運動失調の評価は「安全→観察→尺度→再評価」の順で迷いません
運動失調(小脳性など)は、転倒リスクと日内変動(疲労・薬効・体調)の影響で、評価がブレやすい領域です。結論として、初回は安全→観察→尺度→同条件で再評価の順番を固定すると、所見と点数がつながり、チームで共有しやすくなります。
このページでは「点数の説明」で終わらせず、最短 5 分の初回フローと ICARS / SARA / BARS の選び方、さらに記録と再評価の運用までを 1 本にまとめます。
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まず深掘り: ICARS ・ SARA ・ BARS の違い(比較・使い分け)
評価前に確認する中止基準と安全確保
運動失調の評価は、立位・歩行課題が入るほど転倒リスクが上がります。初回は「できる/できない」よりも、安全に同条件で再現できる範囲を先に決めるのが重要です。補助者配置、補助具、動線(段差・方向転換)を最初に整えます。
また、点数の上下を解釈するために、睡眠・疲労・めまい・薬効時間・食事量などの変動要因を 1 行でも残してください。「今日は低い」ではなく「条件が違う」だけ、がよく起こります。
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| 項目 | 事前に揃える | 中止/保留の目安 | 記録の型(短く) |
|---|---|---|---|
| 転倒リスク | 補助者 1 名/手すり/歩行帯、歩行動線の確保 | 介助量が急に増える、ふらつきが増悪して立位維持が困難 | 「見守り→軽介助へ増加」「方向転換で破綻」 |
| 起立耐性 | 椅子/ベッド近接、休息位置の固定 | めまい・悪心・冷汗などで継続困難 | 「起立で増悪、休息で回復」 |
| 日内変動/薬効 | 評価時間帯の固定(可能なら内服からの経過時間も) | 体調不良や強い疲労で“いつもと違う”日 | 「午前固定」「内服 2 時間後」 |
| 課題設定 | 直線歩行→方向転換の順、難易度の段階化 | 難易度を上げた直後に崩れる(比較不能) | 「次回から難易度変更」 |
| 緊急対応 | 転倒時の介助手順を共有、スタッフコール位置確認 | 急変の可能性がある兆候(強い意識変化など) | 「中止し報告」 |
最短 5 分の評価フロー(初回の型)
初回は、詳細評価よりも全体像を短時間で整えることが目的です。下の順番で進めると、観察が整理され、スケール選択が速くなります。
時間が取れない日は「①安全→③立位・歩行→⑤尺度決定」だけでも構いません。大事なのは、次回比較できるように同じ条件を残すことです。
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| 手順 | 見ること | 記録のコツ |
|---|---|---|
| ① 安全確認 | 転倒リスク/起立耐性/補助具・手すり/介助量 | 介助量と環境条件を 1 行で残す |
| ② 変動要因 | 疲労・めまい・薬効・日内変動(いつ悪いか) | 「午前>午後で悪化」などパターンを短く |
| ③ 立位〜歩行 | ふらつきの型(体幹 vs 四肢)/方向転換/支持基底面 | “崩れる場面”を言語化して残す |
| ④ 協調運動 | 狙いのズレ/リズム/反復で崩れるか | 条件(速度・回数)とセットで書く |
| ⑤ 尺度決定 | 目的に合う尺度( ICARS / SARA / BARS )を選択 | 選択理由を 1 行(短時間/比較/詳細) |
| ⑥ 同条件で再評価 | 次回のタイミングと同条件(靴・補助具・介助量・時間帯) | 「次回も同じ時間帯/同じ補助具」で比較できる形 |
観察のコツは「順番」を固定することです
運動失調は症状が複数ドメインに分散するため、観察が散らばると評価が崩れます。おすすめは、①歩行(全体像)→②体幹(支持)→③四肢(狙いと反復)→④構音→⑤眼球の順で拾う方法です。全体像を先に押さえると、詳細評価の取捨選択ができます。
よくある詰まりどころは「細部を追って全体を見失う」ことです。上肢を丁寧に見たあとに歩行へ戻ると、疲労で歩行が崩れて見えます。初回は観察の順番を固定し、必要なら次回に分割して評価する方が再現性が上がります。
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| 順番 | 見ること(要点) | よくある“詰まり” | メモの型(短く) |
|---|---|---|---|
| ① 歩行 | 直線/狭所/方向転換で崩れる条件 | 上肢評価で疲労後に歩行を見る | 「狭所で増悪」「方向転換で破綻」 |
| ② 体幹 | 立位の支持、揺れの方向、支持基底面 | “体幹の不安定” と “四肢の狙い” が混ざる | 「体幹で先に崩れる」 |
