・OTを中心に、評価、症状別の調整、再評価、記録までを整理します。
シーティング全体の評価・調整を先に確認したい方へ
WHOの車椅子提供ガイドラインでは、個別評価、適合、使用方法の訓練、継続的なフォローアップを一連のプロセスとして位置づけています。ALSのように状態が変化する疾患では、定期確認だけでなく、「前回より何かが難しくなった」ときに再評価へ戻る仕組みを持つことが重要です。
ALSでシーティングを見直す7つのサイン
ALSでは、車椅子そのものの故障や明らかな姿勢崩れだけが見直しのきっかけではありません。これまで続けられていた活動が続けにくくなった変化も、シーティング再評価の入口になります。
以下は標準化された判定基準ではなく、ガイドラインで重視される「変化するニーズへの継続的な見直し」を、臨床で拾いやすい形に整理したものです。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 変化 | まず確認すること | 次の一手 |
|---|---|---|
| 首下がり・頭部保持低下 | 体幹支持、背角度、頭頸部支持、視線、痛み | 頭だけでなく骨盤・体幹から支持条件を再確認する |
| 息切れ・会話疲労の増加 | 姿勢、胸郭の動き、疲労、呼吸症状、NIV等の使用状況 | 姿勢調整と並行して呼吸状態の再評価につなぐ |
| 座位耐久性の低下 | 疲労、疼痛、支持不足、圧・ずれ、呼吸負担 | 「何分座れるか」だけでなく中断理由を特定する |
| むせ・食事疲労の変化 | 食事姿勢、頭頸部・体幹支持、呼吸症状、食事条件 | シーティングだけで判断せず、嚥下評価と合わせて見直す |
| 上肢操作・AACが難しくなった | 上肢支持、スイッチ・ジョイスティック位置、視線、疲労 | 操作方法とシーティングを一体として再設定する |
| 前滑り・左右への崩れが増えた | 骨盤、座奥行、足部支持、背支持、クッション、座角 | 崩れた部位だけでなく、土台から原因を確認する |
| 発赤・疼痛・皮膚変化 | 圧・ずれ、座位時間、クッション、姿勢変化、皮膚状態 | 圧管理と皮膚評価を優先し、必要時は多職種へ連携する |

評価は「困っている活動」から始め、支持条件へ戻ります
ALSのシーティング評価で、毎回「骨盤から見る」と固定する必要はありません。まず、会話、食事、AAC、車椅子操作、休息など、どの活動が難しくなったのかを確認し、その活動を妨げている要因を骨盤・体幹・頭頸部・上肢・呼吸・皮膚へ分解します。
ただし、頭部や上肢だけを局所的に調整しても、骨盤や体幹が崩れていれば再現しにくくなります。症状を入口にしつつ、必要に応じて支持面の土台まで戻るのが実務上のポイントです。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 評価領域 | 確認するポイント | ALSで特に見たい変化 |
|---|---|---|
| 活動・目的 | 会話、食事、AAC、操作、休息、移動 | 以前できていた活動の持続時間・やりやすさ |
| 骨盤・体幹 | 後傾、傾斜、回旋、側屈、支持面との適合 | 疲労に伴う崩れ、前滑り、左右差の増加 |
| 頭頸部 | 頭部保持、頸部屈曲・側屈、ヘッドサポートとの適合 | 首下がり、視線低下、疼痛、会話・食事時の負担 |
| 呼吸・疲労 | 息切れ、会話の続けやすさ、呼吸補助筋使用、体位による差 | 座位や活動で呼吸負担が増えていないか |
| 上肢・操作環境 | アームサポート、テーブル、操作系、スイッチ、AAC位置 | 筋力低下や疲労で操作方法が合わなくなっていないか |
| 圧・皮膚・疼痛 | 発赤、皮膚損傷、疼痛、圧・ずれ、座位時間 | 自力での除圧・姿勢修正が難しくなっていないか |
| 車椅子設定 | クッション、背支持、足部支持、ヘッドサポート、ティルト・リクライニング | 以前の設定が現在の身体機能・活動に合っているか |
症状別|どこを仮調整し、何で効果を判定するか
調整は「姿勢がきれいになったか」ではなく、困っていた活動が少しでも行いやすくなったかで判定します。一度に複数の部品や角度を大きく変えると、どの変更が効いたか分からなくなるため、可能な範囲で変更点を絞って試します。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 困りごと | 仮調整の候補 | 調整後に確認すること |
|---|---|---|
| 首下がり・頭部保持低下 | 骨盤・体幹支持、背角度、ティルト、ヘッドサポート位置を見直す | 視線、頭部の楽さ、疼痛、会話・AAC・食事時の使いやすさ |
