剣状突起とは|位置と触診の結論
剣状突起は、胸骨の最下端にある小さな骨性ランドマークです。触診では、前胸部中央にある胸骨体を指腹で下方へたどり、その最下端を軽く確認します。形や向きには個人差があるため、はっきり触れなくても強く押し込んではいけません。この記事では、新人PTなど前胸部の触診を確認したい医療従事者に向けて、剣状突起の位置、3ステップの触診方法、肋骨弓やみぞおちとの違い、呼吸評価・記録・CPRとの関係を整理します。
この記事でわかること
- 剣状突起がどこにあるか
- 胸骨体からたどる触診手順
- 胸骨角・肋骨弓・みぞおちとの違い
- 剣状突起を強く押してはいけない理由
- 呼吸評価やCPRとの位置関係
- 剣状突起周囲を確認したときの記録例
剣状突起の位置と解剖
剣状突起は、胸骨柄・胸骨体に続く胸骨の最下部です。
前胸部中央を上から下へ確認すると、胸骨上切痕、胸骨柄、胸骨角、胸骨体、剣状突起の順に並びます。剣状突起と胸骨体の境界は剣胸結合と呼ばれます。
| 方向 | 位置関係 |
|---|---|
| 上方 | 胸骨体 |
| 左右 | 肋軟骨と肋骨弓 |
| 下方 | 上腹部・みぞおち周囲 |
| 深部 | 横隔膜や上腹部臓器に近い領域 |
剣状突起の形状、大きさ、向きには個人差があります。細長い形、幅の広い形、先端が曲がった形、二分した形などがあり、前方へ突出して触れやすい人もいれば、体表から確認しにくい人もいます。
若年者では軟骨性の部分が多く、加齢に伴って骨化や胸骨体との癒合が進む場合があります。そのため、年齢や体格によっても触れ方は一定ではありません。
剣状突起の触診方法
剣状突起は、胸骨体を確認してから中央を下方へたどると、安全に見つけやすくなります。

STEP1:前胸部中央の胸骨体を確認する
対象者の前胸部中央に指腹を置き、縦方向に続く胸骨体を確認します。
位置に迷う場合は、胸骨上切痕または胸骨角を確認してから下方へたどります。最初からみぞおち付近を押して剣状突起を探す方法は避けます。
STEP2:胸骨体の中央を下方へたどる
胸骨体の骨性の連続性を確かめるように、指腹をゆっくり下方へ移動させます。
深く押し込む必要はありません。皮膚や軟部組織を強く圧迫せず、表面から胸骨の輪郭を確認します。
STEP3:胸骨の最下端を軽く確認する
胸骨体の下端に続く小さな突起が剣状突起です。
剣状突起が明瞭に触れない場合は、左右へ広がる肋骨弓と胸骨体の位置関係を確認します。それでも分かりにくい場合は、無理に押し込まずに終了します。
3ステップの要点
- 胸骨体を見つける
- 胸骨中央を下方へたどる
- 最下端を指腹で軽く確認する
「剣状突起だけを直接探す」のではなく、「胸骨体の終点を確認する」と考えることがポイントです。
触診時に強く押してはいけない理由
剣状突起は、強い圧迫によって疼痛や不快感が生じる可能性があるため、位置確認に必要な最小限の圧で触れます。
| 注意点 | 起こり得る問題 | 対応 |
|---|---|---|
| 強く押さない | 圧迫によって疼痛や不快感が出る | 指腹で表面から軽く確認する |
| 形状を決めつけない | 突出・湾曲・分岐などの個人差を見逃す | 胸骨体や肋骨弓との位置関係で判断する |
| 触れにくくても追い込まない | 軟部組織や上腹部を強く圧迫する | 不明瞭な場合は無理に同定しない |
| 疼痛を確認する | 外傷後や術後の局所痛を増悪させる | 圧を弱め、必要に応じて中止する |
胸部外傷後、胸腹部術後、局所の腫脹や強い圧痛がある場合は、触診の必要性を再検討します。触診中に痛み、気分不良、強い不快感が生じた場合は中止します。
また、剣状突起周囲の痛みを触診所見だけで判断してはいけません。前胸部痛や上腹部痛には複数の原因があるため、症状の経過や随伴症状を確認し、必要に応じて医師へ報告します。
胸骨角・肋骨弓・みぞおちとの違い

剣状突起は「胸骨の最下端」、胸骨角は「胸骨中央付近の段差」、肋骨弓は「左右へ広がる弓状の縁」と整理すると見分けやすくなります。
| ランドマーク | 位置 | 触れ方の特徴 | 主な役割 |
|---|---|---|---|
| 胸骨角 | 胸骨柄と胸骨体の境界 | 前胸部中央の段差 | 第2肋骨を探す基準 |
| 剣状突起 | 胸骨の最下端 | 胸骨体の下方に続く小さな突起 | 胸骨下端の位置基準 |
| 肋骨弓 | 胸郭前下部の左右 | 左右外側へ広がる弓状の縁 | 下部胸郭の輪郭確認 |
| みぞおち | 剣状突起の下方周囲 | 骨ではなく上腹部のくぼみとして捉えられる | 上腹部の体表上の位置表現 |
剣状突起とみぞおちを見分けるポイントは、骨性の連続性です。胸骨体から下方へたどって触れる硬い終点が剣状突起であり、その下方にある軟らかい上腹部周囲が一般にみぞおちと呼ばれる領域です。
臨床での剣状突起の使い方
剣状突起は、胸骨下部・肋骨弓・上腹部の位置関係をそろえるための基準として使います。
呼吸評価の位置基準にする
呼吸評価では、剣状突起周囲を基準に、下部胸郭と上腹部の動きを観察できます。
