30°側臥位と除圧の実践(“何分ごと?”の答え方)
褥瘡予防の現場で最も聞かれる質問は「体位交換は何時間おきにすべきか?」です。本記事では、国際ガイドラインの趣旨を踏まえつつ、30°側臥位の根拠と、病態・支持面・皮膚所見・自力体動に基づく実践的な間隔設定の考え方を整理します。「側臥位は何度がよいか」「ポジショニングの組み立て方」といった疑問にも触れながら、現場でそのまま使える説明フレーズとチェックポイントをまとめました。
なぜ 30° 側臥位か(90°ではなく)
国際ガイドライン(EPUAP/NPIAP/PPPIA)は、褥瘡予防の体位として90°側臥位ではなく 30°側臥位を推奨しています。90°側臥位では大転子や肩峰に直圧が集中しやすく、仙骨・踵にも高圧がかかるためです。一方、30°側臥位ではわずかに傾けた「中間位」とすることで、圧力をより広い面積に分散しやすくなります。「側臥位は何度がよいか」に対する実務的な答えとして、「真横 90°ではなく 30°の傾きで支持する」と押さえておくと現場で説明しやすくなります。
実際のポジショニングでは、骨盤と肩帯を一体的に軽く回旋させ、フォームウェッジや枕でその角度を保持します。胸郭や骨盤がねじれ過ぎると呼吸・安楽性を損なうため、「傾き過ぎない・ねじり過ぎない 30°側臥位」を意識することが重要です。
“何分ごと?”にどう答えるか:間隔は固定値ではなく条件依存
「体位交換は何時間おきですか?」という問いに、昔のように「全員 2 時間おき」と機械的に答えることは現在のガイドラインとは合致しません。最新の国際推奨では、リスク度・支持面・皮膚反応・自力体動などを踏まえた個別設定が強調されています。特に、4~6 時間への一律延長は推奨されず、延長するとしても「皮膚所見が安定し、自力体動が増え、高機能マットレスなどで支持面が整っていること」が前提とされています。
実務では、「初期はやや短めに設定し、皮膚反応が良好なら段階的に延長」「悪化兆候があれば一時的に短縮」という往復運動で考えると、説明と運用の両方がスムーズです。家族や多職種には、「時計だけで決めるのではなく、皮膚の状態を見ながら調整する」というメッセージを繰り返し共有することが大切です。
条件別:初期設定と見直しの目安
※表は横スクロールで確認できます(スマートフォンなど)。
| 状況 | 初期の間隔目安 | 30°側臥位などの姿勢 | 延長検討の条件 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 高リスク(重症・鎮静・ショック/低灌流・皮膚発赤あり) | 2 時間(夜間も基本維持) | 背臥位 ↔ 30°右 ↔ 背臥位 ↔ 30°左(踵オフロード) | 48~72 時間で持続しない発赤・循環安定が確認できること | 摩擦・剪断の最小化、ライン抜去の予防も同時に管理 |
| 中等度リスク(自力体動少・皮膚良好・高機能マットレス) | 2~3 時間 | 30°側臥位を優先し、座位時はクッションで除圧 | 72 時間良好なら3~4 時間へ段階延長 | 延長後も各シフトで皮膚チェックを継続 |
| 低リスク(自力で頻回に寝返り・皮膚健常) | 3~4 時間(夜間は睡眠の質も考慮) | 自発的な 20~30°側臥位保持を促す | 所見良好なら最大 4 時間まで可 | 4~6 時間の常用延長は非推奨(個別例外のみ慎重に) |
30°側臥位の作り方(ポジショニングの実践ポイント)
側臥位ポジショニングでは、単に「横向きにする」だけでなく、「どの部位に何を当てて 30°を作るか」が重要です。頸部・体幹・骨盤・下肢の軸がねじれ過ぎないように配慮しつつ、大転子・腸骨稜などの骨突出部を避けて支持することで、圧と剪断の両方をコントロールできます。
- 骨盤~肩帯を一体で軽く回旋させ、フォームウェッジや枕で 30°を保持する。
- 踵はオフロード(浮かせる、もしくは専用ヒールプロテクタを使用)し、足関節の尖足位固定にも注意する。
- ベッド頭側挙上は必要最小限とし、剪断力を減らすためにシートやポジショニングシーツを活用する。
- 発汗・失禁・発熱などで皮膚が湿潤になりやすい場合は、微小気候(湿度・温度)を整え、吸湿性と通気性のよい支持面を検討する。
“何分ごと?” 現場での答え方テンプレ
よくある質問に対して、次のようなフレーズをチームで共有しておくと説明がそろいやすくなります。
例:急性期・中等度リスク
「初期は2~3 時間おきを目安に体位交換を行い、そのたびに皮膚の赤みや硬さを確認します。皮膚が安定してきて、自力で少し動けるようになれば、3~4 時間おきまで段階的に延ばすことを検討します。姿勢は30°側臥位を基本にして、踵は必ず浮かせておきます。」
例:慢性期・在宅で低リスク
「ご自宅では、3~4 時間おきを目安に向きを変えていただければ十分です。ただし、赤み・痛み・じめつきが出てきたときは、一時的に間隔を短くして様子を見てください。夜は睡眠が大事なので、眠りを大きく妨げない範囲で調整しましょう。」
記録と見直し:ログ → 所見で調整
