認知機能評価の選び方|スクリーニング→重症度→ BPSD を 5 分で整理

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認知機能評価の選び方|スクリーニング → 重症度 → BPSD を 5 分で整理

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認知機能評価は「どれをやればいいか」より先に、いま知りたいこと(目的)実施できる条件(場面)を揃えると迷いが減ります。本記事では、臨床で使いやすい流れとしてスクリーニング → 重症度 → BPSD(行動・心理症状)の順に、選び方と記録のコツを整理します。

ポイントは、短時間テスト(例: MSQ / SPMSQ / MMSE / HDS-R )で「拾う」→ 必要なら CDR で「重症度を揃える」→ 困りごとが強ければ NPI / NPI-NH で「症状を見える化」する、という段階設計です。まずは下の「 5 分フロー」と早見表で全体像を掴んでください。

5 分フロー:まず「目的」と「場面」を決める

  1. 目的を 1 つに絞る(見落とし防止/重症度共有/BPSD 整理/退院支援など)。
  2. 場面を確認する(急性期・回復期・外来・施設/本人回答が可能か/家族・スタッフからの情報が取れるか)。
  3. 短時間のスクリーニングで「低下の可能性」を拾う(同日に無理に詰め込まない)。
  4. 方針決定に必要なら重症度評価( CDR )で共通言語化する。
  5. 介護負担・問題行動が中心ならBPSD( NPI / NPI-NH )で “困りごと” を分解する。

関連:評価スケール全体の導線は 評価ハブ にまとめています。

早見表:目的 × おすすめツール(使い分け)

目的別にみた認知機能評価の選び方(成人・臨床運用の目安)
いま知りたいこと まず使う(短時間) 次に深掘り(必要時) 記録の要点
見落とし防止(入院時・初回) MSQ / SPMSQ / MMSE / HDS-R 原因整理(せん妄・抑うつ・感覚器など) 実施条件(眠気・疼痛・眼鏡/補聴器)と再評価予定
重症度を揃える(チーム共有) スクリーニングで “低下あり” を確認 CDR(+必要なら CDR-SB ) 生活場面の具体例(買い物・服薬・金銭管理)を添える
BPSD の整理(困りごと対応) 観察・聞き取り(誘因と頻度) NPI / NPI-NH 症状名だけでなく “いつ・どこで・何が引き金か”
退院支援・在宅調整 DASC-21(家族/支援者情報が強い) 重症度( CDR )+ IADL 観察 必要支援(見守り・環境調整・サービス)を “行動” で記載

スクリーニング:短時間で “拾う” ときの考え方

スクリーニングは “診断” ではなく、次のアクション(再評価/追加評価/チーム共有)を決めるために行います。点数だけを独り歩きさせず、必ず実施条件行動観察をセットで残します。

MSQ( 10 項目の簡便スクリーニング)

MSQ は短時間で実施しやすい一方、環境(騒音・疲労)聴力・視力せん妄/抑うつの影響で “ぶれ” が出やすいタイプです。初回は「できなかった理由(聞こえない/眠い/痛い)」を丁寧に拾い、再評価で真の変化かどうかを見ます。

SPMSQ( Pfeiffer ):教育歴の影響に配慮しやすい

SPMSQ は誤答数ベースで把握しやすく、教育歴などの背景因子を意識しながら運用しやすいのが利点です。現場では “点数” よりも、誤り方(見当識なのか計算/注意なのか)を拾うと、介入(環境調整・指示の出し方)に繋がります。

MMSE / HDS-R:定番だが “目的” を合わせて使う

MMSE / HDS-R はチーム内の共通言語として強い反面、繰り返しで学習効果が出たり、身体状態(疼痛・呼吸苦・不眠)で点が揺れたりします。短時間で済ませたい場面では “初回スクリーニング” と割り切り、方針決定が必要なら次の層( CDR / DASC-21 / NPI )に繋げる設計が安全です。

重症度評価:CDR で “生活の困り” を共通言語にする

CDR は、検査室での点数よりも生活場面の具体例から重症度を揃えられるのが強みです。リハ職が価値を出しやすいのは、IADL(買い物・服薬・金銭管理・外出)を “できる/危ない/支援で可能” に分解して、医師・看護・MSW と共有することです。

CDR を活かす聞き取り・観察のコツ(例)
領域 聞くこと(具体) 記録の形(例)
記憶 同じ質問の反復/直前の説明の保持 説明 5 分後に再質問あり、手順はメモで追える
見当識 病棟内の移動/日付の把握 病室→訓練室は誘導で可、場所の取り違えあり
判断・問題解決 服薬/火の元/金銭の扱い 服薬は 1 回分化+見守りで可、独居はリスク高
地域活動 外出の計画と安全 単独外出は迷子リスク、同伴なら可能

BPSD の整理:NPI / NPI-NH で “困りごと” を分解する

BPSD は「暴言がある」だけだと介入が曖昧になります。NPI / NPI-NH の枠組みで症状の種類を分け、さらに頻度・重症度・介護者負担まで整理すると、非薬物的介入(環境・活動・コミュニケーション)と薬物調整の優先順位が付けやすくなります。

在宅では家族からの聞き取りで NPI、施設ではスタッフ運用に合わせた NPI-NH が噛み合いやすいのが基本です。重要なのは “名称” よりも、誘因(時間帯・場所・関わり方)を一緒に記録して再現性を上げることです。

