ALS のシーティング・ポジショニングは「評価→調整→記録」を固定すると再現しやすくなります
ALS のシーティング・ポジショニングでは、姿勢を整えること自体が目的ではありません。重要なのは、呼吸のしやすさ・嚥下や会話の続けやすさ・圧とずれの管理を同時に守れる条件を見つけることです。この記事では、5 分評価で詰まりどころを見つけ、仮調整から再評価、記録までつなぐ実務の流れを整理します。
一度で完成形を狙うより、小さく調整して、本人の主観を確認し、再評価して共有するほうが ALS では再現しやすいです。図版と PDF を使いながら、現場でそのまま回せる形に落とし込んでいきます。
5 分評価:座位の詰まりどころを「見る順番」で固定します
ALS の座位観察は、骨盤→体幹→頭頸部→圧・ずれ→呼吸の順で統一すると、崩れの起点を見つけやすくなります。骨盤後傾や左右傾斜が体幹崩れや頭頸部前方化につながり、最終的に呼吸や嚥下へ影響する流れを、毎回同じ順で確認することが大切です。
記録では所見だけで終わらせず、何を守る調整かを 1 行添えます。たとえば「呼吸を守るため頸部過屈曲を避ける」「褥瘡予防のため前滑りを抑える」と書けると、担当者が変わっても調整意図がぶれにくくなります。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 観点 | 見るポイント | よくある所見 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 骨盤 | 後傾 / 左右傾斜 / 回旋 | 前滑り、体幹崩れの起点 | 後傾の程度と滑りの有無 |
| 体幹 | 側屈 / 回旋 / 保持時間 | 片側へ崩れる、疲労が増える | 支持具で保持できる条件 |
| 頭頸部 | 前方化 / 屈曲 / 顎位 | 会話・嚥下で疲れやすい | 会話時と食事時の差 |
| 圧・ずれ | 仙骨 / 坐骨 / 片側荷重 | 赤み、痛み、ずれの再発 | 皮膚所見と座位許容時間 |
| 呼吸 | 呼吸数 / 息切れ / 肩呼吸 | 姿勢崩れで呼吸負担が増える | 楽な角度と持続時間 |
記録用 PDF:ALS シーティング記録シート
評価から記録までを同じ型で回したい場合は、配布用の記録シートを使うと共有が早くなります。観察順と再評価の視点をそろえたいときに活用してください。
プレビューを開く
図版:5 分評価→調整→記録の流れ
調整手順:一発で決めず「仮調整→再評価」で精度を上げます
ALS では体調や疲労で最適条件が変動しやすいため、最初から完成形を狙うより、仮調整で短時間の変化を見て再評価するほうが安定します。順番は「骨盤の土台→体幹支持→頭頸部→上肢ポジション→呼吸確認」です。
再評価では数値と同じくらい、本人の主観である「楽さ」「続けやすさ」「苦しさの少なさ」を重視します。設定確認をすばやく回したい場合は、ALS 車椅子設定チェックリストと組み合わせると実装しやすくなります。
目的別:優先調整ポイント早見表
ALS のシーティングでは、何を守る調整なのかを先に決めると、観察と記録が整理しやすくなります。呼吸、嚥下・会話、褥瘡予防の 3 つを軸にすると、現場での優先順位がぶれにくくなります。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 守る目的 | 優先する調整 | 再評価の指標 | 共有メモ |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 胸郭運動を妨げない体幹支持、頸部過屈曲の回避 | 会話時の息切れ、呼吸数、疲労感 | どの角度で楽かを共通語で記録 |
| 嚥下・会話 | 顎位と頭頸部中間位の確保 | むせ、発話持続、食事時間 | 食事時と会話時で条件を分ける |
| 褥瘡予防 | 圧分散、前滑り抑制、左右荷重の是正 | 赤み、疼痛、座位許容時間 | 離床時間帯と体位変換計画を連動 |
現場の詰まりどころ
ALS のシーティングで停滞しやすいのは、機器設定そのものより、評価順の不一致・本人主観の聞き漏れ・記録が所見止まりになることです。まず判断の入口をそろえるだけでも、調整の再現性は上がります。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
よくある失敗
失敗は「大きく外す」より、「少しずつずれていく」形で起こりやすいです。最初の一手を固定しておくと、修正が早くなります。
| 失敗 | 起きる理由 | 修正の第一手 |
|---|---|---|
| 一度で決め切ろうとする | 日内変動・疲労差を織り込めていない | 仮調整→短時間再評価の 2 段階にする |
| 骨盤より先に上半身を調整する | 崩れの起点を見誤る | 骨盤・体幹を先に整える |
| 記録が所見のみで終わる | 守る目的が共有されていない | 目的(呼吸 / 嚥下 / 褥瘡)を 1 行追記する |
回避の手順チェック
最後に、最低限そろえたい確認項目を 4 つだけに絞ります。評価と記録の型を固定すると、チームでの共有がしやすくなります。
- 観察順(骨盤→体幹→頭頸部→圧・ずれ→呼吸)を固定したか
- 仮調整後に本人主観(楽さ・続けやすさ)を確認したか
- 記録に「守る目的」を 1 行で明記したか
- 家族・介助者にも同じ説明文で伝えたか
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
最初に調整すべき部位はどこですか?
原則は骨盤です。骨盤が不安定なまま体幹や頭頸部を調整すると、代償が増えて再現性が落ちやすくなります。
呼吸と嚥下のどちらを優先しますか?
迷う場面では、まず呼吸負担の軽減を優先します。そのうえで嚥下・会話の持続性を最適化すると、全体の安定性が高まります。
家族指導で最低限伝えることは何ですか?
「どの姿勢が楽か」「何分で休憩するか」「赤み・痛みが出た時の対応」の 3 点を固定文で伝えると、在宅での再現性が上がります。
記録シートはどの場面で使うとよいですか?
初回調整時だけでなく、設定変更後の再評価や家族指導前の共有にも使いやすいです。担当者間で見る順番をそろえたいときに有用です。
次の一手
- 全体像を確認する:ALS リハの全体像(ハブ)
- すぐ実装する:ALS 車椅子設定チェックリスト
参考文献
- World Health Organization. Guidelines on the provision of manual wheelchairs in less resourced settings. 2008.
- Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al. Practice parameter update: The care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis. Neurology. 2009;73(15):1227-1233. doi:10.1212/WNL.0b013e3181bc0141
- Andersen PM, Abrahams S, Borasio GD, et al. EFNS guidelines on the clinical management of amyotrophic lateral sclerosis. Eur J Neurol. 2012;19(3):360-375. doi:10.1111/j.1468-1331.2011.03501.x
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


