摂食機能療法の記録は「型」を決めると迷いが減ります
摂食機能療法の記録が難しく感じるのは、文章力よりも「何を固定して、何を 1 つだけ変えたか」が残っていないことが原因になりがちです。記録が安定すると、次回の計画が自然に出て、チーム共有も速くなります。
この記事では、直接と間接で迷いにくい記録テンプレを用意し、さらに中止・中断した日の書き方までまとめます。まず全体像(直接/間接の役割)を整理してから進めたい場合は、直接嚥下訓練と間接嚥下訓練の違い(比較・使い分け)を先に読むとスムーズです。
結論:目的 → 条件 → 反応 → 次回 1 手で回す
記録の最小構成は、目的(今日の狙い)、条件(何を固定したか)、反応(何がどう変わったか)、次回 1 手(次に変える 1 点)の 4 つです。これだけで「書ける」状態になり、引き継ぎも強くなります。
コツは一貫して 1 つで、変更は 1 つだけにします。直接でも間接でも、変更点が複数になると「何が効いたのか」が残らず、計画がブレます。
まず押さえる 3 点
摂食機能療法は、実施内容だけを書いても評価されにくい場面があります。次の 3 点をそろえると、記録の筋が通ります。
| 軸 | 何を書く | 例 |
|---|---|---|
| 目的 | 今日「何を変える日」かを 1 行で | 咳嗽が弱いので、排痰と呼気を整える |
| 条件 | 姿勢・環境・負荷など、固定した前提 | 座位保持可、休息あり、実施は午前 |
| 反応 | 変化(良い/悪い)と、次回に使える成功条件 | 後半で疲労増、休息を増やすと安定 |
テンプレに入る前に:間接/直接/中止は「残す順番」が違う
テンプレをコピペしても、意図が揃っていないと運用が崩れます。間接は目的 → 所見 → メニュー、直接は固定条件+変更点 1 つ、中止日は兆候 → 調整 → 再評価 → 判断の順番を守ると、チーム共有が速くなります。
テンプレ ① 間接嚥下訓練(目的別)
間接は「とりあえず体操」になりやすいので、目的 → 所見 → メニューを 1 行でつなげてから実施すると安定します。回数や負荷もセットで残すのがポイントです。
| 目的(例) | 所見(例) | 実施(書く項目) | 記録例( 1 行) |
|---|---|---|---|
| 姿勢の土台 | 座位が崩れる | 姿勢・支持、実施時間、介助量 | 座位 10 分、体幹支持で安定、後半は崩れやすい |
| 呼吸・咳嗽 | 痰が多い、咳が弱い | メニュー、回数、休息、痰の変化 | 随意咳 5 回× 2、呼気を意識で改善、痰は少し出やすい |
| 口腔機能 | 舌の可動性低下 | 運動内容、回数、代償の有無 | 舌の左右運動 10 回、代償少なく実施可 |
| 筋力・耐久 | 継続が難しい | 負荷(回数・セット)、疼痛・疲労 | 回数は控えめで継続可、疲労は軽度 |
| 感覚入力 | 反応が遅い | 刺激方法、実施タイミング、反応 | 刺激後に反応が速い傾向、次回も同条件で確認 |
テンプレ ② 直接嚥下訓練(条件の固定が主役)
直接は、食形態や一口量を変えるほど比較が難しくなるため、まずは成功条件を固定してから、変更を 1 つだけ行います。書くべき要素を固定すると、引き継ぎが強くなります。
| 項目 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 目的 | 今日の狙い(効率/残留/タイミングなど) | 少量で成功条件を作る |
| 固定条件 | 姿勢・環境・介助の前提 | 座位安定、注意分散少、介助は最小 |
| 食形態 | 形態を明記(変えるなら理由も) | ゼリー少量 |
| 一口量・ペース | 量、間隔、休息 | 少量、休息を挟む |
| 手技・頭位 | 実施した手技、頭位 | 手技なし、頭位は固定 |
| 反応 | むせ、湿性嗄声、呼吸、 SpO2 、疲労 | むせなし、後半で疲労増 |
| 変更点( 1 つ) | 今回変えた 1 点だけ | 休息間隔を増やす |
| 次回 1 手 | 次に変えるのも 1 つだけ | 量は固定で、ペースのみ調整 |
コピペ用:リスク高/疲労強い日の 1 行例
(例)ゼリー少量で実施、座位安定・注意分散少を固定し、ペースはゆっくり+休息多め。後半で湿性嗄声が増えたため量は変えず当日は終了、次回は休息間隔をさらに延長して再試行。
