障害年金(肢体)の評価依頼が来たら: ROM ・ ADL の “整合” を先に作る
障害年金(肢体)の診断書作成では、医師が等級判断に必要な材料として、リハ職へ ROM(関節可動域)・筋力・巧緻性 と、日常生活動作の状態( ADL )の確認を求めることがあります。
肢体の機能の障害は、 ROM だけで決まりません。 ROM・筋力・巧緻性・速さ・耐久性を考慮し、日常生活における動作の状態から身体機能を総合的に認定する、とされています。つまり現場で重要なのは、数値を集める前に 「数値と ADL の整合」を取ることです。
評価の引き出しを増やしつつ、働き方の選択肢も整理すると迷いが減ります。
PT のキャリア設計を 5 分で確認する障害年金(肢体)で求められやすい評価: 3 つの柱
依頼が来たら、まず「どの情報が等級判断に直結するか」を押さえます。評価は大きく 3 つの柱で整理すると回しやすくなります。
- 身体機能(数値): ROM、筋力、巧緻性(指先・把持)、速さ、耐久性
- 生活機能(場面):日常生活動作の状態(移動・更衣・排泄・入浴など)
- 測定条件(解釈):疼痛、痙縮、装具、疲労、日内変動、代償動作
依頼が来たら最初に確認する 4 点
取り直しを減らすため、依頼者(医師・事務・ MSW )に最初に確認します。
- 目的:障害年金(肢体)か、他制度(手帳・介護保険)も同時か
- 期限:いつまでに、メモ/所定欄/口頭のどれで返すか
- 時点:現状、退院時、外来フォロー時など「いつの状態」か
- 制約:疼痛、痙縮、装具、体位、疲労、測定の中止基準
最小セット:まずは “主要 ROM +主要筋力+ ADL 3 場面”
最小セットを固定してから、必要時のみ追加します。忙しい現場ほど「最小セット→追加」の順が安全です。
| 領域 | 最小セット | 追加の判断 | 返却の型 |
|---|---|---|---|
| ROM | 主要関節(障害部位に直結する運動を中心) | 痛み・痙縮・拘縮が強い/左右差が大きいときは関連運動を追加 | 角度+測定条件(体位・他動/自動・制限因子) |
| 筋力 | 主要筋群( MMT 等)+ “動作での実用性” | 歩行・移乗に影響するなら下肢、巧緻性なら手指機能を深掘り | 段差・立ち上がり・把持など 1 行所見を添える |
| 巧緻性・速さ・耐久性 | 日常で困る “作業” を 1 ~ 2 例(書字、ボタン、つまみ、歩行継続など) | 症状の変動が大きい/疲労で崩れるときは “再現性” を追加 | できる/できない+時間・回数・疲労で変わるか |
| ADL | 移動・更衣・入浴(または排泄)の 3 場面 | 生活上の主訴が別にあるとき(例:家事、買い物)を追加 | 手段+介助量+危険場面(転倒/痛み) |
ROM を “書類に耐える” 形で返すコツ:条件が 8 割
障害年金の肢体の障害関係では、関節可動域の表示ならびに測定法を一定の方法で示し、障害認定業務を的確化・簡素化する意図が示されています。現場では「角度」だけでなく、測定条件を残すほど解釈が安定します。
評価の全体像(測定の標準化・記録の型)は、評価まとめ(ハブ)に集約しています。
ROM 返却メモ:最低限の “ 5 行 ”
- 体位:背臥位/座位/立位 など
- 運動:他動/自動(どちらで測ったか)
- 制限因子:疼痛、痙縮、拘縮、恐怖、腫脹 など
- 補助:固定、代償の抑制、介助の有無
- 再現性:日内変動、疲労、実施回数
ADL は “短文” に落とす:できる/している/させている
障害年金(肢体)では、 ROM・筋力などの数値要素に加え、日常生活動作の状態から総合認定されます。つまり ADL の “書き方” が評価の芯になります。
| 場面 | 最小の書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 移動 | 手段+監視/介助+危険場面 | 屋内は T 字杖で監視、方向転換でふらつき(転倒注意) |
| 更衣 | 上衣/下衣で分ける | 上衣は自立、下衣は立位保持不安で見守り必要 |
| 入浴 | 出入り/洗体/更衣に分解 | 浴槽出入りは手すり必須で監視、洗体は一部介助 |
