運動強度の決め方|METs・Borg・心拍

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運動強度の決め方(結論):METs は「入口」、最終判断は RPE・症状で合わせます

運動強度は、METs(絶対強度)で活動の候補を絞り、最後は RPE( Borg )症状(息切れ・疼痛・めまい等)で「その人のきつさ(相対強度)」に合わせるのが、現場で破綻しにくい方法です。心拍は便利ですが、薬剤や不整脈、反応性の個体差で外れるため、心拍だけで決めないのが安全です。

5 分で決まる「強度設定」フロー

強度設定は「指標を増やす」より、手順を固定した方が速くなります。まずは下の 4 ステップで “同じやり方” を作ってください。

運動強度を決める 4 ステップ(現場の標準手順)
ステップ やること 判断の目安 記録の型
1 目的を決める 体力づくり/ ADL への転移/安全管理 目的( 1 行)
2 活動を選ぶ( METs で当たりを付ける) 軽い/中等度/高強度の候補を作る 活動名+条件
3 相対強度で合わせる( RPE ・症状) 「会話できるか」「息切れ・疼痛の程度」 RPE+症状
4 段階づけして再評価 分割/休憩/速度・負荷の調整 時間(分)+休憩

METs の基本: 1 MET と消費エネルギーの考え方

MET( metabolic equivalent )は、活動の強度を「安静時の何倍か」で表す単位です。慣用的に 1 MET = 3.5 mL O2/kg/min(座位安静の酸素摂取量)を基準にします。扱いやすい一方で、安静時代謝は個体差があるため、臨床では代表値として使うのが基本です。

計算の目安は次の 2 つです。①酸素摂取量の目安:VO2( mL/kg/min )= METs × 3.5。②消費エネルギーの目安:kcal = METs × 体重( kg )× 時間( h )。ただし、これは概算なので、記録は「数値」より条件(速度・坂・休憩等)を残す方が再評価に強いです。

METs・ Borg・心拍・ Talk test の使い分け

指標は「正しいものを 1 つ選ぶ」ではなく、目的に合うものを主役にして、弱点を補うのが実務向きです。特に心拍は、薬剤( β 遮断薬など)や不整脈で外れやすいので、 RPE と症状を同時に使う前提にします。

運動強度指標の使い分け(主役にする場面と注意点)
指標 強み 弱み(落とし穴) 主に向く場面
METs 活動選択が速い/強度分類が簡単 個体差と条件差でズレる 活動の候補出し/患者説明
RPE( Borg ) 相対強度を拾える/薬剤の影響を受けにくい 慣れが必要/初回は高めに出やすい 慢性疾患・高齢者の強度調整
心拍( %HRR 等) 数値化しやすい/進行管理に便利 β 遮断薬・不整脈・反応性で外れる 健康成人/運動負荷試験がある場合
Talk test 簡単/現場で即使える 主観でブレる/環境の影響 歩行・エルゴなど有酸素の調整
症状・観察 安全管理に強い 「安全」は確保できても強度が決めきれない 術後・心肺疾患・体調変動が大きい場合

METs で強度分類:軽い/中等度/高強度の目安

METs はまず「分類」に使います。一般的な目安として、中等度( moderate )= 3.0 ~ 5.9 METs高強度( vigorous )= 6.0 METs 以上です。分類ができると、活動の候補と進め方(分割・休憩)が決めやすくなります。

METs による強度分類(代表的な目安)
分類 METs の目安 体感の目安 実務メモ
軽い < 3.0 会話は余裕/息切れは軽い 導入・ウォームアップに使いやすい
中等度 3.0 ~ 5.9 会話は短文/息が弾む 継続しやすい “主力ゾーン”
高強度 6.0 以上 会話が難しい/息切れが強い リスク評価と段階づけが必須

「強度」を実際に決める:段階づけと調整のコツ

同じ活動でも、速度・坂・休憩で強度は変わります。したがって “強度設定” は、最初から 1 回で当てにいくより、短時間で試す→観察→調整の方が早いです。

実務では、①まず中等度の候補を選び、② 5 ~ 10 分で実施、③ RPE と症状で「予定よりきつい/楽」を判定、④速度・休憩・分割で調整します。これを 1 回回すだけで、その人の「ちょうど良い条件」が固まりやすくなります。

強度が合わないときの調整パターン(その場で迷わない)
状況 よくある原因 調整(次アクション) 再評価ポイント
きつすぎる 速度が速い/休憩が少ない/不安・疼痛 速度を下げる/分割( 5 分× 2 )/休憩追加 RPE、息切れ、疼痛
楽すぎる 刺激不足/活動が軽い 時間を伸ばす/速度を上げる/活動を 1 段上げる 会話の余裕、 RPE
日によって変動 体調・内服・睡眠・環境 「その日の条件」を 1 行で残し微調整 時刻、内服、体調

