廃用症候群の筋力トレーニング|RPE・中止基準・PDF

疾患別
記事内に広告が含まれています。

廃用症候群の筋力トレーニング|まず決める3つ【結論】

結論:廃用症候群の筋力トレーニングでは、最初に「どの姿勢・課題から始めるか」「どの程度の負荷にするか」「どの反応で減量・中止するか」を決めます。レジスタンストレーニングは廃用による筋量・筋機能低下への重要な対策ですが、背景疾患や体力差が大きいため、全員へ同じ回数・強度を当てはめる方法は適しません。

病棟で再開する場合は、Borg 6–20のRPE 11–13を開始強度の一つの目安とし、反復回数だけでなく、フォーム、症状、バイタル反応、休憩後の回復、当日後半〜翌日の疲労まで確認します。RPE 11–13は固定基準ではなく、原疾患、医師の指示、院内基準、その日の状態に合わせて調整します。

この記事では、今日どの段階から始め、どの程度の負荷をかけ、反応を見て次回どう調整するかを整理します。読み終えると、今日の1セッションを組み、増量・維持・減量まで判断できるようになります。

廃用症候群全体の評価・離床から確認したい場合

廃用ハブで全体像を確認する

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群の筋力トレーニングで最初に決める3項目
決めること 開始時の考え方 次回へつなぐ記録
開始段階 ベッド上・座位・立位・課題特異から、その日に安全に反復できる段階を選ぶ 姿勢、支持物、介助量、実施できた課題
負荷量 RPE 11–13を一つの開始目安とし、反復・セットはフォームを維持できる範囲で設定する RPE、反復数、セット数、休憩、フォーム
減量・中止 数値だけでなく、胸部症状、呼吸困難、めまい、疼痛、動作の崩れ、回復遅延を確認する 症状、バイタル変化、回復時間、次回条件
廃用症候群の筋力トレーニングで今日の1セッションを決める5ステップ
開始前確認 → 開始段階 → 負荷設定 → 実施中の反応 → 次回調整までを1つの流れで確認します。

今日の1セッションを組む5ステップ

廃用症候群では、種目を増やすより開始前確認→段階選択→負荷設定→実施中確認→次回調整の順番を固定する方が、日ごとの状態変化へ対応しやすくなります。

ポイントは、実施した回数だけで終わらず、その負荷にどう反応し、どの程度で回復したかまで確認することです。同じ種目・同じ回数でも、介助量やフォーム、息切れ、回復時間が変われば、実際の負荷は同じとは限りません。

※ 表は横スクロールできます。

開始前から次回調整までの5ステップ
段階 確認すること 判断 記録
1.開始前 疼痛、呼吸困難、めまい、意識、発熱、安静時バイタル、原疾患の状態 予定どおり/負荷を下げる/延期する 開始前症状、基準値、延期理由
2.段階選択 ベッド上、座位、立位、課題特異のどこなら安全に反復できるか フォームと介助量を保てる段階を選ぶ 姿勢、支持物、介助量
3.負荷設定 RPE、反復数、セット数、休憩、テンポ 予定回数より動作の質と症状を優先する RPE、回数、セット、休憩
4.実施中 症状、SpO₂、HR、BP、顔色、会話、動作速度、フォーム 継続/休憩/減量/中止を判断する 最大反応、症状、休憩後の回復
5.次回調整 セッション後の回復、当日後半〜翌日の疲労・疼痛・ADL 維持/1要素だけ増やす/負荷を戻す 次回の開始条件と変更点

ベッド上→座位→立位→課題特異で段階づける

段階づけでは、単純に「寝ているからベッド上」と決めるのではなく、安全に反復できる姿勢と課題から開始します。体位、支持量、外的負荷、動作の難易度を一度に変えず、どれか1つを調整すると反応を評価しやすくなります。

以下は病棟で段階を共有するための実務上の整理です。固定された進級基準ではなく、原疾患・症状・医師指示・院内基準に合わせて使用してください。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群に対する筋力トレーニングの段階づけ
段階 主な目的 運動例 次段階を検討する条件
ベッド上 筋活動の再獲得、反復できる運動量の確保 下肢セッティング、ヒールスライド、ブリッジなど状態に合わせた自動運動 症状を増悪させず、座位課題へ移行できる
座位 抗重力活動の導入、下肢・体幹の反復 膝伸展、足関節運動、座位での下肢・体幹運動 座位での反復後も症状・介助量が大きく悪化しない
立位 抗重力筋と支持性の強化 ヒールレイズ、股関節運動、部分STS、立位での荷重練習 立位課題を反復でき、回復後も動作の質を保てる
課題特異 筋力を起立・移乗・歩行などのADLへつなげる STS、スクワット、ステップ、歩行・方向転換など 課題の量や難易度を上げても症状・ADLが悪化しない

RPE・回数・セットは組み合わせて決める

RPEは、廃用が強く1RM測定が難しい場面でも、患者さんの自覚的な負荷を共有しやすい指標です。ただし、RPEと反復回数を一対一で固定することはできません。同じRPEでも、種目、外的負荷、反復数、休憩、筋群、その日の体調によって実際の負荷は変わります。

