健康関連 QOL( HRQOL )と PROM の選び方(結論)
結論: PROM は「何をどれだけ良くしたいか」を患者本人の言葉で可視化し、介入の優先順位と再評価を揃えるための道具です。HRQOL(健康関連 QOL )は、その中でも身体・心理・社会面を横断して捉える“土台”になります。
本記事では、ジェネリック(汎用)と疾患特異的の使い分け、実施タイミング、臨床で回る運用フローまでを「選んで終わり」にしない形で整理します。
PROM とは?(何が取れるか)
PROM( Patient-Reported Outcome Measure )は、症状・機能・生活への影響などを、患者本人の回答で数値化する評価指標です。痛みや倦怠感、活動制限など“本人にしか分からないアウトカム”を拾えます。
臨床では、評価結果を「説明→合意→次の一手」に変換できるかが重要です。PROM は、問診の質を上げつつ、経時変化を同じ尺度で追える点が強みになります。
PROM が効きやすい場面
- 症状は落ち着いたが、生活の困りごとが残る(退院前・外来フォロー)
- 同じ運動でも「意味づけ」が共有できず、セルフエクササイズが続かない
- 多職種で方針が割れやすい(目標設定・介入優先度の整理)
健康関連 QOL( HRQOL )の位置づけ
HRQOL は、健康状態が日常生活や役割、心理状態にどう影響しているかを、身体・心理・社会の複数側面で捉える概念です。症状の強さだけでなく、生活の質としての“影響”を扱います。
部位や疾患に偏らず全体像を掴むときは、まず HRQOL のジェネリック尺度で地図を作り、必要なら疾患特異的尺度で深掘りする設計が回しやすいです。
実施タイミング(いつ取ると役立つか)
タイミングは「介入で変化が出る区切り」に合わせるのが基本です。入院なら初回評価→退院前、外来なら初回→ 4〜 8 週などが実務的です。
頻回に取りすぎると回収率が下がり、少なすぎると変化が見えません。まずは最小回数で継続できる設計を優先します。
おすすめの取り方(例)
| 場面 | 初回 | 中間 | 区切り | 目的 |
|---|---|---|---|---|
| 入院 | 開始 48 時間以内 | 週 1(必要時) | 退院前 1 週間 | 目標の合意と退院準備 |
| 外来 | 初診 | 2〜 4 週 | 6〜 12 週 | 介入の反応と方針転換 |
| 訪問 | 初回 | 月 1 | 3 か月 | 生活課題の優先度整理 |
尺度の選び方(目的→対象→負担で決める)
尺度選びは「有名だから」ではなく、目的(何を意思決定したいか)から逆算します。次に対象(疾患・年齢・言語・認知)と負担(項目数・回答時間)で絞ります。
迷ったら、まずジェネリック HRQOLで全体像を作り、主要課題が見えたら疾患特異的で精度を上げる流れが堅実です。
5 ステップ(実務で迷わない)
- 意思決定ポイントを 1 つ決める(例:退院後の活動制限を減らす)
- 測りたい構成概念を決める(症状/活動/参加/心理など)
- ジェネリック or 疾患特異的を選ぶ
- 負担(時間・回収方法)を調整する
- 解釈ルール(どの変化を“意味あり”とするか)を決める
ジェネリックと疾患特異的の使い分け
ジェネリックは比較と俯瞰に強く、疾患特異的は変化の感度に強い傾向があります。どちらか一択ではなく、役割で使い分けると運用が安定します。
「説明」「多職種共有」「経時変化」の目的が強いほど、ジェネリック HRQOL を入り口にする利点が増えます。
| 観点 | ジェネリック(例:SF 系) | 疾患特異的(例:部位別 PROM ) | 向く目的 |
|---|---|---|---|
| 守備範囲 | 横断的(身体・心理・社会) | 特定領域に集中 | 全体像の把握 |
| 変化の捉えやすさ | 中等度 | 高いことが多い | 介入の反応確認 |
| 説明のしやすさ | 全体像を共有しやすい | 課題が明確で納得しやすい | 目標設定・合意 |
| 使い分けのコツ | 入口と経過観察の軸にする | 主要課題の深掘りで併用 | 二段構えで回す |
臨床で回す 5 分フロー(配布→回収→記録→共有→再評価)
運用の肝は「配布して終わり」にならないことです。回収率・記録の置き場所・説明の一言まで決めると、チームで同じ型で回せます。
まずは 5 分で回る最小フローを作り、慣れたら対象や頻度を調整します。
| 段階 | やること | 所要 | 記録ポイント | 次の一手 |
|---|---|---|---|---|
| 配布 | 目的を 1 行で説明して渡す | 30 秒 | 尺度名・日付 | 回収タイミングを決める |
| 回収 | 未回答項目の有無だけ確認 | 30 秒 | 欠損の理由 | 次回の負担調整 |
| 採点 | 合計 / 下位尺度を算出 | 2 分 | 点数と基準(初回) | 変化の見方を決める |
| 共有 | 「良い / 困る」を 1 分で言語化 | 1 分 | 患者の言葉を 1 文 | 目標と優先度を調整 |
| 再評価 | 同じ尺度で同じ条件で取る | 1 分 | 変化量(差) | 継続 / 変更 / 追加 |
結果の読み方(点数を意思決定に変える)
PROM の点数は「高い / 低い」だけでは臨床に落ちません。何が良くて、何が残っているかを、生活の文脈に結びつけて整理するのがポイントです。
