METs の限界| 1 MET のズレと注意点

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METs の限界(結論):数値は便利ですが「そのまま鵜呑み」は危険です

結論から言うと、METs は「強度の当たり」を素早く付ける道具として優秀ですが、個別症例にそのまま当てはめるとズレが出ます。特に高齢者、肥満、慢性疾患、薬剤( β 遮断薬など)の影響があると、同じ METs でもきつさ(相対強度)が変わりやすいのが実務上の落とし穴です。

本記事では「なぜズレるのか」を整理し、RPE( Borg )・心拍・症状で安全に補正するコツをまとめます。運動強度の決め方を体系で押さえるなら、関連:運動強度の決め方( METs・ Borg・心拍の使い分け)もあわせて参照してください。

1 MET の定義: 3.5 mL/kg/min は「便利な基準値」です

MET( metabolic equivalent )は、活動のエネルギー消費を「安静時の何倍か」で表す考え方です。古典的には 1 MET =座位安静時の酸素摂取量とし、慣用的に 3.5 mL O2/kg/minを基準にします(疫学や運動処方で扱いやすいからです)。

ただし、この 3.5 は「万人にピッタリ」ではありません。安静時代謝は年齢、性別、体格、体組成、疾患で変動し、同じ活動でも“絶対強度”( METs )と“相対強度”(きつさ)が一致しない場面が出ます。

なぜズレる?METs が外れやすい 5 つの理由

METs が外れやすい理由は「基準( 1 MET )と実測の差」と「活動の実施条件の差」が重なるためです。特に臨床では、疼痛・不安・呼吸循環の制限で、同じ活動でも主観的なきつさが先に上がることがよくあります。

下の表は、現場で頻出のズレ要因を「原因→起きやすい状況→対策」に落とし込んだものです。評価の再現性を上げるために、原因を“固定できる条件”に言い換えるのがポイントです。

METs のズレが出やすい要因(原因→起きやすい状況→対策)
ズレ要因 起きやすい状況 何が起きる? 実務での対策
安静時代謝の個体差 高齢/低筋量/肥満 1 MET が 3.5 と一致しない RPE と症状で補正し、条件を記録する
疾患による制限 心不全/ COPD /貧血 低い METs でも息切れが強い 中止基準を明確化し、分割・休憩で調整
薬剤の影響 β 遮断薬/抗不整脈薬 心拍反応が鈍く、 HR 指標が外れる 心拍に依存しすぎず、 RPE と症状を併用
実施条件のばらつき 歩行速度/坂/補助具 同じ“歩行”でも強度が変わる 速度・環境・補助具・休憩を固定して比較
疼痛・不安・学習 術後/慢性疼痛/初回介入 METs は低いのに「きつい」 段階づけ(短時間→再評価)で馴化を待つ

METs だけで決めない方がいい場面(安全側に倒す)

METs は「強度の目安」ですが、安全管理の指標としては単独では弱い場面があります。特に呼吸循環疾患や術後では、数値よりも症状・バイタル・観察所見が先に重要になります。

下の早見は、METs を主役にして良い場面と、補助に回すべき場面を整理したものです。「迷ったら補助に回す」くらいが、現場ではちょうど安全です。

METs を主役にできる場面/補助に回す場面(目安)
判定 場面の例 METs の使い方 併用すべきもの
主役にしやすい 健康成人の活動量整理 活動選択と強度分類に使う RPE(確認程度)
補助に回す 高齢/低筋量/肥満 代表値として当たりを付ける RPE、疲労、疼痛
補助に回す 心不全/ COPD /術後 段階づけの“参考”に使う 症状、 SpO2、血圧、 HR(必要時)
補助に回す β 遮断薬内服 心拍ベースの強度設定を過信しない RPE、 Talk test、症状

臨床での補正:RPE・心拍・症状で「相対強度」を合わせる

実務では、METs を「活動の候補出し」に使い、最終的な強度は相対強度で合わせると安定します。相対強度の軸として扱いやすいのが RPE( Borg )で、加えて息切れ・疼痛・疲労などの症状を確認します。

心拍は便利ですが、薬剤や不整脈、脱水などで外れます。したがって「心拍だけで決めない」ルールにして、RPE+症状(必要時は SpO2 や血圧)をセットにすると、現場で迷いにくくなります。

METs を補正するときの“見る順番”と判断のコツ
見るもの まず確認 次の一手 記録の型
症状 息切れ、胸部不快、めまい、疼痛 強度を下げる/分割/休憩 症状の種類+出現タイミング
RPE( Borg ) 予定より高い/低い 速度・休憩・負荷を調整 RPE+活動条件
心拍 反応の過大・過小 薬剤・体調・環境を確認 HR+内服+時刻
SpO2・血圧(必要時) 低下・過上昇 中止基準に従い安全優先 数値+体位+測定条件

