記憶障害ドリルと遂行機能障害ドリルは「失敗する場面」で使い分けると迷いません
記憶障害と遂行機能障害は同時に見えることが多く、ドリル選定が混ざりやすい領域です。実務では「覚えられない」のか「段取りが崩れる」のかを失敗する場面で分けると、課題選定と記録が安定します。
結論として、記憶障害は記銘・保持・想起の改善(または補償)を主軸に、遂行機能障害は目標設定・計画・実行・自己修正の改善を主軸に設計します。本記事は OT 向けに、評価→選定→実施→記録の流れで両者の違いを比較します。
対象読者とこの記事のゴール
対象は、高次脳機能障害の介入で「記憶」と「遂行」の見分けに迷う OT と、教育担当者・チームリーダーです。とくに「課題は実施しているが、何を改善したか共有しにくい」「担当者で方針が変わる」といった現場に役立つ構成にしています。
ゴールは、症状の主軸に応じてドリルを使い分ける判断基準を持つことです。誰が担当しても、同じ見立て・同じ難易度調整・同じ記録にそろえられる状態を目指します。
まずは結論|記憶障害と遂行機能障害の違い
| 比較軸 | 記憶障害ドリル | 遂行機能障害ドリル |
|---|---|---|
| 主問題 | 情報の記銘・保持・想起の低下 | 目標設定・計画・実行・修正の破綻 |
| 初期目標 | 再生率と保持時間の改善(または補償の定着) | 段取りの安定化とエラー自己修正 |
| 代表課題 | 間隔反復、手がかり再生、外的補助具 | 手順化課題、問題解決課題、自己点検 |
| 観察の主軸 | 手がかり依存、遅延後再生、汎化 | 開始遅延、脱線、修正行動、完遂率 |
迷ったらここだけ| 30 秒トリアージ(失敗の時系列)
見分けの基本は、失敗するタイミングを時系列で追うことです。「いつ崩れたか」が分かると、ドリルの目的が 1 つに絞れます。
| 観察する時間 | 記憶障害が主のサイン | 遂行機能障害が主のサイン | 初動の打ち手 |
|---|---|---|---|
| 提示直後 | 情報が入らない/反復しても保持できない | 課題意図は理解するが開始できない | 情報量を減らす/開始手がかり(開始合図・ 1 手目提示) |
| 作業中 | 途中で内容が抜ける/手がかりで戻れる | 脱線・順序崩れ・優先順位が崩れる | 手がかり再生/手順分解+チェック(自己点検) |
| 遅延後 | 遅延で忘却が目立つ/再生が落ちる | 再説明すればできるが再現が安定しない | 遅延時間の段階づけ/再現条件を固定(制約条件・時間圧) |
混在例では、先に主軸を 1 つ決めて介入を開始し、次に副次症状を追加すると運用が安定します。はじめから両方を同じ重みで扱うと、評価と記録が散らばりやすくなります。
見分け方|「できない理由」を時系列で分解する
提示直後から保持できない、遅延で忘却が目立つ場合は記憶障害の関与が強い傾向です。一方で、課題の意図は理解しているのに、順序化・優先順位づけ・途中修正が崩れる場合は遂行機能障害の関与を疑います。
現場では「できた/できない」よりも、どの局面で崩れたかを先に書けると、次回の調整が速くなります(例:開始遅延、脱線、手順飛ばし、遅延後の再生低下)。
課題選定の違い|目的設定を分ける
記憶障害ドリルは「覚える・保つ・取り出す」を改善する目的設定が中心です。例として、遅延 10 分後の再生率向上、手がかり量の減少、自発的な補助具使用の増加が挙げられます。
遂行機能障害ドリルは、手順化、優先順位づけ、自己点検など実行の質を改善する目的を置きます。どちらも 1 症状 × 1 目的で始め、達成基準を先に言語化すると調整しやすくなります。
ドリル具体比較( OT 向け )
| 領域 | ドリル例 | 主な狙い | 調整ポイント |
|---|---|---|---|
| 記憶障害 | 意味づけ学習、間隔反復、手がかり再生 | 再生率と保持時間の改善 | 情報量、遅延時間、手がかり量 |
| 記憶障害 | メモ・手帳・アラームなど外的補助具訓練 | 生活場面での補償戦略定着 | 使用場面、自発使用率、継続性 |
| 遂行機能障害 | 手順分解課題、優先順位づけ課題 | 計画性と順序化の改善 | 手順数、制約条件、時間制限 |
| 遂行機能障害 | 問題解決課題、自己点検チェック課題 | エラー検出と修正行動の促進 | 自己モニタリング頻度、フィードバック量 |
難易度調整の違い(易→中→難)
記憶障害では、情報量・遅延時間・手がかり量で段階を調整します。手がかり最小で遅延後再生が安定すれば次段階へ進みます。遂行機能障害では、手順数・制約条件・時間圧を調整し、自己修正が増えるかを基準に進行します。
共通して重要なのは、昇降条件を先に固定することです。担当者ごとの主観を減らし、チームで同じ基準を使えるようになります。
| 段階 | 記憶障害での基準 | 遂行機能障害での基準 |
|---|---|---|
| 易 | 短遅延・手がかり多めで再生安定 | 手順少・外部支援ありで完遂 |
| 中 | 中遅延・手がかり最小で再生維持 | 手順中等度・自己点検で修正可能 |
| 難 | 長遅延・干渉ありでも再生可能 | 複数制約下でも計画〜修正を完遂 |
記録テンプレ比較|次回調整に残す項目
記録は長文よりも、判断に直結する項目を固定することが重要です。記憶障害では「遅延後再生」と「手がかり依存」、遂行機能障害では「脱線場面」と「自己修正」を必ず残すと、次回調整が速くなります。
目的・課題・手がかり・エラー傾向・次回調整の 5 項目を各 1 行で固定すると、比較がブレません。
| 項目 | 記憶障害で重視 | 遂行機能障害で重視 |
|---|---|---|
| 本日の目的 | 遅延後再生率の改善(または補償の定着) | 段取り完遂率の改善(自己修正を含む) |
