リハビリ職に生理学が必要な理由
生理学は、リハビリ中に起こる血圧・脈拍・呼吸・SpO2・意識・嚥下・筋疲労などの変化を、身体の仕組みから考えるために必要です。数値や症状を覚えるだけでなく、「なぜ変化したのか」「介入を続けてよいか」「何を追加確認するか」を判断する土台になります。
この記事は、新人の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に向けた生理学の入口です。循環・呼吸・神経・筋・嚥下栄養・廃用の全体像と、臨床で遭遇した現象から学ぶ順番を整理します。個別の評価方法や対応については、関連する実践記事で詳しく確認してください。
この記事の使い方
まず全体像を確認し、臨床で困っている現象に近い領域へ進みます。すべてを一度に暗記するのではなく、「目の前の変化から必要な生理学を調べる」ための索引として活用してください。

生理学を臨床判断につなげる基本
生理学は、測定した数値や観察した症状を「次の確認と判断」につなげるために使います。
リハビリ中に血圧やSpO2が変化したとき、数値だけで直ちに原因を決めることはできません。変化が起こった状況、症状、ほかのバイタルサイン、回復経過を組み合わせて考える必要があります。
| 場面 | 観察される変化 | 生理学的に考えたいこと |
|---|---|---|
| 離床時 | 血圧低下、頻脈、ふらつき | 静脈還流、心拍出量、自律神経による血圧調節 |
| 歩行・運動中 | 心拍数・呼吸数の増加 | 運動による酸素需要と循環・換気応答 |
| 呼吸状態の確認 | SpO2低下、努力呼吸、頻呼吸 | 換気、酸素化、循環、測定誤差の可能性 |
| 食事・口腔ケア | むせ、湿性嗄声、咳 | 嚥下運動、気道防御、咳反射 |
| 長期臥床 | 筋力・持久力・活動性の低下 | 筋萎縮、循環応答の低下、エネルギー・栄養状態 |
| 皮膚・下肢の観察 | 浮腫、発赤、皮膚損傷 | 水分移動、リンパ還流、圧迫、組織耐性 |
新人のうちは、「血圧が低い」「SpO2が下がった」「むせた」という1つの所見だけに注目しやすくなります。しかし、臨床判断では、単一の数値ではなく、患者さんに起きている反応を一連の流れとして捉えることが重要です。
症状から考える5分フロー
リハビリ中に変化が起きたときは、「症状の確認→条件の確認→関連所見→生理学的仮説→対応」の順に整理します。

- 何が変化したかを確認する:血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、意識、顔色、発汗、痛みなどを確認します。
- いつ変化したかを確認する:安静時、起き上がり直後、立位後、歩行中、食事中など、変化した状況を整理します。
- 関連する所見を追加確認する:症状、左右差、努力呼吸、回復時間、浮腫、発熱、摂取量、服薬などを確認します。
- 関係する生理学を考える:循環、呼吸、自律神経、筋、嚥下、栄養のどこに関係するかを整理します。
- 中止・休息・再評価・共有を判断する:原因を断定せず、安全を確保したうえで必要な対応へ進みます。
注意
生理学の知識は、医師の診断や施設の中止基準に代わるものではありません。急な意識変化、強い呼吸困難、胸痛、失神、著しいバイタル変化などがある場合は、介入を止めて院内手順に沿って共有します。
離床時の中止・再開判断を具体的に整理したい場合は、離床の中止基準と再開基準も確認してください。
循環生理学で学ぶこと
循環生理学では、血圧や脈拍が変化する理由を、心拍出量・血管抵抗・静脈還流・体液量から考えます。
| テーマ | 基本的な考え方 | 臨床で確認する場面 |
|---|---|---|
| 血圧調節 | 血圧は心拍出量や末梢血管抵抗などの影響を受ける | 安静時、離床前後、運動前後 |
| 静脈還流 | 心臓へ戻る血液量は体位、筋ポンプ、体液量などで変化する | 起き上がり、立位、歩行 |
