退院後の運動量の目安と 23 Ex/週の考え方
退院すると、それまでのリハ時間が急になくなり、「日中 23 時間をどう過ごせばよいか」が患者さん・家族の大きな不安になります。本記事では、退院後の運動量(活動量)の目安として 23 Ex/週をどう説明し、日常生活の中での増やし方を理学療法士の立場から整理します。単なる「頑張りましょう」ではなく、仕組みとして運動習慣を作ることがねらいです。
活動量計を活用すると、歩数だけでなく 3 METs 以上の時間 や座位時間まで可視化できます。WHO/厚労省のガイドラインが示す 週 23 Ex(3 METs 以上 × 時間)を「退院後の運動量の目安」として共有し、処方→モニタリング→振り返りまでを一本の流れとして設計することで、退院後の「リハの空白」を埋めていきましょう。
- 退院直後の 1 週間を「現状把握期間」として、活動量と日中のリズムを見える化する。
- 23 Ex/週を目標に、生活文脈に沿った具体的な活動メニューを患者さんと一緒に作る。
- 高齢者・フレイルでは安全性を優先しつつ、週次レビューで小さな成功体験を積み上げる。
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厚労省の身体活動基準は、成人に 3 METs 以上の身体活動を週 23 Ex 行うことを推奨し、WHO も 中強度の有酸素性身体活動 150–300 分/週 を提示しています。総死亡率、心血管イベント、2 型糖尿病、骨粗鬆症、認知機能、メンタルヘルスなど、幅広いアウトカムで保護効果が示されており、退院後の「運動量の目安」として患者さんにも説明しやすい指標です。
歩数のみでは歩幅・速度の個人差が大きく、同じ 6,000 歩でも負荷は人によって大きく異なります。そこで、活動の「強さ」と「量」を統合した METs × 時間(= Ex) で評価する方が再現性が高く、処方にも使いやすくなります。まずは現在の 1 週間の Ex を見える化し、ガイドラインとのギャップを患者さんと共有することが、退院後の運動量を整える第一歩です。
活動量計で測る:最初の 7 日
退院直後の 1 週間は「介入せずに観察する期間」と割り切り、活動量計の装着・自動記録・簡単な生活日誌だけを徹底します。手首型の活動量計で、歩数・心拍・「中強度以上の分数」・アクティブカロリーなどを記録し、スマホアプリや専用ソフトで日ごとのプロットを確認します。
このとき、活動ログに加えて「気分・痛み・息切れ・睡眠」の自己評価を 1 日 1 回メモしておくと、翌週の運動量の目安設定が具体化しやすくなります。2 週目のレビューでは、週の合計 Ex と日内の凹凸を一緒に見ながら、「どの時間帯に、何を、どれだけ足すか」を相談します。病棟での TUG や 6 分間歩行テストなどの機能評価と併せてモニタすることで、数値と行動が結び付き、自己効力感の向上につながります。
退院後 23 Ex を作る処方:例と作り方
Ex 処方の基本は、生活文脈に合う「足しやすい活動」を組み合わせて、週合計 23 Ex 以上になるように設計することです。やや速歩・階段昇降・家事・ストレッチなど、患者さんがイメージしやすい具体的な行動単位でメニューを作ります。少数は第 1 位で四捨五入し、過度な精度より「続けやすさ」を優先します。
目標設定には SMART 目標(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を用い、「いつ・どこで・どれくらい・できない時の代替案」を明確にします。さらに「食後 10 分の散歩」「エレベータの代わりに階段」など、日内のトリガーを決めておくと習慣化しやすくなります。
| 活動 | METs | 時間/回 | 頻度 | Ex/週 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| やや速歩 | 4.3 | 30 分 | 5 日 | 10.8 | 夕食後ウォーキングとして固定 |
| 階段上り | 8.8 | 5 分 | 5 日 | 3.7 | エレベータの代わりに 1 フロア分だけ階段 |
| 家事(掃除・片付け) | 3.5 | 40 分 | 7 日 | 16.3 | 午前中のルーティン家事として固定 |
| 合計 | ― | ― | ― | 30.8 | 23 Ex を超過(安全に余裕を持って達成) |
高齢者・フレイルでの注意点
高齢者やフレイルの方では、離床直後や日中後半に活動量が大きく落ち込みやすく、過負荷は転倒・心血管イベント・疲労感の増悪につながりかねません。そのため、短時間 × 複数回 の分割と、立位・歩行にこだわらない 家事 Ex(3–4 METs) を活用した漸増が基本となります。
フレイル評価で用いられる「低身体活動」の基準(例:男性 ≤ 383 kcal/週、女性 ≤ 270 kcal/週)に留意し、まずは「低活動ゾーンからの脱出」を目標にします。痛み・息切れ・疲労感の閾値を共有し、悪化サインがあればすぐに負荷を調整します。ADL スケールや歩行テストと組み合わせて経過を追うことで、患者さんにも変化が実感されやすくなります。
活動量計の選び方とよくある落とし穴
退院後の運動量をモニタリングする目的であれば、活動量計は 3 軸加速度+心拍 が測定できるシンプルなモデルで十分です。ディスプレイの見やすさ、充電持ち、装着感、自動記録の有無などが継続率を左右します。スマートウォッチ型が難しい場合は、腰装着型やポケット型の活動量計も選択肢になります。
よくある落とし穴は、目標が歩数だけになってしまうこと、休日の活動量がゼロに近いこと、装着忘れが常態化することです。Ex ベースで運動量を処方し、歩数は補助指標として位置付けると破綻しにくくなります。装着率が 80 %未満の週が続く場合は、通知機能の活用、家族・介護者の協力、決まった置き場所の設定など、行動設計そのものを見直します。
週次レビューで運動量を調整する:フォローアップの型
週 1 回の短時間レビューを「数値と行動をつなぐ時間」として位置付けると、退院後の運動量が定着しやすくなります。理学療法士は、活動量計のグラフと患者さんの語りを一緒に眺めながら、「何がうまくいったか」「どこでつまずいたか」を整理するファシリテーターの役割を担います。
ベーシックな流れは以下の通りです。
- グラフ確認:合計 Ex・中強度以上の時間・座位時間・休日の凹凸を確認する。
- できた行動の称賛:うまくいった理由を患者さんの言葉で言語化し、再現ポイントを整理する。
- 翌週の 1 改善:+2〜3 Ex 程度の小さな改善(時間延長・頻度増・家事追加など)に絞って決める。
- 合併症チェック:痛み・息切れ・睡眠・食欲などを確認し、必要なら負荷を調整する。
病棟や通院時に実施した TUG や 6 分間歩行テストなどの結果を「物差し」として共有し、「この 1 週間の取り組みが、歩行速度や持久力の変化とどう結び付いているか」を一緒に振り返ると、長期的なモチベーション維持につながります。
参考文献
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動基準 2013(概要). 2013. PDF
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023. 2023. PDF
- World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020. PubMed
- Fried LP, et al. Frailty in older adults: Evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146–M156. PubMed DOI
- Szeto K, et al. Wearable trackers during hospitalization and outcomes: Systematic review. JAMA Netw Open. 2023;6(6):e2318295. PubMed
- Wu S, et al. Effectiveness of wearable activity trackers in older adults: Systematic review. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(10):5575. PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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