確認する内容は、吸気時の下部胸郭の拡張、左右差、上腹部の動き、努力性呼吸の有無などです。剣状突起自体を押して呼吸機能を評価するのではなく、観察位置をそろえる目印として使います。
胸郭運動の左右差を確認する
剣状突起と左右の肋骨弓の位置を確認すると、胸郭下部の輪郭や運動の左右差を観察しやすくなります。
療養病棟では、円背、胸郭変形、拘縮、体幹の側屈などによって左右の位置関係が変わることがあります。剣状突起だけで判断せず、姿勢、肋骨弓、腹部運動をあわせて確認します。
評価位置を多職種で共有する
「前胸部」「みぞおち付近」だけでは位置が曖昧になることがあります。剣状突起を基準に、「剣状突起右外側」「剣状突起下方」などと表現すると、評価位置を共有しやすくなります。
CPRと剣状突起の関係
剣状突起は、胸骨圧迫を行う位置ではなく、胸骨下端を理解するためのランドマークです。
成人への胸骨圧迫では、胸部中央にある胸骨下半分へ手を置きます。剣状突起そのものや、剣状突起より下方の上腹部を圧迫位置にしてはいけません。
ただし、緊急時に剣状突起を時間をかけて触診し、手の位置を決めるという意味ではありません。実際のCPRは、受講した救命講習や最新の蘇生ガイドラインに従って実施してください。
剣状突起周囲の記録例
記録では、剣状突起を何の基準として使ったか、疼痛や不快感があったか、どのような所見を確認したかを書きます。
| 評価場面 | 記録例 |
|---|---|
| 位置確認 | 胸骨体を下方へたどり、剣状突起を胸骨下端のランドマークとして確認した。 |
| 疼痛なし | 剣状突起周囲に圧痛および触診時の不快感を認めなかった。 |
| 疼痛あり | 剣状突起周囲に軽度圧痛を認めたため、強い圧迫を避けて評価を終了した。 |
| 呼吸評価 | 剣状突起と肋骨弓を基準に下部胸郭運動を観察した。吸気時の拡張は右側と比較して左側で軽度低下していた。 |
| 位置共有 | 剣状突起右外側の肋骨弓周囲に局所的な圧痛を認めた。 |
「剣状突起を触診した」だけでは評価目的が伝わりません。位置確認、疼痛評価、呼吸運動の観察など、触診した目的と結果を組み合わせて記録します。
剣状突起の触診でよくある失敗
剣状突起の触診では、最初からみぞおち付近を押して探す方法が最も避けたい失敗です。
- 胸骨体を確認せず、みぞおち付近から探し始める
- 左右へ広がる肋骨弓を剣状突起と間違える
- 触れにくい剣状突起を強く押し込んで探す
- 突出や湾曲などの形状差を異常と決めつける
- 剣状突起だけを見て胸郭運動を判断する
- 剣状突起をCPRで直接圧迫する場所と誤解する
迷ったときの修正手順
- いったん圧を抜く
- 前胸部中央の胸骨体へ戻る
- 胸骨体の中央を下方へたどる
- 左右へ広がる肋骨弓との位置関係を確認する
- 不明瞭な場合は無理に同定しない
臨床では、剣状突起を確実に強く触れることが目的ではありません。患者の負担を抑えながら、評価に必要な位置関係を確認できれば十分です。
剣状突起に関するFAQ
各項目名をタップすると回答が開きます。
剣状突起はどこにありますか?
剣状突起は胸骨の最下端にあります。前胸部中央の胸骨体を指腹で下方へたどると、みぞおちの上方付近で確認できます。
剣状突起の正しい触り方は?
胸骨体を先に確認し、胸骨中央を下方へたどって最下端を軽く触れます。剣状突起だけを直接探して強く押し込まないことが大切です。
剣状突起が出っ張っていても大丈夫ですか?
剣状突起には形状や向きの個人差があり、前方へ突出して触れやすい場合があります。ただし、急に目立つようになった、痛みや腫れがあるなどの変化がある場合は、触診だけで判断せず医師へ相談してください。
剣状突起を押すと痛いのはなぜですか?
強い圧迫そのものによって痛みが出る場合がありますが、外傷や炎症など別の原因も考えられます。繰り返し押して確認せず、持続する痛みや胸部・上腹部症状がある場合は医療機関へ相談してください。
剣状突起とみぞおちは同じ場所ですか?
同じではありません。剣状突起は胸骨下端の骨性ランドマークです。みぞおちは、剣状突起の下方にある上腹部のくぼみ周囲を表す言葉です。
剣状突起はCPRで押す場所ですか?
剣状突起そのものを押す場所ではありません。成人の胸骨圧迫では胸部中央の胸骨下半分を圧迫し、剣状突起や上腹部への圧迫は避けます。実施時は最新の救命講習と蘇生ガイドラインに従ってください。
次の一手
前胸部のランドマークを上から下まで整理するには、胸骨角と胸骨上切痕の触診も続けて確認すると理解しやすくなります。
参考文献
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著者情報
執筆者は、脳卒中認定理学療法士、褥瘡・創傷ケア認定理学療法士、登録理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士として療養病院に勤務しています。この記事は、臨床での評価・記録・新人教育に活用しやすい構成を意識して作成しました。触診では患者の疼痛や不快感に配慮し、胸部痛や上腹部痛を触診所見だけで判断せず、必要に応じて医師・看護師などと情報共有してください。

