多剤併用リハビリと転倒リスク管理

制度・実務
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このチェックリストの目的

臨床で差がつく学び方を確認する(PT キャリアガイド)

多剤併用(ポリファーマシー)は、転倒や起立性低血圧、せん妄、嚥下障害、低栄養などの有害事象を増やしやすく、入院・在宅ともに PT 実務で見逃されがちなリスクです。本記事は、こうした多剤併用リスクを「評価 → 記録 → 連携」まで 1 枚で抜け漏れなく点検するためのチェックリストとして整理しました。

多剤併用リハビリ・多剤併用理学療法の現場では、「ポリファーマシーは何種類からか」だけに注目しがちですが、重要なのは転倒や起立性低血圧、嚥下・栄養などへの具体的な影響です。本チェックリストでは、多剤併用リスク管理を、ポリファーマシー対策として日常のリハビリ場面でどう組み込むかを中心に解説します。

クイックチェック(まず 10 項目)

最初に 1〜2 分で「今すぐ介入・連携が必要か」をスクリーニングします。該当があれば、後続のレッドフラッグと組み合わせて優先度を判断します。

クイックチェック:ポリファーマシーの初期スクリーニング(成人・高齢者)
項目 確認 備考(評価・観察のポイント)
最近 1 ヵ月での転倒/ふらつき増加 歩行速度・一歩幅・方向転換時のふらつき、立ち上がりの安定性などを確認
起立後のめまい/失神感(起立性低血圧疑い) 臥位→座位→立位での段階的起立と血圧・脈拍の変化、顔色・発汗を観察
日中傾眠・注意低下・せん妄様症状 会話の持続・指示理解・覚醒レベルの変動と、鎮静作用のある薬剤を確認
嚥下時のむせ・咳/食事量低下 食事中の姿勢・むせ・咳のタイミング、食形態の変更歴、体重変化を確認
体重減少・栄養リスク( 3 ヵ月以内) 体重・BMI・食事摂取量の変化、食欲低下や消化器症状の有無をチェック
便秘・排尿障害など抗コリン副作用 排便間隔・排尿困難・残尿感などの訴えと活動量・水分摂取量を把握
低血糖 / 高血糖の揺れが大きい 運動前後の血糖値・自覚症状(冷汗・動悸・ふらつき)と食事時間を確認
鎮痛薬の長期 / 多剤併用(NSAIDs・オピオイド) 疼痛の部位と性質、日内変動、眠気・便秘の有無、運動療法とのバランスを確認
PPI 長期使用( 8〜12 週超) 骨折歴・骨粗鬆症リスク、感染症の既往、栄養状態を把握
腎機能低下や脱水リスク(利尿薬 / ACEi など) 尿量・浮腫・口渇・めまいの有無と、体重変動・血圧推移を確認

レッドフラッグ(至急の対応・連携)

下記はいずれも「様子見」ではなく、優先して医師・薬剤師へ情報共有したいサインです。PT は転倒・起立・嚥下場面で遭遇しやすいため、観察所見を整理して伝えます。

  • 失神・転倒の反復、起立直後の著明な血圧低下(収縮期 − 20〜30 mmHg 以上など)
  • 急なせん妄・幻覚・著明な認知変動(時間・場所・人物の混乱が急激に悪化)
  • 食事摂取不能/誤嚥疑いが強い、短期間での急速な体重減少
  • 重度の便秘・尿閉、低血糖発作(冷汗・ふらつき・意識変容)

該当時は誤嚥性肺炎予防や栄養・口腔ケアを含めた包括的な対応が必要です。多剤併用リスク管理を多職種で共有し、特にリハ × 栄養 × 口腔の連携を強化するためにリハ × 栄養 × 口腔バンドルと合わせて運用すると、抜け漏れを減らしやすくなります。

要注意薬剤群(PT 視点の要点)

薬剤名そのものを暗記するよりも、「どのような副作用がリハビリ場面で問題になるか」をセットで押さえます。多剤併用転倒リスクや起立性低血圧、嚥下・栄養への影響を常に意識しましょう。

