TKA術後リハビリの進め方|時期別プログラム・評価・歩行練習

臨床手技・プロトコル
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TKA術後リハビリの進め方|評価・運動療法・歩行の判断ポイント

人工膝関節全置換術(TKA)後のリハビリでは、膝関節の屈曲角度だけでなく、伸展ROM、疼痛・腫脹、四頭筋機能、歩行の安定性を確認しながら段階的に進めることが重要です。術後日数は目安になりますが、実際の進行は医学的な安全性、身体機能、運動後の反応によって判断します。

本記事では、TKA術後患者を担当する新人〜中堅理学療法士に向けて、術後早期の安全確認、毎回の評価、疼痛・腫脹管理、時期別の運動療法、歩行・階段練習、退院支援までを整理します。2026年版の理学療法診療ガイドラインを踏まえ、「今日のリハビリを進める・維持する・負荷を下げる・中止して相談する」ための判断ポイントを解説します。

TKA術後リハビリで最初に確認する5項目

TKA術後のリハビリでは、運動メニューを決める前に、安全性、疼痛・腫脹、膝関節ROM、四頭筋機能、移動能力を確認します。特に術後早期は、合併症の徴候を見逃さず、主治医の指示と患者の状態に合わせて離床・運動を進めます。

TKA術後リハビリ開始前に確認する5項目
確認項目 具体的な評価 判断への活用
① 安全性 バイタルサイン、創部、神経血管症状、血栓塞栓症を疑う症状、主治医指示 離床・運動の実施可否を判断する
② 疼痛・腫脹 安静時・運動時痛、膝周囲の腫脹、熱感、運動後の反応 運動強度・回数・歩行量を調整する
③ 膝関節ROM 伸展・屈曲角度、自動・他動ROM、疼痛や抵抗感 可動域練習の重点を決める
④ 四頭筋機能 随意収縮、自動膝伸展、SLR時の伸展ラグ 筋力練習と立脚期の安定性を検討する
⑤ 移動能力 起立、移乗、歩行補助具、膝折れ、歩容、方向転換 離床範囲・歩行練習・補助具を選択する

術後早期は安全性と基本機能を優先し、状態が安定したら歩行速度、階段、生活動作、患者報告アウトカムなどへ評価を広げます。評価項目を増やすことよりも、前回からの変化を確認し、次の介入判断につなげることが重要です。

リハビリを進める・維持する・負荷を下げる判断

TKA術後の運動療法は、術後日数だけで機械的に進めず、実施中の反応と実施後の経過を確認して調整します。疼痛や腫脹が増加した場合は、まず合併症の可能性を評価し、そのうえで負荷調整の可否を判断します。

TKA術後リハビリの判断フロー。安全確認と基本評価を行い、疼痛・腫脹・膝関節ROM・四頭筋機能・歩行の状態から、進行・維持・後退・中止を判断する流れを示した図
TKA術後リハビリの判断フロー。合併症の徴候を確認したうえで、疼痛・腫脹・伸展ROM・四頭筋機能・歩行の変化から当日の運動負荷を検討します。図は臨床判断を整理した独自の実務資料であり、公式ガイドラインの判定基準ではありません。

図版では、まず安全確認を行い、その後に基本評価を実施します。安全性に問題がなければ、前回からの変化と当日の動作を確認し、進行・維持・後退を検討します。合併症が疑われる場合は、負荷調整だけで対応せず、運動を中断して医学的評価につなげます。