| 心拍数 | 運動、不安、疼痛、発熱、脱水などでも変化する | 運動負荷、休息後の回復 |
| 浮腫 | 血管内外の水分移動とリンパ系による回収が関係する | 下肢観察、周径測定、皮膚確認 |
たとえば臥位から立位になると、重力の影響で血液が下肢側へ移動し、一時的に心臓へ戻る血液量が減少します。通常は心拍数や血管収縮などによって血圧が調整されますが、体液量の不足、薬剤、自律神経機能、長期臥床などの影響で調整が不十分になることがあります。
そのため、離床時は血圧値だけでなく、めまい、ふらつき、気分不快、顔色、脈拍、姿勢変化からの経過を合わせて確認します。
浮腫の機序を詳しく学ぶ場合は、浮腫はなぜ起こるのかで、静水圧・膠質浸透圧・リンパ還流の関係を確認できます。
呼吸生理学で学ぶこと
呼吸生理学では、換気・ガス交換・酸素運搬の流れを理解し、呼吸数やSpO2の変化を評価につなげます。
| テーマ | 基本的な考え方 | 臨床で確認すること |
|---|---|---|
| 換気 | 空気を肺胞へ取り込み、二酸化炭素を排出する | 呼吸数、深さ、努力呼吸、胸郭運動 |
| 酸素化 | 肺胞から血液へ酸素を取り込む | SpO2、顔色、チアノーゼ、意識 |
| 酸素運搬 | 取り込まれた酸素を循環によって組織へ届ける | 脈拍、血圧、貧血、末梢循環 |
| 運動時応答 | 酸素需要の増加に合わせて換気量と心拍出量が増える | 息切れ、呼吸数、心拍数、回復時間 |
運動時に呼吸数や心拍数が増えること自体は、酸素需要に対応する生理的反応です。ただし、安静時から頻呼吸がある、軽い負荷で急激に悪化する、休息しても回復しない、意識や会話状態が変化するといった場合は注意が必要です。
また、SpO2は重要な指標ですが、体動、末梢循環不良、装着状態などの影響を受けることがあります。表示値だけで判断せず、波形や脈拍表示、呼吸状態、意識状態などと照合します。
神経生理学で学ぶこと
神経生理学では、運動・感覚だけでなく、自律神経、意識、姿勢調節などの仕組みを学びます。
| テーマ | 関係する働き | 臨床で見る場面 |
|---|---|---|
| 自律神経 | 血圧、心拍数、発汗、体温、消化などを調整する | 離床、運動、冷汗、顔色変化 |
| 圧受容器反射 | 血圧変化を検知し、心拍や血管収縮を調整する | 起き上がり、立位、失神前症状 |
| 感覚統合 | 視覚、前庭感覚、体性感覚を姿勢制御に利用する | 立位バランス、めまい、歩行 |
| 意識 | 脳機能、脳血流、酸素化、代謝状態などの影響を受ける | 覚醒度低下、反応遅延、急な変化 |
自律神経を理解すると、立位時の血圧調節、運動時の頻脈、冷汗、消化器症状などを関連づけやすくなります。
交感神経と副交感神経の違いを整理したい場合は、自律神経とは何かで基本から確認してください。
筋生理学で学ぶこと
筋生理学では、筋収縮だけでなく、筋疲労、廃用性筋萎縮、回復に必要な負荷・栄養・休息を学びます。
| テーマ | 基本的な考え方 | 臨床で見るポイント |
|---|---|---|
| 筋収縮 | 神経からの刺激を受けて筋が張力を発揮する | 筋力、収縮様式、運動範囲 |
| 筋疲労 | 末梢の代謝だけでなく中枢神経や全身状態も関係する | 反復回数、代償、回復時間 |
| 廃用性筋萎縮 | 不活動により筋タンパク質の合成と分解のバランスが崩れる | 臥床期間、活動量、筋量、筋力 |
| 筋力回復 | 適切な運動負荷に加えて栄養と休息が関係する | 負荷量、摂取状況、疲労、疼痛 |
長期臥床後の筋力低下を、筋肉だけの問題として考えると介入が狭くなります。実際には、呼吸循環機能、覚醒、疼痛、栄養、活動機会、心理状態などが重なって動作能力を制限します。
そのため、筋力訓練の回数だけでなく、1日の離床時間や活動量、疲労からの回復、食事摂取状況も確認します。
嚥下・栄養生理学で学ぶこと
嚥下・栄養生理学では、安全に食べる仕組みと、活動・筋量・創傷治癒を支える栄養の関係を学びます。
