直接嚥下訓練の進め方|食形態・一口量・姿勢の基本

臨床手技・プロトコル
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直接嚥下訓練は「食べる動作そのもの」を使って、嚥下の安全性・効率を段階づけるアプローチです。現場で迷いがちなのは、食形態・一口量・姿勢・ペースをどう組み替えれば“安全域”が作れるか、という点です。

この記事では、開始前チェックから、条件設定(食形態/一口量/姿勢/ペース)、観察ポイント、記録の型までを 1 本の手順として整理します。中止基準の考え方は別記事で扱い、ここでは「安全に進める」ための組み立てに集中します。

直接嚥下訓練の位置づけ

直接嚥下訓練は、嚥下動作(ボーラスの口腔内操作〜咽頭通過)を実際に行いながら、条件を調整して安全性と効率を上げていく方法です。一方で、姿勢調整や代償手技は“その場の嚥下を変える”目的で使われることが多く、狙い(代償か、機能改善か)を分けて考えると整理が楽になります。

つまり、直接嚥下訓練は「条件を整えた上で“できる嚥下”を増やす」、代償は「今この瞬間の安全性を上げる」という使い分けが基本です。現場では両方を組み合わせますが、まずは“安全域を作る変数”を固定し、変更は 1 つずつにします。

開始前チェック

直接訓練はボーラスが入るため、開始前の準備で成否がほぼ決まります。最初に「今日の安全域」を作るため、以下を最低限そろえてから始めます。

評価の全体像(観察→仮説→介入→再評価)の流れは、関連:評価ハブにまとめています。

直接嚥下訓練:開始前チェック(最低限)
項目 見るポイント その場の整え方
覚醒・注意 呼名で安定反応、簡単な指示が通る 時間帯調整、短い課題から開始
呼吸・痰 呼吸苦なし、喀出が可能、痰が多すぎない 休息、吸引・口腔ケア、体位調整
口腔内 乾燥・食残・痰が少ない 口腔ケア、湿潤(必要に応じて)
姿勢 骨盤・体幹が安定、頭頸部が崩れない クッションで支持、足底接地を作る
当日の変動 発熱、強い倦怠感、薬剤変更など 負荷を下げる/無理に実施しない

安全域を作る 4 つの変数

直接訓練の調整は「食形態」「一口量」「姿勢」「ペース」の 4 つでほぼ説明できます。原則は変更は 1 つだけです(同時に変えると、どれが効いたか追えません)。

迷ったら、負荷を下げる方向(形態を安定させる→量を減らす→姿勢を整える→ペースを落とす)で 1 手だけ試します。

直接嚥下訓練:4 つの変数と「まず試す 1 手」
変数 観察で迷いが出るサイン まず試す 1 手 狙い
食形態 むせが増える/咽頭残留が増える より安定した形態へ(例:液体→とろみ→ゼリー等) 流入速度を下げ、コントロールしやすくする
一口量 一口で処理できない/複数回嚥下が増える 一口量を半分にする 処理負荷を下げる
姿勢 頸部前後屈が崩れる/食塊が散る 骨盤・体幹支持→顎・頭位を整える 嚥下を安定させる土台を作る
ペース 後半でむせ・湿性嗄声が増える/疲労が強い 休息を挟む、回数を減らす 疲労と呼吸の破綻を防ぐ

直接嚥下訓練の進め方

現場で再現性を出すコツは「段階を固定する」ことです。いきなり多様な条件を試さず、最初は安全に観察できる条件で“ベースライン”を作ります。

下の手順を基本形として、うまくいった条件を“次回も再現できる言葉”で記録します。

直接嚥下訓練:基本の段階づけ(例)
段階 やること 観察ポイント 次へ進む条件
0 姿勢・口腔内を整える 覚醒、呼吸、痰、声 安定して開始できる
1 安全な形態で少量を試す 咳、湿性嗄声、残留、複数回嚥下 明確な悪化なく実施できる
2 同条件で回数を増やす(量は据え置き) 後半の疲労、呼吸変化 後半でも崩れない
3 一口量を少しだけ上げる(形態は固定) 処理時間、残留、咳の増加 処理が追いつく
4 形態の難易度を 1 段だけ上げる むせ、湿性嗄声、残留 安全域が保てる