体位交換は「やった・やらない」ではなく、「やった結果、皮膚がどうだったか」で評価し、間隔やポジショニングを見直していく営みです。時間・姿勢・皮膚所見を簡単にメモしておくだけでも、夜間パターンの把握や間隔延長の妥当性が共有しやすくなります。
これらの記録をカンファレンスや回診の場で共有すると、「誰が・いつ・どの姿勢で・どんな皮膚所見だったか」が一目で分かるため、チームでの方針決定や家族への説明がスムーズになります。
間隔延長をやめる/短縮するべきレッドフラッグ
体位交換間隔を延長しているとき、次のようなサインが出た場合は一旦延長をやめ、短縮して再評価すべきです。
- ブランチングしない発赤、皮膚温の上昇、硬結・疼痛の出現
- 循環動態の悪化、発熱や多量の発汗、失禁増加による湿潤環境
- せん妄・鎮静増量などによる自力体動の減少
レッドフラッグが出た場合は、「元の間隔に戻す」「支持面を見直す」「ポジショニングを修正する」といった多角的な対応を同時に検討します。
現場の詰まりどころ(よくあるつまずき方)
体位交換・ポジショニングの運用は、現場で次のようなところで詰まりがちです。
- 「全員 2 時間おき」など固定間隔で運用し続ける:リスクや皮膚所見が変化しても間隔を見直さない。
- 90°側臥位が標準になっている:中途半端に「横向き」のまま放置され、大転子や肩の圧が高い。
- 踵オフロードが抜ける:上半身に意識が向き、踵の除圧や足関節肢位への配慮が後回しになる。
- ログが残っていない:誰がどのように体位交換したかが共有されず、「やっているはず」が続いてしまう。
- 家族・介護職への説明が不十分:体位交換の目的や「何時間おき」の根拠が伝わらず、協力を得にくい。
これらの詰まりどころを意識して、30°側臥位の質・間隔の設定・記録の 3 点をチームでそろえていくことが、褥瘡予防の実効性を高める近道になります。
よくある質問(タップで開閉)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
夜間は延長してもいい?睡眠を妨げたくない…
睡眠を配慮した延長は、低リスクで皮膚が安定している場合に限り、3~4 時間おきの枠内で検討します。国際ガイドラインは4~6 時間の常用延長は推奨していません(R8)。起床時に皮膚所見を必ずチェックし、日中は通常の間隔に戻すことが原則です。
座位時間が長い人はどう考える?
座位では仙骨・坐骨・踵に高い圧が集中するため、クッションでの除圧と、1~2 時間ごとの立位やリクライニングの挿入が必要です。臥位では 30°側臥位ローテーションを併用し、1 日を通した総除圧時間を確保する視点が重要です。
在宅では何を優先すべき?
皮膚観察の質(家族やヘルパーへの観察ポイントの教育)と、簡便なログの 2 つが要になります。目安は3~4 時間おきですが、不良所見があれば一時的に短縮し、寝具・シーツ・踵オフロードの工夫で負荷を下げていきます。
おわりに|数値だけでなく「反応」を見て調整する
体位交換の間隔や 30°側臥位の作り方は、「何時間おき」「側臥位何度」といった数値で語られがちですが、最終的に見るべきはケアに対する皮膚と全身状態の反応です。初期はややタイトに、その後は記録と所見をもとに延長・短縮を繰り返しながら、患者さんごとの最適解を探っていくことが大切です。
もし「十分な体位交換をしたいが、人手や時間が足りない」「褥瘡予防の取り組みをしたくても職場体制に限界がある」と感じる場合は、マイナビコメディカルの面談準備チェックと職場評価シートも活用して、働き方そのものを見直す選択肢も視野に入れてみてください。
参考文献
- International Guideline Governance Group. Repositioning (R8). 2025. internationalguideline.com/repositioning
- Gillespie BM, Chaboyer W, et al. Repositioning for pressure injury prevention in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2020;6:CD009958. doi:10.1002/14651858.CD009958.pub3
- Yap TL, Kennerly SM, et al. Effect of varying repositioning frequency on pressure injury incidence. Adv Skin Wound Care. 2022;35(6). PMCID: PMC9119401
- Wounds UK. Made Easy: Repositioning for pressure ulcer prevention. 2024. wounds-uk.com
- NICE. Quality Standard QS89: Advice on repositioning. 2015. nice.org.uk
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