| テーマ | 基本的な考え方 | 臨床で見るポイント |
|---|---|---|
| 嚥下運動 | 食塊を口腔から咽頭、食道へ送る一連の運動 | 口腔内残留、喉頭挙上、嚥下回数 |
| 気道防御 | 喉頭閉鎖や咳によって気道侵入を防ぐ | むせ、湿性嗄声、咳の強さ |
| 栄養状態 | エネルギーとタンパク質は活動や組織修復に必要となる | 摂取量、体重変化、筋量、疲労 |
| 低栄養 | 筋量低下、免疫機能低下、創傷治癒遅延に関係する | 活動性、皮膚状態、回復経過 |
嚥下障害は食事中のむせだけでなく、誤嚥性肺炎、摂取量低下、低栄養、活動性低下へつながる可能性があります。逆に、呼吸状態や覚醒度、姿勢保持能力の低下が食事場面へ影響することもあります。
理学療法士や作業療法士も、移乗や座位姿勢、呼吸状態、疲労、活動量の情報を共有することで、嚥下・栄養支援に関われます。
褥瘡・拘縮・廃用を生理学から考える
褥瘡・拘縮・廃用は、長期臥床だけで説明せず、圧迫・血流・組織・活動量・栄養の相互作用として考えます。
| テーマ | 主な生理学的視点 | リハビリで確認すること |
|---|---|---|
| 褥瘡 | 圧迫、ずれ、血流低下、組織耐性 | 皮膚、除圧、姿勢、栄養、活動性 |
| 拘縮 | 不動に伴う筋・腱・関節包などの変化 | 可動域、疼痛、姿勢、日中の肢位 |
| 廃用 | 活動低下に伴う筋・循環・呼吸機能の変化 | 臥床期間、離床時間、ADL、運動耐容能 |
| 低栄養 | 筋量、免疫、組織修復への影響 | 摂取量、体重、筋量、創部経過 |
療養病棟では、褥瘡、拘縮、低栄養、嚥下障害、活動量低下が同時に存在することがあります。1つの問題だけを切り離さず、ポジショニング、離床、運動、食事、皮膚観察を多職種でつなげて考えることが重要です。
生理学を臨床で使うときのよくある失敗
生理学を臨床に生かすには、数値や仕組みを単純化しすぎないことが大切です。
| よくある失敗 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 数値だけで判断する | 症状や測定条件、経過を見落とす | 症状・変化量・持続時間・回復をセットで見る |
| 原因を1つに決めつける | 薬剤、脱水、感染、疼痛などを見落とす | 複数の仮説を持ち、関連所見を追加確認する |
| 正常反応と異常反応を分けない | 運動による生理的変化まで危険と判断する | 負荷量と回復時間を含めて評価する |
| 知識だけで介入を決める | 診断や院内基準を越えた判断につながる | 安全確保後に医師・看護師・関連職種へ共有する |
| 教科書を最初から暗記する | 臨床とのつながりが見えにくい | 実際に遭遇した現象から逆算して学ぶ |
リハビリ職におすすめの生理学の学び方
生理学は、教科書の最初から順番に暗記するより、臨床で遭遇した現象から逆算して学ぶ方が定着しやすくなります。
| 臨床で見る現象 | 最初に学ぶ領域 | 次に確認する内容 |
|---|---|---|
| 立つとふらつく | 循環・自律神経 | 静脈還流、血圧調節、薬剤、体液量 |
| 少し動くと息切れする | 呼吸・循環 | 換気、酸素化、心拍応答、回復時間 |
| 食事中にむせる | 嚥下・呼吸 | 気道防御、咳、姿勢、覚醒度 |
| 臥床後に動けなくなった | 筋・廃用 | 筋萎縮、持久力、活動量、栄養 |
| 下肢がむくんでいる | 循環・体液 | 分布、左右差、圧痕、疼痛、呼吸状態 |
| 褥瘡が改善しにくい | 循環・組織・栄養 | 圧迫、ずれ、除圧、摂取量、活動性 |
学んだあとは、「どの所見を確認するか」「どの条件で再評価するか」「誰に共有するか」まで言葉にすると、知識を臨床判断へ結びつけやすくなります。
リハビリ職向け生理学シリーズ
生理学シリーズは、総論であるこのページから、病態の仕組みを扱う個別記事へ進む構成です。
