老年症候群ハブ|フレイル・転倒・低栄養を“抜けなく”引く
老年症候群は「全部やる」より、入口で深掘り 1〜2 個に絞ると回りやすいです。本ページは、病棟・在宅の実務で迷いがちなスクリーニング → 重点評価 → 安全線 → 記録 → 再評価の順で、必要な導線をまとめた索引(ハブ)です。
親ハブ:疾患別ハブ / 横断:評価ハブ / 栄養:栄養・嚥下ハブ
最短導線(まずはここだけ)
最初の 10 分は、①入口(広く拾う)→②深掘り 1〜2 個→③条件固定(再評価をブレさせない)の 3 点だけで十分です。
- 入口(広く拾う):フレイル評価の選び方(KCL / J-CHS / SPPB)
- 深掘り(筋の問題が疑わしい):AWGS 2019 サルコペニア評価の運用プロトコル
- 深掘り(転倒不安が強い):FES-I・ABC・MFES 比較(使い分け)
- 深掘り(低栄養・嚥下が絡む):栄養・嚥下ハブ(スクリーニング→計画→モニタリング)
入口:スクリーニング( 5 分 )
入口は「広く浅く」拾い、深掘りは 1〜2 個に絞ると回ります。高齢者は“軽い低下の重なり”が転倒や入院を招きやすいので、まずは生活機能・運動機能・栄養の 3 点をそろえます。
| 領域 | 最初に使う(例) | 拾えること | 次の深掘り |
|---|---|---|---|
| 生活機能 | KCL / TMIG-IC | IADL 低下・閉じこもり・抑うつ傾向の入口 | ADL / IADL 評価ハブ |
| 運動機能 | 歩行速度 / TUG / SPPB | 転倒・移動制限の入口 | 歩行・バランス評価ハブ |
| 栄養 | 食欲・摂取量・体重変化 | 低栄養・悪液質・サルコペニアの入口 | 栄養・嚥下ハブ |
| 認知・せん妄 | 注意・見当識・昼夜逆転 | 転倒・拒否・離床困難の背景 | 鎮静・せん妄評価(RASS から) |
- KCL:基本チェックリスト(KCL)
- TMIG-IC:老研式活動能力指標(TMIG-IC)
- TUG:Timed Up & Go(TUG)
- SPPB:SPPB(構成・解釈)
重点評価:何を深掘りする?(迷わない選び方)
深掘りは「介入が変わる」ものだけを選ぶのがコツです。老年症候群では、①転倒・移動 ②フレイル/サルコペニア ③嚥下・低栄養のどれかに寄せると、方針が立ちやすくなります。
| いま困っていること | まず深掘り | 見たいポイント | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| 転倒が多い/歩けない | 歩行・バランス指標 | 直線/方向転換/立ち上がりのどこで崩れるか | 同条件で再評価できるログ |
| 体力が戻らない/痩せた | サルコペニア運用(AWGS) | 筋力・身体機能・栄養の“重なり” | 栄養+運動をセットで経過追跡 |
| むせ・食事が進まない | 嚥下・食形態・姿勢 | むせ/湿性嗄声/疲労での悪化 | 食事場面の条件固定(姿勢・食形態) |
| 拒否・混乱で離床できない | せん妄・環境要因 | 時間帯・刺激・睡眠・疼痛・便秘・薬剤 | 誘因の仮説 → 介入 → 再評価 |
- フレイルの入口整理:フレイル評価の選び方(KCL / J-CHS / SPPB)
- サルコペニア測定の標準化:AWGS 握力・歩行速度の測り方
- 転倒不安の深掘り:FES-I・ABC・MFES 比較 / FES-I のやり方 / MFES の評価方法
安全管理(転倒・起立・中止基準)
老年症候群は“安全線が狭い”のが特徴です。転倒だけでなく、起立性低血圧や薬剤影響で、同じ介入でも日によって反応が変わります。まずは中止基準と血圧条件をそろえると、離床が止まりにくくなります。
記録テンプレ( SOAP )
点数だけだと多職種に伝わりにくいので、「どの生活場面が詰まっているか」を 1 行で示し、次に同条件で再評価できる形に整えると回ります。
- S:例「入浴後にふらついて怖い」「外出が減って食欲も落ちた」など、生活の詰まり場面を 1 行で。
- O:例 TUG 17.8 s(杖・監視)、SPPB 7/12、KCL 10 点、体重 − 2.0 kg / 1 か月。
- A:方向転換と立ち上がりで不安定。生活動線の移動が詰まり点。低栄養が併存し、改善速度が出にくい。
