抑うつ評価の流れ(スクリーニング→重症度→再評価を現場で回す)
抑うつ評価で大事なのは、尺度名を覚えることよりも「同じ条件で拾って、同じ条件で追う」ことです。臨床では、疼痛・息切れ・不眠・環境変化・薬剤調整などが重なり、気分低下が “ 見えづらい形 ” で出ます。本記事では、スクリーニング → 重症度の把握 → 再評価を一連の運用手順として整理し、今日から迷わず回せる形に落とし込みます。
ポイントは 3 つです。①まず前提(痛み・睡眠など)をそろえる、②拾う尺度は 1〜2 個に絞って共有しやすくする、③再評価条件(いつ・どこで・誰が・直前状態)を固定して “ 変化を解釈できる ” 記録にする。この 3 点を押さえると、チームで同じ言葉が使えるようになります。
結論:5 分で回す最短フロー
迷ったら、次の順で進めると詰まりにくいです。点数は “ 判定 ” ではなく、共有できる情報に変換するための道具として使います。
- 前提を確認:疼痛・息切れ・睡眠・薬剤変更・環境変化(転棟/退院調整)・せん妄/見当識・重い失語/注意障害。
- スクリーニング:短時間で拾える尺度を 1 つ(必要なら補助で 1 つ)に絞る。
- 点数化+背景メモ:合計点だけでなく「上がっている領域」と「身体症状の影響」をセットで残す。
- 共有:点数+背景(痛み・睡眠・活動量)+リハへの影響(離床/自主練/外出)を 1 セットで渡す。
- 再評価:同条件で取り直し、変化要因(薬剤・痛み・睡眠)と一緒に解釈する。
まず前提をそろえる(スコアの “ ノイズ ” を減らす)
抑うつのスコアが上がる背景には、気分そのもの以外の要因が紛れます。ここを押さえずに尺度だけ回すと、「点数が高い=進めない」と誤解しやすくなります。最初に、スコアを揺らす要因をチェックしておくと、解釈と次の一手が速くなります。
臨床でよく効くのは、疼痛(持続痛/動作痛)、息切れ、睡眠(中途覚醒/早朝覚醒)、薬剤変更(鎮痛薬・睡眠薬)、環境変化です。これらは “ 抑うつ様 ” の見え方をつくるので、点数と一緒に必ず併記します。
スクリーニングの選び方(拾う → 共有する)
尺度はたくさんありますが、現場運用では「使い続けられる」が最優先です。迷ったら、抑うつ傾向を広く拾うなら SRQ-D、医療場面の不安・抑うつを同時に拾うなら HADS、高齢者で口頭実施しやすいなら GDS-15 を起点にすると安定します。
尺度の並べ方や、SRQ-D/HADS/QIDS-J/GDS-15 の導線は 心理・メンタル評価ハブ(抑うつ・不安) にまとめています。まずは “ どれを選ぶか ” をそこで決め、現場の標準を 1〜2 個に固定するとチームが迷いません。
重症度を “ 点数で追う ” ときの考え方(変化を読み取る)
スクリーニングで拾えたら、次は「どの程度か」「変化しているか」を見ます。ここで大事なのは、点数だけで結論を出さないことです。点数は “ 変化のサイン ” であり、背景(痛み・睡眠・活動量)と一緒に読むことで臨床の意思決定に変わります。
重症度を経時で追いたい場面(外来フォロー、地域での継続支援など)では、同じ尺度を同条件で繰り返すのが一番強いです。尺度を頻繁に乗り換えると、点数の増減が解釈できなくなります。
再評価の設計(頻度・条件固定・記録)
再評価で最も多い失敗は、条件が毎回バラバラになることです。「いつ」「どこで」「誰が」「どんな説明で」「直前の痛み・疲労・服薬はどうだったか」を固定しないと、点数の上下が “ 本当の変化 ” なのか “ ノイズ ” なのか分からなくなります。
頻度は目的で決めます。離床や自主練の進み方を見たいなら、まずは 1〜2 週単位で十分です。薬剤変更・痛み増悪・転棟・退院調整など “ 変化要因 ” が入ったタイミングは、同条件で取り直すと情報価値が上がります。
現場の詰まりどころ(よくある失敗と立て直し)
| よくある失敗 | 何が起きる? | 立て直し | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 点数だけで判断する | 高値=中止、低値=問題なし、になりやすい | 点数+背景(痛み・睡眠・活動量)+リハへの影響を 1 セットで共有する | 疼痛、睡眠、息切れ、薬剤変更、環境変化を併記 |
| 尺度をコロコロ変える | 経時変化が読めず、議論が止まる | 現場の標準を 1〜2 個に固定し、同条件で繰り返す | 実施者、場所、説明文、直前状態を固定 |
| 再評価条件がバラバラ | 点数の上下が “ ノイズ ” になる | 実施タイミングと環境をテンプレ化(例:午前の訓練前) | 時間帯、体位、疲労、服薬、痛みの直前値 |
| 共有が遅れる | 転倒・離床遅れ・栄養低下などが連鎖しやすい | 点数+背景+リハ影響を短文で即共有(申し送りの型を決める) | 「何ができないか」より「次に何をするか」を添える |
よくある質問(FAQ)
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Q1. スコアが高かったら、リハは中止した方がいいですか?
原則は “ 中止ありき ” ではなく、安全を確保した上で「予測可能性」と「段階づけ」を整える方向で考えます。高値の背景が痛み・息切れ・不眠・環境変化などにあると、説明と負荷設定だけで実施可能になることがあります。一方で、急性増悪や強い希死念慮が疑われる場合は、無理に進めず主治医・看護・心理職へ早めに共有します。
Q2. 自己記入が難しい(失語・注意障害・疲労が強い)ときは?
環境(静かな場所・時間帯・姿勢)を整え、口頭実施しやすい方法を検討します。尺度の実施に固執せず、睡眠・食欲・活動性・会話量などの観察情報も含めて “ 共有できる形 ” を作ります。最優先は、再評価の条件をそろえることです。
Q3. 再評価はどれくらいの頻度が現実的ですか?
目的が「離床・自主練・生活拡大の進み方」なら、まずは 1〜2 週単位で十分です。薬剤変更、痛み増悪、転棟、退院調整など “ 変化要因 ” が入ったときは、同条件で取り直すと解釈しやすくなります。
Q4. 疼痛や息切れが強いと、抑うつスコアは上がりますか?
上がることがあります。だからこそ、点数だけで結論を出さず、痛み・呼吸苦・睡眠・活動量を同じセットで記録して解釈します。背景要因がはっきりしているほど、次の一手(負荷調整・環境調整・教育)を選びやすくなります。
おわりに
抑うつ評価は、前提確認 → スクリーニング → 点数化+背景メモ → 共有 → 同条件で再評価のリズムにすると、現場で “ 使える情報 ” になります。尺度は目的に合わせて選び、続けられる形に固定することが一番の近道です。
評価を形にしたあとは、面談準備チェックと職場評価シートもセットで整えると動き出しが早いので、必要なら マイナビコメディカル(面談準備チェック&職場評価シート) も活用してください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