| テーマ | 学べること | 公開状況 |
|---|---|---|
| 自律神経とは何か | 交感神経・副交感神経と血圧、脈拍、発汗の関係 | 公開済み |
| 浮腫はなぜ起こるのか | 静水圧、膠質浸透圧、リンパ還流から浮腫を考える | 公開済み |
| 起立性低血圧はなぜ起こるのか | 姿勢変化、静脈還流、血圧調節の関係 | 今後追加 |
| SpO2はなぜ下がるのか | 換気、酸素化、循環、測定上の注意点 | 今後追加 |
| 誤嚥はなぜ起こるのか | 嚥下運動、喉頭閉鎖、咳反射の関係 | 今後追加 |
| 廃用性筋萎縮はなぜ起こるのか | 不活動、筋タンパク質代謝、栄養の関係 | 今後追加 |
公開前の記事については、現時点でリンクを設置していません。公開後に、この一覧から各個別記事へつなぐことで、生理学シリーズ全体の回遊性を高められます。
まとめ:生理学はリハビリの観察と判断をつなぐ
生理学は、リハビリ中に確認した数値や症状を、安全な判断へつなげるための土台です。
血圧、脈拍、呼吸、SpO2、意識、嚥下、筋力低下、浮腫、褥瘡などを個別に暗記するのではなく、身体の中でどのような反応が起きているかを考えます。
臨床で変化を認めたときは、次の順番で整理してください。
- 何が変化したか
- いつ、どの負荷で変化したか
- ほかにどのような症状があるか
- どの生理学的領域が関係するか
- 中止・休息・再評価・共有のどれが必要か
すべてを一度に覚える必要はありません。まずは、目の前の患者さんに起きた現象から1つずつ学び、観察・評価・記録・多職種共有へつなげていくことが大切です。
よくある質問
生理学は新人リハビリ職でも学び直した方がよいですか?
はい。新人のうちは評価手順や治療手技に意識が向きやすいですが、血圧・呼吸・意識・嚥下・筋疲労などの変化を安全に判断するには、生理学の理解が役立ちます。すべてを細かく暗記するのではなく、臨床でよく遭遇する現象から学び直す方法がおすすめです。
生理学と解剖学はどちらを先に学ぶべきですか?
どちらか一方を終えてから次へ進む必要はありません。解剖学で「どこに何があるか」を確認し、生理学で「そこで何が起きるか」を学ぶと理解しやすくなります。たとえば嚥下であれば、関連器官の位置と、嚥下運動や気道防御の働きをセットで確認します。
リハビリ職に特に必要な生理学は何ですか?
最初は循環、呼吸、自律神経、筋、嚥下・栄養から学ぶと臨床に結びつきやすくなります。離床時の血圧変化、運動時の呼吸循環応答、長期臥床後の筋力低下など、担当患者さんに多い現象から優先順位を決めてください。
生理学が苦手な場合はどこから始めればよいですか?
「立つとふらつく」「動くと息切れする」「食事中にむせる」「臥床後に筋力が落ちた」など、実際に困った現象を1つ選びます。その現象に関係する身体の仕組み、確認項目、対応の順に調べると、教科書の内容を臨床と結びつけやすくなります。
生理学を理解すればリハビリの中止基準を判断できますか?
生理学は判断の背景を理解するために役立ちますが、それだけで中止基準を決めるものではありません。患者さんの症状、診断、医師の指示、施設基準、変化量、回復経過を合わせて判断し、必要時は医師や看護師へ共有します。
次の一手
全体像から具体的な病態へ進む場合:
浮腫はなぜ起こる?原因と仕組みを生理学から理解する
臨床での安全判断へ進む場合:
離床の中止基準と再開基準|実務フロー
参考文献
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著者情報
リハビリくん
理学療法士。療養病院での臨床経験をもとに、PT・OT・STが評価、リスク管理、記録、多職種連携に活用できる情報を発信しています。
保有資格:脳卒中認定理学療法士、褥瘡・創傷ケア認定理学療法士、登録理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士、福祉住環境コーディネーター2級。

