記憶障害ドリル|OTの課題選択・記憶補助具・再評価

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記憶障害ドリルは「生活で何を忘れるか」から介入方法を選びます

記憶障害へのリハビリでは、机上ドリルの正答率を上げることだけが目的ではありません。OTが最初に確認したいのは、予定、持ち物、伝達内容、服薬、作業手順など、生活のどこで「覚えられない・思い出せない」が生じているかです。そのうえで課題中の反応を確認し、内的記憶方略、外的記憶補助具、エラーレス学習、間隔を空けた想起練習などから介入を選びます。

本記事では、記銘・保持・想起を観察の整理として使いながら、記憶障害への課題選択からADL・IADLでの再評価までを解説します。固定した進級基準ではなく、本人の生活上の目標と反応に合わせて調整することが基本です。

記憶障害ドリルで生活上の困りごとを確認し、課題中の反応から介入方法を選び、ADL・IADLで再評価する流れ
記憶障害への介入は、ドリルの正答率だけでなく、生活上の困りごとから介入方法を選び、ADL・IADLで効果を確認します。

最初に確認するのは「何を忘れて困っているか」です

記憶障害への介入は、検査やドリルの成績だけでなく、実際の生活で困っている場面から目標を決めます。同じ「忘れる」という訴えでも、予定を忘れる場合と、新しい作業手順を覚えられない場合では必要な支援が異なります。

生活上の困りごとから考える記憶障害への介入
生活上の困りごと まず確認すること 介入を考える視点
予定を忘れる 予定を覚えられるか、時間になったとき思い出せるか カレンダー、手帳、アラーム、スマートフォンなどの外的記憶補助具
伝えられた内容を忘れる 提示直後から抜けるか、時間が経つと抜けるか 情報量の調整、意味づけ、復唱、メモなど
新しい作業手順を覚えられない どの工程で誤り、修正後に定着するか 手順の外在化、誤反応を抑えた学習、反復練習
物の置き場所を忘れる 置いたこと自体を忘れるか、場所を思い出せないか 定位置化、視覚的な手がかり、環境調整
覚えた内容を後から思い出せない 手がかりや再認で反応が変わるか 内的方略、外的補助、想起練習の使い分け

ドリルを行う場合も、「5語を覚える」といった課題成績だけで終わらせず、最終的には本人に必要な生活行為へ結びついているかを確認します。

記銘・保持・想起は「障害を決める分類」ではなく反応を整理する視点として使います

記銘・保持・想起は、課題中のどこで困難が生じるかを整理するうえで有用です。ただし、提示直後の失敗だけで「記銘障害」、手がかりによる改善だけで「想起障害」と決めるのではなく、注意、言語理解、遂行機能、疲労、環境条件なども合わせて確認します。

記憶課題で確認する反応と次に見ること
確認する場面 観察する反応 次に確認すること
提示直後 情報を取り込めているか、抜けや入れ替わりがあるか 注意、理解、情報量、提示方法の影響
時間を空けた後 時間経過によって再生がどの程度変化するか 遅延時間、干渉、学習時の定着状況
手がかり提示後 意味・選択肢・環境手がかりなどで反応が変わるか どの手がかりなら実生活でも使用できるか
再認 自由に思い出せなくても選択肢から確認できるか 自由再生との差と生活場面で利用できる支援

たとえば提示直後から内容が抜ける場合でも、背景に注意の持続困難や言語理解の問題があれば、記憶課題だけを繰り返しても改善につながりにくいことがあります。「どこで失敗したか」と「なぜ失敗した可能性があるか」を分けて考えることが重要です。

介入は内的方略・外的記憶補助具・学習方法から選びます

記憶障害への介入方法は一律ではありません。本人が方略を自分で使えるか、生活場面で必要な行動は何か、障害の程度や病態はどうかを踏まえて選択します。複数の方法を組み合わせることもあります。

