SOAP 記録は ChatGPT で効率化できる?
理学療法士の業務では、評価や治療そのものだけでなく、SOAP 記録に多くの時間を使います。特に新人 PT や異動直後のスタッフでは、「何を書けばよいか」「どこまで客観的に書くか」「A の評価をどう表現するか」で手が止まりやすいです。
ChatGPT は、SOAP 記録を丸ごと代行するものではありません。しかし、箇条書きの情報を整理する、主観的な表現を客観的に言い換える、記録のたたき台を作るなど、文章化の補助には活用しやすいツールです。本記事では、理学療法士向けに SOAP 記録での ChatGPT 活用方法、入力例、注意点を実務ベースで解説します。
PDF 配布物:SOAP 記録 AI 活用チェックシート
ChatGPT を SOAP 記録に使う前に確認したい「個人情報」「S/O/A/P 別の使い分け」「コピペ前の確認」を A4 1 枚で整理できます。
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SOAP 記録に時間がかかる理由
SOAP 記録に時間がかかる理由は、単に文章を書くのが苦手だからではありません。患者の発言、観察所見、評価、方針を分けて整理し、さらに第三者が読んでも意味が伝わる形に整える必要があるためです。
特に理学療法士の記録では、歩行、起居、移乗、疼痛、筋力、バランス、ADL、リスク管理など多くの情報を扱います。そのため、「情報はあるのに文章化できない」「O と A が混ざる」「表現が曖昧になる」といった詰まりが起こりやすくなります。
| 詰まりどころ | 起こりやすい問題 | ChatGPT で補助しやすい部分 |
|---|---|---|
| S と O が混ざる | 患者発言と観察事実が混在する | 情報を分類する |
| O が曖昧になる | 「ふらつきあり」だけで終わる | 観察表現を整える |
| A が書けない | 所見から解釈へつなげにくい | 評価のたたき台を作る |
| P が抽象的になる | 「継続」だけで具体性が弱い | 次回方針を整理する |
ChatGPT は SOAP のどこを効率化できる?
ChatGPT が得意なのは、臨床判断そのものではなく、情報の分類・要約・言い換え・文章化です。そのため、SOAP 記録では「観察した内容をどう書くか」「長くなった文章をどう整理するか」といった部分で役立ちます。
一方で、病態判断、リスク管理、運動処方、介入方針の最終決定を AI に任せることはできません。ChatGPT は、あくまで理学療法士が考えた内容を整理する補助ツールとして使うのが安全です。ChatGPT 活用の全体像は、親記事の 理学療法士の ChatGPT 活用例 10選 でも整理しています。
| 項目 | 使いやすい用途 | 任せすぎない部分 |
|---|---|---|
| S | 患者発言の整理、短文化 | 発言の意図を勝手に決めること |
| O | 観察所見の文章化 | 観察していない所見の追加 |
| A | 評価のたたき台作成 | 病態判断の代行 |
| P | 次回方針の整理 | リスクを無視した運動処方 |
SOAP 記録に使う前の前提条件
SOAP 記録に ChatGPT を使う場合、最初に確認したいのは個人情報の扱いです。氏名、患者 ID、生年月日、住所、入院日、病棟名、詳細な経過など、個人を特定できる情報は入力しないようにします。
また、実際のカルテ文章をそのまま貼り付けるのも避けた方が安全です。使う場合は、症例を特定できない範囲に一般化し、「右片麻痺の患者」「立位バランス低下」「病棟内歩行見守り」など、個人情報を除いた抽象度で入力します。
| 確認項目 | 避けたい入力 | 安全側の言い換え |
|---|---|---|
| 氏名・ID | 患者名、患者 ID | 入力しない |
| 日付 | 入院日、手術日、詳細な経過日 | 急性期、回復期、退院前など |
| 施設情報 | 病院名、病棟名、地域名 | 医療機関、病棟、自宅など |
| 詳細経過 | 個人が特定され得る長い経過 | 必要最小限の背景に要約 |
S:主観情報を整理する入力例
S は、患者の訴えや発言、主観的な体調変化を整理する項目です。ChatGPT を使う場合は、患者の発言を勝手に解釈させるのではなく、「発言を短く整理する」「記録向けに整える」用途に限定すると使いやすいです。
例えば、患者の話が長くなった場合でも、記録に必要な部分だけを抽出する補助として使えます。ただし、ニュアンスが変わらないよう、出力後に必ず原発言と照合することが重要です。
入力例:
「以下の患者発言を、SOAP の S に記載しやすい形で短く整理してください。意味を変えず、主観情報としてまとめてください。
発言:昨日より足が重い感じがする。歩くと少し怖い。痛みは強くない」
