認知症の注意課題は「何を見たいか」から選びます
認知症の方に注意課題を使うときは、ドリルの種類を先に決めるのではなく、「どの反応を確認したいのか」から課題を選ぶことが重要です。持続して取り組めるか、必要な刺激を選べるか、ルールを切り替えられるかなど、見たい反応によって適した課題は変わります。
本記事では、作業療法で紙面課題を用いる場面を想定し、持続注意・選択注意・転換注意・分配注意の4つに整理して、課題例、観察ポイント、難易度調整、生活場面へのつなげ方を解説します。紙面課題の点数だけで認知機能を判断したり、ドリル自体を認知症の治療として扱ったりするのではなく、反応を観察して次の作業療法へつなげることを目的とします。
先に結論:注意課題では、正答率だけでなく「どこで止まるか」「何を見落とすか」「どの程度の手がかりで再開できるか」を確認します。課題選択は、生活場面で困っていることと結びつけて考えるのが基本です。
見たい反応から注意課題を選ぶ|4タイプで整理
注意課題を選ぶときは、対象者に「注意障害があるか」を紙面上だけで判定するのではなく、生活上の困りごとに関係する反応を確認できる課題を選びます。本記事では実務上の整理として、持続注意・選択注意・転換注意・分配注意の4つに分けます。
| 見たい反応 | 課題の方向性 | 主な観察ポイント | 生活場面の例 |
|---|---|---|---|
| 注意を一定時間保てるか | 持続注意 | 中断、疲労、後半のペース変化 | 予定表の確認、物品準備を続ける |
| 必要な刺激を選べるか | 選択注意 | 見落とし、誤反応、探索の偏り | 必要物品を探す、必要情報を見つける |
| ルールを切り替えられるか | 転換注意 | 切替時の混乱、前ルールの残存、自己修正 | 予定変更、作業手順の変更 |
| 2つの情報を扱えるか | 分配注意 | 一方の停止、正確性低下、処理の偏り | 会話しながら準備する、周囲を確認しながら移動する |

4種類すべてを実施する必要はありません。服薬準備で途中から手が止まるのであれば持続注意、物が多い環境で必要な物品を見つけにくいのであれば選択注意というように、実際の生活上の問題から確認したい反応を絞ります。
注意課題の種類と課題例|何を観察するかまで決めます
課題は「できた・できなかった」を確認するためだけに使うのではなく、どの条件で遂行が崩れ、どの支援で再び進められるかを見るために使います。同じ正答数でも、反応の過程が異なれば次の介入も変わります。
持続注意|途中から崩れないかを見る
持続注意を見る場合は、一定のルールで探索や照合を続ける課題が使いやすくなります。数字・文字・図形などを順に探す課題や、一定の対象へ印を付け続ける課題などが候補です。
観察したいのは、最終的な正答数だけではありません。開始直後は安定していても後半になると手が止まる、探索が粗くなる、再指示が増えるといった変化がないかを確認します。
- 途中で手が止まる位置
- 後半で見落としが増えるか
- 疲労や姿勢変化が出るか
- 休止後に再開できるか
- 手がかり量が前半と後半で変化するか
選択注意|必要な刺激を選べるかを見る
選択注意を見る場合は、複数の刺激の中から特定の数字・文字・記号などを選ぶ課題が候補になります。刺激が増えたときに、必要な情報へ注意を向け続けられるかを観察します。
見落としが多い場合も、単純に「注意が悪い」とは判断しません。左側だけ見落とす、似た刺激を誤って選ぶ、行を飛ばすなど、誤り方のパターンを確認します。
- 見落としの場所に偏りがあるか
- 標的以外への誤反応があるか
- 探索順序に一定性があるか
- 周囲刺激が増えると反応が変わるか
- 指差しなどの視覚的手がかりで修正できるか
転換注意|ルール変更への反応を見る
転換注意を見る場合は、途中で探す対象やルールを変更する課題が候補になります。重要なのは、変更後にすぐ正答できるかだけでなく、以前のルールが残るのか、新しいルールを保持できるのかを観察することです。
認知症では、課題そのものが難しいのか、指示を保持できていないのか、切り替えが難しいのかを紙面課題だけで完全に分離することはできません。必要に応じて指示を簡潔にし、反応の変化を確認します。
- ルール変更直後の混乱
- 前のルールへ戻る反応
- 再説明後に切り替えられるか
- 誤りに自分で気づけるか
- 切り替え後に新しいルールを維持できるか
分配注意|2つの情報を同時に扱う反応を見る
分配注意は、会話しながら印を付ける、数えながら分類するなど、2つの処理を同時に求める課題で観察できます。ただし、負荷が高くなりやすいため、生活場面で同時処理が実際に問題となっている場合に目的を明確にして用いることが重要です。
