まず結論:安全に「効かせる」筋トレの始め方
筋力トレーニングは、目的に合わせて 強度(重さ)×回数×休息 を設計し、フォームと体調を優先して実施すれば、初心者や高齢者でも安全に効果を得られます。本記事は理学療法士の視点で、ケガを避けつつ結果を出すコツをまとめました。今日からのメニューづくりに使える A4配布資料(RPEチートシート/強度×回数×休息図版) も用意しています。
ポイントは ①目的に合う回数域を選ぶ、②フォーム(関節中間位・腹圧・呼吸)を守る、③痛み 0–2/10 の範囲で漸進する、の 3 つです。途中で胸部症状や強い息切れ等の赤旗が出たら中止します(本文末に中止基準あり)。
筋トレの原則(臨床での誤解と対策)
筋トレの基礎は「漸進性過負荷・特異性・個別性・可逆性」。増やすのは総負荷量(重量×回数×セット)で、過度な追い込みや反動は逆効果になりがちです。全身プログラムでは多関節→単関節の順に配置し、週 2–3 回・非連日が基本。休息は目的によって変えます(後述)。
よくある誤解は「毎回限界まで」「フォームより重さ優先」。臨床では痛みや既往に配慮し、テンポを遅くして可動域を短縮するなど安全マージンを確保します。フォームの安定が筋出力を引き出し、結局は伸びが速いです。
強度設定と回数の決め方(RPEと簡易1RM)
目安:筋力=RPE 7–9(1–6回)/筋肥大=RPE 7–8(6–12回)/筋持久=RPE 5–7(12–20回)。休息は筋力 2–3 分、筋肥大 60–120 秒、持久 30–90 秒。重量が測りづらい場合は、Epley 近似の簡易式 1RM ≈ 挙上重量 × (1 + 回数/30) を参考に強度帯を推定します。
心配な方はまずRPE 6–7でフォーム練習→2 週ごとに総量を 10–20%調整するだけで十分伸びます。進め方の全体像は こちらの導線(#flow) からも確認できます。
目的別メニュー例(全身:週2–3回)
例)Day1:スクワット/ヒンジ系→プッシュ→プル→体幹、Day2:ランジ系→プッシュ(角度違い)→プル(角度違い)→体幹。各 2–4 種目、6–12 回×3–5 セット(RPE 7–8)を基準に調整。高強度期は 1–6 回(RPE 7–9)を 1–2 種目だけ採用。可動域や疼痛に応じてゴムバンド・台使用で負荷を微調整します。
関連:ROM の取り方は 関節可動域検査ガイド、身体測定は 身体計測の重要性、バランス機能把握は SPPB が参考。疼痛コントロールは 疼痛ハブ、フレイル文脈では フレイルへのリハ を参照。
フォームの要点(安全・再現性の核)
関節は基本「中間位」を保ち、腹圧(呼気で軽く締める)を先行。肩甲帯と骨盤の位置を決めてから動作に入ると、荷重線が安定し関節ストレスが減ります。呼吸は止めず、挙上で息を吐く/下降で吸うが原則。痛みが出たら可動域の短縮・軌道変更・テンポを遅くするで調整します。
OK/NG の早見は下表を参考にしてください。反動や反復ミスはケガと伸び悩みの温床です。
| 場面 | NG(よくある誤り) | OK(是正ポイント) |
|---|---|---|
| 動作テンポ | 反動で挙上/急激な切り返し | 下降 2–3秒・挙上 1–2秒、可動域は痛みの出ない範囲 |
| 呼吸 | 息こらえ(過度のいきみ) | 吐きながら挙上、吸いながら下降(腹圧は保つ) |
| 姿勢 | 腰・首の過伸展、膝の内倒れ | 脊柱は中間位、膝はつま先方向へ、足圧は母趾球・小趾球・踵に均等 |
| 負荷設定 | 毎回ギリギリまで追い込む | RPE 7–8 を基準、2週ごとに総量を 10–20%で微調整 |
進め方と停滞打破(2週サイクル)
①フォーム安定期(RPE 6–7)→②標準期(RPE 7–8)→③目的別の強調週(筋力なら 1–6 回を一部導入)。2 週ごとに総量 10–20%の範囲で調整し、停滞したらテンポ/可動域/種目角度のいずれかを変更。痛みや疲労が蓄積する週は軽め(RPE 5–6)で回復に充てます。
「家でも十分できる?」→はい。椅子スクワット、段差ステップ、チューブプレス・ロウ、片脚立ちなどで RPE 7 前後 を作れます。器具がなくても片側化・可動域拡大・スローテンポで負荷を調整しましょう。
禁忌・中止基準(赤旗)
- 胸痛・圧迫感、強い息切れ・呼吸困難、冷汗やめまい
- 失神感、動悸の増悪、収まらない不整脈と思われる症状
- 鋭い関節痛・神経症状の悪化、急な腫れ・熱感・発赤
- 発熱や急性疾患、コントロール不良の高血圧・糖尿病など
- 術後早期・急性炎症期など医師の安静指示がある場合
※いずれかが出現したら中止し、必要に応じて医療者に相談してください。
配布資料(ダウンロード)
評価や指導にすぐ使える A4 資料。ブラウザで開いて「印刷する」→ PDF化できます。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
週に何回が効果的?
基本は週2–3回・非連日。全身なら 2 分割(上半身/下半身)や 3 分割も可。回復が追いつかない場合は総量を 10–20%下げます。
器具なしでも十分?
はい。片脚動作、段差、チューブ、ゆっくりしたテンポで RPE 7 を作れます。フォーム優先で、痛みが出たら可動域と軌道を調整します。
筋肉痛(DOMS)が強い時は?
生活動作に支障があれば回復を優先し、ストレッチや軽い有酸素へ。痛みが残る部位の高強度は避け、RPE 5–6 のテクニック練習に切り替えます。
痛みや既往がある場合の始め方は?
急性期・術後などは医師の指示に従い、慢性痛は痛み 0–2/10内で。関節中間位と腹圧を優先し、短可動域→標準可動域へ漸進します。