以下は、2026年版ガイドラインの考え方を踏まえた独自の実務フローです。公式の進行基準や数値的カットオフではありません。

TKA術後リハビリの進行・維持・後退・中止を判断する実務フロー
判断 観察所見の例 対応例
進行を検討 疼痛・腫脹が安定し、運動後の明らかな増悪がない。膝折れや著明な代償がなく、動作を安全に反復できる。 運動回数、抵抗、歩行距離、課題難易度のいずれかを段階的に増やす。
維持・調整 軽度の疲労や張りがあるが、前回と比べて著明な機能低下や合併症を疑う所見がない。 負荷を据え置き、休息、運動回数、実施時間を調整する。
負荷を下げて再評価 運動後の疼痛・腫脹が持続的に増悪する。膝折れ、代償動作、歩行時の不安定性が増える。 抵抗・可動域・歩行量を減らし、疼痛・腫脹・筋機能・歩容を再評価する。改善しない場合は医師へ相談する。
中止・医療評価 突然の呼吸困難、胸痛、急激な全身状態の変化、感染・血栓塞栓症・神経血管障害を疑う症状がある。 運動を中止し、緊急性に応じて院内緊急対応手順または速やかな医師への報告につなげる。

負荷を上げる場合は、一度に複数の条件を大きく変更しないことが実務上のポイントです。例えば、歩行距離を増やした日は筋力練習の抵抗を据え置くなど、何を変更した結果、どのような反応が生じたかを追えるようにします。

疼痛や腫脹の反応には個人差があります。「翌日まで症状が残ったら必ず中止」といった一律の基準ではなく、術後の通常経過からの逸脱、増悪の程度、随伴症状、機能への影響を含めて判断します。

TKA術後の赤旗|運動を中止して相談する症状

TKA術後は、創部感染、深部静脈血栓症(DVT)、肺血栓塞栓症(PE)、神経血管障害などに注意が必要です。術後の痛みや腫脹は一般的にみられますが、急激な変化や通常経過から外れる症状を単なる運動負荷の問題として扱わないことが重要です。

TKA術後に注意する症状と初期対応
疑う問題 注意する症状 対応
肺血栓塞栓症など 突然の呼吸困難、胸痛、失神、急激な酸素化低下 運動を直ちに中止し、院内緊急対応手順に従う。
深部静脈血栓症 新たな下腿の腫脹、疼痛、左右差、圧痛など 運動を中断し、速やかに医師へ報告して評価を受ける。
創部感染など 創部の発赤・排液の増加、発熱、疼痛の増悪 創部を確認し、医師・外科チームへ相談する。
神経血管障害 新たなしびれ、運動麻痺、足部の冷感・色調変化、強い疼痛 運動を中止し、緊急性を判断して医療評価につなげる。
循環動態の異常 著明な血圧低下、意識状態の変化、強いめまいなど 安全な姿勢を確保し、状態に応じて緊急対応する。

これらの症状だけで合併症を診断することはできません。一方、DVTやPEは典型的な症状がそろわない場合もあるため、疑わしい場合は自己判断で運動を継続せず、施設の医療安全手順に従ってください。

なお、図版の「中止・医師に確認」は安全側に整理した表現です。突然の呼吸困難や胸痛などは緊急対応が必要な一方、創部の変化などは症状の程度と全身状態に応じて速やかに医師へ相談します。すべての症状が同じ緊急度という意味ではありません。

荷重制限、ROM制限、創部管理、装具の使用、離床条件などは、術式や合併症、主治医の方針によって異なります。特に再置換術や複雑な手術を受けた患者では、一般的な初回TKAの進行表をそのまま適用しないことが重要です。

疼痛・腫脹管理|冷却療法と肢位調整の考え方

TKA術後の疼痛・腫脹は、ROM練習、四頭筋の筋活動、歩行練習などに影響します。術後早期は、冷却療法、適切な肢位調整、運動負荷の調整を組み合わせ、症状の変化を確認しながらリハビリを進めます。

2026年版APTAガイドラインでは、術後早期の疼痛管理として冷却療法を推奨しています。また、早期の腫脹管理として、冷却療法と膝関節を30〜90°屈曲させた下肢挙上が推奨されています。いずれも推奨の強さは中等度です。

冷却療法の実施と注意点

冷却療法は、TKA術後早期の疼痛や腫脹を軽減するための選択肢です。アイスパックなどの比較的簡便な方法も利用できますが、特定の冷却機器が他の方法より優れているとは断定できません。