| ③ 四肢 | 狙いのズレ、リズム、反復での崩れ | 速度/回数が毎回違って比較不能 | 「反復で増悪」「速度↑で破綻」 |
| ④ 構音 | 疲労で変わるか、会話での明瞭度 | 検査室では良いが病棟で悪い(条件差) | 「疲労で不明瞭」 |
| ⑤ 眼球 | 注視/追従で乱れる条件 | 一回だけ見て“なし”と判断 | 「注視で乱れ」 |
ICARS / SARA / BARS は「優劣」ではなく「目的」で選びます
まず “目的” を決めると迷いません。「縦の変化を追う」「どこが崩れているか分解する」「短時間で拾う」のどれを優先するかで、最適な尺度が変わります。
尺度は「どれが上」ではなく「何のために使うか」で最適解が変わります。短時間で回して縦の変化を追うなら SARA 、詳細に分解して全体像を精査するなら ICARS 、さらに短時間運用を重視するなら BARS が候補になります。
運用を楽にするコツは、最初から 1 つに決め打ちしないことです。初回は全体像→目的→尺度の順にして、必要なら次回に詳細尺度を差し込むと、評価負担と精度のバランスが取りやすくなります。
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| まず目的を決める | おすすめ | この選択が強い理由 | 運用のコツ(比較条件) |
|---|---|---|---|
| 短時間で“縦の変化”を追いたい | SARA | 回しやすく、経過フォローに強い | 時間帯/補助具/介助量を固定 |
| 全体像を“分解して”把握したい | ICARS | 下位領域で“どこが崩れているか”が見える | 初回・方針変更・用具変更の前後で差し込む |
| とにかく短時間でスクリーニングしたい | BARS | 短時間で複数ドメインを拾える | 点数だけにせず“崩れる条件”を 1 行で補う |
| 病棟で転倒高リスク、歩行評価が難しい | (まず)観察+条件固定 → 次回 SARA / ICARS | 初回に無理をしない方が再評価が安定 | 立位/歩行の可否で“分割評価”する |
記録で差がつくのは「所見→点数→次回条件」の 3 点セットです
運動失調は、点数化しても「何が悪いのか」が残らないと介入に繋がりません。おすすめは、所見(崩れる場面)→点数→次回の同条件の 3 点セットです。これだけで、チーム内共有と再評価の質が上がります。
同じ点数でも「方向転換で破綻」「狭い場所で増悪」「反復で崩れる」など条件が違えば対応は変わります。点数は結論、所見は根拠として書き分けると、次の一手が決まりやすくなります。
再評価は「同条件で数回そろえてブレ幅を掴む」と安全です
再評価は早すぎても遅すぎても解釈が難しくなります。急性増悪がなければ、まずは同じ時間帯・同じ環境で数回そろえ、点数のブレ幅(変動の幅)を把握するのが実務的です。
また、反復で上手くなる(学習効果)や、疲労で崩れる(耐久性)など、点数だけでは読めない変化が起こります。同条件で繰り返すことと、崩れる条件を文章で残すことが、経過の解釈を助けます。
症例でわかる「評価の分割」と「条件固定」
運動失調は、初回から全部を測ろうとすると、疲労や不安で所見が変わりやすくなります。症例ベースで「どこまでやるか」「何を固定するか」の考え方を整理します。
症例 1:外来フォロー(評価の分割+条件固定)
- 状況:外来で月 1 回。日内変動と疲労で点数が揺れる
- 詰まり:毎回バラバラに実施して「改善/悪化」が読めない
- 解決(型):初回は安全→観察(順番固定)→ SARA で縦の変化を追う。時間帯・靴・補助具・介助量・歩行課題(距離/方向転換)を固定し、点数に「崩れる場面」を 1 行添える
ポイントは「点数の上下」より先に、条件を揃えることです。同条件が揃えば、変化の解釈が一気に楽になります。
カルテ 1 行例:「午前固定、靴同一、 T 字杖+見守り、廊下 10 m+方向転換でふらつき増悪」
症例 2:病棟で転倒高リスク(評価の分割)
- 状況:ふらつきが強く、歩行は危険。介助量も日によって違う
- 詰まり:初回から歩行評価を詰めて転倒リスクが上がる
- 解決(型):初回は安全確保→立位/移乗の観察を中心に「崩れる条件」を特定。歩行は無理に入れず、翌日以降に同条件で段階的に追加。安定してから ICARS を差し込んで全体像を分解する
初回は「測る」よりも、比較できる前提(条件)を作る方が、結果的に評価の精度が上がります。
カルテ 1 行例:「病室内、補助者 1 名、立位は軽介助で保持可。歩行は本日保留(方向転換で破綻)」
現場の詰まりどころ(解決の三段)
ここは “読ませるゾーン” です。迷いを増やさないために、解決導線は 3 本だけに絞ります。
よくある失敗:評価がブレる原因は「運用」で起きがちです
運動失調評価の失敗は、技術というより運用で起きがちです。特に「条件が変わっているのに同じ点数で比較してしまう」ことが、最も多い落とし穴です。