出力確認の視点:
・発言の意味が変わっていないか
・医療者側の解釈が混ざっていないか
・S に書く内容として短く整理されているか
O:客観情報を文章化する入力例
O は、理学療法士が実際に観察・測定した客観情報を記録する項目です。ChatGPT との相性は良いですが、観察していない内容が追加されないよう注意が必要です。
「ふらつきあり」「見守り」だけで終わると、第三者が状況を読み取りにくくなります。そこで、歩行距離、介助量、使用物品、動作場面、バランス反応などを箇条書きで入力し、文章化の補助に使うと整理しやすくなります。
入力例:
「以下の情報を SOAP の O に整理してください。観察していない内容は追加せず、客観的な表現にしてください。
T 字杖使用、病棟内 30 m 歩行、右立脚期に骨盤右側方動揺、方向転換時にふらつき、見守りで実施」
出力確認の視点:
・主観的な表現になっていないか
・観察していない所見が追加されていないか
・距離、介助量、使用物品が残っているか
A:評価のたたき台を作る入力例
A は、S と O から何を判断したかを記録する項目です。SOAP 記録で最も手が止まりやすい部分ですが、ここを AI に丸投げするのは避けたいところです。
おすすめは、ChatGPT に「評価の候補」や「文章のたたき台」を出してもらい、最終的な臨床判断は自分で修正する使い方です。特に、問題点、原因仮説、リスク、介入方針とのつながりを整理する補助として使うと実務に落とし込みやすくなります。
入力例:
「以下の S と O から、SOAP の A のたたき台を作ってください。断定しすぎず、観察所見に基づく評価として簡潔にまとめてください。
S:歩くと少し怖い。痛みは強くない。
O:T 字杖使用、病棟内 30 m 歩行、右立脚期に骨盤右側方動揺、方向転換時にふらつき、見守りで実施」
出力確認の視点:
・根拠のない病態判断が入っていないか
・S と O に基づいた評価になっているか
・P につながる内容になっているか
P:計画を整理する入力例
P は、次回以降の介入方針や計画を整理する項目です。「歩行練習継続」だけでは、何を目的に継続するのかが伝わりにくい場合があります。
ChatGPT を使う場合は、A の内容を踏まえて、次回の介入目的、練習内容、確認項目を整理する補助として使えます。ただし、負荷量、禁忌、リスク管理、介助量の判断は、理学療法士自身が行う必要があります。
入力例:
「以下の A をもとに、SOAP の P のたたき台を作ってください。次回確認する点と介入内容を分けて、簡潔に整理してください。
A:右立脚期の支持性低下と方向転換時の不安定性により、病棟内歩行では見守りを要する。転倒リスクに配慮しながら、方向転換時の安定性向上が必要」
出力確認の視点:
・安全性への配慮があるか
・A と P がつながっているか
・実施可能な内容になっているか
ChatGPT 活用前後の記録イメージ
ChatGPT を使う目的は、文章をきれいにすることだけではありません。第三者が読みやすく、観察事実と評価のつながりが見えやすい記録に整えることが目的です。
以下のように、曖昧な表現を少し具体化するだけでも、記録の伝わりやすさは変わります。ただし、具体化できるのは実際に観察した内容に限ります。
| 項目 | 修正前 | 修正後の例 |
|---|---|---|
| O | 歩行時ふらつきあり | T 字杖使用下で 30 m 歩行。方向転換時に右側方への動揺を認め、見守りを要した。 |
| A | 歩行不安定 | 右立脚期の支持性低下と方向転換時のバランス低下により、病棟内歩行では転倒リスクへの配慮が必要。 |
| P | 歩行練習継続 | 方向転換時の安定性を確認しながら、T 字杖歩行練習と右立脚期の支持性向上を目的とした介入を継続する。 |
AI の文章をそのまま貼り付けない理由
ChatGPT の文章は自然に見えるため、そのまま使いたくなることがあります。しかし、医療記録では「自然な文章」よりも「事実に基づいていること」「観察内容と一致していること」「施設の記録ルールに合っていること」が重要です。
AI の出力には、観察していない情報が追加される、表現が断定的になる、施設内で使わない言い回しが入る、といったリスクがあります。そのため、ChatGPT の文章は下書きとして扱い、必ず自分で確認・修正してから使いましょう。
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| 事実確認 | 観察していない所見が追加されていないか |
| 表現確認 | 主観的・断定的な表現になっていないか |
| 施設ルール | 院内の記録様式や略語ルールに合っているか |
| 安全性 | リスク管理や介助量の記載が妥当か |
現場でよくある失敗