実施前には、皮膚の状態、感覚障害、循環障害、寒冷刺激への耐容性、創部の状態を確認します。冷却中も皮膚の色調、痛み、しびれ、不快感などを観察し、異常があれば中止します。

冷却時間や頻度について、2026年版ガイドラインはすべての患者に共通する最適な条件を示していません。施設の手順、使用機器の添付文書、患者の状態に合わせて設定します。

下肢挙上と膝関節屈曲位

2026年版ガイドラインでは、術後早期の腫脹管理として、術側下肢を挙上し、膝関節を30〜90°屈曲させる肢位が推奨されています。主に術後72時間以内の早期経過で、腫脹や出血量の軽減などが報告されています。

ただし、30〜90°は長時間保持すべき固定角度や、すべての患者に共通する処方ではありません。最適な屈曲角度、実施時間、頻度は確立しておらず、術式や主治医指示、患者の状態を踏まえて判断する必要があります。

また、膝関節屈曲位での肢位調整は、伸展ROMの回復と両立させることが重要です。屈曲位での挙上が伸展ROMに悪影響を及ぼす可能性も考慮し、必要に応じて伸展方向のROM練習や肢位の変更を組み合わせます。

TKA術後の疼痛・腫脹管理で確認したいポイント
対応 目的 注意点
冷却療法 術後早期の疼痛・腫脹の軽減 皮膚・感覚・循環状態を確認し、冷却障害を防ぐ。
下肢挙上 術後早期の腫脹管理 膝屈曲位の長時間固定を避け、伸展ROMへの影響を確認する。
運動負荷の調整 症状の過度な増悪を避けながら活動を継続する 運動量・抵抗・可動域を調整し、反応を再評価する。
医学的評価 通常経過から外れる症状の原因を確認する 感染・血栓塞栓症などが疑われる場合は運動調整だけで対応しない。

疼痛・腫脹管理の目的は、症状を完全になくしてから運動を開始することではありません。医学的な安全性を確認したうえで、ROM練習や筋力強化、歩行練習を継続できる状態を整えることが重要です。

TKA術後で継続的に確認したい評価項目

TKA術後の再評価では、疼痛・腫脹・ROM・筋機能・歩行能力を継続して確認します。単に測定値を並べるのではなく、前回から何が変化し、その変化が次の運動負荷にどう影響するかを記録します。

TKA術後で継続的に確認したい評価と記録方法
評価項目 確認内容 記録・解釈のポイント
疼痛 安静時、ROM練習時、荷重時、運動後の痛み NRSなど同じ方法で経過を追い、増悪場面を確認する。
腫脹 膝周囲の張り、熱感、周径、左右差、増悪傾向 周径は測定位置と肢位を統一する。
創部 発赤、排液、出血、創部周囲の変化 施設の創部管理方針に従い、異常を共有する。
膝関節ROM 伸展・屈曲の自動ROMと他動ROM 測定肢位、疼痛、最終域の状態を合わせて記録する。
四頭筋機能 随意収縮、自動膝伸展、SLR時の伸展ラグ 伸展ラグの有無と動作への影響を確認する。
起立・移乗 介助量、支持物、荷重の左右差、膝折れ 必要な介助条件を具体的に残す。
歩行 補助具、歩行距離、歩容、方向転換、疲労 距離だけでなく安全性と代償動作を記録する。
階段・生活動作 段差、手すり、昇降方法、トイレ・浴室動作 退院後の環境と照合する。
患者報告アウトカム 膝の症状、活動制限、生活上の困りごと 同じ尺度・評価時期で変化を確認する。

伸展ROMと四頭筋機能を分けて評価する

TKA術後では、膝関節の伸展制限と四頭筋の筋活動低下が同時にみられる場合があります。しかし、他動伸展ROMが不足している状態と、他動伸展は可能でも自動伸展を保持できない状態では、優先する介入が異なります。

