- 失語症評価の使い分け|SLTA・WAB・CADLの違い
- 先に比較|SLTA・WAB・CADLは何が違う?
- 選び方フロー|「何を知りたいか」から検査を決める
- 配布物ダウンロード|SLTA・WAB・CADL 5分フロー
- 急性期ではどう選ぶ?|病期より「実施できる状態か」を先に確認
- 結果がズレたとき|言語機能と生活上のコミュニケーションは分けて考える
- 各検査の使いどころ|SLTA・WAB・CADL
- SLTA・WAB・CADLは組み合わせる?|追加する理由を明確にする
- よくある失敗|検査名や病期から先に決めない
- 評価の進め方|検査選択から再評価まで
- 記録・共有では何を残す?|点数だけで終わらせない
- よくある質問(FAQ)
- 次の一手|ST評価の全体像へつなげる
- 参考文献
- 著者情報
失語症評価の使い分け|SLTA・WAB・CADLの違い
SLTA・WAB・CADLの使い分けは、急性期・回復期・生活期だけで固定するのではなく、「今回の評価で何を知りたいか」で選ぶのが基本です。SLTAとWABはいずれも失語症を総合的に評価する検査ですが、結果の整理方法や活用しやすい場面が異なります。CADLは、言語機能だけでなく非言語的な手段も含め、実生活でのコミュニケーション能力を評価します。
このページでは、成人の脳血管障害を担当する医療従事者向けに、言語機能のプロフィールを詳しく整理するならSLTA、重症度・失語型・経時変化を共通指標で整理するならWAB、生活で「どうすれば伝わるか」を確認するならCADLという視点から、3検査の違いと選び方を整理します。
先に比較|SLTA・WAB・CADLは何が違う?
3つの検査は「どれが優れているか」ではなく、評価によって何を明らかにしたいかで使い分けます。最初に役割の違いを整理しておくと、検査名から先に選ぶ失敗を避けやすくなります。
| 検査 | 主に知りたいこと | 選びやすい場面 | 結果から決めること |
|---|---|---|---|
| SLTA | 言語機能のプロフィール | 理解・表出・読み書きなど、保たれている機能と難しい機能を整理したい | どの機能を詳しくみるか、介入の優先順位をどうするか |
| WAB | 重症度・失語型・経時変化 | 失語指数(AQ)などの共通指標で全体像や変化を整理したい | 重症度や失語型を整理し、再評価で変化を比較する |
| CADL | 実用的コミュニケーション能力 | 生活場面で何が通じるか、どの代償手段が使えるかを知りたい | 環境調整、家族への伝え方、生活場面での支援方法を決める |
SLTAとWABはどちらも総合的な失語症検査です。そのため、「回復期だからSLTA」「急性期だからWAB」と病期だけで二分するのではなく、評価後に必要な判断から選びます。
一方、CADLは言語機能そのものの評価だけでは把握しにくい、日常生活での情報伝達や代償手段を含めたコミュニケーション能力を確認したいときに役立ちます。

選び方フロー|「何を知りたいか」から検査を決める
どの検査を使うか迷ったら、病期より先に「今回の評価結果を使って何を決めたいのか」を1つに絞ります。
- 言語機能の得意・不得意を詳しく整理したい → SLTAを検討する
- 重症度・失語型・経時変化を共通指標で整理したい → WABを検討する
- 生活でどこまで伝わるか、どの代償手段が使えるか知りたい → CADLを検討する
- 覚醒・注意・疲労・全身状態などから標準検査を十分に行えない → 無理に完遂せず、まず評価可能な範囲と通じる条件を記録する
SLTA・WAB・CADLは排他的な選択肢ではありません。たとえばSLTAまたはWABで失語症の全体像を整理したあと、実際の生活でどのようにコミュニケーションが成立するかを詳しく知る必要があれば、CADLや会話観察を追加するという考え方もできます。
反対に、目的が曖昧なままSLTAとWABを両方実施すると、総合的な失語症評価として情報が重なる部分もあります。追加する前に、「この検査を行うことで、どの判断が新たにできるようになるのか」を確認してください。
配布物ダウンロード|SLTA・WAB・CADL 5分フロー
SLTA・WAB・CADLの使い分けを、「病期」ではなく「今回の評価で何を知りたいか」から選べるA4シートにまとめました。カンファレンス前の確認、評価計画の整理、スタッフ間で選択基準を共有するときに使えます。
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急性期ではどう選ぶ?|病期より「実施できる状態か」を先に確認
急性期では、「急性期だからWAB」と機械的に決めるのではなく、標準化された検査を実施できる状態かを先に確認します。覚醒、注意、疲労、全身状態などによって、検査結果の解釈が難しくなることがあるためです。
十分な検査が難しい場合は、無理に最後まで進めるより、まず次の情報を残します。
- どの程度の指示なら理解しやすいか
- 自発話や応答はどの程度みられるか
- 指差し、ジェスチャー、二択などで意思確認できるか
- どの場面から反応が不安定になるか
- 覚醒や疲労によって結果が変化するか
- 今回どこまで評価できたか
そのうえで状態が整ってきたら、言語機能を詳しく整理したいのか、重症度や経時変化を共通指標で追いたいのか、生活でのコミュニケーションを確認したいのかに応じて、SLTA・WAB・CADLを選びます。
