片麻痺の更衣・食事動作の観察ポイント

評価
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片麻痺の更衣・食事動作で「どこを見るか」

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT キャリアガイド)

本記事は、片麻痺の更衣・食事動作を評価するときに、作業療法士が「どこまで・どう観察すればよいか」を整理したチェックガイドです。 ROM や筋力、 FMA・ARAT・WMFT などのスケールは取っていても、実際の更衣や食事場面では「なんとなく上手くいっていない」と感じながら記録が曖昧になることは少なくありません。そこで、上肢 ADL を「姿勢・手順・手の使い方・環境」の 4 視点で言語化しやすくすることをねらいとしています。

対象は、片麻痺症例を多く担当する OT・PT と新人セラピストです。立位更衣/座位更衣、箸操作/スプーン/コップといった具体的な場面ごとにチェックポイントを整理し、将来 A4 観察チェックメモ(シート)へ展開しやすい形で解説します。評価スケールの点数と ADL の自立度が一致しないときに、「観察のどこが抜けていたのか」を振り返るヒントとしても活用していただける構成としました。

更衣動作の観察ポイント(立位・座位/片手・両手)

更衣動作の観察では、まず「どの姿勢で行っているか(立位/端座位/リクライニング座位)」と「どの順番で衣類を操作しているか」という 2 点を押さえることが重要です。立位更衣でふらつきが強い場合、本来は上肢の巧緻性よりも姿勢・バランスの課題がボトルネックになっているかもしれません。また、片手更衣と両手更衣では、求められる協調性と戦略が大きく異なります。観察時には「片手/両手のどちらを想定したゴールか」を明確にしておくと記録がぶれにくくなります。

具体的には、①衣類の前後・左右を識別できているか、②袖を通すときに麻痺側から始めているか、③肩〜肘〜手関節の動きに代償が多くないか、④ボタンやファスナー操作で過度な時間や疲労がないか、⑤更衣中の転倒リスク(立ち上がり・片脚立位・支持物の使い方)がどうか、といった観点をチェックします。座位更衣の場合でも、足の位置や骨盤の安定性、衣類をまとめて持ち上げる際の体幹の使い方など、姿勢と上肢の連動を意識して観察することで、単なる「手先の問題」では見えてこない課題を拾いやすくなります。

食事動作の観察ポイント(箸・スプーン・コップ)

食事動作の観察では、利き手交換の可否や環境調整の必要性の判断材料が多く含まれています。まず、食事開始時の姿勢(椅子の高さ・テーブルとの距離・体幹の前傾角度)を確認し、「届かないから前かがみになっている」のか「前傾がないために口元まで上肢を持ち上げにくい」のかを見極めることが重要です。トレー上の配置(主菜・副菜・汁物・飲み物)も含めて観察することで、「どの位置の食器に手が伸びにくいか」が 1 目でわかるようになります。

箸操作では、把持の仕方・親指と人差し指の分離・手関節の安定性・食物の滑り落ちやすさなどを確認します。スプーンやフォークの場合は、すくい方・リムへの当て方・口元までの軌道・こぼれの頻度がポイントです。コップでは、把持の位置(上部/中央/下部)、握力と持続時間、リムの位置調整、飲み下し後の戻し動作などを観察します。いずれの場面でも、「どの場面で疲労がピークになるか」「どの工夫(食器の変更・配置の工夫)で負担が減るか」を一緒にメモしておくと、環境調整や利き手交換を検討する際の有力な情報になります。

現場の詰まりどころ(「見ているつもり」で抜けるポイント)

上肢 ADL の観察でよくあるつまずきは、「できた/できない」だけを追ってしまい、具体的な手順や環境要因の記録が残っていないケースです。例えば「更衣自立」と記録していても、「立位更衣で時間がかかるが何とか自立している」のか「座位で段取りを工夫しながら安全にできている」のかでは、退院後のリスクや支援の内容が大きく違ってきます。また、家族の介助方法や声かけによってパフォーマンスが変わっているのに、その違いがカルテに反映されていないことも少なくありません。

対策としては、①観察前に「今日は更衣/食事のどの部分を重点的に見るか」を決めておくこと、②タイマーや動画(許可を得たうえで)などを活用して、所要時間や動きのクセを客観的に把握すること、③「誰が・どんな環境で・どのようなやり方をしているときに一番スムーズか」という視点でメモを残すことが有効です。なお、上肢の機能評価と組み合わせて理解したい場合は、すでに公開している片麻痺上肢の作業療法評価プロトコルも併読しておくと、スケールと ADL 観察のつなぎ方が整理しやすくなります。

よくある質問( FAQ )

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Q1.時間がなくて細かく観察できません。最低限どこだけは見ておくべきですか?

時間が限られている場面では、まず「姿勢」「手順」「安全性」の 3 点に絞ると現実的です。更衣なら「どの姿勢で行っているか」「麻痺側から袖を通せているか」「転倒リスクが高い場面はどこか」、食事なら「座位の安定」「トレーの配置」「こぼしや誤嚥のリスクが高い場面」だけでも押さえておくと、後から上肢機能や利き手交換の方針を考える際の土台になります。

Q2.評価スケール(FMA・ARAT など)と ADL 観察の記録がバラバラになってしまいます。

スケールの点数と ADL の観察を別々に書こうとすると、カルテ上で情報が分散しがちです。おすすめは、スケール結果のすぐ近くに「日常場面での例」を 1 行添えることです。例えば、「 ARAT の把持課題は良好 → 更衣時のズボン把持・引き上げに活かしやすい」など、評価と作業をワンセットで記録する習慣をつけると、カンファレンスや引き継ぎのときに評価の意味が伝わりやすくなります。

Q3.OT と PT/ST で同じ場面を見ているのに、記載内容がかみ合いません。

同じ更衣・食事場面を見ていても、職種によって着目ポイントが異なるため、記録がちぐはぐに感じられることがあります。作業療法士としては、「どの作業手順で何がボトルネックになっているか」「環境や道具をどう変えればパフォーマンスが変わるか」を中心に記載することを意識すると、他職種の記録と補完し合う形になりやすくなります。必要に応じて、動画や写真(施設のルールに従って)を共有しながら「どこを見ているか」をすり合わせることも有効です。

おわりに

更衣や食事といった上肢 ADL の観察は、片麻痺上肢の機能評価と利き手交換の方針、環境調整の必要性をつなぐ「ハブ」の役割を持っています。「できた/できない」の二択ではなく、どの姿勢・手順・道具・支援の組み合わせなら、その人が一番安全かつ楽に作業できるのかを探ることが、作業療法士の評価の醍醐味だと言えます。忙しい現場でも、今日の記事で紹介したチェックポイントを 1 つずつ取り入れていくことで、観察の解像度と記録の説得力は少しずつ高まっていきます。

評価や目標設定の整理に悩むときは、見学や情報収集にも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を活用すると、自分の学び方や働き方も客観的に振り返りやすくなります。詳しくはこちらのダウンロードページから確認してみてください。

参考文献

  • Langhorne P, Bernhardt J, Kwakkel G. Stroke rehabilitation. Lancet. 2011;377(9778):1693-1702. doi:10.1016/S0140-6736(11)60325-5
  • Wade D. Measurement in neurological rehabilitation. Oxford University Press; 1992.
  • 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン各版.日常生活活動( ADL )評価・上肢機能評価に関する記載を参照のこと.
  • 多職種チームでの更衣・食事場面評価に関する実践書や各施設のクリニカルパス・クリニカルインディケーターなども参考になります。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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