障害年金(肢体)の診断書評価|ROM・筋力・ADLの返し方

制度・実務
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障害年金(肢体)の診断書評価は、様式の欄に沿って返す

障害年金の「肢体の障害用」診断書では、ROMや筋力だけでなく、日常生活における動作、補助用具の使用状況、日常生活活動能力・労働能力などが確認されます。医師からリハ職へ評価依頼が来たときは、独自の評価セットを作るより、診断書の該当欄を確認し、その欄に必要な情報を同じ条件で返すことが重要です。

この記事では、理学療法士・作業療法士などのリハ職を対象に、様式第120号の3をもとに、ROM・筋力、⑱日常生活動作、⑲補助用具をどう確認し、医師へどう返すかを整理します。障害等級そのものをリハ職が判断するのではなく、診断書作成に必要な客観的情報をそろえることに焦点を当てます。

先に結論:診断書の対象部位・現症時点を確認し、⑯ROM・筋力、⑱日常生活動作、⑲補助用具の順に整理します。特に、補助用具を使用しない状態で判断する項目と、実生活で実際に使用している杖・装具・車椅子などを混同しないことがポイントです。

障害年金(肢体)の診断書評価で、診断書の該当欄確認からROM・筋力、日常生活動作、補助用具、医師への返却までの流れを示した図
障害年金(肢体)の診断書評価でリハ職が確認する流れ。公式様式の判定条件と、実生活での補助用具使用状況を分けて整理します。

まず診断書の該当欄・対象部位・現症時点を確認する

評価を始める前に、どの傷病・どの部位について、どの時点の状態を返す依頼なのかを確認します。障害年金の肢体用診断書には多くの項目がありますが、本人の障害と無関係な項目まで機械的に評価する必要はありません。

リハ職へ依頼が来た場合は、少なくとも次の点を依頼医師・依頼内容と照合してから測定します。

  • 対象:障害年金の「肢体の障害用」診断書に必要な評価か
  • 対象部位:上肢、下肢、体幹・脊柱など、どこが障害認定の対象か
  • 現症時点:診断書へ記載する現症日の状態と評価時点が合っているか
  • 必要欄:ROM・筋力、日常生活動作、補助用具など、何を医師が必要としているか
  • 測定上の条件:疼痛、痙縮、拘縮、疲労、認知面など評価結果に影響する要素があるか

「障害年金だからROMを全部測る」と考えるのではなく、診断書の該当欄と対象となる障害を先に確認してから評価範囲を決めるほうが、取り直しや不要な測定を減らせます。

⑯ ROM・筋力は診断書の記載方法に合わせて整理する

⑯「関節可動域及び筋力」では、肩・肘・前腕・手・股・膝・足関節について、左右の状態を記載する欄があります。リハ職が普段使っている評価表現をそのまま返すのではなく、診断書が求めている測定方法・区分を意識して情報を整理することが重要です。

ROMは他動可動域を中心に返す

肢体用診断書の⑯では、関節可動域について他動可動域による測定値を記載するよう示されています。また、健側と患側を比較して障害の程度が判断される場合があるため、対象となる関節では左右の情報が重要になります。

リハ職から医師へ返すときは、角度だけでなく、結果を解釈するために必要な条件を短く添えます。

ROM評価で医師へ返したい情報
項目 返す内容 理由
関節・運動方向 対象関節と屈曲・伸展などの運動方向 診断書の該当欄と対応させるため
他動可動域 左右の角度 ⑯の記載方法に合わせるため
制限因子 疼痛、痙縮、拘縮など 同じ角度でも制限の背景が異なるため
測定条件 体位や測定を妨げた条件 測定値の再現性を共有するため

自動運動の状態が臨床上重要な場合は補足情報として共有できますが、診断書のROM欄に何を記載するのかと、臨床上の追加所見を分けて伝えると整理しやすくなります。

筋力はMMT値だけで終わらせない

⑯の筋力欄は、一般的なMMTの0〜5をそのまま記入する形式ではなく、「正常」「やや減」「半減」「著減」「消失」の区分で記載する様式です。

したがって、院内評価としてMMTなどを行った場合も、「MMT○」だけを医師へ返して終わるのではなく、診断書では別の区分が用いられていることを意識して共有します。MMTと診断書上の筋力区分を機械的に1対1対応させるのではなく、実際の運動状況を含めて医師が判断できる情報を返します。