記憶障害への主な介入方法と使い分け
介入方法 向いている場面 確認するポイント
内的記憶方略 本人が意識して方略を使い、情報を覚えることが可能な場合 方略を自発的に選び、生活場面でも再現できるか
外的記憶補助具 予定、伝達、服薬、持ち物など日常の忘れを補いたい場合 必要な場面で補助具を確認し、行動までつなげられるか
エラーレス学習 新しい情報や手順を学ぶ際に誤反応の反復を避けたい場合 支援下で成功した内容が、支援を調整しても維持されるか
間隔を空けた想起練習 特定の情報や行動を時間を空けながら想起する練習を行う場合 想起できる時間だけでなく、目標とする行動へつながるか

内的記憶方略|本人が自分で使える方法を選ぶ

内的記憶方略には、意味づけ、関連づけ、カテゴリー化、イメージ化、言語的な反復などがあります。重要なのは、多くの方法を教えることではなく、本人が実際に使える方法を選ぶことです。

机上課題で方略を使えた場合は、「病棟で聞いた予定を覚える」「買い物で必要な物を覚える」など、本人に必要な場面へ条件を近づけて確認します。方略を説明できても実際の場面で使わなければ、生活上の効果は限定的です。

外的記憶補助具|必要な場面で情報を確認できる環境を作る

外的記憶補助具には、メモ、ノート、カレンダー、予定表、チェックリスト、表示物、アラーム、スマートフォンのリマインダーなどがあります。記憶機能そのものだけに頼らず、環境側に情報を残して行動を支える方法です。

INCOG 2.0では、中等度〜重度外傷性脳損傷後の記憶障害に対して外的代償方略が重視され、電子的リマインダーなども選択肢とされています。ただし、すべての記憶障害へ同じ方法を適用するのではなく、本人が操作できるか、必要なタイミングで確認できるか、確認後に行動へ移せるかまで評価します。

エラーレス学習|誤った反応を繰り返さず正しい行動を学ぶ

エラーレス学習は、間違いを何度も経験させて修正を待つのではなく、正しい反応が得られるよう十分な手がかりや提示を行いながら学習を進める方法です。新しい手順や特定の情報を学習するときに選択肢となります。

「想起障害だからエラーレス学習」と機械的に当てはめるのではなく、何を学習する必要があるか、その学習が生活上どのような行動につながるかを先に決めます。支援量を調整する際も、固定した正答率ではなく、目的とする課題を安定して遂行できるかを確認します。

間隔を空けた想起練習|覚える内容を生活目標へ結びつける

間隔を空けた想起練習(spaced retrieval)は、特定の情報や行動を思い出す練習を、想起できる範囲で時間を空けながら繰り返す方法です。失敗した場合は無理に時間を延ばさず、成功しやすい条件へ戻して再度確認します。

認知症を対象としたレビューでは、新しい情報や行動方略の学習への活用が報告されています。一方で、文献によって対象疾患や方法は異なります。外傷性脳損傷、脳卒中、認知症などへ一律のプロトコルとして適用せず、疾患特性と本人の生活目標を踏まえて使用します。

ドリルの効果はADL・IADLへ戻して確認します

記憶ドリルで正答率が上がっても、それだけで生活上の記憶障害が改善したとは判断できません。介入前に設定した生活目標へ戻り、「実際に必要な行動が変化したか」を確認します。

記憶障害の介入効果を生活場面で確認する例
介入目標 課題中の確認 生活場面での確認
予定を忘れない 予定表やスマートフォンを確認できる 必要な時間に自分で予定を確認し行動できる
服薬を忘れない チェック表やアラームを使用できる 実際の服薬場面で確認行動が成立する
作業手順を覚える 手順表を見ながら順序どおり実施できる 必要な環境で同じ手順を再現できる
伝達内容を残す 聞いた内容をメモできる 後からメモを見て必要な行動へつなげられる