例えば、他動伸展ROMが確保されているにもかかわらずSLR時に膝が屈曲する場合は、四頭筋の随意収縮や伸展保持能力を確認します。一方、他動伸展そのものが制限されている場合は、疼痛・腫脹・軟部組織の状態などを評価し、適切なROM練習を検討します。

SLR時の伸展ラグは有用な観察項目ですが、それだけで歩行補助具の解除や退院の可否を判断するものではありません。

TKA術後リハビリの時期別プログラム

TKA術後のリハビリは、術後早期から離床・ROM練習・筋活動の回復を進め、徐々に筋力強化、歩行、階段、生活動作へ広げます。ただし、時期別の内容は標準的な目安であり、進行条件を満たしたことを意味するものではありません。

2026年版ガイドラインでは、医学的に安定した患者に対して、術後24時間以内の理学療法開始が推奨されています。実施にあたっては、麻酔後の状態、術式、全身状態、主治医指示などを確認します。

TKA術後の時期別リハビリプログラムと進行判断の目安
時期 主な目標 介入例 進行時の確認
術後0〜7日 安全な離床、疼痛・腫脹への対応、ROM・筋活動の回復 足関節運動、四頭筋セッティング、膝ROM練習、起立・移乗、補助具歩行 全身状態、創部、疼痛、腫脹、伸展ROM、膝折れ
術後1〜4週 ROM改善、筋力強化、歩行の安定化 自動・自動介助ROM、立ち上がり、抵抗運動、歩行練習、条件に応じた階段練習 運動後の反応、筋活動、歩容、補助具の必要性
術後4〜8週 筋力・バランス・生活動作の改善 段差練習、方向転換、バランス課題、歩行距離の延長、生活課題 立脚期の安定性、疲労、疼痛・腫脹の変化
術後8週以降 活動量の回復、生活・社会参加の拡大 継続的な筋力強化、屋外歩行、持久力練習、家庭運動 生活目標、活動耐容能、患者報告アウトカム

上記の時期区分は実務上の整理であり、2026年版ガイドラインが一律に定める進行基準ではありません。患者の回復状況によって、同じ時期でも実施する運動や介助量は異なります。

ROM練習|屈曲だけでなく伸展を評価する

TKA術後のROM練習では、屈曲と伸展の両方を評価し、機能的な動作につながる可動域の回復を目指します。特に伸展不足は立位姿勢や歩行に影響するため、屈曲角度の改善だけで経過を判断しないことが重要です。

伸展ROM練習

伸展ROMの改善には、疼痛・腫脹の状態を確認しながら、膝関節伸展方向への自動運動、自動介助運動、必要に応じた他動運動を組み合わせます。

伸展制限がある場合は、他動ROMの制限なのか、四頭筋の筋活動低下による自動伸展の不足なのかを分けて評価します。強い疼痛を伴う過度な矯正を行うのではなく、患者の反応を確認しながら進めます。

屈曲ROM練習

屈曲ROM練習では、heel slideなどの自動・自動介助運動を活用します。必要に応じて他動運動を組み合わせますが、疼痛や腫脹が強く増悪する場合は、可動域の深さ、反復回数、実施時間を見直します。

屈曲角度は椅子からの立ち上がり、階段、トイレ動作などに関係します。ただし、必要な可動域は動作方法、身体機能、生活環境によって異なります。単一の角度だけで機能回復を判断しないことが重要です。

ROMの目標角度は一律に決めない

術後のROM回復は、術前ROM、術式、疼痛、腫脹、筋機能、合併症などに影響されます。文献で示される平均的な回復経過を、すべての患者に適用する達成基準として扱うことは適切ではありません。

例えば、Mutsuzakiらの研究では、術後の屈曲ROMは経時的に改善し、約3か月以降は大きな変化がみられにくくなる傾向が報告されています。一方、伸展ROMの改善にはより長い期間を要する場合があります。ただし、これは研究対象集団における経過であり、個々の患者に対する固定的な目標や治療期限ではありません。

ROMは同じ測定条件で継続的に評価し、改善傾向と生活動作への影響を確認します。可動域の改善が停滞する場合や、強い疼痛・腫脹を伴う場合は、運動負荷だけでなく医学的要因も含めて再評価します。