実務上のポイント:リハ記録では普段どおりMMTなどの評価結果を残しつつ、診断書作成用の返却では「公式様式の筋力欄は別区分」であることを分けて考えます。

⑱ 日常生活動作は「補助用具なし」の条件を外さない

⑱「日常生活における動作の障害の程度」は、肢体用診断書で特に条件を取り違えやすい項目です。日本年金機構の記載要領では、補助用具を使用しない状態で判断するよう示されています。

つまり、普段は杖や装具を使用して安全に歩けている人について、「杖を使えば歩けるから問題なし」と⑱を判断するのではありません。⑱の判定条件と、実際の生活で補助用具を使った状態を分ける必要があります。

⑱では、上肢では手指操作、食事、洗顔、更衣など、下肢・体幹では立位、座位、しゃがみ動作、歩行、立ち上がり、階段昇降など、日常生活に直結する動作が確認されます。

⑱の日常生活動作を評価するときの整理
見ること 確認例 記録のポイント
上肢・手指 つまみ、把持、食事、更衣など 左右差、遂行の可否、動作の不自由さを確認する
下肢・体幹 立位、座位、歩行、立ち上がり、階段など 補助用具なしという判定条件をそろえる
変動 疲労、疼痛、痙縮など 評価結果へ影響した場合は補足する

ここで大切なのは、FIMやBarthel Indexなど別のADL尺度の点数へ置き換えることではありません。院内でそれらを使用していても、障害年金の診断書では診断書自身の動作項目と判定条件に沿って確認する必要があります。

⑲ 補助用具は実生活での使用状況として別に整理する

⑱で補助用具を使用しない状態を確認したあと、実際の生活で杖・装具・車椅子などをどう使用しているかは⑲で別に整理します。この2つを混ぜないことが、障害年金(肢体)の評価依頼で重要な境界です。

⑲には、上肢装具、下肢装具、杖、松葉杖、車椅子などの補助用具を記載する欄があり、使用している場合はその使用状況も確認します。

公式判定条件と実生活の情報を分ける例
場面 分けて確認する内容
⑱ 日常生活動作 補助用具を使用しない状態で、対象動作をどの程度行えるか
⑲ 補助用具 実生活で使用している杖・装具・車椅子などと、その使用状況
補足情報 補助用具によって何が可能になるか、どの場面で介助・見守りが必要か

例えば、「屋内はT字杖を使用して歩行可能」という生活情報は重要ですが、それだけで⑱の歩行能力を判定するのではありません。公式様式の判定条件と、実際の生活を説明する情報を両方そろえることで、医師が診断書へ反映しやすくなります。

㉑ 日常生活活動能力・労働能力につながる情報も補足する

肢体用診断書には、㉑「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」の記載欄があります。記載要領では、日常生活活動能力だけでなく、労働能力についても記載するよう示されています。

この欄そのものを最終的に記載・判断するのは医師ですが、リハ職は診療や評価で確認できた具体的な事実を返せます。

  • どの動作が一人では難しいか
  • どの程度の介助や見守りを要するか
  • 姿勢保持や移動をどの程度継続できるか
  • 疼痛や疲労で能力がどのように変化するか
  • 実生活で装具・杖・車椅子をどう使用しているか
  • 作業を継続するとどのような制限が出るか

「就労可能」「就労不能」とリハ職だけで結論づけるのではなく、医師が日常生活活動能力・労働能力を判断するための観察事実を具体的に返すことが基本です。

医師への返却は「診断書の欄→結果→補足」の順で短くまとめる

医師への返却は長文にする必要はありません。診断書のどこに対応する情報なのかが分かり、測定値と生活場面を追えることを優先します。

医師への返却メモの組み立て例
順番 返す内容
1.評価条件 評価日、対象部位、疼痛・痙縮など測定へ影響した条件
2.⑯ ROM・筋力 対象関節の左右他動可動域、筋力評価、必要な補足
3.⑱ 日常生活動作 補助用具なしの条件で確認した対象動作の状態
4.⑲ 補助用具 実生活で使用している補助用具と使用場面
5.補足 介助、見守り、疲労、疼痛、耐久性など診断書作成に役立つ事実