安全管理:METs ではなく「症状と中止基準」を優先する場面

心不全や COPD、術後などでは、METs を主役にすると危険な場面があります。こうしたケースでは、強度の正確さよりも安全の確保が優先です。運用はシンプルに「症状が出たら下げる」「改善しなければ中止・報告」に寄せます。

中止基準は施設・診療科・病態で異なるため、数値の丸暗記より「見逃しやすい症状」をチームで共有し、再現できる記録を残す方が実務的です。

見逃しやすい危険サイン(例)と対応の基本
サイン(例) 起きやすい場面 その場の対応 記録ポイント
胸部不快・冷汗・強い息切れ 心疾患/高強度 中止→安静→報告 出現時刻、活動条件
めまい・ふらつき・顔面蒼白 起立負荷/脱水 中止→体位調整→再測定 体位、血圧の変化
疼痛の増悪(鋭い痛み) 術後/関節疾患 負荷を下げる→代替活動へ NRS、動作と部位

記録の型:強度は「条件」を残すと再評価が速くなります

強度設定がうまくいかない原因の多くは、数値ではなく条件が残っていないことです。再評価の比較を成立させるために、最低限「活動名+条件+時間(分)」をセットで残します。

RPE と症状を添えると、次回の微調整が 1 回で決まりやすくなります。記録のテンプレは下の形が実務で回ります。

運動強度の記録テンプレ(使い回し用)
項目 書き方のコツ 再評価で効く理由
活動名 歩行/エルゴ/掃除機 固定ワードで短く 共有と検索が速い
条件 平地、速度、補助具、坂 変動しやすい要素を優先 同条件比較が成立
時間(分) 10 分× 2(休憩 3 分) 分割と休憩を必ず書く 段階づけが再現できる
RPE RPE 13 終了直後に確認 相対強度の軸になる
症状 息切れ、疼痛、めまい 種類+出現タイミング 中止・調整の判断材料

現場の詰まりどころ(よくある失敗→対策)

強度設定で詰まりやすいのは「表は見たのに、結局どう進めるか決まらない」場面です。多くは、迷いが “条件” と “相対強度” に分解できていません。

下の表のように、迷いを分解して次アクションに落とすと、判断が固定されます。

強度設定で詰まりやすいポイントと解決策
よくある失敗 原因 対策(次アクション) 記録ポイント
METs だけで決めてしまう 個体差・条件差を無視 RPE と症状で必ず補正する RPE、息切れ、疼痛
心拍だけで決める 薬剤・不整脈で外れる 心拍は参考、主軸は RPE 内服、 HR 反応
再評価で比較できない 条件が残っていない 速度・坂・休憩を固定して記録 条件 1 行

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.中等度と高強度の境目は何 METs ですか?

一般的な目安として、中等度= 3.0 ~ 5.9 METs高強度= 6.0 METs 以上です。ただし臨床では、数値だけでなく RPE と症状を合わせて判断するのが安全です。

Q2.患者さんの「きつさ」と METs が合いません

METs は絶対強度なので、疼痛・不安・疾患・体調で相対強度は変わります。まずは速度を落とす、分割する、休憩を増やすなどで調整し、 RPE と症状で “ちょうど良い” を作ります。

Q3.β 遮断薬内服だと心拍で強度設定できませんか?

心拍反応が鈍く、見かけ上低く出ることがあります。心拍だけで決めず、 RPE と症状(必要時は SpO2 や血圧)を主軸にするのが安全です。

Q4.結局、臨床で一番大事な “型” は何ですか?

目的→活動選択( METs )→相対強度( RPE ・症状)→段階づけ→条件を残して再評価の型です。これを固定すると、症例が変わっても迷いにくくなります。

参考文献

  1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Measuring Physical Activity Intensity(中等度 3.0 ~ 5.9 METs、高強度 6.0 METs 以上). CDC ページ
  2. U.S. Department of Health and Human Services. Physical Activity Guidelines for Americans, 2nd edition.( 3.0 ~ < 6.0 METs、 6.0 METs 以上) PDF
  3. Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. PubMed
  4. Herrmann SD, et al. 2024 Adult Compendium of Physical Activities: A third update of the energy costs of human activities. J Sport Health Sci. 2024;13(1):6-12. doi:10.1016/j.jshs.2023.10.010

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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おわりに

運動強度は、安全の確認→段階介入→条件をそろえて記録→再評価のリズムで回すと、METs のズレがあっても破綻しにくくなります。METs は入口として使い、最終判断は RPE と症状で「相対強度」を合わせるのが現場向きです。

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