視空間課題と見当識課題は「生活上の何を確かめたいか」で使い分けます
認知症の紙面課題で視空間課題と見当識課題のどちらを選ぶか迷ったときは、課題の難易度ではなく、生活上の困りごとをどの視点から確かめたいかで分けます。探す・位置関係を捉える・配置するといった反応を見たい場合は視空間課題、時・場所・状況の把握や外部手がかりの利用を見たい場合は見当識課題が候補です。
ただし、「自室へ戻れない」「予定に参加できない」といった生活上の失敗を、紙面課題だけで視空間または見当識の問題と決めることはできません。この記事では、生活上の困りごと→紙面課題で見る反応→実生活で再確認することの順に、OTが両者をどう使い分けるかを整理します。
違いは「探索・位置関係」か「時・場所・状況」かです
視空間課題と見当識課題は、どちらが難しいかで上下関係をつけるものではありません。視空間課題では主に視覚的な探索や位置関係、配置・構成などを観察し、見当識課題では時・場所・状況をどの程度把握できるか、その情報を得るための手がかりを利用できるかを確認します。
| 比較項目 | 視空間課題 | 見当識課題 |
|---|---|---|
| 主に確かめること | 探索、位置関係、配置・構成 | 時、場所、状況の把握 |
| 課題中に見る反応 | 探索範囲、見落とし、位置関係の誤り、配置の崩れ | どの領域で誤るか、自力回答できるか、手がかりを利用できるか |
| 生活上の困りごとの例 | 物品を探せない、位置や方向で迷う、配置が崩れる | 日付や時間帯が曖昧、現在地や予定を把握しにくい |
| 記録で残したいこと | どこを探し、どこを見落とし、どの支援で変化したか | 何が分からず、どの手がかりを使うと把握できたか |
| 最後に確認すること | 実際の物品探索や移動でも同じ反応があるか | 実際の日課・場所・予定の把握でも同じ反応があるか |
標準高次視知覚検査(VPTA)でも、「視空間の認知と操作」と「地誌的見当識」は別の検査項目として整理されています。紙面課題を正式な高次脳機能検査の代わりにすることはできませんが、「空間をどう処理しているか」と「現在の時・場所・状況をどう把握しているか」を分けて考えることは、課題選択の整理に役立ちます。
迷ったら生活上の「できない」を分解します
比較で重要なのは、「自室へ戻れない=見当識」「物を見つけられない=視空間」と結果だけで決めないことです。同じ生活上の失敗でも、どの過程でつまずいているかによって確認すべき視点が変わります。

| 生活上の困りごと | 視空間の視点 | 見当識の視点 | 実生活で再確認すること |
|---|---|---|---|
| 自室へ戻れない | 目印を探せない、方向・位置関係を捉えにくい | 現在地や目的地そのものを把握できていない | 目印の探索、分岐での選択、現在地・目的地の理解を分けて見る |
| 必要な物品を見つけられない | 探索範囲が狭い、特定位置を繰り返し見落とす | 今何をする場面か、何を探す必要があるかが曖昧 | 物品名を理解した後の探索と、活動目的の理解を分けて確認する |
| 予定に参加できない | 予定表や掲示物を見つけられない、必要箇所を探せない | 日付・時刻・予定との対応を把握できない | 予定表を見つける過程と、読み取った情報を行動へ使えるかを確認する |
| 更衣で迷う | 衣服の向きや身体との位置関係で混乱する | 今が更衣する時間・場面であることを捉えにくい | 衣服操作そのものと、更衣開始までの状況理解を分けて見る |
このように、生活上の「できなかった」という結果よりも、どの情報を取り込み、どこで判断が止まり、どの支援で再開できたかを見ると、紙面課題を選ぶ理由が明確になります。
視空間課題は「探す・位置を捉える・構成する」反応を見たいときに使います
視空間課題を選ぶのは、物品探索や位置関係、配置・構成などに関連する反応を詳しく見たい場面です。正答数だけでなく、課題へどのように視線や探索を広げているか、特定の位置を繰り返し見落としていないか、位置関係を保ちながら処理できるかを観察します。
視空間課題で確認したい反応
- 探索をどこから始めるか
- 探索範囲が全体へ広がるか
- 特定位置の見落としが繰り返されるか
- 図形・物品どうしの位置関係を捉えられるか
- 配置や構成でどのような誤りが出るか
- 指さし、枠、視覚的な目印などで反応が変化するか
たとえば紙面上で右側の対象を繰り返し見落としたとしても、それだけで原因を決めるのではなく、実際の食卓、ベッド周囲、棚からの物品探索などでも同じ偏りがみられるかを確認します。課題の具体的な組み立ては認知症の視空間ドリルで整理しています。
見当識課題は「時・場所・状況と手がかりの利用」を見たいときに使います
見当識課題では、単に「日付を正答できたか」だけでなく、自力で分かるのか、周囲の情報を使えば分かるのか、得た情報を次の行動へつなげられるのかを分けて観察します。
見当識課題で確認したい反応
- 日付・曜日・時間帯などを自力で把握できるか
- 現在いる場所や場面を把握できるか
- カレンダー、時計、予定表などへ自発的に注意を向けるか
- 外部手がかりから必要な情報を探せるか
- 得た情報を「次に何をするか」の判断へ使えるか
たとえば日付を答えられなくても、カレンダーを提示すると正しく確認でき、その後の予定を理解できる場合があります。一方、カレンダーを見ても必要な位置を探せない場合には、見当識だけでなく視空間・注意など別の視点も必要です。見当識課題の具体的な観察方法は認知症の見当識ドリルで確認できます。