返却例

例:下肢障害の評価を依頼された場合

⑯:右膝関節の他動可動域は伸展−10°、屈曲100°。終末域で疼痛あり。筋力は院内評価結果を併記。⑱:補助用具を使用しない条件では立ち上がり・屋内歩行・階段で制限あり。⑲:実生活ではT字杖を常時使用し、屋外では見守りを要する。歩行継続により疼痛とふらつきが増加する。

この例は診断書の公式記載例ではなく、リハ職から医師へ評価結果を共有するときの整理例です。実際には対象となる傷病・部位・依頼内容に合わせて必要な項目だけを返します。

数値と生活状況が合わないときは「矛盾」と決めつけない

ROMや筋力の数値と、実生活でできている動作が一致しないことは珍しくありません。代償動作、環境調整、補助用具、疼痛、疲労などによって、同じ身体機能でも生活上の遂行状況は変わります。

評価依頼で起こりやすいズレと確認点
ズレ 確認すること
ROM制限が強いがADLは可能 代償方法、反対側上肢・下肢の使用、環境調整を確認する
短時間は可能だが生活では困る 疼痛、疲労、反復回数、耐久性を確認する
院内では歩けるが自宅では介助 補助用具、段差、距離、手すり、見守り条件を確認する
良い日と悪い日の差が大きい 日内・日差変動と評価日の位置づけを補足する

リハ職の役割は、数値と生活状況を無理に一致させることではありません。なぜ差が生じているのかを観察事実として補足することで、診断書の情報が具体的になります。

リハ職は障害等級を判定せず、評価事実を医師へ返す

障害年金の障害等級は、診断書の一つの数値だけで決まるものではありません。肢体の障害では、関節可動域、筋力、巧緻性、速さ、耐久性などの身体機能と、日常生活における動作などが総合的に考慮されます。

そのため、リハ職が「このROMなら○級」「このADLなら受給できる」と判定するのではなく、測定・観察した事実を、公式様式の条件に沿って医師へ返すところまでを担当します。

また、障害年金の請求要件、初診日の扱い、障害認定日、受給可否などは、本記事の評価実務とは別の論点です。患者・家族から制度そのものについて相談された場合は、年金事務所などの適切な窓口につなぐ必要があります。

よくある質問

Q1.ROMは自動可動域と他動可動域のどちらを返しますか?

肢体用診断書の⑯では、関節可動域について他動可動域による測定値を記載するよう示されています。自動運動が臨床的に重要な場合は補足できますが、診断書のROM欄に必要な情報と追加所見を分けて共有すると整理しやすくなります。

Q2.MMTの0〜5をそのまま診断書の筋力欄へ当てはめてよいですか?

診断書の筋力欄は「正常」「やや減」「半減」「著減」「消失」という区分です。院内でMMTを使用していても、MMTの各段階と診断書の区分を機械的に1対1対応させるのではなく、評価結果を医師へ共有し、診断書の記載区分とは分けて扱います。

Q3.普段は杖で歩ける場合、⑱の日常生活動作も杖ありで評価しますか?

⑱は補助用具を使用しない状態で判断するよう記載要領に示されています。普段の杖・装具・車椅子などの使用状況は⑲で別に整理します。「公式判定条件」と「実生活での状態」を混同しないことがポイントです。

次の一手:書類ごとの評価条件を分けて確認する

障害年金以外の診断書・意見書では、同じROMやADLでも求められる項目や判定条件が異なります。書類評価依頼の受け方そのものを整理したい場合は、書類作成のためのROM・MMT・ADL評価依頼で共通フローを確認してください。

身体障害者手帳の肢体不自由について確認したい場合は、身体障害者手帳(肢体)のROM・ADL評価で制度別の違いを整理できます。


参考文献

  1. 日本年金機構.肢体の障害用の診断書を提出するとき.日本年金機構
  2. 日本年金機構.診断書(肢体の障害用).様式第120号の3.PDF
  3. 日本年金機構.障害基礎年金・障害厚生年金の診断書作成の留意事項《肢体の障害》.PDF
  4. 日本年金機構.国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第7節 肢体の障害 第4 肢体の機能の障害.PDF
  5. 日本年金機構.(別紙)肢体の障害関係の測定方法.PDF
  6. 日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会,日本足の外科学会.関節可動域表示ならびに測定法改訂について(2022年4月改訂).Jpn J Rehabil Med.2021;58(10):1188-1200.doi:10.2490/jjrmc.58.1188

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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