30°側臥位と体位交換の間隔|褥瘡予防の実践

臨床手技・プロトコル
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30°側臥位と除圧の実践(“何分ごと?”の答え方)

褥瘡予防の現場で最も聞かれる質問は「何時間ごとに体位交換すべきか?」です。本記事では、国際ガイドラインの趣旨を踏まえつつ、30°側臥位の根拠と、病態・支持面・皮膚所見・自力体動に基づく実践的な間隔設定の考え方を、具体例とチェックリストで提示します。日常運用に使える体位交換ログ(時間/姿勢/皮膚所見)除圧タイマー運用メモも配布します。

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なぜ 30° 側臥位か(90°ではなく)

国際ガイドライン(EPUAP/NPIAP/PPPIA)は、90°側臥位よりも30°側臥位を推奨しています。これは大転子への直圧を避け、仙骨・踵の荷重も分散しやすいからです。30°はわずかに傾けて支持物(枕・フォームウェッジ等)で保持し、胸郭や骨盤が過度に捻れないよう調整します。支持面(エアマット・高機能マットレス)との組み合わせが重要です。要点は末尾参考文献をご参照ください(例:International Guideline: RepositioningWounds UK Made Easy)。

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“何分ごと?”にどう答えるか:間隔は固定値でなく条件依存

最新の推奨は「全員いっせいに〇時間」という固定ではなく、リスクと反応を見て決めることです。2025 年版の国際ガイドラインは、4–6 時間への機械的な延長を常用しないよう注意喚起しつつ(R8)、個別条件での段階的延長は許容しています。つまり、“初期はタイトに → 皮膚所見良好・自力体動あり・高機能支持面なら延長検討”が基本です。

条件別:初期設定と見直しの目安

体位交換の初期設定と見直し(成人・急性期~慢性期の一般例)
状況 初期の間隔目安 30°側臥位などの姿勢 延長検討の条件 備考
高リスク(重症・鎮静・ショック/低灌流・皮膚発赤あり) 2 時間(夜間も基本維持) 背臥位↔30°右↔背↔30°左(踵オフロード) 48–72 時間で持続しない発赤・循環安定 摩擦剪断の最小化、配線の抜去予防も同時管理
中等度リスク(自力体動少・皮膚良好・高機能マット) 2–3 時間 30°側臥位優先+座位時はクッションで除圧 72 時間良好なら3–4 時間へ段階延長 延長後も毎シフトで皮膚チェック
低リスク(自力で頻回に寝返り・皮膚健常) 3–4 時間(夜間は睡眠の質も配慮) 自発的 20–30°側臥位保持を促す 良好なら4 時間まで 4–6 時間の常用延長は非推奨(個別例外のみ)

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30°側臥位の作り方(実践ポイント)

  • 骨盤~肩帯を一体でわずかに回旋し、ウェッジ/枕で 30°を保持。大転子・腸骨稜の直圧を避ける。
  • 踵オフロードを徹底(浮かせる or ヒールプロテクタ)。
  • 剪断力低減のためベッド頭側挙上は必要最小限、滑り込み防止具を併用。
  • 汗・失禁・発熱時は微小気候(湿潤・温度)に留意し、吸湿速乾・通気支持面を検討。

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“何分ごと?” 現場での答え方テンプレ

例:急性期・中等度リスク
「初期は2–3 時間で回して皮膚を確認します。皮膚が安定して自力体動も増えれば3–4 時間へ段階的に延長します。姿勢は30°側臥位を基本に、踵は必ず浮かせます。」

例:慢性期・在宅で低リスク
「普段は3–4 時間を目安に。夜間は睡眠を妨げない範囲で回しますが、赤み・痛み・じめつきが出たら一時的に短縮してください。」

記録と見直し:ログ → 所見で調整

体位交換は“やった/やらない”ではなく、“やって皮膚がどうだったか”で評価・調整します。以下の簡易ログを使うと、間隔延長の可否夜間パターンが可視化できます。

運用全体の流れを短時間で復習したいときは、臨床運用の最短ルートまとめもどうぞ。

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延長をやめる/短縮するべきレッドフラッグ

  • 持続する発赤(ブランチングしない)、皮膚温上昇・硬結・疼痛が出現
  • 循環動態の悪化、発熱・多量発汗、失禁増加による湿潤環境
  • せん妄・鎮静増量などで自力体動が減少

よくある質問(タップで開閉)

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夜間は延長してもいい?睡眠を妨げたくない…

睡眠を配慮した延長は低リスクで皮膚が安定している場合に限り3–4 時間枠内で検討。国際GLは4–6 時間の常用延長は推奨せず(R8)。起床時に皮膚所見をチェックし、日中は通常間隔へ戻します。

座位時間が長い人は?

座位は仙骨・坐骨・踵の荷重が高く、クッションでの除圧+立位やリクライニングの挿入(1–2 時間ごと)が必要。臥位では30°側臥位ローテーションを併用し、総除圧時間を確保します。

在宅では何を優先?

皮膚観察の質(家族・ヘルパー教育)と簡便なログが要。目安は3–4 時間、不良所見があれば一時短縮。寝具・吸湿・踵オフロードの工夫が効果的です。

参考文献

  1. International Guideline Governance Group. Repositioning (R8). 2025. internationalguideline.com/repositioning
  2. Gillespie BM, Chaboyer W, et al. Repositioning for pressure injury prevention in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2020;6:CD009958. doi:10.1002/14651858.CD009958.pub3
  3. Yap TL, Kennerly SM, et al. Effect of varying repositioning frequency on pressure injury incidence. Adv Skin Wound Care. 2022;35(6). PMCID: PMC9119401
  4. Wounds UK. Made Easy: Repositioning for pressure ulcer prevention. 2024. wounds-uk.com
  5. NICE. Quality Standard QS89: Advice on repositioning. 2015. nice.org.uk
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