結果がズレたとき|言語機能と生活上のコミュニケーションは分けて考える
SLTAやWABの結果と、実際の生活場面でのコミュニケーションが一致しないことがあります。これは、必ずしもどちらかの評価が間違っていることを意味しません。
構造化された検査場面と、文脈・表情・指差し・ジェスチャーなどを利用できる自然な生活場面では、求められる能力が異なるためです。
たとえば、言語機能そのものには大きな制限があっても、指差しやジェスチャー、選択肢の提示などを利用すると意思を伝えられることがあります。反対に、構造化された課題では比較的良好でも、会話量が増えたり複数人でのやり取りになったりすると困難が目立つ場合もあります。
| 見え方 | 確認したいこと | 次の評価・観察 |
|---|---|---|
| 言語検査より生活場面で伝わる | 文脈、指差し、ジェスチャー、選択肢などの代償手段 | CADLや会話観察で「何を使えば通じるか」を確認する |
| 言語検査は比較的良好だが生活で困る | 会話量、複数人場面、注意、疲労、情報量 | 実際の会話・生活場面で破綻する条件を確認する |
| 再評価で結果が変動する | 覚醒、疲労、提示方法、評価時間、実施範囲 | 条件を記録し、できるだけ同条件で経時変化をみる |
評価結果を共有するときは、点数だけではなく、「何が難しいか」「何なら通じるか」「どう支えると伝わるか」まで整理すると、病棟や家族が具体的な対応へつなげやすくなります。
各検査の使いどころ|SLTA・WAB・CADL
ここでは設問全文や詳細な採点基準ではなく、検査を選択するときに必要な役割の違いに絞って整理します。実際の実施・採点は、それぞれの公式マニュアルに従ってください。
SLTA|言語機能のプロフィールを整理する
SLTA(標準失語症検査)は、日本で広く使用されている標準的な失語症検査です。複数の言語機能を評価し、どの機能が保たれ、どこに困難があるのかをプロフィールとして整理したい場面で選択肢になります。
SLTAの結果は、単純に点数の高低だけでみるのではなく、各課題の結果を組み合わせながら、次にどの機能を詳しく確認するか、どの能力を介入に生かすかという判断につなげます。
WAB|重症度・失語型・経時変化を共通指標で整理する
WAB失語症検査日本語版は、失語症を包括的に評価する検査です。失語指数(AQ)などの指標を用いて重症度を整理し、失語型や経時変化を共通の枠組みで確認したい場面で選択肢になります。
そのため、WABを「急性期専用の短時間検査」と捉えるのではなく、どの指標を得たいのか、患者が標準化された条件で評価を受けられる状態かを確認して使用します。
CADL|生活で「どうすれば伝わるか」を評価する
CADL(実用コミュニケーション能力検査)は、言語機能だけでなく、非言語的な手段も含めた総合的なコミュニケーション能力を評価する検査です。日常生活に近いコミュニケーション活動を通して、情報伝達の実用性や代償手段を確認できます。
そのため、CADLを「生活期だけに使う検査」と固定する必要はありません。病棟での意思疎通、退院支援、家族とのコミュニケーションなど、生活場面でどのように支えれば伝わるかを決めたい時点で検討できます。
SLTA・WAB・CADLは組み合わせる?|追加する理由を明確にする
3つの検査をすべて実施することが目的ではありません。最初の検査では答えられない疑問が残ったときに、役割の異なる評価を追加するという考え方が重要です。
| 最初に分かったこと | 残った疑問 | 次に検討する評価 |
|---|---|---|
| SLTAで言語機能の特徴を整理した | 生活では実際にどの程度コミュニケーションできるか | CADLや会話観察 |
| WABで重症度や失語型を整理した | 実生活で使える代償手段や支援方法は何か | CADLや生活場面の観察 |
| CADLで生活上の困難を確認した | どの言語機能が困難の背景にあるかを詳しく知りたい | SLTAなどの言語機能評価 |
反対に、すでに必要な判断材料が得られている場合は、検査を追加する必要はありません。「追加した結果によって介入・支援・再評価の何が変わるか」を確認してから選びます。
よくある失敗|検査名や病期から先に決めない
失語症評価で起こりやすいのは、検査そのものの問題よりも、評価目的と検査の役割が一致していないことです。
| よくある選び方 | 問題点 | 修正 |
|---|---|---|
| 急性期だからWABと決める | 病期だけでは評価目的や実施可能性は決まらない | まず何を知りたいかと、標準検査を実施できる状態かを確認する |
| 回復期だからSLTAをフル実施する | 検査を行うこと自体が目的になりやすい | 結果によって何の介入判断を変えるのかを先に決める |
| CADLは生活期だけに使う | 実用コミュニケーションを確認する機会を狭める | 生活場面での支援方法を決めたいときに検討する |
| SLTAとWABを目的なく両方実施する | 総合検査として情報が重なる部分がある | 追加する検査によって何の判断が変わるかを明確にする |
| 点数だけを共有する | 病棟や家族が具体的な対応へ変換しにくい | 通じる手段、難しい条件、必要な支援まで共有する |
評価の進め方|検査選択から再評価まで
失語症評価は、検査を最後まで終えることではなく、得られた情報から次の支援を決められることが重要です。迷ったときは、次の順番で整理します。
