階段昇りの動作分析は「条件→局面→所見→仮説」の順で見ます
階段昇り(昇段)の動作分析では、見えた代償からすぐに「筋力低下」「可動域制限」と原因を決めるのではなく、まず観察条件をそろえ、どの局面で何が崩れたかを整理することが重要です。本記事では、新人PTでも観察しやすいように、①受け止め、②引き上げ、③振り出しの3区分に整理します。
さらに、正面・側面・後方から見るポイント、膝の内側偏位・体幹前傾・つま先の引っかかりから原因仮説を立てる方法、条件を1つ変えて反応を見る方法、カルテへ2行で残す記録例まで解説します。
動作分析全体の「事実→仮説→検証」という考え方は、動作分析のやり方で詳しく解説しています。
最初に段差・手すり・昇り方などの観察条件をそろえます
階段昇りを見る前に、まず観察条件を確認します。同じ患者でも、段差、手すり、昇り方、速度などが変われば動作も変化するためです。
特に手すりは「使った/使わなかった」だけでなく、軽く触れているのか、上肢で身体を支持しているのかまで確認します。手すりの軽い使用でも階段昇降時の運動戦略が変化することが報告されており、手すり使用そのものを異常所見とはみなしません。
| 確認項目 | 確認する内容 | 記録のポイント |
|---|---|---|
| 段差 | 高さ、奥行き | 再評価時に同じ条件で比較できるようにする |
| 昇り方 | 一足一段/二足一段 | 先行脚と支持脚の役割を区別する |
| 手すり | なし/軽く触れる/支持する | 上肢支持の程度まで残す |
| 速度 | 普段の速度/ゆっくりなど | 条件変更前後でそろえる |
| その他 | 先行脚、履物、補助具など | 左右差や環境による変化と区別する |
条件を変えて反応を見る場合も、安全性を優先します。転倒リスクのある患者で、検証のためだけに手すりを外すなど、安全性を下げる必要はありません。
階段昇りは臨床観察用の3区分で整理します
階段昇りの研究では、weight acceptance、pull-up、forward continuance、swingなど、複数の相に分けて分析する方法があります。本記事では、これらの相分類を3相へ置き換えるのではなく、目視で動作を追いやすくするために①受け止め、②引き上げ、③振り出しの3区分へ簡略化して観察します。
おおまかには、上段へ置いた下肢で荷重を受けるところを「受け止め」、身体を上方・前方へ運ぶところを「引き上げ」、反対側下肢を次の段へ運ぶところを「振り出し」と考えると、どこから動作が変化したのか整理しやすくなります。
| 観察用区分 | 何をしている局面か | まず見る3点 | よく見られる所見 |
|---|---|---|---|
| ① 受け止め | 上段へ置いた下肢に荷重を移す | 膝の位置/骨盤/足部支持 | 膝の内側偏位、骨盤傾斜、足部の不安定性 |
| ② 引き上げ | 支持脚で身体を上方・前方へ運ぶ | 体幹/股・膝関節伸展/上肢支持 | 体幹前傾の増大、伸展の停滞、強い手すり支持 |
| ③ 振り出し | 反対側下肢を次の段へ運ぶ | つま先クリアランス/骨盤代償/支持脚保持 | つま先接触、外回し、骨盤挙上 |
階段昇りでは下肢伸展筋への要求が大きく、特に膝関節伸展筋には高い負荷がかかります。ただし、「体幹前傾がある=大腿四頭筋が弱い」のように、1つの所見だけから原因を確定することはできません。
観察順は正面→側面→後方に固定します
本記事では、目線が散らないように正面→側面→後方の順で観察します。この順番が医学的に唯一の正解という意味ではなく、毎回同じルーティンで見ることで所見の抜けを減らすための方法です。
すべての関節運動を一度に追う必要はありません。まず①〜③のどこで崩れたかを探し、その区分で見る項目を絞ります。
※スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。
| 区分 | 正面 | 側面 | 後方 |
|---|---|---|---|
| ① 受け止め | 膝の軌道/骨盤の左右差/足部支持 | 下腿の前傾/膝屈曲/体幹位置 | 骨盤の側方偏位/踵・足部/左右差 |
| ② 引き上げ | 膝の軌道/骨盤の左右差/上肢支持 | 体幹前傾/股・膝関節伸展の進み方/踵の動き | 骨盤保持/体幹側屈/上肢の代償 |
| ③ 振り出し | 外回し/骨盤挙上/左右差 | つま先クリアランス/膝屈曲/振り出しのタイミング | 骨盤挙上・回旋/支持脚保持/足部の軌道 |
崩れを見つけたら「仮説→1条件変更→追加評価」で絞ります
階段昇りの動作分析で重要なのは、見えた崩れをそのまま原因にしないことです。「膝が内側へ入る」「体幹が前傾する」「つま先が引っかかる」は観察できた所見であり、それだけでは原因を確定できません。

まず所見を事実として残し、考えられる要因を複数挙げます。そのうえで、安全を確保できる範囲で条件を1つだけ変え、反応を確認します。条件変更で動作が変化しても原因が確定したとは判断せず、次に行う個別評価の優先順位を決める材料として使います。
| 見えた所見 | 考える要因の例 | 条件変更の例 | 追加で確認する項目 |