SOAP 記録に ChatGPT を使うときの失敗は、AI の使い方そのものよりも、入力内容と確認不足にあります。特に、抽象的な入力だけで完成度の高い記録を期待すると、一般論のような文章になりやすいです。
また、A や P まで AI に任せすぎると、実際の病態やリスクとずれた記録になる可能性があります。あくまで、自分が観察した情報を整理する補助として使うことが大切です。
| 失敗例 | なぜ問題か | 対策 |
|---|---|---|
| カルテ文をそのまま入力する | 個人情報のリスクがある | 症例を一般化して入力する |
| AI の文章をそのまま貼る | 事実と異なる内容が混ざる可能性がある | 観察内容と照合して修正する |
| A を丸投げする | 臨床判断の責任が曖昧になる | 評価候補として使う |
| 入力が抽象的 | 一般論しか返ってこない | 距離、介助量、場面を入れる |
おすすめの活用フロー
SOAP 記録に ChatGPT を使うなら、最初から完成文を作らせるよりも、箇条書きから整理する流れがおすすめです。特に O の観察所見や P の計画整理は、入力条件を具体的にすると使いやすくなります。
慣れてきたら、S/O/A/P のそれぞれで使い分けると、記録の質と作業効率を両立しやすくなります。大切なのは、AI の出力を完成形と考えず、自分の臨床推論と施設ルールに合わせて整えることです。
| ステップ | 内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 個人情報を除く | 患者名、ID、詳細経過は入力しない |
| 2 | 箇条書きで整理する | 距離、介助量、使用物品、場面を入れる |
| 3 | SOAP の項目を指定する | S/O/A/P のどれに整理するか明示する |
| 4 | 出力を修正する | 観察事実、リスク、施設ルールと照合する |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SOAP 記録に ChatGPT を使っても大丈夫ですか?
個人情報を入力せず、施設のルールを守り、最終確認を自分で行う前提であれば、文章整理やたたき台作成の補助として使いやすいです。診療判断やリスク判断を代行させる使い方は避けましょう。
カルテ内容をそのまま貼り付けてもよいですか?
おすすめできません。氏名、患者 ID、生年月日、詳細な経過など、個人を特定できる情報が含まれる可能性があります。症例を一般化し、個人情報を除いた形で入力しましょう。
AI が作った SOAP をそのまま使えますか?
そのまま使うのは避けた方がよいです。出力は下書きとして扱い、実際の観察事実、施設の記録ルール、理学療法士としての評価に合わせて修正する必要があります。
A の評価も ChatGPT に作らせてよいですか?
評価のたたき台や表現候補として使うのは有用です。ただし、病態判断、リスク判断、介入方針の決定は理学療法士自身が行う必要があります。
新人 PT でも使いやすいですか?
使いやすいです。特に、S/O/A/P の分類、O の客観表現、P の整理に役立ちます。ただし、AI の出力が正しいとは限らないため、先輩や施設の記録ルールと照らし合わせて学ぶことが重要です。
まとめ
ChatGPT は、SOAP 記録を代行するツールではなく、理学療法士の考えを整理する補助ツールです。特に、箇条書きの情報整理、O の客観表現、A のたたき台、P の方針整理などに活用しやすいです。
一方で、個人情報を入力しないこと、AI の文章をそのまま貼り付けないこと、最終判断を自分で行うことが重要です。SOAP 記録の質を保ちながら効率化するには、ChatGPT を「記録の代筆者」ではなく「整理の補助者」として使う意識が大切です。
次の一手
まずは、個人情報を入れない範囲で、O の観察所見を文章化する練習から始めると導入しやすいです。慣れてきたら、A のたたき台や P の整理にも広げると、SOAP 全体の流れを整えやすくなります。
記録時間や職場環境の悩みも整理したい方へ
記録が終わらない、相談できる人が少ない、教育体制が弱いなど、個人の工夫だけでは解決しにくい課題もあります。環境面の詰まりを確認したい方は、無料チェックシートも活用してください。
参考文献
- OpenAI. ChatGPT. https://chatgpt.com/ja-JP/
- OpenAI. Introducing ChatGPT. https://openai.com/index/chatgpt/
- 厚生労働省. 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月). https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