そのため、「RPE 13なら必ず10〜15回」と決めるのではなく、RPE・反復数・セット数・フォーム・症状・回復をまとめて処方します。高齢者のレジスタンストレーニングでは複数セット・一定の反復回数を用いたプログラムが報告されていますが、廃用が強い患者さんでは、その回数を達成することより安全に反復できる条件を見つけることを優先します。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群でのRPE・反復・セットの使い方
状態 負荷設定の考え方 増量を検討 減量を検討
再開直後・耐容能が低い RPE 11前後から少量で開始し、必要なら反復を分ける 症状なく反復でき、休憩後の回復も良好 フォーム破綻、息切れ、疼痛、回復遅延
安定して反復できる RPE 11–13を目安に、回数またはセット数を調整する 同じ条件で余裕があり、セッション後〜翌日も悪化しない 後半で介助量や代償動作が増える
筋力向上を狙える 外的負荷や課題難易度を段階的に上げる フォームと安全性を保ったまま現在の負荷へ適応している 疼痛、息こらえ、症状増悪、ADL低下が出る

増量するときは、回数・セット数・外的負荷・課題難易度を一度に上げず、原則として1要素ずつ変更すると、何が負担になったのか判断しやすくなります。

起立・着座(STS)はADLへつなげやすい

STSは下肢筋力だけでなく、体幹制御、バランス、立位への移行を含むため、廃用症候群の筋力トレーニングをADLへつなげやすい課題です。ただし、全員の「中核ドリル」と決めるのではなく、起立能力や疼痛、荷重制限に合わせて選択します。

負荷は、座面高・上肢支持・介助量・反復数・立ち上がり速度などで調整できます。最初は高座面や上肢支持を利用し、動作の質が保てる回数から開始します。

進める場合は、高座面から通常座面へ、手支持ありから少ない支持へ、反復数の追加、外的負荷の追加など、1つずつ条件を変えます。目標回数へ届かなくても、症状やフォームを崩してまで反復数を優先する必要はありません。

中止・減量は「症状+個別の基準」で判断する

廃用症候群は、感染症、術後、心疾患、呼吸器疾患、悪性疾患などさまざまな背景から生じます。そのため、SpO₂や血圧の1つの数値を、すべての廃用患者さんへ共通する中止基準にはできません。

まず医師の指示、原疾患ごとの運動制限、酸素療法中の目標SpO₂、院内プロトコルを確認します。そのうえで、症状と運動前からの変化を組み合わせて判断します。離床そのものの中止・再開条件は、離床の中止基準と再開基準で詳しく整理しています。

※ 表は横スクロールできます。

廃用症候群の筋力トレーニングで確認する中止・減量サイン
判断 確認するサイン 対応 記録
即時中止・報告 胸痛、失神・前失神、新規の神経症状、重度の呼吸困難など 運動を中止し、患者評価と必要な報告・対応を優先する 発症時刻、直前の運動、症状、バイタル推移
休憩・減量 呼吸困難、めまい、疼痛、顔色不良、著しい動作速度低下、フォーム破綻 休憩して再評価し、回復しなければ終了する 症状出現時の負荷、回復時間、再開可否
SpO₂ 個別に設定された目標域から外れる、または運動に伴う低下と症状が持続する 負荷を下げて再評価し、処方された目標域・院内基準に従う 開始値、最低値、酸素条件、回復時間
血圧・心拍 運動前からの予期しない大きな変化、症状を伴う上昇・低下、不整脈が疑われる反応 中断して再測定し、個別の上限・下限や院内基準に従う 前後値、症状、姿勢、内服など背景
延期・再評価 全身状態の急な悪化、感染徴候の増悪、急性DVTを疑う所見など 筋力トレーニングより原因評価・治療を優先する 延期した根拠と再評価条件

廃用で筋力が低下する理由

不活動や固定が続くと、筋蛋白代謝、神経筋機能、筋量・筋力などに変化が生じます。とくに高齢者では、病気、入院、固定、活動量低下などによる短期間の不活動でも筋量・筋機能低下が進み、その後の回復が難しくなることがあります。

一方、レジスタンストレーニングは、不活動・固定に伴う筋萎縮や筋機能低下への重要な対策です。したがって「廃用だから筋トレを避ける」のではなく、安全条件を確認しながら実施可能な負荷を確保し、反応に合わせて段階的に活動量を戻すことが重要です。

よくある失敗は「増やし方」と「記録」

廃用症候群の筋力トレーニングでは、適切な種目を知っていても、負荷の増やし方や翌日の反応が共有されていないと処方が安定しません。とくに「調子が良かったから全部増やす」「予定回数を終えることを優先する」「今日は軽め、だけで申し送る」といった運用は、次回の判断を難しくします。

