半側空間無視( USN )ドリルは「条件固定」で回す
半側空間無視( unilateral spatial neglect: USN )のドリルで大切なのは、課題を増やすことよりも、姿勢・開始位置・探索範囲・手がかりをそろえて比較できる形にすることです。毎回条件が変わると、改善したのか、環境を変えたからできただけなのかが判断しにくくなります。
この記事では、OT が病棟や生活場面で使いやすいように、探索 → 体幹・視線 → 道具操作 → ADLの流れで USN ドリルを整理します。実施・記録シートと課題シート PDF も使いながら、次回の介入につながる記録の型まで確認できます。
この記事で決まること
この記事で決まるのは、USN ドリルを「何となく実施する」状態から、同じ条件で比較し、ADL へ橋渡しする手順です。最小セットは、①姿勢と開始位置を固定する、②難易度は 1 要素だけ変える、③見落とし・再探索・手がかりを記録する、の 3 点です。
USN は注意・遂行機能と重なって崩れ方が変わるため、必要に応じて注意障害ドリルと分けて整理すると、評価と共有がしやすくなります。
USN ドリルの条件固定フロー
以下の図版は、USN ドリルを「条件固定 → 比較 → ADL 一般化」の順で整理した実施フローです。病棟やカンファレンス共有でも使いやすいように、5 ステップでまとめています。

最初にそろえる条件
USN ドリルは、最初に条件をそろえるほど結果を比較しやすくなります。まずは「姿勢」「開始位置」「課題条件」「環境」の 4 つを固定し、次回も同じ条件で再現できる状態を作ります。
| 項目 | 固定のしかた | チェック |
|---|---|---|
| 姿勢 | 骨盤と体幹を正中位に近づけ、座面高と足底接地をそろえる | 骨盤後傾、体幹回旋が強くない |
| 開始位置 | 課題は正面から開始し、開始点を毎回同じにする | 開始位置が毎回同じ |
| 課題条件 | 用紙サイズ、探索範囲、ターゲット数を固定する | 「何個探すか」が固定されている |
| 環境 | テーブル位置、車いす角度、物品配置を固定する | 左側に物が隠れない |
難易度は 1 要素だけ変える
USN ドリルの難易度調整は、複数を同時に変えないことが重要です。探索範囲、ターゲット、手がかり、二重課題のうち、次回に変えるのは 1 要素だけにすると、何が成功・失敗に影響したかを追いやすくなります。
| 要素 | 易しくする | 難しくする | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 探索範囲 | 正中〜軽度左までに狭める | 左端まで広げる | 左端の見落とし |
| ターゲット | 少数・大きい・コントラストを高くする | 多数・小さい・紛らわしい刺激にする | 誤反応と再探索の回数 |
| 手がかり | 左端マーカーや指差し誘導を使う | 手がかりを減らす | 自己修正できるか |
| 二重課題 | 単一課題で実施する | 会話や数えながら実施する | 注意低下で USN が再燃するか |
ドリルメニューは探索から ADL へ広げる
USN ドリルは、机上課題だけで完結させず、生活場面へ広げることで実用性が高まります。探索課題で走査順序を作り、体幹・視線の誘導で左側への向き方を整え、最後に整容・更衣・食事へ橋渡しします。
1) 探索(紙面・机上)
| レベル | 課題 | 条件固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 初級 | ターゲット 10〜20 個を探す | 範囲とターゲット数を固定 | 左端見落とし、再探索回数 |
| 中級 | 紛らわしい刺激の中から指定だけ拾う | 紛らわしさを固定 | 誤反応、自己修正 |
| 上級 | 探索しながら数える、読み上げる | 二重課題の種類を固定 | 注意低下での再燃 |
2) 体幹・視線の誘導
| 課題 | やり方 | 固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 正中リセット | 開始前に「正面を見る → 左端マーカー確認」を行う | 毎回同じ手順で開始 | 開始時の正中ずれ |
| 体幹回旋 | 左側の目標へ体幹ごと向ける | 回旋角度と座位条件 | 左向き保持時間 |
| 視線走査 | 右 → 正中 → 左端の順でなぞる | 走査順序を固定 | 左端到達率 |
3) 道具操作・ADL
| 場面 | 例 | 固定 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 整容 | 鏡で顔の左側を確認する | 鏡の位置と確認順序 | 左側の見落とし |
| 更衣 | 左袖・左裾を触って確認する | 確認順序を固定 | 最終確認の実施有無 |
| 食事 | 皿の左側から 1 口取るルールを作る | 皿・トレーの配置 | 左側残食 |
記録は 5 項目だけ残す
USN ドリルの記録は、長く書くよりも次回の調整が決まる形にすることが重要です。最低限、条件・見落とし・再探索・手がかり・一般化の 5 項目を残すと、次回の難易度調整がしやすくなります。
| 項目 | 書き方 | 次回の打ち手 |
|---|---|---|
| 条件 | 姿勢、開始位置、探索範囲、ターゲット数 | 条件が崩れたらまず修正 |