初回はボトルネック(下位尺度)を見つけ、次回は変化量に注目します。変化が小さいときは、尺度が合っていないか、介入の焦点がズレている可能性も検討します。
解釈がブレにくい 3 つの問い
- 何が最も困っているか(症状・活動・参加・心理のどれか)
- 困りごとはどの場面で出るか(時間・環境・役割)
- 次の 2〜 4 週間で変えたい行動は何か(具体)
現場の詰まりどころ(回収率・解釈・説明)
PROM が続かない原因は、尺度そのものより「運用の詰まり」にあります。とくに回収率、採点の手間、説明の一言がボトルネックになりやすいです。
対策は“高機能化”ではなく、型を決めて例外を減らすことです。まずは最小運用で回し、詰まる箇所だけを改善します。
| 詰まり | 起こりやすい原因 | 対策 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 回収率が低い | 目的説明が長い / タイミングが悪い | 説明を 1 行に固定し、回収時刻を決める | 未回収理由を 1 語で残す |
| 採点が面倒 | 算出ルールが不明確 | 採点担当と置き場所を固定する | 初回だけ「基準点」を明記 |
| 解釈が曖昧 | 下位尺度を見ていない | ボトルネック 1 つに絞って言語化 | 患者の言葉を 1 文だけ転記 |
| 説明で噛み合わない | 点数の話だけになっている | 「困る場面→次の行動」で話す | 次回までの宿題を 1 つだけ |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. どの PROM を選べばよいか迷います
まずは「何を決めたいか」を 1 つに絞ってください。全体像を掴むならジェネリック HRQOL 、主要課題を深掘りしたいなら疾患特異的を組み合わせると、選択が速くなります。
Q2. 回収率が落ちるときの最優先の見直しは?
説明が長いことが多いので、「今日は生活の困りごとを短く確認します」の 1 行に固定し、回収タイミングを決めて運用を単純化します。
Q3. 点数が変わらないときは失敗ですか?
失敗とは限りません。尺度が拾っている領域と介入の焦点が合っているか、下位尺度のどれが動いていないかを見直し、次回の目標(行動)を具体化します。
Q4. HRQOL と ADL 指標はどちらを優先しますか?
優先は目的次第です。ADL は「できる / できない」を、HRQOL は「生活への影響」を拾います。両者がズレたときほど、目標設定の再調整に PROM が役立ちます。
おわりに
PROM は、目的整理→尺度選択→配布回収→解釈→共有→再評価のリズムで回すと、点数が“次の一手”に変わります。最初は最小フローで十分なので、まず 1 つの型をチームで揃えてみてください。
転職や職場選びで「評価をどう回せる環境か」も含めて整理したいときは、面談準備チェックと職場評価シートもあわせて使うと、条件比較が進めやすくなります。
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参考文献
- Ware JE Jr, Sherbourne CD. The MOS 36-Item Short-Form Health Survey (SF-36): I. Conceptual framework and item selection. Med Care. 1992;30(6):473-483. DOI: 10.1097/00005650-199206000-00002 / PubMed: 1593914
- Reeve BB, Wyrwich KW, Wu AW, et al. ISOQOL recommends minimum standards for patient-reported outcome measures used in patient-centered outcomes and comparative effectiveness research. Qual Life Res. 2013;22(8):1889-1905. DOI: 10.1007/s11136-012-0344-y
- U.S. Food and Drug Administration. Patient-Reported Outcome Measures: Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims (Guidance for Industry). 2009. PDF
- RAND Corporation. 36-Item Short Form Survey (SF-36) resources. RAND SF-36
- Kyte DG, Calvert M, van der Wees PJ, et al. An introduction to patient-reported outcome measures (PROMs) in physiotherapy. Physiotherapy. 2015.(概説)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