同じ失敗でも視空間・見当識だけでは説明できません
紙面課題の誤りを、そのまま一つの認知機能の低下とみなさないことが重要です。課題遂行には注意、記憶、言語理解、視覚・聴覚、運動機能、覚醒、疲労など複数の要素が関わります。
| 観察された反応 | 追加で確認する視点 |
|---|---|
| 説明直後から課題ルールが保てない | 注意、記憶、言語理解 |
| 対象物そのものを見つけにくい | 視力・視野を含む視覚機能、注意、視探索 |
| 時間によって反応が大きく変わる | 覚醒、疲労、体調、せん妄などの急性変化 |
| 質問の意味を取り違える | 言語理解、聴覚、課題説明の方法 |
NICEの認知症ガイドラインでも、認知機能の評価では認知検査の点数だけに依存せず、日常生活への影響を含む病歴を確認し、視覚・聴覚などの感覚障害、せん妄など認知機能へ影響する要因を考慮することが示されています。紙面課題も同様に、一つの結果だけで原因を断定するのではなく、複数の情報を統合するための観察場面として使います。
紙面課題で得た反応は生活場面へ戻して確認します
紙面課題で反応の特徴が見えても、「紙面でできたから生活でもできる」「紙面で失敗したから生活でもできない」とは限りません。作業療法では、本人にとって意味のある生活機能や活動とのつながりを確認することが重要です。
日本作業療法士協会の「作業療法ガイドライン―認知症 増補版(2025.02)」でも、対象者の現在の長所・残存能力を評価し、実践的スキルや適応・代償戦略を用いながら、実際の生活でADLを維持・継続できるよう支援することが作業療法の特徴として示されています。
紙面課題から生活場面へつなげる流れ
- 生活上の困りごとを具体化する:「迷う」ではなく、どの場所・活動・手順で止まるかを確認する。
- 紙面課題で仮説を確かめる:視空間または見当識のどの反応を観察するか決める。
- 支援による変化を見る:目印、外部手がかり、説明方法などで反応がどう変わるか確認する。
- 実生活へ戻す:同じ特徴や支援効果が実際のADL・IADLでもみられるか確認する。
- 次の支援へつなげる:環境調整、手がかり、課題設定などを生活上の目標に合わせて検討する。
NICEも、認知症の認知リハビリテーションについて、本人に関連する機能的目標を設定し、長所を活かしながら障害を補い、日常生活での機能や自立を支える考え方を示しています。紙面課題そのものを目的にせず、生活上の判断や支援を組み立てるために反応を利用することが大切です。
記録は「課題名」より「何を確認し、どう反応したか」を残します
視空間課題と見当識課題では、同じ「正答○問」という記録だけでは次の評価につながりにくくなります。目的、反応、支援による変化、生活場面との対応を短く残すと、再評価時に比較しやすくなります。
| 記録項目 | 視空間課題 | 見当識課題 |
|---|---|---|
| 目的 | 探索・位置関係・構成のどこを見るか | 時・場所・状況のどこを見るか |
| 反応 | 探索範囲、見落とし、配置・位置関係の誤り | 誤った領域、自力回答の可否、情報利用の様子 |
| 支援 | 視覚的目印や提示方法による変化 | カレンダー・時計・予定表などの利用状況 |
| 生活との照合 | 物品探索・移動・配置でも同じ特徴があるか | 日課・予定・場所の把握でも同じ特徴があるか |
記録例:「食卓上の物品探索で見落としがあるため視空間面を確認。紙面では左上から探索を開始するが右下の見落としあり。指さしで探索範囲を広げると修正可能。食事場面でも右側物品の探索を再確認する」のように、結果だけでなく次の観察へつながる情報を残します。
見当識であれば、「日付の自力回答は困難。カレンダーを提示すると該当日を確認でき、その後の予定を選択可能。病棟の日課表でも同様に外部情報を利用できるか確認する」のように、手がかりを使った後の行動まで残すと支援へつなげやすくなります。
次は「紙面課題の選び方」を生活目標へつなげます
視空間課題と見当識課題の使い分けでは、正答率や固定したレベルよりも、「何を確かめるためにその課題を使ったのか」「その反応が生活上の困りごとと対応しているか」を明確にすることが重要です。
紙面課題全体をどのように位置づけ、観察した反応を作業療法へつなげるかは、認知症OT紙面ドリルの運用で整理しています。
参考文献
- 日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン―認知症 増補版. 2025. https://www.jaot.or.jp/files/page/gakujutsu/guideline/guideline_Dementia-Expanded%20edition.pdf
- National Institute for Health and Care Excellence. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NICE guideline NG97. London: NICE; 2018. Last reviewed 2025. https://www.nice.org.uk/guidance/ng97
- 日本高次脳機能学会. 標準高次視知覚検査(VPTA). https://www.higherbrain.or.jp/publication/test/vpta/
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

