NYHAとSASの違い|心不全評価の使い分け
結論:心不全患者の症状による機能的重症度を短く共有するならNYHA、日常生活のどの活動強度から症状が出るかをMETsで具体化するならSASが向いています。どちらか一方を選ぶだけでなく、まずNYHAで全体像をそろえ、活動レベルを詳しく確認したいときにSASを追加すると使い分けやすくなります。
本記事では、NYHAとSASの違い、選び方、併用する順番、記録時に残す内容を比較します。各分類の詳細な判定方法ではなく、心不全評価で迷いやすい「どちらを何のために使うか」に絞って整理します。
NYHAとSASの違いを比較
NYHAは「症状による活動制限の程度」、SASは「症状が出る活動強度」を捉える指標です。NYHAはI〜IVの4段階で共有しやすく、SASは具体的な生活動作とMETsを対応させやすい点が異なります。
| 比較項目 | NYHA | SAS |
|---|---|---|
| 主な目的 | 心不全症状による機能的重症度を共有する | 症状が出る活動強度を半定量化する |
| 判定軸 | 自覚症状と身体活動制限 | 活動可否とMETs |
| 結果 | I〜IVの4段階 | 症状により実施できない活動のうち、最も低い強度 |
| 取得方法 | 普段の活動と症状を問診する | 強度が分かっている複数の活動について可否を確認する |
| 向いている場面 | 初回評価、経過要約、カンファレンス、多職種共有 | 生活活動の上限把握、目標設定、患者説明 |
| 主な限界 | 評価者や患者の捉え方によって判定が変わりやすい | 生活歴や環境により、活動項目へのなじみが異なる |

簡単に覚えるなら、NYHAは症状をクラスへまとめる指標、SASは生活動作を活動強度へ置き換える指標です。
目的別|NYHAとSASの選び方
評価の目的が「短く共有」ならNYHA、「生活動作を具体化」ならSASを選びます。迷ったときは、最初に何を明らかにしたいかで判断します。
| 確認したいこと | 選ぶ指標 | 理由 |
|---|---|---|
| 現在の機能的重症度を短く伝えたい | NYHA | I〜IVの共通した分類で共有しやすい |
| 前回から症状による活動制限が変化したか見たい | NYHA | 同じ通常活動を基準にすると経過を比較しやすい |
| どの生活動作から症状が出るか知りたい | SAS | 活動例とMETsを対応させて確認できる |
| 患者と生活目標を具体的に話したい | SAS | 階段、歩行、家事などの活動へ置き換えやすい |
| 重症度と生活活動の両方を整理したい | NYHA+SAS | クラスによる共有と、活動強度の具体化を補完できる |
| 実際の歩行耐容能を測定したい | 別の運動耐容能評価を追加 | NYHAとSASはいずれも問診を中心とするため |
NYHAとSASは、実際に身体活動を行わせて反応を測る運動負荷試験ではありません。歩行距離、運動中の症状、心拍数、血圧、酸素飽和度などを客観的に確認したい場合は、患者の状態と施設の手順に応じて別の評価を組み合わせます。
NYHAが向いている場面
NYHAは、心不全症状による活動制限をI〜IVにまとめ、多職種で共有したい場面に向いています。初回評価、入退院時、カンファレンス、診療録の要約などで使いやすい指標です。
- I:通常の身体活動で症状がない
- II:通常の身体活動で症状が出る
- III:通常より軽い身体活動で症状が出る
- IV:安静時にも症状がある
判定時はクラス名だけを先に決めず、安静時症状の有無を確認したあと、その患者にとっての通常活動と症状が出る動作を具体化します。
特にIIとIIIは、「通常の活動」と「通常より軽い活動」の捉え方で判定が変わりやすい部分です。買い物、屋内歩行、入浴、階段など、患者が普段行っている動作を基準にすると記録しやすくなります。
詳しい判定の進め方と記録例は、NYHA心機能分類の判定と記録例で確認できます。
SASが向いている場面
SASは、心不全症状がどの程度の活動強度から現れるかを、生活動作とMETsで具体化したい場面に向いています。NYHAだけでは活動上限が曖昧なときや、生活目標を患者と共有するときに役立ちます。
SASでは、あらかじめ活動強度が推定されている複数の動作について、症状のため実施できるかどうかを確認します。そのうえで、実施できない活動のうち最も低い強度を、機能を捉える手がかりとします。
ただし、活動項目を患者が普段行っていない場合は、心不全症状以外の理由で「できない」と答える可能性があります。問診では、できない理由を次のように分けて確認します。
- 息切れ、動悸、胸部症状、疲労などのためできない
- 運動器疾患や疼痛のためできない
- 麻痺やバランス障害のためできない
- 生活上、その活動を行う機会がない
- 環境や介助条件のため実施できない
「できない」という回答だけで判断せず、心不全症状による制限かを確認することが重要です。
心不全ステージ分類との違い
ステージ分類は病態の進行段階、NYHAとSASは現在の症状や活動能力を捉える指標です。同じ分類として置き換えるものではありません。
| 分類・尺度 | 主に捉えるもの | 臨床での役割 |
|---|---|---|
| 心不全ステージ | 心不全の発症リスクと病態の進行段階 | 予防・治療を含む長期的な病態の整理 |
| NYHA | 現在の症状と身体活動制限 | 機能的重症度の共有 |
| SAS | 症状が出る活動強度 | 生活活動の具体化 |
実務では、ステージで長期的な病態を整理し、NYHAで現在の機能的重症度を共有し、必要に応じてSASで活動レベルを具体化すると区別しやすくなります。
NYHAとSASを併用する流れ
併用するときは、安全確認後にNYHAで全体像を共有し、活動レベルを詳しく知りたい場合にSASを追加します。すべての患者へ毎回両方を行うのではなく、評価目的に応じて使い分けます。
- 現在の状態を確認する:安静時症状、体調変化、バイタル、体重変化などを確認する
- NYHAを判定する:通常活動と症状が出る動作を具体的に聞く
- SASの必要性を判断する:活動上限や生活目標を具体化する必要があるか確認する
- SASで活動可否を聞く:心不全症状以外のできない理由も区別する