- 今回決めたいことを1つにする:言語機能のプロフィール、重症度・失語型、実用コミュニケーションのどれを優先するか決める
- 標準検査を実施できる状態か確認する:覚醒、注意、疲労、全身状態などを確認する
- 目的に合う検査を選ぶ:SLTA・WAB・CADLの役割から選択する
- 検査結果と生活場面を照合する:点数だけでなく、実際に通じる条件や困る場面を確認する
- 必要な支援へ変換する:指示方法、選択肢、代償手段、環境調整などを決める
- 再評価条件を記録する:実施範囲や患者の状態を残し、経時変化を比較できるようにする
記録・共有では何を残す?|点数だけで終わらせない
検査結果を多職種で活用するには、点数や失語型だけでなく、患者とのコミュニケーションが成立する条件を残しておくことが重要です。
| 共有する内容 | 確認例 |
|---|---|
| 難しいこと | 長い口頭指示では理解が不安定になる |
| 通じる手段 | 短い文、指差し、二択提示では意思確認しやすい |
| 支援方法 | 質問を1つずつ提示し、返答を待つ時間を確保する |
| 変動条件 | 疲労時や刺激の多い環境では反応が不安定になる |
| 再評価 | どの条件・範囲で実施したかを記録して比較する |
この形で共有すると、評価結果が「検査室の情報」で終わらず、病棟での声掛け、家族への説明、リハビリテーション場面での対応へつなげやすくなります。
よくある質問(FAQ)
SLTA・WAB・CADLの使い分けで迷いやすい疑問を整理します。
SLTA・WAB・CADLは全部実施した方がよいですか?
必ずしも全部行う必要はありません。SLTAとWABはともに総合的な失語症検査で、情報が重なる部分があります。まず今回の評価で何を決めたいかを明確にし、必要な検査を選びます。生活場面での実用的なコミュニケーションまで確認する必要があれば、CADLや会話観察を組み合わせます。
SLTAとWABはどちらを選べばよいですか?
言語機能のプロフィールを詳しく整理したい場合はSLTA、失語指数(AQ)や失語型などを用いて重症度・経時変化を共通の枠組みで整理したい場合はWABが選択肢になります。病期だけではなく、評価後に何を判断したいかで選びます。
急性期ならWABを選べばよいですか?
急性期だからWABと固定する必要はありません。覚醒、注意、疲労、全身状態などによって標準化された検査が難しい場合は、まず評価可能な範囲と通じる条件を確認します。状態が整った段階で、評価目的に合う検査を選びます。
CADLは生活期になってから行う検査ですか?
生活期だけに限定する必要はありません。CADLは実生活に近いコミュニケーション能力や代償手段を確認する検査なので、病棟での意思疎通、退院支援、家族への対応方法などを決めたい時点で検討できます。
SLTAやWABとCADLの結果が合わないのは問題ですか?
必ずしも問題ではありません。構造化された言語検査と、文脈や代償手段を利用できる実用的なコミュニケーションでは、評価している側面が異なります。結果のズレも情報として捉え、「どの条件なら伝わるか」を生活場面や会話観察と合わせて確認します。
次の一手|ST評価の全体像へつなげる
- ST評価全体の進め方を確認する:脳卒中のST評価まとめ
- 失語症以外のコミュニケーション評価へ進む:構音・音声のST評価
参考文献
- 森岡悦子, 金井孝典, 中谷謙. 失語症の言語機能とコミュニケーション能力の関連性─SLTAから読み取れる実用的言語能力の可能性─. 高次脳機能研究. 2013;33(2):253-261. DOI: 10.2496/hbfr.33.253
- Bakheit AMO, Carrington S, Griffiths S, Searle K. High scores on the Western Aphasia Battery correlate with good functional communication skills (as measured with the Communicative Effectiveness Index) in aphasic stroke patients. Disabil Rehabil. 2005;27(6):287-291. DOI: 10.1080/09638280400009006
- Hammond L, Christensen T, Fridriksson J, den Ouden DB. Assessing Functional Communication in Persons With Aphasia: A Scoping Review of Formal and Informal Measures. Int J Lang Commun Disord. 2025;60(3):e70051. DOI: 10.1111/1460-6984.70051 / PubMed: 40346989
- 綿森淑子. 実用コミュニケーション能力検査(CADL)と失語症の訓練について. 失語症研究. 1993;13(2):191-199. DOI: 10.2496/apr.13.191
各検査の実施法、採点基準、購入・利用条件については公式資料を確認してください。標準失語症検査(SLTA) / WAB失語症検査 日本語版 / CADL 実用コミュニケーション能力検査
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