|---|---|---|---|
| 膝が内側へ偏位する | 股・膝関節機能、足部支持、疼痛、荷重戦略など | 段差、足部位置、手すり | 股・膝関節筋力、足関節・足部、疼痛、片脚支持 |
| 体幹前傾が大きい | 下肢伸展能力、疼痛、関節運動、段差への適応など | 段差、速度、手すり | 膝・股関節筋力、疼痛、関節可動域 |
| つま先が引っかかる | 足関節背屈、膝屈曲、股関節運動、タイミングなど | 速度、段差、手すり | 足関節背屈ROM・筋力、膝屈曲、股関節屈曲、支持脚安定性 |
この表は「所見と原因の対応表」ではありません。見えた所見から、次に何を確認するかを考えるための入口として使用します。
条件は1つずつ変えます
- 区分を決める:①受け止め/②引き上げ/③振り出しのどこで崩れたかを確認する
- 所見を記述する:「膝が内側へ偏位」「体幹前傾が増大」など、見えた事実を残す
- 仮説を挙げる:筋力、可動域、疼痛、バランス、環境条件など複数の候補を考える
- 1条件だけ変える:段差、手すり、足部位置、速度などから1つ選ぶ
- 反応を確認する:改善/不変/別の代償が出現、のどれかを確認する
- 個別評価へ進む:反応と仮説に合わせて筋力、ROM、疼痛、バランスなどを確認する
記録は「条件・局面・所見・反応」を2行で残します
階段昇りの記録では、動作を長く描写するよりも、「どの条件で」「どの局面に」「何が起き」「条件変更でどう変わったか」を残すと再評価につなげやすくなります。
記録例
階段昇り:一足一段、右先行、右手すり軽度使用。②引き上げで体幹前傾増大、右膝伸展の進行が乏しい。
低い段差では前傾減少。右膝伸展筋力、疼痛、股関節機能を追加確認し、同条件で再評価する。
記録テンプレ
階段昇り:[昇り方]、[先行脚]、手すり[使用条件]。[①受け止め/②引き上げ/③振り出し]で[観察した所見]。
[変更した条件]→[改善/不変/別の代償]。追加確認:[筋力/ROM/疼痛/バランス/その他]。
階段昇りの動作分析でよくある質問
Q1.体幹前傾が大きければ、下肢筋力低下と判断してよいですか?
A.体幹前傾だけで筋力低下とは判断できません。下肢伸展能力のほか、疼痛、関節可動域、段差の高さ、手すりの使用など複数の要因が関係する可能性があります。まず前傾がどの局面で増えるかを記録し、条件変更への反応と個別評価を組み合わせて判断します。
Q2.手すりを使っている患者は、手すりなしでも評価した方がよいですか?
A.必ずしも外す必要はありません。手すりの使用によって階段昇りの運動戦略は変化するため、「手すりあり」という条件そのものを記録して評価します。転倒リスクがある患者では、評価のためだけに安全性を下げて手すりなしを試す必要はありません。
Q3.つま先が引っかかる場合は、足関節背屈だけ確認すればよいですか?
A.背屈だけでは判断できません。足関節背屈に加えて、膝屈曲、股関節の振り出し、骨盤挙上や外回し、支持脚の安定性、振り出しのタイミングなどを確認します。どの運動や代償を使ってクリアランスを確保しているかまで観察すると、次の評価につながります。
次は基本動作全体と階段降りへつなげます
階段昇りで「条件→局面→所見→仮説」の流れが整理できたら、同じ型を他の基本動作へ広げると、観察と記録を統一しやすくなります。
参考文献
- McFadyen BJ, Winter DA. An integrated biomechanical analysis of normal stair ascent and descent. J Biomech. 1988;21(9):733-744. doi: 10.1016/0021-9290(88)90282-5. PubMed: 3182877
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- Novak AC, Brouwer B. Sagittal and frontal lower limb joint moments during stair ascent and descent in young and older adults. Gait Posture. 2011;33(1):54-60. doi: 10.1016/j.gaitpost.2010.09.024. PubMed: 21036615
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- Novak AC, Brouwer B. Kinematic and kinetic evaluation of the stance phase of stair ambulation in persons with stroke and healthy adults: a pilot study. J Appl Biomech. 2013;29(4):443-452. doi: 10.1123/jab.29.4.443. PubMed: 22927500
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

