リハ中に血圧が下がったら?PTの初期対応と再開判断

臨床手技・プロトコル
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結論|リハ中の血圧低下は「数値だけ」で続行可否を決めない

リハビリ中に血圧(BP)が低下したときは、「何mmHgなら中止」と1つの数値だけで判断しません。まず運動・離床負荷を中断して安全を確保し、意識、めまい・失神前症状、胸部症状、呼吸状態などを確認します。そのうえでBP・HRなどを再評価し、開始前値、普段値、体位、症状、回復経過を合わせて報告・相談、再開判断へつなげます。

特に新人PTが混同しやすいのが、起立性低血圧の「20/10mmHg低下」という判定基準と、リハビリの中止基準は同じではないという点です。本記事では、血圧が下がったその場で「何を止め、何を確認し、いつ相談するか」に絞って整理します。

リハ中に血圧が下がったときの初期対応フロー。運動・離床負荷の中断、安全確保、症状・意識・呼吸の確認、BP・HRの再評価、開始前値・普段値・体位との照合、報告・相談、再開可否判断の順に示す
図1.リハ中に血圧が下がったときの初期対応。数値だけで続行可否を決めず、患者状態と経時変化を確認します。

血圧低下を認めた直後の基本

  1. 運動・離床負荷を中断する
  2. 転倒を防ぎ、安全な姿勢を確保する
  3. 症状・意識・呼吸を確認する
  4. BP・HRなどを再評価する
  5. 開始前値・普段値・体位との関係を確認する
  6. 必要に応じて報告・相談する
  7. 患者状態を踏まえて再開可否を判断する

20/10mmHgと90mmHgの違い|同じ「血圧低下」でも意味が異なる

血圧低下を安全管理へつなげるには、起立性低血圧の判定基準、重症患者の中止基準案、患者個別の急な血圧低下を分けて考えることが重要です。

血圧低下で混同しやすい3つの考え方
基準・変化 何を示すか リハでの扱い
起立後3分以内にSBP 20mmHg以上またはDBP 10mmHg以上低下 起立性低血圧(OH)の判定に用いる基準 その数値だけでリハ中止・終了を決めない。症状、HR、回復、再現性を合わせて確認する
sBP 90mmHg未満、MAP 60mmHg未満 J-ReCIP 2023で示された重症患者の離床・運動療法の中止基準案 重症患者を対象とした参考値であり、一般病棟の全患者へ一律適用しない
開始前・普段値からの著しい血圧低下 その患者に生じた急な循環変化 基準値内でも一度負荷を中断し、症状、測定条件、回復経過を確認する

つまり、「SBPが90mmHg以上なら必ず続けられる」「起立でSBPが20mmHg下がったら必ずその日のリハを終了する」という使い方はしません。数値は患者状態を整理する材料の1つとして使います。

なお、J-ReCIP 2023の数値は重症患者における離床・運動療法の中止基準案です。同ガイドラインでは、基準値に該当しなくても血圧が著しく低下・上昇した場合には、離床・運動療法を一時中断し、医師への相談を検討する考え方が示されています。一般病棟では、疾患、普段の血圧、主治医指示、院内基準などを含めて個別に判断します。

血圧が下がった直後|中断→安全確保→患者確認の順で動く

低血圧に気づいた直後は、原因を推測することより患者を安全な状態にすることを優先します。立位や歩行を続けたまま血圧計の値だけを追わないようにします。

  1. 運動・離床負荷を中断する:歩行や立位を止め、転倒・転落を防ぎます。
  2. 安全な姿勢を確保する:必要な支持を増やし、患者の症状や呼吸状態に応じて座位・臥位など安全な姿勢へ移します。
  3. 患者の状態を見る:意識、めまい、眼前暗黒感、冷汗、顔面蒼白、悪心、胸部症状、呼吸苦、脱力などを確認します。
  4. バイタルを再評価する:BP、HR・脈拍を中心に、必要に応じてSpO2、呼吸数、モニター所見などを確認します。
  5. 発生前後を比較する:開始前値、普段値、直前の体位・負荷、症状と数値の回復を確認します。

意識低下、失神、胸部症状、強い呼吸困難などを伴う場合は、「もう一回血圧を測ってから報告する」と対応を遅らせず、施設の急変対応手順に従ってください。

血圧値より先に確認したい症状|危険な状態変化を見逃さない

血圧低下時は、BPの数字だけでなく何を伴っているかを確認します。数値が普段と大きく変わっていなくても、新しい症状が出現している場合は負荷を続けない判断が必要になります。