訓練中の観察ポイント

観察は「呼吸」「音(声・咳)」「残留」の 3 本柱でそろえると、スタッフ間共有が速くなります。直接訓練は“音と残留”が変化しやすいので、開始前の声と比較して変化として記録するのがコツです。

代償手技(例:頭部回旋など)は“その場の嚥下”を変える目的で使われ、持続的な生理改善とは別枠で考える、という整理が参考になります。

直接嚥下訓練:観察の 3 本柱
見方 記録の言葉(例)
呼吸 呼吸苦、息継ぎ、呼吸数の増加 「後半で呼吸数増、休息で回復」
咳、湿性嗄声、喀出の可否 「湿性嗄声出現→クリアリングで改善」
残留 口腔内残留、複数回嚥下、食塊の散り 「口腔内残留増、量を減らすと改善」

記録の型

直接訓練の記録は「条件」「反応」「判断」「次回条件」が 1 行で追えると、引き継ぎが強くなります。特に“何を変えたか”が核なので、変更点は 1 つだけにして書きます。

下のテンプレをそのまま使うと、判断がブレにくくなります。

直接嚥下訓練:SOAP ミニテンプレ
区分 書く内容(最小)
S 本人の訴え(むせ感、疲労など) 「今日は疲れやすい」
O 条件(形態・量・姿勢・ペース)と反応 「ゼリー少量、座位安定。咳なし、湿性嗄声なし」
A 判断(安全域/課題) 「同条件は安全域。量増で残留が課題」
P 次回の 1 手(変更は 1 つ) 「形態固定で一口量のみ微増して再評価」

現場の詰まりどころ

直接訓練が“怖くなる”原因は、たいてい「変更が多すぎて、うまくいった条件が残らない」ことです。再現性を上げるために、よくある失敗と対策を先に押さえます。

安全と前進を両立させるコツは、負荷を下げる方向の 1 手で“戻せる”状態を常に残すことです。

直接嚥下訓練:よくある失敗と対策
よくある失敗 起きる理由 対策
形態・量・姿勢を同時に変える 原因が追えず、成功条件が残らない 変更は 1 つだけ。まず形態を固定する
「むせ」だけで判断する 疲労や残留の影響が見落ちやすい 呼吸/音/残留の 3 本柱で見る
後半で崩れるのに回数を増やす 疲労と呼吸が先に破綻する ペース調整(休息)を先に入れる
口腔内が不良なまま開始する 食塊が散り、残留が増える 開始前に口腔ケアと湿潤を徹底

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 直接嚥下訓練は、まず何から始めれば良いですか?

A. まずは「安全に観察できる条件」を 1 セット作ることです。形態を安定させ、一口量は少量、姿勢を整え、ペースはゆっくり。ここでベースラインが取れると、次回以降の段階づけが再現しやすくなります。

Q2. 代償手技(姿勢調整など)は“直接訓練”に入りますか?

A. 現場では併用されますが、考え方としては分けておくと整理が楽です。代償は“その場の嚥下を変える”目的で使われることが多く、機能改善を狙う訓練とは目的が異なります。

Q3. 量を増やすのと、形態を上げるのはどちらが先ですか?

A. 原則は「形態を固定して量」「量が安定したら形態」です。量と形態を同時に上げると、うまくいかなかった原因が追えなくなります。変更は 1 つだけ、が基本です。

Q4. 後半でむせやすいのですが、どう調整しますか?

A. まずはペース(休息)を入れて、疲労と呼吸の破綻を防ぎます。それでも崩れるなら、一口量を下げて“最後まで崩れない条件”を作り、回数や時間はそこから増やします。

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教育体制や標準化が整うと、直接嚥下訓練の安全運用は一気にラクになります。必要なら PT キャリアガイドもあわせて確認してください。

参考文献

  1. American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia (Practice Portal). ASHA
  2. Logemann JA, Rademaker AW, Pauloski BR, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24(4):403-411. doi:10.1007/s00455-009-9217-0. PubMed
  3. Park JS, Hwang NK. Chin tuck against resistance exercise for dysphagia rehabilitation: A systematic review. J Oral Rehabil. 2021;48(8):968-977. doi:10.1111/joor.13181. PubMed
  4. Alghadir AH, Zafar H, Iqbal ZA. Effect of posture on swallowing. J Phys Ther Sci. 2017;29(8):1296-1299. PMC
  5. Royal College of Speech and Language Therapists. Eating, drinking and swallowing guidance. (Last updated: March 2025). RCSLT

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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