現場の詰まりどころ:点がぶれる 6 つの原因と対策

認知スクリーニングがぶれる典型パターンと対策
ぶれの原因 見逃しサイン 対策(その場) 次アクション
感覚器(視力・聴力) 聞き返しが多い/見落とす 眼鏡・補聴器、静かな環境、ゆっくり短文 条件を記録し、条件統一で再評価
せん妄・眠気 時間帯で差/注意が続かない 負荷を下げる(短時間・分割) 内科的因子共有、日内変動を記録
抑うつ・意欲低下 「わからない」で終わる 動機づけ、成功体験を作る質問順 心理面共有、活動量・睡眠も併記
疼痛・呼吸苦・疲労 表情硬い/集中できない 先に症状緩和、休息 バイタル・疼痛と合わせて解釈
環境(騒音・同席者) 周囲の声に反応 個室・短時間、同席者の介入を整理 環境条件を固定して比較
学習効果(繰り返し) 点は上がるが生活は変わらない 間隔を空ける、観察指標を併用 点数だけで判断せず IADL を追う

記録テンプレ:申し送りで “行動” が伝わる書き方

点数は短く、行動は具体的に。「できた/できない」より「どうすればできるか」を書けると、チームの動きが揃います。

カルテ・申し送りに残す最小セット(例)
項目 書き方(例) 意図
実施条件 午前、疼痛 NRS 2、眼鏡あり、病室で実施 点数の解釈を安定させる
結果(要約) スクリーニングで低下疑い、再評価予定 結論を先に共有
観察(行動) 手順は 1 ステップ指示で可、複数指示で混乱 関わり方の統一
次アクション 家族情報を確認し CDR 相当の生活状況を整理 評価を介入に繋げる

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. まず 1 つだけ選ぶなら、何から始めますか?

初回は “短時間で拾えるスクリーニング” から始め、実施条件(眠気・疼痛・感覚器)を整えて実施します。そこで低下疑いがあれば、方針決定に必要な粒度に合わせて CDR(重症度)や NPI(BPSD)へ段階的に進めるのが安全です。

Q2. 点数が低いのに、会話は成り立つことがあります。どう解釈しますか?

検査点と生活機能が一致しないことは珍しくありません。環境・疲労・抑うつ・感覚器の影響を確認し、IADL(服薬・金銭・外出)の具体例を追加して “生活の困り” として再構成すると、介入と支援設計に繋がります。

Q3. 急性期で時間が取れません。最低限どこまで残せば良いですか?

点数そのものより、実施条件(時間帯・症状・環境)と、行動観察(指示理解・注意の持続・安全リスク)を短く残すと、次に評価する人が迷いません。再評価の予定(いつ・何で)も 1 行添えると運用が回ります。

Q4. 施設では家族情報が少ないのですが、重症度はどう揃えますか?

施設では “日常の様子” を最も見ているのはスタッフです。生活場面(食事・排泄・更衣・服薬・夜間)を具体例で集め、CDR の観点で整理するとチーム内の共通言語が作りやすくなります。BPSD が中心なら NPI-NH で症状を分解して記録します。

Q5. BPSD は「落ち着かない」だけで終わりがちです。コツはありますか?

“症状名” に加えて、時間帯・場所・直前の出来事(誘因)を必ずセットで残します。頻度と重症度、介護者負担まで整理すると、環境調整・活動設定・声かけなど非薬物的介入が具体化し、振り返りもしやすくなります。

参考文献

  1. Pfeiffer E. A short portable mental status questionnaire for the assessment of organic brain deficit in elderly patients. J Am Geriatr Soc. 1975;23(10):433-441. doi: 10.1111/j.1532-5415.1975.tb00927.x
  2. Folstein MF, Folstein SE, McHugh PR. “Mini-mental state”. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. J Psychiatr Res. 1975;12(3):189-198. doi: 10.1016/0022-3956(75)90026-6
  3. Hughes CP, Berg L, Danziger WL, Coben LA, Martin RL. A new clinical scale for the staging of dementia. Br J Psychiatry. 1982;140:566-572. doi: 10.1192/bjp.140.6.566
  4. Morris JC. The Clinical Dementia Rating ( CDR ): current version and scoring rules. Neurology. 1993;43(11):2412-2414. doi: 10.1212/WNL.43.11.2412-a
  5. Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308-2314. doi: 10.1212/WNL.44.12.2308
  6. Awata S. A series of studies on the development of the Dementia Assessment Sheet for Community-based Integrated Care System 21-items ( DASC-21 ) were reviewed. Geriatr Gerontol Int. 2016. doi: 10.1111/ggi.12727
  7. 繁信和恵ほか. 日本語版 NPI-NH の妥当性と信頼性の検討. BRAIN and NERVE. 2008;60(12):1463-1469. doi: 10.11477/mf.1416100399

おわりに

認知機能評価は、目的の確認 → 実施条件の整備 → 短時間スクリーニング → 必要なら重症度/ BPSD で分解 → 記録 → 再評価の順に回すと、点数が “次の一手” に繋がります。評価が噛み合わないときほど条件を揃えて取り直し、生活場面の具体例に落とし込むのが近道です。

臨床の学び直しや職場選びで迷うときは、面談準備チェックや職場評価シートを使って “働き方の前提” を整えておくと、学びと実務が繋がりやすくなります。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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