- 記録と共有を行う:分類名だけでなく、症状と代表動作を残す
SASから得られるMETsは、生活活動を考えるための目安です。運動負荷を決める場合は、病態、症状、バイタル、服薬、運動耐容能などを合わせて判断します。
NYHAとSASの記録例
記録では、分類やMETsだけでなく、判断根拠となった活動と症状を併記します。同じ条件で再評価でき、多職種が患者像を理解しやすくなります。
NYHAの記録例
NYHA II。安静時症状なし。屋内歩行では症状を認めないが、屋外での連続歩行と階段昇降で息切れが出現する。
SASの記録例
SAS問診では、平地歩行は可能。階段昇降では息切れのため休憩を要する。活動可否は運動器疼痛ではなく、労作時呼吸困難によって制限されている。
併用時の記録例
NYHA II。通常の家事は可能だが、階段昇降と荷物を持った歩行で息切れが出現する。SASでは該当する活動強度から症状がみられた。次回も同じ生活動作を用いて変化を確認する。
具体的な数値を記録する場合は、実際に使用したSASの活動項目と判定方法に基づいて記載してください。
NYHAとSASで起こりやすい失敗
判定がぶれる主な原因は、活動条件を固定していないことと、「できない理由」を分けていないことです。再評価を前提に、何を基準に判定したかを残します。
| 場面 | よくある失敗 | 対策 |
|---|---|---|
| NYHA判定 | 具体的な活動を確認せず、印象でクラスを決める | 通常活動と症状が出る活動を具体的に記録する |
| IIとIIIの境界 | 「軽い活動」の意味が評価者ごとに異なる | その患者の日常生活を基準にして判断する |
| SAS問診 | 実施していない活動を「できない」と判定する | 未経験、環境、運動器疾患、心不全症状を区別する |
| METsの扱い | 推定されたMETsだけで運動負荷を決める | 症状、バイタル、病態、客観的評価を合わせて判断する |
| 再評価 | 前回と異なる活動や聞き方で比較する | 代表動作と質問方法をできるだけそろえる |
| 安全確認 | 状態変化を確認せず、分類の問診を続ける | 安静時症状や急な変化があれば、評価より先に共有・相談する |
再評価で確認すること
再評価では、クラスやMETsの変化だけでなく、同じ活動をどのように行えたかを比較します。薬剤調整、体液量、貧血、感染、疼痛、活動機会などでも回答は変わるため、評価時の条件を残します。
- 安静時症状の有無
- 症状が出る代表動作
- 休憩が必要になるまでの活動量
- 症状の種類と程度
- 前回と異なる体調・治療・生活条件
- 心不全症状以外の活動制限
NYHAのクラスが同じでも、歩ける距離や必要な休憩が変化している場合があります。分類名だけで変化なしと判断せず、活動内容を合わせて確認します。
NYHA/SAS評価記録シート(A4 PDF)
NYHAとSASを同じ流れで記録したい場合は、A4記録シートを使用できます。初回評価、外来フォロー、カンファレンス前の情報整理などに活用してください。
PDFプレビューを開く
よくある質問
各項目名をタップすると回答が開きます。
NYHAとSASは、どちらか一方だけでよいですか?
評価目的によっては一方だけでも構いません。機能的重症度を共有するだけならNYHA、活動強度を具体化したいならSASが向いています。重症度と生活活動の両方を整理したい場合は、NYHAのあとにSASを追加します。
NYHA IIとIIIはどこで見分けますか?
通常の身体活動で症状が出る場合はII、通常より軽い身体活動でも症状が出る場合はIIIが基本です。ただし「通常活動」は患者ごとに異なるため、買い物、入浴、屋内歩行、階段などの具体例を確認して判断します。
SASのMETsをそのまま運動処方に使えますか?
SASのMETsは、生活活動の上限を推定する手がかりです。単独で安全性や適切な運動負荷を確定するものではありません。病態、症状、バイタル、服薬、運動耐容能などを合わせて検討します。
SASの活動を経験したことがない場合はどうしますか?
未経験の活動を、そのまま「症状のため実施できない」と判定しないことが重要です。患者が実際に行う階段、歩行、家事、買い物などと照らし合わせ、できない理由を確認します。
次に確認する記事
比較の次は、実際に使用する尺度の手順を確認します。SASを使って活動可否とMETsを整理する場合は、単体記事で問診方法と記録の流れを確認してください。
運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう
心不全リハは、評価の型だけでなく、教育体制や多職種連携のしやすさでも回り方が変わります。見学や情報収集の前に、確認ポイントを1枚で整理しておくと判断しやすくなります。
参考文献
- Goldman L, Hashimoto B, Cook EF, Loscalzo A. Comparative reproducibility and validity of systems for assessing cardiovascular functional class: advantages of a new specific activity scale. Circulation. 1981;64(6):1227-1234. DOI
- Heidenreich PA, Bozkurt B, Aguilar D, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure. Circulation. 2022;145(18):e895-e1032. DOI
- Makita S, Yasu T, Akashi YJ, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circ J. 2023;87(1):155-235. DOI
- 日本循環器学会, 日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 2025. 公式PDF
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