  • 抗コリン薬:口渇・便秘・尿閉・せん妄・嚥下低下。高齢者では転倒リスクも増加。
  • ベンゾジアゼピン系:転倒・日中傾眠・記憶障害。減量時は離脱症状(不眠・不安)の出現にも注意。
  • 抗精神病薬:錐体外路症状・起立性低血圧。起立・移乗前の状態確認と姿勢反応の変化に留意。
  • 降圧薬 / 利尿薬:起立性低血圧・電解質異常。段階的立位やバランス評価と組み合わせて確認。
  • 鎮痛薬(NSAIDs / オピオイド):過鎮静・便秘・転倒。疼痛教育と運動療法を併走させ、「薬だけに頼らない」方針を共有。
  • PPI 長期:骨粗鬆・感染・栄養の観点でモニタリング。長期継続の必要性をチームで確認。
  • 糖尿病薬:低血糖時の歩行訓練は危険。食事 / 運動 / 投与タイミングの整合を多職種で確認。
  • 抗凝固 / 抗血小板薬:転倒時の外傷・出血リスクについて、本人・家族へ事前教育。

評価とモニタリング(ポリファーマシー × リハ)

ポリファーマシーリハビリでは、「何種類飲んでいるか」だけでなく、評価スケールを組み合わせて経時的に追うことが重要です。以下は代表的なセットです。

  • 歩行・バランス:歩行速度テスト、方向転換課題、段差昇降、立位保持テストなど
  • 転倒への不安・自己効力感:転倒関連の質問紙(不安・自信)の経時変化
  • 嚥下:嚥下 5 期モデルに沿った観察(準備期〜咽頭期のむせ・咳・残留感など)
  • 栄養:体重・BMI・上腕周径・下腿周径、食事摂取量、簡便な栄養スクリーニングの併用

多剤併用リスク管理では、評価結果を「薬剤変更前後」「入院前後」「在宅移行前後」など区切りの良いタイミングで比較することで、薬剤調整の効果や新たな副作用の兆候を見つけやすくなります。

現場の詰まりどころ(多剤併用リスク管理で迷いやすい点)

多剤併用リハビリの現場では、次のようなところで手が止まりやすくなります。「よくある質問」では、②・③の具体的な対処法をさらに掘り下げて解説しています。

  • 「何剤以上ならポリファーマシーか」にこだわりすぎる:一般に 5 剤以上などの目安はありますが、実際には「少数でも強い副作用の組み合わせ」や「高齢・フレイル・腎機能低下」などでリスクが高まります。多剤併用何種類という数字はあくまで入口と考え、有害事象(転倒・起立性低血圧・嚥下障害・低栄養・せん妄など)の有無を優先してチェックします。
  • 薬剤情報にアクセスしにくく、確認が習慣化しない:処方一覧の場所が分からない、電子カルテの画面遷移が煩雑で開かなくなる、という声は多いです。「リハ開始前に必ず処方一覧を 1 回見る」「週 1 回は薬剤一覧を印刷してチェックする」など、ルールと仕組みで補うと継続しやすくなります。
  • 医師・薬剤師領域に踏み込むことへの遠慮:PT から減薬や変更の話を出しづらい、という心理的ハードルがあります。本記事では、薬の是非を評価するのではなく、「リハ場面で観察された転倒・起立性低血圧・嚥下・栄養の変化」を SBAR 形式で共有するスタンスを推奨しています(具体的な伝え方は「よくある質問」Q2 も参照してください)。
  • リハ時間内に評価・教育・連携までこなそうとして破綻する:一度にすべて行おうとすると、どこかで行き詰まります。「今日はクイックチェックのみ」「別日に詳細評価」「週 1 回は SBAR 作成」とタスクを分割し、チームで役割を分担するのが現実的です(運用の組み込み方は「よくある質問」Q3 で詳しく紹介しています)。

こうした詰まりどころを事前に共有しておくと、ポリファーマシー対策を「なんとなくの気付き」から、「構造化されたリスク管理プロセス」へとアップデートしやすくなります。

介入と連携(SBAR 例)

