立ち上がり評価の使い分け| 5 回法・ 30 秒法と記録

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立ち上がり評価の実践ガイド| 5 回法・ 30 秒法の使い分けと記録

立ち上がり評価は、下肢機能だけでなく、反動・体幹前傾・上肢支持などの代償戦略を同時に拾える点が強みです。転倒予防では、歩行前の “入口動作” を整えることで、病棟・外来・在宅の安全性を高めやすくなります。

本記事では、 5 回法( 5xSTS )と 30 秒法( 30sCST / CS-30 )の使い分け、条件固定、観察ポイント、記録テンプレを “そのまま運用できる形” で整理します。評価全体の流れを先に確認したい場合は、転倒リスク評価の最小セットも参考になります。

どのテストを選ぶ? 5 回法と 30 秒法の使い分け

結論はシンプルで、短時間で速度・下肢パワーを見たいなら 5 回法、反復耐久や後半失速を見たいなら 30 秒法が基本です。目的で使い分けると、観察ポイントと介入方針が整理しやすくなります。

同一患者の経時変化を追う場合は、途中でテストを切り替えず、同じ条件で繰り返すことを優先します。

立ち上がり評価の選択早見(成人〜高齢者|目的別の使い分け)
観点 5 回法( 5xSTS ) 30 秒法( 30sCST ) 実務の使い方
主な目的 立ち上がり速度・下肢パワーの把握 反復耐久・ペース維持の把握 初回は目的を先に決める
結果の形 所要時間(秒) 反復回数(回) 部署内で記録様式を統一
向くケース 瞬発的に崩れる例、立ち上がりが重い例 後半で崩れる例、息切れや疲労が課題の例 転倒歴・訴えに合わせて選択
注意点 開始合図・終了定義のズレで誤差が出る 反復ルールの解釈差で誤差が出る 口頭指示を定型化する
立ち上がり評価は目的で選ぶ|5回法と30秒法の使い分け比較図
5 回法と 30 秒法は「何を見たいか」で使い分ける

実施前に固定する条件(再現性の要)

立ち上がり評価は、椅子条件や腕の使用ルールが揺れると数値の解釈が崩れます。評価そのものより、前提条件の標準化が成否を分けます。

特に、椅子高さ・足位置・腕の扱い・試行回数を固定し、カルテに残す運用を徹底すると、担当交代時のブレを最小化できます。

立ち上がり評価の標準化チェック(固定したい条件)
固定項目 推奨ルール 揺れると起きること 記録に残す内容
椅子高さ 同一椅子・同一高さ(目安 43〜45 cm ) 下肢負荷が変わり比較不能になる 高さ、背もたれ・肘掛け有無
足位置 左右差が出ない位置で統一 前後差で有利不利が出る 足部の基準位置
腕の使用 原則は胸前交差(必要時は使用可を明記) 上肢代償で結果が過小評価される 腕使用の可否と理由
試行回数 練習 1 回+本試行 1 回などで固定 学習効果の混入 練習有無、本試行回数

実施手順(短時間で回せる最小プロトコル)

測定誤差の多くは、能力差ではなく指示・開始/終了定義・休息のブレで起きます。部署で言い回しと判定を固定すると、担当者が変わっても再評価が安定します。

まずは下の手順を “そのまま” 使い、例外(腕使用、見守りレベルなど)は記録欄で吸収する設計にすると回しやすくなります。

立ち上がり評価の最小手順( 5 回法 / 30 秒法 共通の型)
段階 やること 揺れやすい点 固定フレーズ例
準備 椅子高さ・足位置・腕ルールを決める 椅子/肘掛けの違い 「今日は椅子 ○○ cm、腕は ○○ で行きます」
安全 めまい、疼痛、強い息切れ、ふらつきを確認 中止基準が曖昧 「途中でふらつき・痛み増悪があれば止めます」
開始 合図で開始し、立ち座りを反復 開始タイミングのズレ 「よーい、始め」で開始(検者も同時に計測)
判定 5 回法=5 回目に直立で終了/30 秒法=回数を数える 終了定義のズレ 「背中が伸びて立てたら 1 回」など部署で統一
休息 必要に応じて休息と再測定ルールを固定 疲労で比較不能 「練習 1 回、本番 1 回」などを記録とセットに

時間・回数だけで終わらせない:観察ポイント

立ち上がり評価の価値は、秒数や回数に加えて、どうやって立ったかを観察できる点にあります。同じ成績でも、代償が強いケースは転倒リスクが残りやすくなります。

観察項目を固定して言語化すれば、介入選択(筋力・疼痛管理・動作学習・環境調整)が早くなります。

観察ポイント早見(立ち上がり動作の質を拾う)
観察項目 よくある所見 示唆 次に足す評価(例)
反動 勢いをつけないと離殿できない 下肢パワー不足・恐怖回避 下肢筋力、転倒恐怖感
体幹前傾 過度前傾で立ち上がる 股関節戦略の偏り・膝伸展不足 ROM、体幹・股関節機能
膝アライメント 内側偏位/外側偏位が増える 筋出力バランス不良・疼痛回避 疼痛、下肢アライメント評価
上肢支持 手すり/大腿支持に依存 下肢単独では負荷に耐えにくい 支持条件別で再評価
後半失速 30 秒法で後半に回数低下 耐久低下・ペース配分課題 息切れ尺度、運動耐容能

異常所見が出たときの追加評価(原因別に分岐)