記録のコツ:METs より「条件」を残すと再評価が強くなります

METs を使うときの最大のコツは、数値そのものより条件を残すことです。同じ「歩行 3 METs 」でも、速度、坂、補助具、休憩の有無で実負荷は変わります。条件が残っていないと、再評価が“別物”になりやすいです。

下のテンプレのように「活動名+条件+時間(分)」を最小セットにしておくと、チーム内共有が速くなります。余裕があれば RPE と症状を添えて、次回の調整が 1 回で決まる状態を作ります。

運動強度の記録テンプレ(最小セット)
項目 書き方のコツ 再評価で効く理由
活動名 歩行/掃除機がけ/エルゴ 短く固定ワードで 検索と共有が速い
条件 平地、 4 km/h、 T 字杖 速度・環境・補助具を優先 同条件比較が成立する
時間 10 分× 2(休憩 3 分) 分割と休憩を書き分ける 段階づけが再現できる
RPE RPE 13 終了直後に確認 相対強度の軸になる
症状 息切れ軽度、膝痛 NRS 3 種類+タイミング 中止・調整の判断材料

現場の詰まりどころ(よくある失敗→対策)

METs の運用で詰まりやすいのは「表の値は分かったのに、強度が決められない」場面です。多くは条件のばらつきか、相対強度の評価が不足していることが原因です。

下の表のように、迷いを“条件”か“相対強度”に分解すると、次アクションが一気に明確になります。チームで共有するなら、この表をそのまま運用ルールにしても回ります。

METs 運用での「迷い」と具体的な対策
よくある迷い 起こりやすい理由 対策(次アクション) 記録ポイント
同じ活動なのに日によって違う 体調・内服・環境の変動 条件(時刻・内服・環境)を 1 行で残す 時刻、内服、睡眠、体調
表の METs だと強すぎる 疼痛・不安・疾患で相対強度が上がる 分割/休憩/速度低下+ RPE を確認 RPE、症状、休憩間隔
心拍で決めたのに合わない 薬剤や反応性の個体差 心拍は参考にし、 RPE+症状を主軸にする 内服、 HR 反応、主観

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.「 1 MET = 3.5 」は絶対に正しいのですか?

いいえ、便利な基準値として広く使われていますが、個体差があります。安静時代謝は年齢や体組成などで変動するため、同じ METs でも「きつさ」が一致しないことがあります。実務では RPE や症状で補正し、条件をそろえて比較するのが安全です。

Q2.高齢者では METs が当てにならないですか?

当てにならないわけではありませんが、ズレが出やすいので代表値として使うのがコツです。まず METs で当たりを付け、息切れ・疲労・疼痛・ RPE を確認して「相対強度」を合わせます。

Q3.β 遮断薬を飲んでいる人は心拍指標が使えませんか?

使えないわけではありませんが、心拍反応が鈍く見かけ上低く出ることがあります。心拍だけで強度を決めず、 RPE や症状を主軸にして調整するのが安全です。

Q4.実務で一番大事な記録は何ですか?

最小セットは 活動名+条件+時間(分)です。条件(速度・坂・補助具・休憩)を残すと、再評価が同条件比較になり、調整が速くなります。余裕があれば RPE と症状も添えると、次回の強度設定が 1 回で決まりやすくなります。

参考文献

  • Jetté M, Sidney K, Blümchen G. Metabolic equivalents (METS) in exercise testing, exercise prescription, and evaluation of functional capacity. Clin Cardiol. 1990;13(8):555-565. doi: 10.1002/clc.4960130809 / PubMed: 2204507
  • Byrne NM, Hills AP, Hunter GR, Weinsier RL, Schutz Y. Metabolic equivalent: one size does not fit all. J Appl Physiol (1985). 2005;99(3):1112-1119. doi: 10.1152/japplphysiol.00023.2004 / PubMed: 15831804
  • Herrmann SD, et al. 2024 Adult Compendium of Physical Activities: A third update of the energy costs of human activities. J Sport Health Sci. 2024;13(1):6-12. doi: 10.1016/j.jshs.2023.10.010 / PubMed: 38242596

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

運動の強度づけは、安全の確認→段階づけ→条件をそろえて記録→再評価のリズムで回すと、METs のズレがあっても破綻しにくくなります。METs は便利な入口として使い、最終判断は RPE と症状で「相対強度」を合わせるのが現場向きです。

あわせて、面談準備チェックと職場評価シートを使って「学びが回る環境」を整えると、臨床の伸びが速くなります。続けて マイナビコメディカルのチェックリストを確認するのもおすすめです。

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