認知機能評価の選び方|目的・情報源から最初の1本を選ぶ

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認知機能評価の選び方は「急性変化→目的→情報源」で決めます

認知機能評価は、尺度名から選ぶのではなく、「急な変化ではないか」「何を知りたいか」「誰から情報を得られるか」の順で考えると整理しやすくなります。全般的な認知低下なら HDS-R / MMSE、軽度低下なら MoCA、認知機能と生活機能を一緒にみるなら DASC-21、重症度なら CDR が主な候補です。BPSD は、まず場面や誘因を観察し、必要時に NPI / NPI-NH を追加します。

この記事では、PT・OT・STなどの医療・介護職が「この場面では最初に何を選ぶか」を判断できるよう、認知機能評価の役割と選択の境界を整理します。各尺度の設問全文や詳細な採点方法、認知症の診断確定については扱わず、最初の1本と必要時の追加評価に絞ります。

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認知機能評価を急性変化、目的、情報源、最初の1本の順に選ぶフロー図
認知機能評価は、急性変化の有無を確認してから、目的と情報源に合う最初の1本を選びます。

認知機能評価は4段階で選びます

すべての人に HDS-R や MMSE から始め、その後 CDR、NPI へ進むわけではありません。急性変化を除外したうえで、今回の目的に必要な評価だけを選ぶことが基本です。

  1. 急性変化の有無を確認する:急に反応が悪くなった、注意が続かない、日内で大きく変動する場合は、通常の認知症スクリーニングを先行させず、せん妄や急性身体要因の確認・共有を優先します。
  2. 何を知りたいか決める:全般的な認知低下、軽度低下、認知+生活機能、重症度、BPSD のどれを知りたいかを絞ります。
  3. 誰から情報を得られるか確認する:本人への検査が中心なのか、家族・支援者から生活情報を得られるのか、スタッフの観察情報が中心なのかを確認します。
  4. 最初の1本を選ぶ:目的に合う尺度を1つ選び、結果だけでは判断できない場合にのみ追加評価します。

急な変化があるときは、認知症尺度より先に確認することがあります

認知症や MCI を評価するスクリーニング検査は、急性の意識・注意変化そのものを診断するための尺度ではありません。昨日までと違う、時間帯によって反応が大きく変わる、注意が保てない、急に会話が成立しにくくなったといった場合は、せん妄、感染、脱水、低血糖、薬剤、疼痛、低酸素などの急性要因を含めて確認・共有することが先になります。

日本老年医学会も、HDS-R・MMSE・MoCAなどの成績だけで認知症や MCI を診断することは困難であり、せん妄やうつ、二次性の認知機能低下を除外する必要があるとしています。急性変化が落ち着いた後に、必要に応じて認知機能を改めて評価します。

急性変化がなければ「目的」と「情報源」を組み合わせます

次に確認するのは、「何を測りたいか」と「誰の情報を使えるか」です。本人に直接行う認知機能検査と、家族・介護者から生活状況を得る評価では、得られる情報が異なります。

目的・情報源からみた認知機能評価の選び方
知りたいこと 主な情報源 最初の候補 必要時に追加する視点
全般的な認知低下を拾いたい 本人 HDS-R または MMSE 生活上の問題、軽度低下、個別認知領域
軽度低下・MCIを意識して評価したい 本人 MoCA / MoCA-J 生活機能、家族・支援者情報
認知機能と生活機能を一緒にみたい 家族・介護者など本人をよく知る人を中心に評価 DASC-21 重症度、個別の認知機能、安全上の問題
認知症の重症度を段階づけたい 本人+信頼できる情報提供者 CDR 具体的な生活状況、必要な支援
BPSDを整理したい 家族・介護者・スタッフの観察 まず場面・行動・誘因を観察 必要時に NPI / NPI-NH

全般的な認知低下なら HDS-R / MMSE、軽度低下なら MoCA を考えます

本人への短時間評価から始める場合でも、「何となく認知機能を測る」のではなく、どの程度の低下を拾いたいかを先に決めます。

HDS-R / MMSE:全般的な認知機能低下の入口

HDS-R と MMSE は、全般的な認知機能低下の可能性を確認する代表的なスクリーニング検査です。どちらか一方を施設の運用や評価目的に応じて選び、 routinely 2つとも実施する必要はありません。

重要なのは、得点を診断名に置き換えないことです。スクリーニングの点数が低ければ認知症が確定するわけではなく、反対に点数が比較的保たれていても、遂行機能や実生活上の問題が残ることがあります。生活上の失敗や安全面との不一致がある場合は、情報源を広げて追加評価を考えます。

MoCA / MoCA-J:軽度低下を拾いたい場面

MoCA は、MCIを含む比較的軽度の認知機能低下をスクリーニングしたい場面で候補になります。日本語版の MoCA-J についても、日本人高齢者を対象とした妥当性が報告されています。