| 息切れ・会話疲労 | 胸郭を圧迫しにくい体幹支持、背角度・ティルト、頭頸部位置を試す | 同じ会話場面で息切れ、疲労、発話の続けやすさを比較する |
| 食事疲労・むせの変化 | 食事時の骨盤・体幹・頭頸部支持を、嚥下評価で決めた条件に合わせる | 同じ安全条件で食事時間、疲労、むせ等の変化を確認する |
| 前滑り・姿勢崩れ | 座奥行、足部支持、骨盤・背支持、クッション、リクライニング使用方法を確認する | 骨盤位置、ずれ、座位保持、皮膚への影響を比較する |
| 上肢操作・AAC困難 | 上肢支持、テーブル高、スイッチ・ジョイスティック・視線入力機器の位置を見直す | 操作精度だけでなく、操作を続けられる時間と疲労を確認する |
| 発赤・疼痛 | クッション、圧再分散、ティルト等による姿勢変換、座位時間を再検討する | 皮膚所見、疼痛、姿勢、活動性を再確認する |
| 座位耐久性低下 | 疲労、呼吸、疼痛、支持不足を切り分け、休息姿勢を含めて調整する | 何が理由で座位を中断したか、活動後の疲労がどう変わったかを見る |
ティルト・リクライニング・頭頸部支持は「目的」で使い分けます
ティルト、リクライニング、ヘッドサポートは、ALSだから特定の角度や形が一律に正解になるわけではありません。姿勢保持、休息、圧の再分散、頭部保持、介助、会話やAACなど、何を助けるために使うかを先に決めます。
- ティルト:座面と背支持の関係を大きく変えずに全体を傾けるため、姿勢保持、休息、圧再分散などの目的で検討します。
- リクライニング:座面と背もたれの角度を変えられますが、使い方によって骨盤の滑りやずれが生じることがあるため、変更後は骨盤位置と皮膚を再確認します。
- ヘッドサポート:頭だけを押さえるのではなく、骨盤・体幹支持、視線、会話、AAC、食事などとの組み合わせで適合を確認します。
特に首下がりが進行した場合は、支持を強くするほど良いとは限りません。本人が必要とする頭部運動や視線を残せるか、装着部の疼痛・圧迫がないかも合わせて確認します。
調整後は「同じ活動」でbefore / afterを比較します
ALSでは日内変動や疲労の影響を受けるため、調整前後の条件が違うと効果を判断しにくくなります。調整目的と同じ活動を、できるだけ近い条件で比較すると、次の設定判断につながります。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 目的 | 同じ条件で比べる活動 | 比較する反応 |
|---|---|---|
| 会話を続けやすくする | 同じ会話場面 | 息切れ、疲労、発話の続けやすさ |
| 食事を続けやすくする | 嚥下評価で設定された同じ食事条件 | 疲労、むせ等の症状、食事の進み方 |
| AACを使いやすくする | 同じ入力課題・意思伝達場面 | 操作しやすさ、誤操作、疲労、視線保持 |
| 座位を楽にする | 普段行う座位活動 | 痛み、不快感、姿勢崩れ、中断理由 |
| 皮膚負担を減らす | ケア計画に沿った通常の座位条件 | 皮膚所見、疼痛、ずれ、姿勢変化 |
発話が難しい場合も、本人の主観を外さないことが重要です。Yes / No、文字盤、スイッチ、視線入力など、現在使えるコミュニケーション手段で「楽か」「続けやすいか」「痛いか」を確認します。
シーティング調整だけで解決しない変化は中止・相談につなげます
姿勢を変えると一時的に楽になる場合でも、ALSそのものの呼吸・嚥下・筋力低下が進行している可能性があります。新しい症状や明らかな増悪を「車椅子が合わないだけ」と決めつけないことが安全管理のポイントです。
- 新規または増悪する息苦しさ、呼吸困難、会話時の著しい呼吸負担がある
- むせや食事中の症状が増え、これまでの食事条件が合わなくなっている
- 持続する発赤、皮膚損傷、強い疼痛がある
- 調整によって呼吸、食事、会話、操作がかえって悪化する
- 筋力低下などにより、車椅子や操作系を安全に使用できなくなっている
呼吸症状が変化した場合は呼吸評価へ、嚥下症状が変化した場合は臨床的嚥下評価へつなぎます。緊急性が疑われる場合は、シーティングの再調整を続けるのではなく、所属施設の手順に従って医療的な評価を優先してください。
記録は「症状→調整→反応→次回条件」の4点を残します
ALSのシーティング記録では、角度や姿勢所見だけを残しても、次の担当者が「なぜその設定なのか」を判断できません。最低限、①何が変わったか、②何を調整したか、③同じ活動でどう反応したか、④いつ・何が起きたら再評価するかを残します。
記録例
会話時の首下がり・疲労増加 → 体幹支持とティルトを仮調整 → 同じ会話場面で頭部保持と楽さが改善 → 日内後半の疲労時に再確認。悪化時は頭頸部支持と呼吸状態を再評価する。
