本記事のねらい
本稿はスケール解説ではなく、Braden スコア帯ごとの即実行プランに特化します。褥瘡発生の低減に効くのは、評価後の「体位変換」「支持面」「微気候」「踵・医療機器のオフローディング」「栄養」の 5 本柱です。国際 GL は “リスク評価と皮膚・軟部組織評価を反復し、ケアを束ねて(バンドル化して)実施” する方針を示しています。現場では、スコアを見た瞬間に 最優先 1 手 を即決できる設計が重要です。
ここでは、≤ 12/13–14/15–18/19–23 の 4 帯域で「最初にやること」を 1 行で定め、病棟・回復期・在宅・ ICU の使い分けも表で提示します。Braden の 6 項目や点数の意味、評価表のダウンロードは ブレーデンスケール解説記事 に、スケールの使い分けやカットオフの根拠は 既存記事(リスクアセスメント総論) に委ね、ここは 行動 に集中します。
Braden スコア帯別:最優先タスク
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| 帯域 | 最優先 | 補助策 |
|---|---|---|
| ≤ 12(高〜極高) | 支持面を 即時強化(低エア損失/交互圧など)+踵完全浮かし。 | 体位変換 ≤ 2 時間、微気候管理(失禁バリア・発汗対策)、栄養介入の早期導入、医療機器圧のオフローディング。 |
| 13–14(中) | 体位変換の 頻度と質( 30° 側臥位/踵の免荷)を担保。 | マットレスは静的高機能へ格上げ検討、失禁・湿潤対策、たんぱく質目標の設定。 |
| 15–18(低) | 活動性の 日次モニタ(離床・歩行の確保)と皮膚チェック。 | 枕・体位で局所圧の偏り是正、環境要因(シーツしわ・牽引線)除去、患者・家族教育。 |
| 19–23(無〜最小) | 変動リスク(手術・鎮静・発熱・下痢など)出現時の 即再評価。 | セルフモニタ教育、医療機器圧の点検(マスク・スプリント・ギプス)。 |
介入 5 本柱の実践ポイント
体位変換
圧の分散は「頻度 × 姿勢の質」です。 2 時間ルールは “最大間隔” であり、湿潤・発熱・鎮静などリスク上昇時は短縮します。 30° 側臥位を基本に、仙骨・大転子への直圧を避け、踵は常に免荷します。離床可能例は座位・立位・歩行で “動く体位変換” へ移行し、ベッド上のみの対策にとどめないことが重要です。
支持面(Support Surface)
高リスクは入院当日から高機能マットレスへ切り替えます。寝返り不能・大量発汗・失禁が重なる場合は低エア損失の優先度を上げます。車椅子は クッション適合 が鍵であり、座位時間・座面傾斜・フットサポート高の最適化とセットで評価します(詳しくは当ブログの クッション適合プロトコル 参照)。
微気候(湿潤・温度)
失禁関連皮膚障害は褥瘡リスクを押し上げます。吸収体は早期交換し、皮膚バリア製剤を併用します。発汗には通気性寝具や送風で対応し、シーツのしわ・湿ったパッド・衣類の縫い目が “隠れ圧” になる点にも注意します。微気候対策は「皮膚を乾かす」だけでなく、「過乾燥を避ける」バランスも意識します。
踵・医療機器のオフローディング
踵は骨突出と血流特性から優先度が高い部位です。枕 1 つでの浮かしはずれやすいため、下腿全長を支える方法を基本とします。NIV マスク・頬パッド・頸装具・ギプスなどは接触点の皮膚観察とパッド再配置をルーチン化し、「装着したまま 24 時間ノーチェック」を避けます。
栄養
低栄養は創傷リスクを増大させます。たんぱく質と総エネルギー目標を設定し、摂取不足が続く場合は早期に栄養チームへ連携します。在宅移行前には、食形態・補助食品・服薬状況を評価し、家族への教育を含めて計画します。Braden スコアが改善しても、体重・筋量・食欲が追いついていない場合は、栄養介入を継続すべきか検討が必要です。
Braden の各項目ごとに「弱点からケア計画を組み立てる」手順と記録テンプレートは、別記事の ブレーデンスケール運用プロトコル にまとめています。本記事でスコア帯ごとのバンドルを決めたうえで、弱い項目から優先的にケア内容を具体化していくと、現場で運用しやすくなります。
場面別の使い分け(病棟/回復期/ ICU/在宅)
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| 場面 | 評価 | 介入の優先順位 |
|---|---|---|
| 一般病棟 | Braden(≤ 18 で at-risk)+ 48 時間ごと再評価。 | 体位変換 2 時間、踵免荷、失禁対策、必要時に支持面強化。手術・鎮静・発熱などでスコアが急変したら、即座にバンドルを再設定。 |
| 回復期 | Braden(必要に応じ K 式/ OH 併用)。 | 離床量の最適化と栄養、在宅移行を見据えた用具選定・教育を優先。ベッドだけでなく、車椅子・ポータブルトイレ・ダイニング椅子など「生活場面での支持面」をセットで評価します。 |
| ICU | 12–24 時間ごと再評価(必要に応じ Cubbin-Jackson 併用)。 | デバイス圧対策と微気候、踵免荷、高機能支持面の早期導入が最優先。鎮静・昏睡・体位制限の状況をふまえ、ベッド側でできることを最大化します。 |
| 在宅・施設 | K 式/ OH を選択肢に、介護力と資源を織り込んで評価。 | ベッド・車椅子の支持面調整、ポジショニング、介護者教育が主軸。Braden スコアそのものより、「日々の変化」と「できる範囲でのバンドル継続」がポイントになります。 |
運用・モニタリングのコツ
褥瘡予防では「やり始め」だけでなく、やめ時(デエスカレート) をあらかじめ設計しておくことが重要です。支持面を格上げしたら、疼痛・睡眠・皮膚所見・看護負荷・コストの 4 指標を日次でモニタし、 72 時間変化が乏しければ姿勢・クッション・微気候のどれかを見直します。Braden スコアが 3 日以上安定して 18 以上を維持し、局所所見も落ち着いてきたら、体位変換間隔や支持面の段階的な見直しを検討します。
病棟カンファレンスでは、“最優先 1 手/代替 1 手/次回再評価時刻” の 3 点をセットで共有すると実装率が上がります。シフト間の引き継ぎでは、「今日中に必ず実行する 1 手」を一行で残し、記録とケアをリンクさせる運用が有効です。
おわりに
褥瘡予防の臨床リズムは、リスク評価 → ケアバンドルの設計 → 実施 → 再評価とデエスカレート の循環をどれだけ安定して回せるかにかかっています。Braden スコアはあくまで決定材料の 1 つですが、スコア帯ごとに「今日やる 1 手」を決めておくことで、多職種カンファレンスでも方針を共有しやすくなります。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、面談や情報収集の段階でも使える「面談準備チェック( A4・5 分)」と「職場評価シート( A4 )」も活用してみてください。無料でダウンロードでき、印刷してそのまま使えます。詳しくは ダウンロードページ をご覧ください。
参考文献
- EPUAP / NPIAP / PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries. 2019. Guideline
- Agency for Healthcare Research and Quality. The Braden Scale(Hospital Toolkit). Link
- Higgins J, et al. Comparing the Braden and Jackson-Cubbin Scales in ICU. Crit Care Nurse. 2020;40(6):52–60. Link
- 岡田克之. 褥瘡のリスクアセスメントと予防対策. 日老医誌. 2012;50(5):583–590. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