| 見落とし | 左端の取り残しの有無 | 範囲か手がかりを調整 |
| 再探索 | 再探索の回数( 0 / 1 / 2 回以上 ) | 走査順序を固定 |
| 手がかり | なし / 提示で改善 / 提示しても不可 | 手がかりの量を 1 要素で調整 |
| 一般化 | 整容、更衣、食事での左側確認 | ADL へ橋渡しを追加 |
記録例
記録例:座位正中位、A4 課題シート、ターゲット 20 個、左端 3 個見落とし。左端マーカー提示で再探索 1 回後に修正可。次回は同条件で実施し、手がかりを指差しから視覚マーカーのみに減らして比較する。
USN ドリルの PDF
USN のドリルは、「実施ルールと記録の型」+「課題シート」がそろうと現場で回しやすくなります。以下の PDF を使うと、条件固定と比較をそのまま運用できます。
実施・記録シート( A4・2ページ )
中身をプレビューする
課題シート(刺激)( A4・4ページ )
中身をプレビューする
現場の詰まりどころ
USN ドリルで詰まりやすいのは、課題だけを変えてしまい、開始条件を固定しないことです。まずは姿勢・開始位置・探索範囲をそろえ、「比較できる状態」を作ることを優先します。
また、机上ではできても ADL で崩れる場合は、注意低下、疲労、二重課題、物品配置の影響を確認します。手がかりを増やす前に、座位条件と左側の見える環境をそろえることが優先です。
PT キャリアガイドを見る
よくある失敗と回避策
失敗を減らすコツは、課題を増やす前に「同じ条件で 2 回比較できるか」を確認することです。以下の失敗があると、介入効果よりも条件差の影響が大きくなります。
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 毎回メニューが違う | 比較できない | 同条件で 2 回は固定 | 固定した条件 |
| 手がかりを足しすぎる | 自立度の変化が見えない | 手がかりは 1 要素だけ調整 | 手がかりの有無 |
| 首だけ左に向ける | 生活に一般化しにくい | 体幹ごと正中化・回旋 | 姿勢の崩れ |
| ADL に橋渡ししない | 机上課題で終わる | 整容、更衣、食事の確認ルールへ移す | 左側の取り残し |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. USN ドリルは毎回変えた方がいいですか?
まずは同条件で比較できる状態を作ることが優先です。毎回課題を変えるより、開始条件を固定した方が変化を追いやすくなります。
Q2. ADL へつながりません
机上だけで終わらず、整容・更衣・食事など生活場面へ橋渡しします。確認順序を固定すると一般化しやすくなります。
Q3. 注意低下が強い場合は?
まず単一課題で安定させ、二重課題は後から追加します。注意障害が強い場合は注意障害ドリルと分けて整理します。
Q4. 左を見るように言っても改善しません
言語指示を増やす前に、姿勢と環境を確認します。座位が崩れている、左側の物品が見えにくい、開始位置が毎回違う場合は、指示よりも条件固定を優先します。
Q5. 手がかりはいつ減らしますか?
同じ条件で 2 回以上、左側の見落としが減り、再探索が安定してきたら減らします。指差し、左端マーカー、言語指示などを一度に減らさず、1 要素だけ変更して反応を比較します。
次の一手
参考文献
- Bowen A, Lincoln NB. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2013;CD003586. DOI: 10.1002/14651858.CD003586.pub3 / PubMed: 23813503
- Luauté J, Halligan P, Rode G, Rossetti Y, Boisson D. Visuo-spatial neglect: A systematic review of current interventions and their effectiveness. Neurosci Biobehav Rev. 2006. DOI: 10.1016/j.neubiorev.2006.03.001
- Azouvi P, Jacquin-Courtois S, Luauté J. Rehabilitation of unilateral neglect: Evidence-based medicine. Ann Phys Rehabil Med. 2017. DOI: 10.1016/j.rehab.2016.10.006
- van Wyk A, Eksteen CA, Rheeder P. The effect of visual scanning exercises integrated into physiotherapy in patients with unilateral spatial neglect poststroke: a matched-pair randomized control trial. Neurorehabil Neural Repair. 2014;28(9):856-873. DOI: 10.1177/1545968314526306 / PubMed: 24633138
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