血圧低下時に確認したい症状と所見
確認項目 見逃したくない変化 次の対応
意識・神経 反応低下、失神、もうろう、急な脱力 負荷を中止し、安全確保と報告・急変対応を優先する
起立不耐症状 めまい、眼前暗黒感、ふらつき、悪心、冷汗 姿勢を戻し、症状とBP・HRの回復を確認する
循環 胸部不快感、胸痛、強い動悸、脈拍の著しい変化 中断し、必要な医療評価へつなげる
呼吸 新規・増悪する呼吸苦、会話困難、チアノーゼなど 呼吸状態も含めて再評価し、報告・相談する
外観 顔面蒼白、著しい冷汗、苦悶表情 BPだけで軽症と判断せず、患者状態を再評価する

再測定|「最低2回」と固定せず、測定条件と経時変化を見る

患者の状態が安定していれば、測定条件を確認してBPを再測定します。ただし、すべての症例で「最低2回」「1〜2分後、3〜4分後」と固定する必要はありません。何を確認したいのかと患者状態に応じて再測定します。

血圧値は、カフサイズ、測定肢、腕の高さ、姿勢、体動、会話などの影響を受けます。数値と患者の様子が一致しない場合は、測定条件を確認してから解釈します。平時の測定方法はリハ前後の血圧チェック手順で詳しく整理しています。

血圧低下後の再評価で確認する項目
確認項目 見るポイント 残したい情報
発生場面 何をしていたときに下がったか 体位、歩行・運動内容、発生時刻
BP 開始前値からの変化と回復 開始前、低下時、回復後の値と体位
HR・脈拍 頻脈、徐脈、不規則性、BPとの組み合わせ HR・脈拍と経時変化
症状 出現、増悪、軽減、消失 症状の内容と回復までの経過
測定条件 前後値を比較できる条件か 姿勢、測定肢、必要に応じて使用機器など

起立時に下がった場合|20/10mmHgは「中止基準」ではなくOHの判定基準

臥位から座位・立位へ体位を変えたあとに血圧が低下した場合は、起立性低血圧や起立不耐との関連を考えます。

一般的な起立性低血圧は、立位後3分以内にSBPが20mmHg以上、またはDBPが10mmHg以上持続して低下することで定義されます。ただし、この20/10mmHgは起立性低血圧を評価する基準であり、リハビリの中止・終了を自動的に決める値ではありません。

例えば同じSBP 20mmHg低下でも、無症状で安定している場合と、強いめまい・冷汗・支持量増加を伴う場合では臨床的な意味が異なります。BPだけでなく、HR、症状、体位保持能力、回復、同じ反応が繰り返されるかを確認します。

起立試験の測定条件やOHの評価を詳しく確認したい場合は、起立性低血圧の評価と対応を参照してください。

安全確保後に確認すること|「測定・体位・全身状態」に分ける

患者が安全な状態になった後は、低血圧の背景を整理します。PTがその場で原因を確定することが目的ではなく、何が起きたかを医学的評価につながる形でそろえることが重要です。

血圧低下後に追加確認する情報
方向 確認する情報 確認する理由
測定 カフ、測定肢、腕位置、体動、姿勢、機器、不整な脈拍 測定条件による値のずれがないか確認する
体位・運動負荷 座位・立位後の時間、歩行距離、運動内容、介助量 血圧低下と姿勢・負荷との時間的関係を確認する
体液量に関わる情報 食事・水分摂取、発熱、嘔吐・下痢、排泄、出血など 脱水や循環血液量低下につながる変化を共有する
薬剤・治療 降圧薬、利尿薬などの変更、点滴、治療内容 血圧変化と治療との関連を医療チームで検討する材料にする
全身状態 発熱、感染兆候、疼痛、胸部症状、呼吸苦、意識変化など 低血圧単独では説明できない状態変化を見逃さない

報告|「BPが低い」ではなく発生条件と回復経過まで伝える

報告では単一のBP値だけでなく、開始前の状態、何をしていたときに低下したか、どのような症状を伴ったか、その後どう変化したかをそろえます。

血圧低下時のSBAR報告例
項目 伝える内容の例
S:Situation 「歩行中に血圧低下とめまいがあり、離床を中断しました。」
B:Background 「開始前BPは○○/○○mmHgで、○分間の立位・歩行後に症状が出ています。」
A:Assessment 「中断後はBP○○/○○mmHg、HR○○回/分で、症状は消失/持続しています。」
R:Recommendation 「本日の離床再開可否と、追加評価の必要性を確認したいです。」