四頭筋の再活性化と筋力強化

TKA術後では、四頭筋の筋活動低下や筋力低下が歩行・階段・立ち上がりなどに影響します。そのため、術後早期から筋活動を促し、状態に応じて漸進的な筋力強化へ移行します。

2026年版ガイドラインでは、TKA術後の筋力・機能・ROMの改善を目的とした漸進的筋力強化が強く推奨されています。

TKA術後の四頭筋機能に応じた運動療法の例
状態 運動例 確認ポイント
随意収縮が弱い 四頭筋セッティング、介助下での膝伸展運動 筋収縮の有無、疼痛、代償動作
自動運動が可能 自動膝伸展運動、SLR、軽い抵抗運動 伸展ラグ、運動範囲、疲労
荷重動作が安定 立ち上がり、支持物を用いたスクワット、段差練習 膝折れ、荷重の左右差、疼痛
活動能力が改善 漸進的抵抗運動、階段、歩行・バランス課題 筋力、歩行機能、運動後の反応

運動負荷は、疼痛・腫脹、運動の質、疲労、翌日以降の反応を確認して調整します。筋力強化を進める際も、ROM練習や歩行練習を一律に減らすのではなく、患者の課題に応じて組み合わせます。

NMESの活用

2026年版ガイドラインでは、TKA術後の四頭筋に対する神経筋電気刺激(NMES)が、中等度の強さで推奨されています。特に四頭筋の随意収縮が不十分な患者では、筋力や歩行機能の改善を補助する選択肢になります。

ガイドラインでは、術後早期から開始し、少なくとも毎日、患者が耐えられる最大限の刺激強度で実施することが推奨されています。研究では術後2日目からの開始や、1日1〜2回の実施が検討されています。

ただし、これらはすべての患者に一律に適用する設定ではありません。刺激条件や実施時間は、使用機器、患者の状態、耐容性に応じて調整します。ガイドラインでは少なくとも3週間の継続的な実施が想定されていますが、実施可能性や患者の希望も考慮します。

2026年版ガイドラインでは、デマンド型ペースメーカー使用者、活動性がん、DVTのある患者をNMESの適用除外として挙げています。その他の禁忌・注意事項も機器の添付文書や施設基準に従って確認してください。

NMESは通常の運動療法を置き換えるものではなく、四頭筋の筋活動を促す補助的な介入として位置づけます。

CPMはTKA術後に必要か

持続的他動運動装置(CPM)は、TKA術後のROM改善を目的として使用されてきました。しかし、2026年版ガイドラインでは、合併症のない初回TKA患者に対してCPMを使用しないことが強く推奨されています。

この推奨は、CPMによる短期・長期の明確な臨床的利益が示されていないことに基づきます。また、術後腫脹の軽減を目的としたCPMの通常使用についても、十分な有効性は示されていません。

一方、再置換術や特殊な術後経過などでは、個別の医学的判断が必要です。すべてのTKA患者にCPMが禁忌であるという意味ではありません。

通常の術後リハビリでは、患者自身が参加する自動ROM・自動介助ROM練習を中心に、必要に応じて他動運動を組み合わせます。

歩行補助具と階段練習の進め方

TKA術後の歩行練習では、歩行距離だけでなく、立脚期の安定性、膝伸展、疼痛回避動作、方向転換時の安全性を確認します。補助具を早く外すことよりも、安全で再現性のある歩行を獲得することが重要です。