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| よくある失敗 | なぜ問題か | 最小の対策(まず 1 つ) |
|---|---|---|
| 介助量・補助具が毎回違う | 同じ点数でも意味が変わる | 介助量+補助具を固定して記録する |
| 評価の順番が固定されていない | 疲労の影響で見え方が変わる | 歩行→体幹→四肢→構音→眼球の順に固定 |
| 日内変動・薬効時間を無視 | 悪化ではなく条件差の可能性 | 時間帯と薬効のメモを 1 行残す |
| 課題の難易度を突然上げる | 比較不能になりやすい | 難易度を上げるなら“次回から”と決める |
| 点数だけ残して所見がない | 介入に繋がらず、次回比較も弱い | “崩れる場面”を 1 行添える |
回避のチェック:次回比較できる「固定条件」を先に決めます
点数の精度より先に、比較の前提(条件)を固定します。次の 4 つが揃うだけで、評価は一気に安定します。
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| 固定するもの | 例 | 書き方(短く) |
|---|---|---|
| 時間帯 | 午前、内服 2 時間後など | 「午前固定」「内服 2 時間後」 |
| 環境 | 廊下/病室内、方向転換の有無 | 「廊下 10 m+方向転換」 |
| 補助具・介助量 | T 字杖、歩行器、見守り〜軽介助 | 「 T 字杖+見守り」 |
| 評価の順番 | 歩行→体幹→四肢… | 「順番固定(歩行→体幹→四肢)」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 初回はどの尺度を選ぶのが無難ですか?
A. 初回は「全体像を短時間で整える」ことが優先です。まずは安全→観察→目的を決め、短時間で経過を追うなら SARA 、詳細に全体像を精査したいなら ICARS 、さらに短時間運用なら BARS を候補にします。いきなり 1 つに決め打ちせず、必要に応じて次回に詳細尺度を差し込む方が運用が安定します。
Q2. 点数が日によって変わります。悪化と判断していいですか?
A. まずは条件が同じかを確認します(時間帯・疲労・薬効・補助具・介助量・環境)。条件が揃っていない場合、点数変化は「変動」かもしれません。同条件で数回そろえてブレ幅を把握してから解釈すると安全です。
Q3. 点数化が難しい場面はどう記録すればいいですか?
A. 点数は結論なので、所見(崩れる場面)を文章で補います。「方向転換で支持基底面が拡大」「反復でリズムが崩れる」など、“条件+現象”で書くとチーム共有が強くなります。
Q4. ICARS を使うときの注意点はありますか?
A. ICARS は詳細に拾える反面、実施負担が上がります。初回から全項目を完璧に埋めるより、「目的(何を追うか)」を先に決め、同条件で再現できる範囲を優先すると運用が安定します。
次の一手
- 運用を整える:運動失調ハブ(評価と運用の全体像)(全体像)
- 共有の型を作る:協調性検査のやり方(観察を揃える最短手順)(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、 PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Trouillas P, Takayanagi T, Hallett M, et al. International Cooperative Ataxia Rating Scale for pharmacological assessment of the cerebellar syndrome. J Neurol Sci. 1997;145(2):205-211. DOI: 10.1016/S0022-510X(96)00231-6 / PubMed: PMID 9094050
- Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. DOI: 10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92 / PubMed: PMID 16769946
- Schmahmann JD, Gardner R, MacMore J, Vangel MG. Development of a brief ataxia rating scale (BARS) based on a modified form of the ICARS. Mov Disord. 2009;24(12):1820-1828. DOI: 10.1002/mds.22681 / PubMed: PMID 19562773
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