- P:立ち上がり反復+方向転換課題を短時間頻回で実施。食事量・体重の確認を併走。 1 週後に同条件で TUG / SPPB を再評価。
関連:記録の型を整えるなら ICF の書き方と記載例 もあわせて使うと、チーム共有が速くなります。
現場の詰まりどころ(よく詰まる → 打ち手)
老年症候群で詰まりやすいのは「項目が多くて優先順位が決まらない」「再評価が条件ブレで読めない」「生活に落ちない」の 3 つです。最小の打ち手だけに絞ります。
| 詰まりどころ | 起こりやすい原因 | 最小の打ち手 | 次に見る |
|---|---|---|---|
| 優先順位が決まらない | 深掘り対象が多い | 「転倒」「低栄養」「せん妄」のうち 1 つに寄せて深掘り | 入口スクリーニング |
| 再評価しても変化が読めない | 靴・補助具・介助条件が毎回違う | 条件固定(靴・補助具・介助・休憩ルール)をテンプレ化 | 握力・歩行速度の条件固定 |
| 生活に落ちず、活動が戻らない | テスト評価で止まる | IADL の“詰まり動線”を 1 つ決めて実装 | ADL / IADL 評価ハブ |
| 離床が不安で進められない | 血圧・中止基準の共有不足 | 血圧条件固定+中止基準をチームで統一 | 起立性低血圧 / 中止基準 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. フレイルとサルコペニア、まずどっちを見るべきですか?
A. 入口では「生活( IADL )が落ちているか」「移動が危ないか」「体重や食事量が落ちているか」を先に拾い、その後にサルコペニア(筋力・身体機能・栄養)へ寄せると回りやすいです。運動だけでなく栄養の崩れがあると改善が遅れるため、早めに並走させます。
関連:フレイル評価の選び方 / サルコペニア運用(AWGS)
Q2. 評価項目が多くて、初回に時間が足りません。
A. 初回は「スクリーニング → 深掘り 1〜2 個」に割り切るのがコツです。入口は KCL / TMIG-IC と、歩行( TUG か SPPB )をそろえ、深掘りは転倒か栄養のどちらかに寄せると“回る形”になります。
Q3. 再評価がブレます。いちばん最初に直すべきは?
A. 条件固定です。靴、補助具、介助、休憩ルール、床面、時間帯を固定して記録し、同条件で縦比較できる形に整えます。点数より先に“条件”がそろうと、変化が読めるようになります。
Q4. 転倒不安は、機能テストだけでは足りませんか?
A. 足りないことがあります。機能( can )が残っていても、不安( fear )が強いと行動( do )が萎縮します。TUG / SPPB などに加えて、FES-I / MFES などの主観尺度を 1 つ併用すると、介入ターゲットが明確になります。
関連ハブ
次の一手(同ジャンル)
環境要因(教育体制・記録文化・人員・標準化)で詰まっている場合は、先に“点検”しておくと改善が早いです。
参考文献
- Fried LP, Tangen CM, Walston J, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146-M156. doi: 10.1093/gerona/56.3.m146(PubMed)
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on sarcopenia diagnosis and treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21:300-307.e2. doi: 10.1016/j.jamda.2019.12.012(PubMed)
- Chen LK, Hsiao FY, Akishita M, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025;5:2164-2175. doi: 10.1038/s43587-025-01004-y(PubMed)
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. doi: 10.1093/geronj/49.2.m85(PubMed)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


