段階的離床とは?
段階的離床とは、臥位から一気に立位へ進めるのではなく、ギャッジアップ、ダングリング、端座位、立位、移乗へと姿勢変化を段階的に進める方法です。起立性低血圧、長期臥床後、術後、高齢者などでは、急な姿勢変化に循環調節が追いつかず、めまい・冷汗・失神につながることがあります。
理学療法では、単に「起こす」だけでなく、循環を慣らしながら安全に活動範囲を広げる視点が重要です。特に起立性低血圧が疑われる患者では、血圧値だけでなく、顔色・発汗・会話・視線・下肢脱力などを観察しながら離床を進めます。
なぜ急に起こしてはいけないのか
臥位から急に座位・立位へ移ると、重力の影響で下肢や腹部に血液が貯留します。通常は血管収縮や心拍数の調整により血圧を保ちますが、長期臥床後や自律神経障害がある患者では、この反応が遅れやすくなります。
そのため、段階的離床では「血圧を落とさない」ことだけを目的にするのではなく、症状が出る前に変化を拾い、無理なく活動量を上げることを重視します。起立性低血圧への対応全体は、起立性低血圧の離床対応でも整理しています。
段階的離床の基本フロー
段階的離床は、患者の状態に応じて調整しますが、基本は「臥位に近い姿勢から、少しずつ重力負荷を増やす」流れです。

段階的離床の確認を紙で行いたい方へ
ギャッジアップ、ダングリング、端座位、立位・移乗までの確認ポイントを 1 枚で整理できる A4 記録シートです。
中身をプレビューする
| 段階 | 目的 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 30° ギャッジアップ | 循環を慣らす | 顔色、めまい、会話 |
| 45° ギャッジアップ | 重力負荷を増やす | 冷汗、表情変化 |
| ダングリング | 下肢下垂に慣らす | 気分不良、血圧 |
| 端座位 | 座位保持を確認する | 保持時間、体幹反応 |
| 立位・移乗 | 活動へつなげる | ふらつき、膝折れ |
ギャッジアップで確認すること
ギャッジアップでは、まず 30〜45 度程度から開始し、顔色・会話・めまい・気分不良を確認します。起立性低血圧が強い患者では、この段階で症状が出ることもあります。
この時点で重要なのは、すぐに端座位へ進めないことです。ベッド上で数分待ち、循環が落ち着くか、症状が悪化しないかを確認します。必要に応じて、下肢の足関節運動や深呼吸を併用します。
ダングリングで確認すること
ダングリングは、ベッド上またはベッド端で下肢を下垂させ、座位や立位に進む前に循環反応を確認する段階です。背部をベッドに支持したまま足を垂らす方法もあり、端座位より負荷を抑えて下肢下垂に慣らせます。
ここでは、めまい・冷汗・あくび・ぼんやり感・会話の遅れ・顔面蒼白を確認します。血圧測定も重要ですが、数値だけでなく、患者の反応を見ながら進めることが大切です。
| 観察項目 | 見方 |
|---|---|
| 顔色 | 蒼白、表情の変化 |
| 発汗 | 冷汗、急な発汗 |
| 会話 | 返答の遅れ、声量低下 |
| 視線 | 焦点が合わない、ぼんやりする |
| 下肢 | 脱力感、足先の違和感 |
端座位で確認すること
端座位では、体幹を起こした状態で座位保持が可能かを確認します。ダングリングで問題がなくても、端座位では重力負荷が増えるため、症状が出ることがあります。
確認するポイントは、座位保持時間、体幹の安定性、顔色、発汗、気分不良、血圧変化です。端座位が不安定な場合は、すぐに立位へ進めず、座位時間を短く区切って反復する方が安全です。
立位へ進める判断
立位へ進める前には、端座位で症状が落ち着いていること、会話が保てること、下肢支持が可能であることを確認します。立位では、血圧低下だけでなく、膝折れやふらつきにも注意が必要です。
初回の立位では、長時間立たせるよりも、短時間で反応を確認することを優先します。立位保持が難しい場合は、移乗を急がず、リクライニング車椅子やベッド上運動を組み合わせる選択肢もあります。
中止を考える危険サイン
段階的離床中に以下のような反応が出た場合は、元の姿勢へ戻して休息し、必要に応じて医師・看護師と情報共有します。
| サイン | 臨床での意味 |
|---|---|
| 意識が遠のく | 失神リスクが高い |
| 冷汗が出る | 循環不安定の可能性 |
| 返答が遅い | 脳血流低下の可能性 |
| 視線が合わない | 症候性低血圧を疑う |
| 膝折れする | 転倒リスクが高い |
よくある失敗
段階的離床では、手順を踏んでいるつもりでも、実際には観察が不足していることがあります。特に「血圧を測ったから大丈夫」と判断してしまうと、症状変化を見逃すことがあります。
| よくある失敗 | 対策 |
|---|---|
| すぐ端座位にする | ギャッジアップで反応を見る |
| 血圧だけで判断する | 顔色・発汗・会話も見る |
| 立位時間を長くする | 初回は短時間で確認する |
| 朝イチに急ぐ | 安定しやすい時間を選ぶ |
| 症状後も続ける | 元の姿勢へ戻して休む |
よくある質問
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ダングリングは何分くらい行えばよいですか?
明確に全員共通の時間はありません。臨床では 1〜3 分程度を目安にしつつ、症状・顔色・血圧・会話の反応を見て調整します。症状が出る場合は短時間で戻します。
血圧が下がらなければ立位へ進めてよいですか?
血圧だけでは判断できません。冷汗、ぼんやり感、返答の遅れ、下肢脱力などがある場合は、数値が保たれていても慎重に判断します。
弾性包帯や腹帯は必ず使うべきですか?
必須ではありません。ただし、起立性低血圧が疑われる患者や、離床時に症状が出やすい患者では、血液貯留を減らす補助として検討されます。
端座位で症状が出た場合はどうしますか?
無理に立位へ進めず、元の姿勢へ戻して休息します。症状が反復する場合や意識消失がある場合は、医師・看護師と情報共有し、原因検索や対応を検討します。
次の一手
段階的離床は、手順そのものよりも「どこで反応を拾うか」が重要です。まずは起立性低血圧への基本対応と、離床中のバイタル観察をセットで確認しておくと臨床で使いやすくなります。
参考文献
- Freeman R, Wieling W, Axelrod FB, et al. Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension. Clin Auton Res. 2011;21(2):69-72. DOI: 10.1007/s10286-011-0119-5
- Figueroa JJ, Basford JR, Low PA. Orthostatic hypotension: diagnosis and treatment. Mayo Clin Proc. 2010;85(2):147-157. DOI: 10.4065/mcp.2009.0663
- Mills PB, Fung CK, Travlos A, Krassioukov A. Nonpharmacologic management of orthostatic hypotension: a systematic review. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(2):366-375.e6. DOI: 10.1016/j.apmr.2014.09.028
- Kim MJ, Farrell J. Orthostatic hypotension: a practical approach. Am Fam Physician. 2022;105(1):39-49. AAFP
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