補助具を「使えたか」だけでなく、必要場面で自発的に使ったか、使った結果として目的の行動が成立したかまで見ることがOTの再評価では重要です。

記録は「何をしたか」より介入選択と反応が分かる形にします

記憶障害の記録では、ドリル名や正答数だけを残すのではなく、なぜその方法を選び、どの支援で反応が変化し、生活場面で何を確認するのかが分かるようにします。項目数を固定する必要はありませんが、再評価できる情報をそろえておくと担当者間で共有しやすくなります。

記憶障害の介入記録で残したい情報
記録項目 記載する内容 再評価の視点
生活上の課題 予定忘れ、伝達忘れ、作業手順の忘れなど 本人にとって必要な行動が変化したか
課題中の反応 提示直後、遅延後、手がかり後などの反応 どの条件で成功・失敗が生じるか
使用した方略 内的方略、外的補助具、学習方法など 本人が継続して利用できるか
支援量 声かけ、提示、操作介助、環境設定など 支援を変えたときに反応がどう変わるか
生活場面での結果 予定確認、服薬、作業、伝達などの実施状況 課題成績が生活行為へつながっているか

記録例:「病棟予定を忘れる場面あり。予定表を用いて確認練習を実施。予定表の場所を示す声かけで確認可能。午後は予定時刻前に自ら予定表を確認し移動できた。次回は声かけ頻度を減らした条件で自発的な確認行動を再評価する。」

うまくいかないときは記憶課題だけを難しくしないことが重要です

同じ課題を繰り返しても改善しない場合は、難易度を上げ下げする前に、失敗へ影響している条件を見直します。記憶以外の要因が強ければ、ドリルの成績だけを追っても介入方針が定まりません。

  • 注意:情報を提示している時点で注意が外れていないか
  • 言語理解:課題の指示や提示内容そのものを理解できているか
  • 遂行機能:覚えていても開始・順序・修正でつまずいていないか
  • 環境:刺激量、提示場所、補助具の置き場所が適切か
  • 身体・全身状態:疲労、睡眠、疼痛などで課題への参加状況が変化していないか
  • 支援方法:本人が使えない方法を繰り返し練習していないか

「覚えていない」のか、「覚えていても計画・実行できない」のかで迷う場合は、記憶障害と遂行機能障害の違いで生活場面と課題中の反応を比較してください。

根拠は対象疾患と介入目的を確認して使います

記憶リハビリテーションの研究は、対象疾患によって根拠となる文献が異なります。INCOG 2.0の記憶リハビリテーション推奨は主に中等度〜重度外傷性脳損傷を対象としており、Ciceroneらのレビューは外傷性脳損傷と脳卒中、間隔を空けた想起練習のレビューは認知症を対象としています。

そのため、本記事で示した方法をすべての記憶障害へ同じ条件で適用するのではなく、原疾患、障害の程度、認知機能、本人の目標、生活環境に合わせて選択してください。ドリルは介入手段の1つであり、補償手段や環境調整を含めて生活機能の改善を目指します。

次の一手|全体像と似た症状の見分け方を確認する

記憶障害への介入方針が整理できたら、高次脳機能障害全体の中で必要な評価・課題へつなげます。記憶以外の症状も重なっている場合は、症状別の記事を選び直すことが重要です。

参考文献

  1. Velikonja D, Ponsford J, Janzen S, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83-102. doi:10.1097/HTR.0000000000000837
  2. Cicerone KD, Goldin Y, Ganci K, et al. Evidence-Based Cognitive Rehabilitation: Systematic Review of the Literature From 2009 Through 2014. Arch Phys Med Rehabil. 2019;100(8):1515-1533. doi:10.1016/j.apmr.2019.02.011
  3. Creighton AS, van der Ploeg ES, O’Connor DW. A literature review of spaced-retrieval interventions: a direct memory intervention for people with dementia. Int Psychogeriatr. 2013;25(11):1743-1763. doi:10.1017/S1041610213001233

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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