| 排泄(必要時) | 移動+動作+夜間 | 夜間は痛みで立位保持困難、トイレ移動に見守り必要 |
医師に返す「 1 枚メモ」テンプレ:数値+場面+注意点
返却は長文よりも「判断できる材料」が優先です。以下の順で並べると、読み手の負担が下がります。
- 測定条件:体位/他動・自動/疼痛・痙縮/装具/再現性
- ROM :主要運動、左右差、制限因子
- 筋力・巧緻性:数値+実用性(段差、立ち上がり、書字、ボタン)
- ADL :手段+介助量+危険場面
- 一言まとめ:生活上の主な制約を 1 行
よくある失敗: OK / NG で “整合” を崩さない
数値があっても、 ADL と噛み合わないと説明が難しくなります。矛盾が出るときは、代償や疲労、再現性を 1 行で補います。
| 論点 | NG(起きがち) | OK(こう直す) | ひと言 |
|---|---|---|---|
| ROM の条件 | 角度だけ返す | 他動/自動+疼痛・痙縮+体位を 1 行で添える | 条件がない数値は誤解される |
| 数値と ADL | 重度の ROM 制限なのに ADL は “自立” の一言 | 代償(手すり、手順)と見守り理由を短文で | 整合が取れると説明が短くなる |
| 疲労・変動 | 良い日だけで評価 | 日内変動や疲労で崩れるかを “再現性” として追記 | 耐久性の説明に直結 |
| 巧緻性 | 「巧緻動作低下」だけ | ボタン、つまみ、書字など “困る作業” を 1 ~ 2 例 | 場面があると伝わる |
忙しい日に回す「 5 分フロー」
- 1 分:目的、期限、時点、制約( 4 点)を確認
- 2 分:最小セット(主要 ROM +主要筋力+ ADL 3 場面)
- 1 分:測定条件 “ 5 行 ” を記録
- 1 分:一言まとめ(生活上の制約を 1 行)
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. ROM は他動と自動、どちらで返すべきですか?
原則は、運用で求められている方法に合わせます。迷うときは、他動/自動の別と、疼痛・痙縮・体位などの測定条件を 1 行で残すと、数値の解釈が安定します。
Q2. 数値と ADL が矛盾します。どう書けばいいですか?
矛盾が出るときは、代償や環境(手すり、動作手順、見守り)で成立していることが多いです。代償(何で補っているか)と再現性(疲労・日内変動)を 1 行添えると整合が取れます。
Q3. 巧緻性や耐久性は何を返せばいいですか?
検査名を増やすより、日常の作業例で返すほうが伝わりやすいことがあります。例:ボタンが留められない、つまみが回せない、歩行が 5 分で崩れる、など「作業+どの程度」で短文化します。
Q4. 期限が短く、全部は測れません。
最小セット(主要 ROM +主要筋力+ ADL 3 場面)だけ先に押さえ、条件 5 行と一言まとめで返します。必要なら “追加の判断” を後追いで提案します。
次の一手:共有の型を作って、依頼対応をラクにする
運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検(無料チェックシート)
無料チェックシートを使って環境も点検する参考文献
- 日本年金機構.国民年金・厚生年金保険 障害認定基準(第 4 肢体の機能の障害).PDF
- 日本年金機構.(別紙)肢体の障害関係の測定方法.PDF
- 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会/公益社団法人 日本整形外科学会/一般社団法人 日本足の外科学会.関節可動域表示ならびに測定法改訂について( 2022 年 4 月改訂).Jpn J Rehabil Med.2021;58(10):1188-1200.DOI:10.2490/jjrmc.58.1188
- 政府広報オンライン.障害年金の制度(障害等級の位置づけ等).Web
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