情報共有は、主観的な印象だけでなく「いつ・どの場面で・どの評価がどう変化したか」を含めて伝えると伝わりやすくなります。SBAR の書き分け例です。

Situation:起立後のふらつき増加と、過去 1 週間での 2 回の転倒。
Background:降圧薬 2 剤+鎮静薬併用、最近 PPI が追加されている。
Assessment:立位後収縮期血圧 − 25 mmHg、転倒への不安が強く、食事量減少と便秘が持続。歩行時の一歩幅の短縮と方向転換時のふらつきを認める。
Recommendation:減薬可否の検討、服薬タイミング調整、起立訓練の段階化とポジショニング見直し、栄養介入(食形態・間食など)の併行実施を提案。

多剤併用リスク管理では、このように「評価スケール」「観察所見」「生活上の変化」の 3 点セットで共有することで、医師・薬剤師も具体的なポリファーマシー対策を立てやすくなります。

記録テンプレ(コピー用)

以下はカルテやリハ記録にそのまま転記しやすい要素をまとめたテンプレートです。施設の様式に合わせて文言を調整してください。

ポリファーマシー関連 PT 記録の要点(テンプレ)
項目 内容
スクリーニング 転倒・起立性・嚥下・栄養・認知のチェック結果(該当 □ と頻度・時期を記載)
評価 歩行・バランス評価、転倒への不安、栄養スクリーニングなどの実施日と値、経時変化
所見 起立後血圧変動、ふらつき、食事量、便通、日中傾眠やせん妄様所見などの具体的記述
介入 運動療法(起立・歩行訓練等)・ポジショニング・教育(転倒 / 服薬 / 水分 / 栄養)
連携 SBAR 形式で医師 / 薬剤師へ提案した内容(減薬・タイミング調整・検査依頼など)

おわりに

多剤併用リハビリの基本リズムは、クイックチェック → 詳細評価 → SBAR で連携 → 再評価です。「何剤飲んでいるか」だけでは見落としやすい転倒・起立性低血圧・嚥下・栄養の変化を、日々のリハの中で拾い上げることが、多剤併用リスク管理の第一歩になります。

本記事のチェックリストは、ポリファーマシー対策を「特別なこと」ではなく「いつもの評価の延長」として実装するための土台です。まずは担当患者の 1 人からで構いませんので、今日のリハ前に処方一覧と本チェックリストを照らし合わせてみてください。小さな違和感を言語化し、多職種で共有する積み重ねが、転倒や入院延長を防ぐ大きな力になります。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

ポリファーマシーは何種類から多剤併用と考えればよいですか?

一般的には 5 剤以上の内服でポリファーマシーとみなされることが多いですが、実臨床では「少数でも強い副作用を持つ薬剤の組み合わせ」や「高齢・フレイル・腎機能低下」などの背景でリスクが高まります。本記事では、多剤併用何種類かという線引きにこだわりすぎず、有害事象(転倒・起立性低血圧・嚥下障害・低栄養・せん妄など)の有無を優先してチェックすることを推奨しています。

PT が多剤併用の問題にどこまで踏み込んでよいか不安です。

PT の役割は「薬を変える」ことではなく、「リハ場面で観察された変化やリスクを分かりやすく共有する」ことです。減薬や変更を直接指示するのではなく、「起立後の血圧低下と転倒が増えている」「嚥下時のむせと体重減少がみられる」といった事実と評価結果を整理し、SBAR 形式で医師・薬剤師へ伝えるスタンスであれば、チーム医療の一員として適切な関わりになります。

多剤併用リスク管理を、毎日のリハの中にどう組み込めばよいですか?

すべてを一度に行おうとせず、「今日はクイックチェックだけ」「週 1 回は処方一覧と評価シートを見直す」といった小さなルールから始めると続けやすくなります。転倒が増えた、起立性低血圧が疑われる、嚥下や栄養の状態が変わったなど、「いつもと違う」と感じたときに本記事のチェックリストを開き、該当項目をマークしておくと、カンファレンスやカンファ時の説明資料としてもそのまま活用できます。

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