紙面上で成績を上げること自体を目的にせず、一方の課題が始まるともう一方が止まる、正確性が低下する、動作速度が大きく変わるなどの反応を確認します。
- 一方の課題が完全に止まるか
- 発話または手作業のどちらを優先するか
- 誤反応が増えるか
- 速度だけが低下するか
- 負荷を下げると再び遂行できるか
正答率だけではなく「誤り方・手がかり・再開」を観察します
注意課題で臨床的に重要なのは、点数そのものよりも遂行が崩れる過程です。特に、開始、持続、誤り、支援後の変化の4点を見ると、次の課題設定や生活場面での確認につなげやすくなります。
| 観察場面 | 見ること | 次の判断につながる情報 |
|---|---|---|
| 開始 | 指示を理解し、自分で開始できるか | 説明方法・提示方法を調整する必要性 |
| 遂行中 | 注意が続くか、途中で停止するか | 課題量・環境刺激・休止の調整 |
| 誤り | 見落とし、誤反応、偏り、ルール逸脱 | どの反応を生活場面で再確認するか |
| 支援後 | 口頭・視覚的手がかりで修正・再開できるか | 必要な支援方法と支援量 |
記録のポイント:「8/10正答」だけでは、次回に何を変えるべきか判断しにくくなります。「右下に見落としが集中」「口頭再指示で再開」「後半に探索速度低下」のように、誤り方や支援後の変化を短く残すと、再評価につながります。
紙面課題の結果を「注意だけの問題」と決めつけない
紙面課題の成績には、注意以外の要因も影響します。結果が低い場合は、視覚・聴覚、言語理解、運動機能、覚醒、疲労、疼痛、環境刺激などを一緒に確認します。
| 確認項目 | 具体的に確認すること |
|---|---|
| 視覚 | 文字サイズ、コントラスト、視野、眼鏡の使用状況 |
| 聴覚 | 指示が聞き取れているか、補聴環境が適切か |
| 言語理解 | 課題ルールそのものを理解できているか |
| 運動機能 | 書字・指差し・視線移動などの方法が負担になっていないか |
| 覚醒・体調 | 眠気、疲労、疼痛、息切れなどが強くないか |
| 環境 | テレビ、会話、人の出入りなどが遂行へ影響していないか |
特に、普段と比べて急に反応が悪くなった、覚醒や行動の変動が大きい、急性の体調変化が疑われる場合は、ドリルを続けて成績を確認することよりも、原因の確認や必要な医療的評価を優先します。
難易度は「どこを変えたか」が分かるように調整します
難易度調整では、毎回同じレベルを続ける必要も、一定の正答率で機械的に進級する必要もありません。目的は、対象者の反応が観察でき、生活場面へつなげられる負荷に調整することです。
前回との変化を比較したい場合は、可能な範囲で変更する条件を絞ります。一度に課題量・刺激密度・ルール・時間制約をすべて変えると、何が成績へ影響したのか解釈しにくくなります。
| 調整軸 | 負荷を下げる例 | 負荷を上げる例 | 観察したいこと |
|---|---|---|---|
| 課題量 | 刺激数・範囲を減らす | 刺激数・範囲を増やす | 持続に伴う変化 |
| 刺激密度 | 余白を広げる | 刺激を近接させる | 探索と見落とし |
| 刺激の類似性 | 標的を見分けやすくする | 似た刺激を混在させる | 選択の正確性 |
| ルール | 1つの条件にする | 切替条件を加える | 保持と転換 |
| 手がかり | 例示・指差しを加える | 支援を減らす | 必要な支援量 |
| 時間条件 | 時間制限を設けない | 時間条件を加える | 正確性と処理速度の関係 |
時間条件を加えると、注意だけでなく処理速度の影響も大きくなります。「見落とし」と「時間がかかる」を分けて考えたい場合は、注意課題と遂行速度ドリルの違いも確認してください。
紙面課題の反応を生活場面へつなげます
紙面上で確認した反応は、そのまま生活能力を表すものではありません。紙面で見られた特徴が、実際の作業や生活行為でも生じているかを確認することで、作業療法としての意味が明確になります。
| 紙面課題で見られた反応 | 生活場面で確認する例 | 介入につながる視点 |
|---|---|---|
| 後半になると手が止まる | 整容や物品準備を最後まで続けられるか | 工程を短くする、休止を入れる、手順を見える化する |
| 刺激が多いと見落とす | 棚や机上から必要物品を探せるか | 不要物を減らす、配置を整理する |
| ルール変更後も前の反応が続く | 予定変更や作業工程の変更へ対応できるか | 変更点を明示する、1工程ずつ提示する |
| 会話すると手作業が止まる | 会話しながら更衣・準備を行う場面 | 同時に求める情報を減らす、声かけのタイミングを調整する |
たとえば選択注意課題で見落としが多かった場合も、「選択注意訓練を増やす」と直結させるのではなく、実際に必要物品を探す場面や予定を確認する場面を観察します。そのうえで、物品配置、提示方法、声かけ、作業工程などを調整します。