一方、MoCA は著作権で保護された尺度であり、公式サイトでは実施・採点・解釈を行う専門職にトレーニングと認証を求めています。使用時は最新版の公式版と利用条件を確認し、非公式に設問や採点基準を転載した資料を使わないことが重要です。

認知機能と生活機能を一緒にみるなら DASC-21 が候補です

DASC-21 は、認知機能だけでなく、日常生活に関連する機能をあわせて捉えたいときに候補になります。特に、服薬、買い物、金銭管理などを含む生活上の変化まで把握したい場面では、本人への認知機能検査だけでは得られない情報を補えます。

DASC-21 は、原則として対象者をよく知る家族や介護者から日常生活の様子を聞きながら、研修を受けた専門職が評価する Informant Rating Scale として位置づけられています。独居などで十分な情報提供者がいない場合は、本人への追加質問や観察を用いて評価しますが、本人情報だけでは MCI レベルの判別が難しい場合がある点には注意が必要です。

つまり、退院支援だから機械的に DASC-21 を選ぶのではなく、「認知機能と生活機能を一緒に把握したい」「生活を知る情報源がある」という条件が合うときに選びます。

重症度を段階づけたいなら CDR を検討します

CDR(Clinical Dementia Rating)は、単純な認知機能スクリーニングではなく、本人と情報提供者から得た情報を統合し、認知症に伴う障害の程度を段階づけるための評価です。

そのため、HDS-R や MMSE で低下が疑われたら全員に CDR を追加する、という一本道ではありません。診療・研究・チーム共有などで重症度を段階づける必要がある場合に選択します。

また、CDR は著作権で保護された評価尺度であり、Washington University の Knight Alzheimer Disease Research Center は、臨床利用を含めてライセンスが必要であると案内しています。本記事では公式の質問票や採点表を転載せず、役割の違いのみを整理しています。

DASC-21 と CDR はどちらも生活機能を含む情報を扱いますが、目的は同じではありません。DASC-21 は認知機能と生活機能を包括的に捉える入口、CDR は認知症の重症度を段階づける評価として考えると整理しやすくなります。

BPSDは「尺度を選ぶ前の観察」が先です

BPSD が主な困りごとの場合は、最初から NPI / NPI-NH の点数を取ることより、急変・身体要因・環境要因を確認し、いつ・どこで・何の前後に、どのような行動が起きたかを具体化することが先です。

そのうえで症状を構造化して共有したい場合に NPI / NPI-NH を追加します。NPI-NH は Nursing Home Version として、施設スタッフから情報を得る運用を想定した尺度です。BPSD の原因を尺度の点数だけで決めるのではなく、介入後も同じ対象行動を追って変化を確認します。

BPSD の評価を、急変確認から ABC 観察、尺度、介入、再評価まで整理したい場合は、BPSD評価の進め方で詳しく解説しています。

ケースで確認:同じ「認知低下疑い」でも最初の1本は変わります

尺度選択で重要なのは、病期だけではなく今回の疑問と使える情報源です。代表的な3場面で確認します。

場面別にみた認知機能評価の選び方
場面 いま困っていること 最初にすること その後の評価
急性期 昨日より反応が悪く、注意が続かず日内変動がある せん妄・急性身体要因の確認と共有 状態が安定した後、必要に応じて認知機能を評価
外来・回復期 会話や基本ADLは保たれているが、軽い物忘れや遂行機能低下が疑われる 軽度低下を目的に MoCA / MoCA-J を検討 生活上の問題があれば家族・支援者情報を追加
退院・地域支援 服薬・金銭・買い物など生活管理が安全に行えるか分からない 生活情報が得られるなら DASC-21 を検討 重症度の段階づけが必要なら CDR などを検討

点数だけでなく「何が結果に影響したか」を残します

認知機能検査は、覚醒、疼痛、呼吸苦、疲労、視力・聴力、言語障害、環境などの影響を受けます。再評価で重要なのは、すべての条件を機械的に同じにすることではなく、結果の解釈に影響する条件を記録し、可能な範囲で比較条件をそろえることです。

たとえば発熱や眠気が改善して点数が上がった場合、変化した条件そのものが重要な臨床情報です。「前回と条件が違うから比較できない」で終わらせず、何が変わった状態で評価したのかを一緒に残します。

比較するときに記録したい条件

  • 時間帯・覚醒:午前 / 午後、眠気、日内変動
  • 身体状態:疼痛、呼吸苦、発熱、脱水など評価へ影響し得る状態
  • 感覚器:眼鏡、補聴器、見え方・聞こえ方
  • コミュニケーション:失語、構音障害、反応方法、指示理解への影響
  • 環境:場所、周囲刺激、同席者からの介入

