失語症の作業療法|OTがADLで行う支援とST連携

臨床手技・プロトコル
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失語症の作業療法では「生活場面で伝わる条件」を見つけます

失語症がある患者にOTが関わるときは、呼称や聴理解の課題を独自に難易度分けして進めることより、更衣・整容・食事・予定確認などのADL・作業場面で、どの伝え方なら本人が理解・選択・表出しやすいかを確認することが重要です。詳細な失語症評価や専門的な言語訓練はSTと連携し、OTでは実際の活動・参加へつなげます。本記事では、作業場面での観察、伝え方・環境の調整、記録、STへ共有したい情報を整理します。

OTは「何ができないか」より、どの条件なら作業へ参加できるかを確認します

失語症がある患者の作業療法では、言語症状だけを切り取るのではなく、コミュニケーションの難しさが実際の生活行為へどう影響しているかを確認します。

たとえば「更衣の指示が通らない」という場面でも、長い口頭指示では難しいのか、短い言葉なら理解できるのか、実物を提示すると選べるのか、見本があれば動作を開始できるのかによって、次に試す支援は変わります。

失語症がある患者へOTが確認したいポイント
確認すること 具体例 OTで見るポイント
困っている作業 更衣、整容、食事、予定確認、買い物 コミュニケーションがどの場面で参加を妨げているか
STからの情報 理解・表出の特徴、有効な手がかり 評価・訓練で有効だった方法をADLでも活用できるか
使える伝達手段 発話、指さし、ジェスチャー、文字、写真、実物 発話以外を含め、本人が意思を示せる方法は何か
環境 周囲の音、話す人数、提示する情報量 環境を変えることでやり取りが成立しやすくなるか

失語症の詳細な検査方法やSLTA・WAB・CADLの使い分けは、失語症評価の使い分け|SLTA・WAB・CADL比較で確認してください。本記事では、評価結果やSTから共有された情報をOTの作業場面へどうつなげるかに絞ります。

失語症がある患者へのOT支援で、ADL・作業場面の困りごとから伝達条件の調整、観察、記録、ST・病棟・家族への共有までを示した流れ
失語症がある患者へのOT支援|ADL・作業場面の観察からST・病棟・家族への共有まで

伝わりにくいときは「情報量・待ち時間・伝達手段・環境」を調整します

コミュニケーションが成立しにくい場合は、同じ言葉を繰り返すだけではなく、伝える条件を調整します。ポイントは、本人の反応を見ながら「何を変えると伝わりやすくなったか」を確認することです。

OTが作業場面で調整できるコミュニケーション条件
調整する条件 対応例 観察する反応
情報量 長い説明を分け、1つずつ伝える 短くすると理解や動作開始が変わるか
待ち時間 質問後すぐに言い換えず、本人の反応を待つ 時間を確保すると発話・指さしなどの反応が出るか
選択方法 必要に応じて実物・写真・文字などを提示する 口頭のみの場合と比べて意思を示しやすいか
非言語手段 指さし、ジェスチャー、描画、実物を併用する 発話以外の方法で伝達を補えるか
環境 テレビを消す、同時に話す人数を減らす 背景刺激を減らすと反応が変わるか

ここで重要なのは、「二択なら必ず正確」「文字なら必ず伝わる」と決めつけないことです。失語症では障害される言語機能や程度が患者ごとに異なるため、STから共有された所見と実際の反応を照合しながら方法を選びます。

ADL・作業場面では「伝え方を変えたら遂行がどう変わったか」を見ます

OTが確認したいのは、机上課題の成績だけでは分からない実際の生活行為の中でのコミュニケーションです。発話が正確だったかだけでなく、本人が選択できたか、行動へ移れたか、意思を相手へ伝えられたかまで観察します。

ADL・作業場面から失語症支援へつなげる実装例
作業場面 伝わりにくいポイント OTが変える条件 観察する反応 STへ返す情報
更衣 「どちらを着ますか」で返答が止まる 衣類を実物で提示する 指さしなどで選択できるか 実物提示では選択が成立したこと
整容 口頭指示だけでは動作を開始しない 物品提示や見本を加える 提示後に自力で開始・継続できるか 口頭と視覚提示で反応が異なること
食事 飲み物の希望を発話で示しにくい 実物や選択肢を提示する 希望を一貫して選択できるか どの方法なら意思確認が成立したか
予定確認 口頭説明だけでは予定を確認しにくい 文字、写真、予定表を併用する 予定を確認して次の行動へ移れるか 有効だった視覚情報の種類
買い物・IADL 欲しい物や支払い方法を伝えにくい 商品、写真、メモ、指さしを併用する 選択・意思決定・伝達が成立するか 実生活で残るコミュニケーション上の困難

「指示が通らない=失語症」と決めず、動作が止まる理由を分けて考えます

口頭指示で動作できなかった場合でも、その結果だけで言語理解の問題とは判断できません。提示方法を変えたときの反応と、ほかの認知・運動所見を合わせて考えます。

たとえば、口頭指示では開始できなくても実物提示や見本で遂行できる場合は、言語情報の理解や処理が作業遂行へ影響している可能性があります。一方、提示方法を変えても動作が成立しない場合には、注意、失行、視空間認知、記憶、運動機能など別の要因も確認します。