テンプレ ③ 中止・中断した日の書き方(兆候 → 調整 → 判断)
中止・中断は「やめた」だけで終えると、次回も同じ迷いが出ます。兆候 → 調整 → 再評価 → 判断を 1 セットで残すと、次回の設計に使えます。
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| 兆候 | 何が出たか(むせ、湿性嗄声、呼吸、 SpO2 、疲労) | 後半でむせ増、呼吸数 ↑ |
| 調整( 1 つ) | 条件を 1 つだけ戻す/変える | 一口量を下げる |
| 再評価 | 調整後に兆候がどう変化したか | むせ減、呼吸は安定 |
| 判断 | 継続/中断/中止(理由も 1 行) | 当日は直接終了(疲労が強い) |
| 次回 1 手 | 次は何を 1 つ変えるか | 休息間隔を増やして再試行 |
現場の詰まりどころ:よくある NG と回避策
迷ったらここだけ確認(解決の三段)
記録が崩れるパターンはだいたい決まっています。NG を表にしておくと、チームで共通言語になり、引き継ぎが速くなります。
| よくある NG | なぜ起きる | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 目的が書けず、実施内容だけ残る | 今日の狙いが未設定 | 目的を 1 行で固定してから実施 | 目的( 1 行)+ 次回 1 手 |
| 変更点が複数で比較できない | 焦って同時に調整してしまう | 変更は 1 つだけ(優先順位を決める) | 今回変えた 1 点を明記 |
| 間接が「体操メニュー集」になる | 所見とメニューがつながらない | 目的 → 所見 → メニューを 1 行でつなぐ | 狙い、回数・負荷、達成度 |
| 中止時に「中止」だけで終わる | 次回設計につながらない | 兆候 → 調整 → 再評価 → 判断を残す | 兆候、調整 1 つ、再評価 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 記録が長くなって続きません
A. 最小構成(目的 → 条件 → 反応 → 次回 1 手)に戻すと短くなります。特に「変更は 1 つだけ」を守ると、文章量が自然に減ります。
Q2. 間接の記録は何を書けば評価されますか?
A. メニュー名よりも、目的と所見がつながっていること、回数・負荷が書けていること、達成度と次回の進行条件が残っていることが重要です。
Q3. 直接の記録で一番大事なのは何ですか?
A. 食形態と一口量、姿勢、ペースを「固定条件」として残し、今回変えた 1 点が分かることです。これが揃うと、引き継ぎが一気に楽になります。
Q4. 中止・中断した日はどう書けば良いですか?
A. 兆候 → 調整( 1 つ) → 再評価 → 判断を 1 セットで書きます。「中止」だけで終えないことが、次回の安全域を広げる近道です。
Q5. 多職種(看護/栄養/ST)に通じる書き方はありますか?
A. 「目的(何を改善したいか)」「条件(固定した前提)」「反応(安全面の変化)」「次回 1 手(次に変える 1 点)」の順番にそろえると、職種が違っても読み取りが揃います。特に直接は「固定条件」と「変更点 1 つ」が見えると、申し送りが速くなります。
次の一手
参考文献
- American Speech-Language-Hearing Association. Adult Dysphagia (Practice Portal). ASHA
- Logemann JA. Approaches to management of disordered swallowing. Baillieres Clin Gastroenterol. 1991;5(2):269-280. doi:10.1016/0950-3528(91)90030-5. PubMed
- National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities. Dysphagia Rehabilitation Manual. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