再評価は「同じ点数か」だけを見ません

再評価では、可能であれば同じ尺度・同じ版を用い、比較に影響する条件をそろえます。ただし、点数差だけを改善・悪化と決めず、行動、生活機能、安全性、支援量の変化と合わせて解釈します。

短期間に同じ検査を繰り返す場合は、検査への慣れなども考慮します。点数が上がっていても生活場面が変わっていない場合や、点数が保たれていても服薬・金銭管理などに問題がある場合は、別の情報源や評価目的へ切り替えることが必要です。

記録は「尺度+条件+行動+次の一手」で残します

チームで使いやすい記録にするには、合計点だけではなく、評価条件、実際の行動、次に確認することまで短く残します。以下は公式尺度の採点例ではなく、評価結果を臨床記録へつなげるための記載例です。

認知機能評価を記録へつなげる項目例
残す項目 記載例 目的
尺度・結果 HDS-R 実施。全般的認知機能低下の可能性を認める 何を評価したか共有する
実施条件 午前、覚醒良好、眼鏡使用、病室で実施 結果へ影響する条件を残す
行動 単一指示は遂行可能。複数手順では途中で確認を要する 実際の関わり方へつなげる
情報源 服薬管理について家族から追加聴取予定 不足情報を明確にする
次の一手 生活機能の情報を確認後、追加評価の必要性を判断する 評価の詰め込みを防ぐ

認知機能評価でよくある4つの選び方の失敗

尺度の数を増やすより、目的と結果の使い道が一致しているかを確認する方が重要です。

  • 急な変化でも、まず HDS-R / MMSE を行う:急性変化がある場合は、せん妄や身体要因の確認を先にします。
  • スクリーニング得点を診断として扱う:HDS-R、MMSE、MoCAなどは単独で認知症・MCIを確定するものではありません。
  • HDS-R → CDR → NPI のように全員を一本道で評価する:CDRやNPIは目的が異なるため、必要な場合だけ追加します。
  • 本人への検査だけで生活能力まで判断する:服薬・金銭・買い物などの問題は、家族・支援者・スタッフからの情報が必要になることがあります。

尺度は公式版と利用条件を確認して使います

認知機能評価には、著作権や利用条件が定められている尺度があります。本記事では尺度の設問全文や公式採点表を転載していません。実施時は、所属施設の運用だけでなく、各尺度の公式サイトや権利者が示す最新版・利用条件を確認してください。

  • MoCA:公式サイトでは、実施・採点・解釈を行う専門職に公式トレーニングと認証を求めています。
  • DASC-21:公式サイトでは、原則として研修を受けた専門職がチェックする運用が示されています。
  • CDR:公式サイトでは、臨床利用を含めてライセンスが必要とされています。
  • MMSE:著作権で保護された尺度のため、公式版・正規の利用方法を確認して使用します。

よくある質問(FAQ)

認知機能評価の「最初の1本」を選ぶときに迷いやすい点を整理します。

Q1. 認知機能評価は、まず何から始めればよいですか?

最初から尺度を決めるのではなく、急性変化がないかを確認し、その後に目的を決めます。全般的な認知低下なら HDS-R / MMSE、軽度低下なら MoCA、認知+生活機能なら DASC-21、重症度なら CDR が候補です。BPSD はまず観察から始めます。

Q2. 急性期で急に反応が悪くなった場合も HDS-R や MMSE を行いますか?

急な変化、注意障害、日内変動などがある場合は、通常の認知症スクリーニングより先に、せん妄や急性身体要因の可能性を確認・共有します。状態が安定した後も認知機能低下が疑われる場合に、目的に合う尺度を選びます。

Q3. HDS-R / MMSE と DASC-21 はどう使い分けますか?

HDS-R / MMSE は本人への検査から全般的な認知機能低下の可能性を確認する入口です。DASC-21 は、認知機能だけでなく生活機能に関連する行動変化も捉えたい場合に向きます。本人への検査結果と実生活が一致しない場合は、生活を知る人からの情報を追加することが重要です。

Q4. DASC-21 と CDR はどちらを選べばよいですか?

認知機能と生活機能を包括的に把握して支援につなげたい場合は DASC-21、認知症の重症度を段階づけることが主目的なら CDR が候補です。両方を routinely 実施するのではなく、今回必要な情報を先に決めて選びます。

次の一手:DASC-21 と CDR の境界を確認する

認知機能と生活機能をみる DASC-21 と、重症度を段階づける CDR は、どちらも生活情報を扱うため使い分けに迷いやすい組み合わせです。次に確認するなら、DASC-21 と CDR の違い・使い分けで目的と情報源の違いを整理してください。


参考文献

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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