OTでは原因を1つに決めつけるのではなく、条件を変えたときに作業遂行がどう変化したかを整理すると、多職種へ共有しやすくなります。

STとは「検査点数」だけでなく、生活場面の反応を共有します

呼称、聴理解、復唱、読み書きなどの詳細な障害構造を確認し、個別の言語機能訓練を進める場合は、STの評価・介入方針との連携が重要です。

OTからSTへ返したいのは、「会話が難しかった」という抽象的な情報ではありません。どの作業で困ったか、どの提示方法では難しかったか、何を加えると意思確認や作業遂行が成立したかまで具体化します。

OTからSTへ共有したい情報
共有する項目 共有例
場面 更衣時の衣類選択で口頭質問への返答が止まる
難しかった条件 口頭のみの自由回答では選択を確認しにくかった
有効だった条件 上衣2着を実物提示すると指さしで選択できた
作業遂行 選択後の着衣動作は追加の言語指示なく遂行できた
確認したいこと 意思確認では実物・文字・選択肢など、どの方法が安定しているか

このような共有があると、STが確認したコミュニケーション方法をOT場面で活用し、その結果を再びSTへ返す流れを作りやすくなります。

記録は「作業・伝達条件・反応・次の対応」を残します

記録では、「失語症あり」「指示理解不良」「会話困難」だけでは、次回どの方法で関わればよいか分かりません。どの作業で、どの条件を用い、本人がどう反応したかまで残します。

記録例

更衣時、口頭で「どちらを着ますか」と質問すると返答に停滞あり。上衣2着を実物提示すると左側を指さして選択可能。選択後の着衣動作は追加の見本なく遂行した。衣類選択では実物提示が有効であり、病棟スタッフへ同様の提示方法を共有する。STへ、意思確認時に推奨されるコミュニケーション手段を確認する。

このように記録すると、失語症の重症度をOT独自の点数で表すのではなく、本人が生活行為へ参加するために必要だった条件をチームで共有できます。

病棟・家族へは「本人に伝わりやすかった方法」を具体的に共有します

OT場面で有効だった方法を訓練場面だけで終わらせず、病棟や家庭でも再現できる形にすることが重要です。

「失語症なので短く話してください」だけではなく、「衣類は実物を提示すると選択しやすい」「質問後はすぐに言い換えず反応を待つ」「予定は口頭だけでなく文字も提示する」のように、実際の場面で確認できた方法を共有します。

失語症では、家族や医療・介護スタッフなどコミュニケーションパートナー側の関わり方を調整することも重要です。家族・病棟スタッフへの具体的な声かけや共有方法は、失語症の家族指導|声かけ・対応例・病棟共有で詳しく整理しています。

急な変化や意思確認の不確かさがある場合は、多職種へ相談します

既知の失語症がある患者でも、これまでと明らかに異なる言語症状が急に出現した、または急に悪化した場合は、通常のコミュニケーション調整だけで経過をみず、医師・看護師などへ速やかに共有します。

また、本人の意思確認が安定しない、Yes/Noや選択反応の信頼性を判断しにくい、適切なコミュニケーション補助手段が分からない、失語症とほかの高次脳機能障害を切り分けにくい場合は、STへ具体的な場面と反応を共有して方針をそろえます。

まとめ|OTは失語症を「生活場面でどう伝わるか」まで確認します

失語症がある患者へのOTでは、言語課題の成績だけを見るのではなく、実際のADL・IADLでどのコミュニケーション条件なら本人が参加できるかを確認します。

作業場面を特定する → 伝わりにくいポイントを確認する → 伝え方や環境を調整する → 反応と作業遂行を観察する → 有効だった条件を記録する → ST・病棟・家族へ共有するという流れにすると、それぞれの専門性を生かしながら生活支援へつなげやすくなります。

失語症と作業療法についてよくある質問

Q1. OTは失語症の患者へどこまで関わりますか?

OTでは、更衣・整容・食事・IADL・社会参加などの作業場面で、本人が理解・選択・表出しやすい条件を整え、活動への参加を支援します。詳細な失語症評価や専門的な言語機能訓練はSTと連携し、その評価・介入方針を生活場面へつなげます。

Q2. 指示が通らないときは、短く言い直せばよいですか?

短く伝えることは選択肢の1つですが、それだけで判断しません。返答を待つ、実物・文字・写真を提示する、ジェスチャーを加える、背景刺激を減らすなど、患者ごとに伝わりやすい条件を確認します。

Q3. OTからSTへ何を伝えるとよいですか?

「会話困難」だけでなく、どの作業で困ったか、どの提示方法では成立しなかったか、何を加えると意思確認や作業遂行が可能になったかを共有します。生活場面での具体的な反応は、STの評価・介入方針を実生活へつなげる情報になります。

参考文献

  1. National Institute for Health and Care Excellence. Stroke rehabilitation in adults. NICE guideline NG236. 2023. NICE
  2. Heart and Stroke Foundation of Canada. Canadian Stroke Best Practice Recommendations: Delivery of Stroke Rehabilitation, Section 7 Language and Communication. Canadian Stroke Best Practices
  3. Escher AA, McKinnon S, Berger S. Effective interventions within the scope of occupational therapy practice to address participation for adults with aphasia: A systematic review. Br J Occup Ther. 2022;85(2):99-110. doi:10.1177/03080226211057835. PubMed
  4. Simmons-Mackie N, Raymer A, Cherney LR. Communication Partner Training in Aphasia: An Updated Systematic Review. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(12):2202-2221.e8. doi:10.1016/j.apmr.2016.03.023. PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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