注意ドリルは認知症そのものを改善する目的で使わない
認知トレーニングは、記憶・注意・問題解決など特定の認知機能を対象とした反復課題を含む介入です。一方、認知リハビリテーションは、本人にとって重要な日常生活上の目標を設定し、残存能力や代償手段、環境調整を活用しながら生活機能を支援する考え方です。
NICEの認知症ガイドラインでは、軽度〜中等度認知症の生活機能を支えるために認知リハビリテーションまたは作業療法を検討するとしています。一方、軽度〜中等度Alzheimer病に対して、認知症の治療を目的とした認知トレーニングは推奨していません。
Cochraneレビューでは、軽度〜中等度認知症に対する認知トレーニングは対照介入と比べて一部の認知アウトカムに利益を示す可能性があるものの、他の積極的介入より優れていることは確認されておらず、多くの結果でエビデンスの確実性に限界があります。一方、個別の生活目標へ取り組む認知リハビリテーションでは、対象者が選択した日常活動の遂行改善が報告されています。
この記事での位置づけ:注意課題ドリルは「認知症を改善するための問題集」としてではなく、課題中の反応を観察し、生活行為での困りごとや必要な支援方法を考えるための補助的な手段として扱います。
実際の注意課題を使う場合はPDF配布ページへ
rehabilikunblogでは、注意課題を含む認知症OT向け紙面ドリルを配布ページへ集約しています。本記事で「何を見たいか」を決めたあと、実際の課題を選ぶ際に利用してください。
よくある質問
注意課題の選択や使い方で迷いやすい点を整理します。
認知症の注意課題は、どの種類から始めればよいですか?
一律に持続注意や選択注意から始めるのではなく、生活場面で確認したい反応から選びます。途中で作業が止まることが問題なら持続、物品を探せないことが問題なら選択というように、本人の生活上の困りごとと課題を対応させます。
正答率が低ければ、注意機能が低下していると判断できますか?
正答率だけでは判断できません。視覚・聴覚、言語理解、運動機能、疲労、覚醒、環境刺激なども成績へ影響します。誤り方や手がかり後の変化を確認し、必要に応じて標準化された評価や生活場面の観察と組み合わせます。
分配注意や二重課題は積極的に行ったほうがよいですか?
必ず行う必要はありません。同時処理が実際の生活上の問題になっている場合に目的を明確にして検討します。単一課題でも遂行が不安定な場合は、二重課題を追加することより、まず何が遂行を妨げているか確認することが優先されます。
注意課題は毎回同じものを使ったほうがよいですか?
前回との変化を比較したい場合は、条件をそろえる利点があります。一方、同じ課題の反復成績だけを生活能力の改善とみなすことはできません。目的に応じて課題条件を調整し、生活場面での変化も合わせて確認します。
次の一手
注意課題単独の選び方だけでなく、認知症OTの紙面課題全体をどう選び、記録し、再評価するか確認したい場合は総論へ進んでください。説明方法や手がかりの出し方で反応が変わる場合は、指示調整の記事が次の確認先になります。
参考文献
- National Institute for Health and Care Excellence. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NICE guideline [NG97]. 2018. Official
- Bahar-Fuchs A, Martyr A, Goh AMY, Sabates J, Clare L. Cognitive training for people with mild to moderate dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2019;3:CD013069. DOI / Cochrane
- Kudlicka A, Martyr A, Bahar-Fuchs A, Sabates J, Woods B, Clare L. Cognitive rehabilitation for people with mild to moderate dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2023;6:CD013388. DOI / Cochrane
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療・リハビリテーション従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