ALSシーティング 再評価・調整記録シート(Excel・PDF)
記事の流れに合わせて、「症状変化→確認→仮調整→同じ活動で反応確認→次回条件・再評価」を1枚で記録できるシートを用意しました。Excel版は院内の運用に合わせて編集したい場合、PDF版はそのまま印刷・配布したい場合に使えます。
このシートは標準化評価尺度ではなく、rehabilikunblog独自の記録補助シートです。
PDFプレビューを開く
ALSシーティングで避けたい4つの失敗
失敗しやすいのは、設定値そのものよりも、調整の目的と再評価条件が曖昧なまま進めることです。
- 「きれいな姿勢」をゴールにする:見た目より、呼吸、会話、食事、操作、休息など本人が必要とする活動を優先します。
- 一度に多くの設定を変える:可能な範囲で変更点を絞り、何を変えた結果どうなったかを残します。
- 呼吸・嚥下の悪化を姿勢だけで説明する:シーティングは一要因です。症状変化があれば各専門評価へつなぎます。
- 前回設定を固定して使い続ける:ALSでは身体機能や操作方法が変わるため、定期確認と変化時の再評価を組み合わせます。
よくある質問(FAQ)
ALSのシーティングは、どのくらいの頻度で再評価しますか?
ALSだけに共通する一律の再評価間隔を決めるより、定期的な確認に加えて、首下がり、息切れ、食事疲労、前滑り、発赤、操作困難などの変化をトリガーに再評価する運用が実践的です。進行速度、使用時間、皮膚リスク、機器変更などに応じて頻度を調整します。
最初に必ず骨盤から調整したほうがよいですか?
必ずしも「骨盤から」で固定する必要はありません。まず困っている活動や症状を確認し、その原因を追います。ただし、骨盤・体幹が不安定なまま頭頸部や上肢だけを調整すると再現しにくいため、必要に応じて土台まで戻って確認します。
ティルトとリクライニングはどちらを優先しますか?
目的によって異なります。姿勢保持、休息、圧管理、ケア、頭部保持など、何を改善したいかを先に決めます。単一の角度や機能を固定せず、変更後の骨盤位置、皮膚、呼吸、活動のしやすさを確認して選びます。
次の一手
- ALSで何を継続評価するか全体像を確認する:ALSリハビリ評価の全体像
- 息切れ・呼吸疲労が変化したときの評価へ進む:ALSの呼吸評価
参考文献
- 漆谷真, 割田仁, 熱田直樹, 他. The clinical practice guideline for the management of amyotrophic lateral sclerosis in Japan-update 2023. 臨床神経学. 2024;64(4):252-271. doi:10.5692/clinicalneurol.cn-001946.
- Van Damme P, Al-Chalabi A, Andersen PM, et al. European Academy of Neurology (EAN) guideline on the management of amyotrophic lateral sclerosis in collaboration with European Reference Network for Neuromuscular Diseases (ERN EURO-NMD). Eur J Neurol. 2024;31(6):e16264. doi:10.1111/ene.16264.
- National Institute for Health and Care Excellence. Motor neurone disease: assessment and management. NICE guideline NG42. London: NICE; 2016.
- World Health Organization. Wheelchair provision guidelines. Geneva: World Health Organization; 2023.
- Rehabilitation Engineering and Assistive Technology Society of North America. RESNA Position on the Application of Tilt, Recline, and Elevating Leg Rests for Wheelchairs: Literature Update 2023. Washington, DC: RESNA; 2025.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