| 実施課題 | 記銘・保持・想起課題 | 計画・実行・修正課題 |
| 手がかり | 手がかり依存度(量と種類) | 自己点検の自立度(指示の有無) |
| エラー傾向 | 忘却パターン、想起失敗 | 脱線、手順飛ばし、修正遅延 |
| 次回調整 | 遅延時間・情報量・手がかり量 | 手順数・制約条件・時間圧 |
共通ドリル記録シート( A4 )
記憶障害ドリル・遂行機能障害ドリルの比較検討で共通利用できる記録シートです。まずは同一フォーマットで 1 週間運用し、カンファレンスで見直してください。
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現場の詰まりどころ
最も多い詰まりは、「遂行の崩れを記憶の問題として扱う」または「記憶低下を遂行の問題として扱う」ことです。見立てが逆になると、課題の難易度が合わず、改善が見えにくくなります。まずは時系列で失敗場面を観察し、主軸を 1 つに固定してください。
次に多いのは、課題成績だけで終了して生活汎化を確認しないことです。病棟・自宅・訓練室で再現できるかを確認し、場面差が大きい場合は環境調整を優先してください。
回避手順(初動〜再調整)
| 手順 | やること | 記録に残す 1 行 |
|---|---|---|
| 1 | 失敗の時系列で主軸を 1 つ決める | どの局面で崩れたか(提示直後/作業中/遅延後) |
| 2 | 1 症状 × 1 目的で課題を 1 つに絞る | 目的(再生率/自己修正 など)と達成基準 |
| 3 | 昇降条件を表で固定し、 1 週間同条件で回す | 段階変更の理由(情報量/手順数/制約条件) |
| 4 | 改善が見えたら副次症状を 1 つだけ追加する | 追加した理由(生活場面の破綻に直結したため) |
よくある失敗
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 主症状を固定しない | 見立てを同時進行しすぎる | 初期は主軸 1 つで介入 | 主軸設定の根拠 |
| 課題を混在させる | 目的設定が曖昧 | 目的ごとに課題を分ける | 課題と目的の対応 |
| 昇降条件が担当者依存 | 基準未定義 | 昇降条件を表で固定 | 段階変更理由 |
| 生活場面を未確認 | 訓練室成績のみ評価 | 場面別の再現性を確認 | 汎化の有無 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 記憶障害と遂行機能障害が混在している場合はどう進めますか?
初期は主症状を 1 つに固定し、改善が見えた段階で副次症状へ広げます。はじめから同時に追うと、課題選定と効果判定が不安定になりやすくなります。個別の課題設計は 記憶障害ドリル と 遂行機能ドリル を参照してください。
Q2. どの検査結果を優先してドリルを決めればよいですか?
検査点数だけでなく、失敗の時系列と生活場面での困りごとを優先します。実生活での破綻場面に直結する課題から始めると、汎化しやすくなります。
Q3. 手がかりはどこまで使ってよいですか?
手がかりは使用して問題ありません。ただし減量計画を前提にし、依存が続く場合は段階を戻して再設定してください。
Q4. 記録を簡潔にする方法はありますか?
目的・課題・手がかり・エラー傾向・次回調整の 5 項目を固定し、各 1 行で記載すると比較しやすくなります。
次の一手
比較で使い分け軸が固まったら、総論と運用テンプレで「選定→記録→再調整」を実装してください。
参考文献
- Velikonja D, Ponsford J, Janzen S, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83-102. doi: 10.1097/HTR.0000000000000837 / PubMed: 36594861
- Gauvin-Lepage J, McDonald S, Togher L, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part III: Executive Functions. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):44-67. doi: 10.1097/HTR.0000000000000834 / PubMed: 36594859
- Middleton EL, Schwartz MF. Errorless learning in cognitive rehabilitation: a critical review. Neuropsychol Rehabil. 2012;22(2):138-168. doi: 10.1080/09602011.2011.639619 / PubMed: 22247957
- Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J. Goal management training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of efficacy in patients with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2014;36(2):105-116. doi: 10.3109/09638288.2013.777807
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