SBARの文言そのものを固定する必要はありません。次の担当者が「何が起きたか」「現在どうなっているか」「何を判断する必要があるか」を把握できる情報をそろえることが目的です。

再開判断|症状が消えただけで通常メニューへ戻さない

血圧低下後の再開は、症状消失だけでは決めません。血圧・HRの経過、開始前状態への回復、新しい危険症状の有無、再発の可能性、主治医指示や院内基準を確認します。

血圧低下後の再開前に確認するポイント
確認項目 再開を検討する際に確認すること 再開せず相談を優先する方向
症状 めまい・冷汗などが消失または明確に軽減しているか 失神前症状、胸部症状、呼吸苦、意識変化などが残る
BP・HR 患者の開始前・普段の状態へ向かっているか 低値が持続する、さらに悪化する、著しい脈拍変化を伴う
再発 低下した体位・負荷と症状の関係を整理できているか 同じ反応を繰り返す、原因不明のまま再発する
チーム方針 施設基準・主治医指示・当日の方針と矛盾しないか 追加の医学的評価や治療変更が必要と考えられる

再開可能と判断された場合も、「通常/軽負荷/延期」という固定3区分へ当てはめる必要はありません。血圧低下が生じた条件を踏まえ、その患者で安全性を確認できる体位・活動レベルから反応を再評価します。

記録例|開始前→低下時→回復後→共有内容を残す

記録では、血圧値だけでなく「何をしていたときに下がったか」「症状を伴ったか」「どのように回復したか」を残します。

記録例:開始前BP 118/68mmHg、HR 76回/分。立位後にめまい・冷汗を認め、BP 92/58mmHg、HR 98回/分。立位を中断して安全な姿勢へ移し再評価。BP 108/64mmHg、HR 84回/分まで回復し症状消失。看護師へ発生状況と回復経過を共有し、本日の再離床可否について確認した。

上記の数値は記録方法を示すための例であり、中止・再開の基準値を示すものではありません。

よくある質問

Q1.収縮期血圧が90mmHgを下回ったら、必ずリハを中止しますか?

一律ではありません。J-ReCIP 2023では重症患者の離床・運動療法についてsBP 90mmHg未満が中止基準案に含まれていますが、一般病棟の全患者へそのまま適用する基準ではありません。普段値、症状、変化量、持続性、疾患、主治医指示、院内基準を合わせて判断します。

Q2.起立して収縮期血圧が20mmHg下がったら、その日のリハは終了ですか?

20mmHg低下は起立性低血圧の判定に用いる基準であり、その日のリハを自動的に終了する基準ではありません。症状、HR、回復、立位の安全性、同じ反応が再現されるかを合わせて確認します。

Q3.血圧は何回再測定すればよいですか?

すべての症例で「最低2回」と固定するのではなく、患者状態と確認したい目的に応じて再測定します。状態が安定していれば測定条件を整えて経時変化を確認しますが、意識変化、失神、胸部症状、強い呼吸苦などがある場合は、測定回数をそろえることより急変対応と報告を優先します。

次の一手|低血圧の「初動」と「原因評価」を分けて考える

リハ中に血圧低下を認めた直後は、原因を決めるよりも、中断、安全確保、患者状態の確認、バイタル再評価、共有までを抜けなく行うことが重要です。その後に体位との関係や全身状態を整理し、次回の離床・運動条件につなげます。


参考文献

  1. Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11:47. doi:10.1186/s40560-023-00697-w. 全文
  2. Juraschek SP, Cortez MM, Flack JM, et al. Orthostatic Hypotension in Adults With Hypertension: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2024;81(3):e16-e30. doi:10.1161/HYP.0000000000000236. AHA
  3. Freeman R, Wieling W, Axelrod FB, et al. Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension, neurally mediated syncope and the postural tachycardia syndrome. Clin Auton Res. 2011;21(2):69-72. doi:10.1007/s10286-011-0119-5. PubMed
  4. Muntner P, Shimbo D, Carey RM, et al. Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2019;73(5):e35-e66. doi:10.1161/HYP.0000000000000087. PubMed

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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