迷った場合は、5ステップに戻り、RPE・反復・症状・回復時間・次回条件が残っているか確認します。

※ 表は横スクロールできます。

筋力トレーニングで起こりやすい失敗と修正
詰まりどころ よくある失敗 修正 記録
増量 調子が良い日に回数・セット・負荷を同時に増やす 次回は変更する要素を1つに絞る 変更した条件と反応
反復数 予定回数を優先し、後半にフォームが崩れる フォームが保てる回数で終了する 終了した理由と最終反復の状態
呼吸 息こらえや過度ないきみが増える 負荷またはテンポを調整し、呼吸を止めずに行える条件へ戻す 息こらえ、症状、回復時間
申し送り 「今日は軽め」「問題なし」だけで終わる RPE・回数・症状・次回条件をセットで残す 次回の開始段階と変更条件

筋力トレーニング記録シートPDF

記事内容に合わせて、現場でそのまま使える筋力トレーニング記録シート(A4・印刷用)を用意しています。実施した種目だけでなく、負荷量・反応・次回調整まで1枚で残せる形式です。

筋力トレーニングは「何をやったか」だけでなく、どの条件で実施し、どう反応し、次回どう変更するかを残すと、担当者が変わっても負荷設定を共有しやすくなります。

PDF を開く(印刷用)

PDF を記事内でプレビューする

プレビューが表示できない場合は、上の「PDF を開く(印刷用)」からご確認ください。


FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。

高齢で低栄養でも筋力トレーニングはできますか?

低栄養があることだけで筋力トレーニングを一律に中止するわけではありません。ただし、摂取量、体重変化、炎症、嚥下状態などを確認し、運動量だけを増やさないことが重要です。低栄養が疑われる場合は、栄養評価と運動処方を並行して調整します。

遅発性筋痛(DOMS)が出たら中止しますか?

軽度の筋肉痛だけで必ず中止する必要はありません。ただし、疼痛が強い、動作能力が明らかに低下した、日常生活へ支障が出た場合は、その日の負荷を維持せず、回復状況を確認して反復数・セット数・外的負荷を見直します。

RPEを答えられない人はどう評価しますか?

RPEを本人が信頼して回答できない場合は、RPEだけで強度を決めません。呼吸、表情、会話、動作速度、フォーム、介助量、バイタル反応、休憩後の回復などを組み合わせ、チームで共通の観察項目を決めます。

STSで膝や股関節が痛む場合はどうしますか?

まず座面高、上肢支持、介助量、反復数、可動範囲を調整し、疼痛を増やさない条件へ戻します。新規の強い痛みや運動後も続く疼痛がある場合は、反復を続けるのではなく原因評価を優先します。

次の一手|次回の負荷まで記録する

今日のセッションでは、まず開始段階を決め、RPE・反復数・セット数・症状・回復時間を記録してください。その結果をもとに、次回は「維持する」「1要素だけ増やす」「負荷を戻す」のいずれかを選びます。

筋力トレーニングだけでなく、評価→離床→運動処方→再評価までを通して確認したい場合は、廃用症候群のリハビリへ進むと全体像を整理できます。


参考文献

  1. Fiatarone MA, Marks EC, Ryan ND, Meredith CN, Lipsitz LA, Evans WJ. High-Intensity Strength Training in Nonagenarians: Effects on Skeletal Muscle. JAMA. 1990;263(22):3029-3034. doi:10.1001/jama.1990.03440220053029. PubMed
  2. Ratamess NA, Alvar BA, Evetoch TK, et al. Progression models in resistance training for healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(3):687-708. doi:10.1249/MSS.0b013e3181915670. PubMed
  3. Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, et al. Resistance Training for Older Adults: Position Statement From the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019;33(8):2019-2052. doi:10.1519/JSC.0000000000003230. PubMed
  4. McKendry J, Coletta G, Nunes EA, Lim C, Phillips SM. Mitigating disuse-induced skeletal muscle atrophy in ageing: Resistance exercise as a critical countermeasure. Exp Physiol. 2024;109(10):1650-1662. doi:10.1113/EP091937. PubMed
  5. Guo X, Zhou Y, Li X, Mu J. Resistance exercise training improves disuse-induced skeletal muscle atrophy in humans: a meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Musculoskelet Disord. 2025;26(1):134. doi:10.1186/s12891-025-08384-7. PubMed
  6. Morishita S, Tsubaki A, Nakamura M, Nashimoto S, Fu JB, Onishi H. Rating of perceived exertion on resistance training in elderly subjects. Expert Rev Cardiovasc Ther. 2019;17(2):135-142. doi:10.1080/14779072.2019.1561278. PubMed
  7. Currier BS, D’Souza AC, Fiatarone Singh MA, et al. American College of Sports Medicine Position Stand. Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews. Med Sci Sports Exerc. 2026;58(4):851-872. doi:10.1249/MSS.0000000000003897. PubMed
  8. Paluch AE, Boyer WR, Franklin BA, et al. Resistance Exercise Training in Individuals With and Without Cardiovascular Disease: 2023 Update: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2024;149(3):e217-e231. doi:10.1161/CIR.0000000000001189. PubMed

著者情報

rehabilikun のアイコン

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

運営者プロフィール / 編集・引用ポリシー / お問い合わせ