歩行補助具を減らす判断

歩行器や杖の変更を検討するときは、立脚中の膝折れ、疼痛回避による体幹側屈、方向転換時のふらつき、疲労による歩容の変化などを確認します。

SLR時の伸展ラグが残っている場合も、その程度と立脚期の膝制御を確認します。ただし、伸展ラグの有無だけで補助具の変更を決めることは避けます。

病棟内で歩行が可能でも、屋外や段差、長距離歩行では補助具が必要な場合があります。実際の生活環境に応じて判断することが重要です。

階段練習の判断

階段練習は、平地歩行が安定し、段差昇降に必要な支持能力と安全性が確保できる段階で検討します。手すり、段差の高さ、昇段・降段の方法、介助の必要性を確認します。

特に降段では、膝関節の屈曲制御や四頭筋の遠心性筋活動が求められます。疼痛や不安定性が強い場合は、段差を低くする、支持物を増やす、介助を調整するなどの対応が必要です。

退院支援|歩行距離より生活環境との適合を確認する

TKA術後の退院支援では、膝関節ROMや歩行距離だけでなく、退院後に必要な生活動作を安全に実施できるかを確認します。

TKA術後の退院前に確認したい生活動作
生活場面 確認項目 対応例
屋内移動 歩行補助具、方向転換、狭い通路 自宅環境に合わせた歩行練習
トイレ 便座の高さ、立ち座り、手すり 動作方法や環境調整の検討
玄関・階段 段差、手すり、昇降方法 実際の段差条件に近い練習
入浴 浴室への出入り、浴槽またぎ、創部管理上の制限 主治医指示を確認したうえで動作・環境を調整
屋外活動 歩行距離、路面、疲労、公共交通機関 必要な活動範囲に応じた練習
家庭運動 運動方法、実施環境、症状悪化時の対応 継続可能な運動内容と相談先を共有

退院の可否は、身体機能だけでなく、医学的安定性、生活環境、家族・介護者の支援、利用できるサービスなどを含めて多職種で判断します。

TKA術後リハビリでよくある失敗と回避策

TKA術後のリハビリでは、測定しやすい数値だけを追うと、実際の動作能力や負荷への反応を見落とす場合があります。

TKA術後リハビリで注意したい失敗と対応
よくある失敗 問題点 見直すこと
屈曲ROMだけを追う 伸展不足や筋活動低下を見落とす 伸展ROM、四頭筋機能、歩容を合わせて確認する。
疼痛・腫脹を確認せず負荷を増やす 運動後の症状悪化に気づきにくい 実施前後と翌日以降の反応を確認する。
補助具を早く外す 膝折れや代償歩行の危険がある 立脚期、方向転換、疲労時の安定性を確認する。
術後日数だけで運動を進める 個人差や合併症を考慮できない 医学的状態、機能、運動後の反応で調整する。
退院前の生活評価が不足する 病棟で可能な動作が自宅で再現できない 玄関、階段、トイレ、浴室などの条件を確認する。

TKA術後リハビリの記録例

記録では、実施した運動だけでなく、評価結果、負荷を変更した理由、運動後の反応、次回の方針を残すと再評価につながります。

以下は記載方法を示す架空の例です。実在患者の経過ではありません。

記録例:初回TKA術後5日目

安静時疼痛NRS 2、歩行時NRS 4。創部について新たな異常の報告なし。膝伸展ROM -5°、屈曲ROM 85°。四頭筋の随意収縮は可能だが、SLR時に伸展ラグを認める。

歩行器使用下で病棟内歩行を実施。立脚期に軽度の膝屈曲位がみられるが、膝折れは認めない。歩行後に疼痛の軽度増加を認めたため、歩行量は据え置き、休息を挟んでROM練習と四頭筋運動を実施した。

次回は疼痛・腫脹の経過、伸展ROM、四頭筋機能、歩行時の膝制御を再評価し、歩行量の増加を検討する。

実際の記録では、施設の記録様式、主治医指示、必要なバイタルサイン、介助条件などを追加してください。架空例のROMや疼痛値は、術後5日目の標準値や進行基準を示すものではありません。

TKA術後のPROMは評価目的に合わせて選ぶ

TKA術後の患者報告アウトカム(PROM)は、疼痛、膝の症状、日常生活動作、生活の質などを患者自身の視点から把握するために使用します。ROMや筋力などの身体機能評価と組み合わせることで、患者が実際に感じている困難を確認できます。