立ち上がりで異常が見えたら、評価を無制限に増やすのではなく、崩れ方に合わせて追加します。原因が絞れるほど、介入が短時間で当たりやすくなります。

分岐は「筋力」「疼痛・ROM」「耐久」「心理(恐怖)」の 4 方向で整理すると実装しやすいです。

追加評価の分岐(立ち上がり所見から逆算する)
所見 疑う要因 追加評価(例) 初期介入(例)
離殿に時間がかかる 下肢パワー不足 下肢筋力、速度要素の動作評価 座面調整、分割練習、反復課題
立位直後に不安定 姿勢制御・支持基底面 静的バランス、足部接地評価 足位置再学習、立位保持訓練
痛みで反復困難 疼痛・可動域制限 疼痛評価、関節 ROM 疼痛調整、可動域改善、課題量調整
後半に著明な失速 耐久低下・ペーシング不良 息切れ尺度、運動耐容能評価 休息設計、漸増負荷、ペーシング指導
立位化はできるが 1〜2 歩目で崩れる 方向転換・移行動作の不安定 TUG など方向転換を含む歩行課題 立位保持 → 1 歩目練習、方向転換の分割練習

現場の詰まりどころ:よくある失敗( OK / NG 早見)

詰まりやすい点は「条件が揃っていない」「結果だけで解釈する」「記録が再現不能」の 3 つです。先に運用ルールを決めるだけで、再評価の質が上がります。

よくある失敗( OK / NG )と修正ポイント(立ち上がり評価)
論点 NG OK 理由 修正ポイント
椅子条件 高さが毎回違う 同一椅子で固定 下肢負荷が変わる 高さを記録欄に固定項目化
腕の扱い 日によって腕使用が混在 原則固定し例外時は明記 代償の混入で比較不能になる 「腕使用の可否」を必須記載
観察 秒数/回数だけ記録 代償(反動・前傾・膝)も記録 介入方針が立てにくい 観察語彙を部署で統一
安全管理 中止基準が曖昧 めまい・疼痛増悪などを明確化 有害事象リスクが上がる 実施前チェックを定型化

評価・記録の型をチームで整えたい方へ

ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。

PT キャリアガイドを見る

記録テンプレ(カルテにそのまま書ける)

実務では、結果+条件+代償を 1 行で残すと再評価が安定します。担当交代時にも解釈が一致しやすく、介入効果を共有しやすくなります。

以下をそのまま施設様式に移植して使えます。

記録テンプレ(立ち上がり評価| 1 行で再現できる書き方)
項目 記録例 補足
5 回法 17.2 秒/椅子 45 cm/腕交差/反動あり/3 回目以降で膝内側偏位 条件(椅子・腕)を毎回固定
30 秒法 9 回/前半 5 回・後半 4 回/後半で息切れ増悪 前後半の変化も残す
安全情報 見守り下で実施/疼痛 NRS 3 → 4/中止基準該当なし 再評価時の安全設計に活用

立ち上がり評価 記録シート PDF

評価条件・結果・代償動作・再評価メモを 1 枚で残せる記録シートです。印刷して使う場合は、椅子高さ・腕の使用・見守り条件を毎回同じ欄に残すと、再評価時の比較がしやすくなります。

A4 記録シートを開く

5 回法・30 秒法の結果、条件、観察所見をまとめて記録できます。

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よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

5 回法と 30 秒法はどちらを先に使うべきですか?

目的優先で選びます。瞬間的な立ち上がり負荷を見たいなら 5 回法、反復耐久や後半失速を見たいなら 30 秒法が向きます。経時比較では同じテストを同条件で続けることが重要です。

腕を使ってしまう患者は測定不能ですか?

測定は可能です。腕使用を許可した条件として明記し、次回も同条件で再評価します。無理に腕使用を禁止して安全性を下げないことが大切です。

椅子高さが統一できない現場ではどうすればよいですか?

完全統一が難しい場合でも、椅子高さと肘掛け有無を必ず記録してください。比較は同条件同士で行い、条件差があるデータは別枠で扱います。

時間/回数は改善したのに転倒不安が残ります。何を追加で見るべきですか?

代償(反動・過度前傾・膝偏位)や立位直後の不安定性を確認します。必要に応じて静的バランス、歩行の方向転換、恐怖感評価を追加すると原因が絞れます。

練習試行は入れたほうが良いですか?

入れるほうが測定誤差を減らせます。実務では「練習 1 回+本試行 1 回」を先に固定し、毎回同じ運用で比較するのがおすすめです。練習で疲労が強い場合は、練習を省略する代わりに「練習なし」と記録し、次回も同条件で再評価します。

次の一手


参考文献

  1. Csuka M, McCarty DJ. Simple method for measurement of lower extremity muscle strength. Am J Med. 1985;78(1):77-81. PMID:3964400
  2. Jones CJ, Rikli RE, Beam WC. A 30-s chair-stand test as a measure of lower body strength in community-residing older adults. Res Q Exerc Sport. 1999;70(2):113-119. PMID:10380242
  3. Bohannon RW. Sit-to-stand test for measuring performance of lower extremity muscles. Percept Mot Skills. 1995;80(1):163-166. PMID:7624028
  4. Lord SR, Murray SM, Chapman K, et al. Sit-to-stand performance depends on sensation, speed, balance, and psychological status in addition to strength in older people. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2002;57(8):M539-M543. PMID:12145369
  5. Yamada T, Demura S. The relationship of force output characteristics during a sit-to-stand movement with lower limb muscle mass and knee extension strength in the elderly. Arch Gerontol Geriatr. 2009;50(3):e46-e50. PMID:19573978

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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