TKA術後の評価で候補となるPROM
尺度 主な評価対象 選択の考え方
KOOS 膝の症状、疼痛、ADL、スポーツ・レクリエーション、膝関連QOL 膝の状態を多面的に確認したい場合
WOMAC 疼痛、こわばり、身体機能 OAに関連する症状・機能を確認したい場合
LEFS 下肢全体の活動制限 膝に限定せず下肢機能を確認したい場合

評価尺度を選択する際は、目的、対象患者、評価時期、利用条件、日本語版の妥当性などを確認します。経過を追う場合は、同じ尺度を同じ条件で継続して使用することが基本です。

各尺度の特徴は、運動器PROMハブで整理しています。膝関節の症状を詳しく評価したい場合は、KOOS評価の解説も参考にしてください。

TKA術後リハビリのよくある質問

TKA術後のリハビリはいつから開始しますか?

2026年版ガイドラインでは、術後24時間以内の理学療法開始が推奨されています。ただし、医学的安定性、麻酔後の状態、術式、主治医指示などを確認したうえで実施します。すべての患者に同じ時間での離床を強制するものではありません。

TKA術後の膝関節屈曲は何度を目標にしますか?

目標ROMは術前ROM、術後経過、生活動作、主治医の方針によって異なります。特定の角度だけを一律の達成基準とせず、伸展・屈曲の両方と実際の動作能力を評価します。改善が停滞する場合は疼痛・腫脹や医学的要因を含めて再評価します。

TKA術後にCPMは必要ですか?

2026年版ガイドラインでは、合併症のない初回TKA患者に対してCPMを使用しないことが強く推奨されています。再置換術や特殊な術後経過では個別判断が必要です。

運動後に痛みや腫脹が増えた場合はどうしますか?

まず創部感染や血栓塞栓症などを疑う症状がないか確認します。重大な異常が疑われない場合は、運動回数、抵抗、可動域、歩行量などを調整し、症状の経過を再評価します。急激な悪化や通常経過から外れる変化がある場合は、医師への相談を優先します。

次の一手|TKA術後の評価と運動負荷を見直す

TKA術後のリハビリでは、毎回の評価を増やしすぎるよりも、疼痛・腫脹・伸展ROM・四頭筋機能・歩行の状態を継続して確認することが重要です。

まずは、今回の評価結果から「次回は何を進めるか」「何を維持するか」「どの症状が出たら負荷を下げるか」を明確にしてみてください。

関連する運動療法の考え方を確認したい場合は、変形性膝関節症の運動療法も参考になります。ただし、保存療法とTKA術後では適用条件が異なるため、術後の主治医指示を優先してください。

参考文献

  1. Bove AM, Carroll LA, Cone S, et al. Clinical practice guideline for physical therapist management of total knee arthroplasty: revision 2026. Phys Ther. 2026;106(7):pzag058. DOI
  2. American Physical Therapy Association. Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty: Revision 2026. Published July 27, 2026. 公式ガイドライン
  3. Jette DU, Hunter SJ, Burkett L, et al. Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty. Phys Ther. 2020;100(9):1603-1631. DOI
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Joint replacement (primary): hip, knee and shoulder. NICE guideline NG157. Published June 4, 2020. 公式ページ
  5. Mass General Brigham. Rehabilitation Protocol for Total Knee Arthroplasty (TKA). リハビリテーションプロトコル(PDF)
  6. American Academy of Orthopaedic Surgeons. Total Knee Replacement Exercise Guide. 公式ページ
  7. Mutsuzaki H, Takeuchi R, Mataki Y, Wadano Y. Target range of motion for rehabilitation after total knee arthroplasty. J Rural Med. 2017;12(1):33-37. DOI

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rehabilikun(理学療法士)

2022年4月にrehabilikun blogを開設。医療機関、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの経験をもとに、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に役立つ評価・介入・臨床実務の情報を発信しています。

脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションなどを中心に、臨床での判断や多職種連携に役立つ情報を整理しています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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