HFNC装着中の離床・リハビリ|開始前確認と中止・再評価

臨床手技・プロトコル
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結論|HFNC装着中でも離床は可能ですが、HFNCだけで可否を決めません

HFNC(High-Flow Nasal Cannula)装着中であること自体は、離床・リハビリを一律に見送る理由にはなりません。一方で、「FiO2が何%なら歩ける」といったHFNC専用の統一された離床基準があるわけでもありません。成人の急性期・重症患者では、一般的な離床・運動療法の安全性を確認したうえで、HFNCの流量・FiO2とその推移、患者個別のSpO2目標、呼吸数、呼吸仕事量、症状を追加して判断します。

この記事では、PTなどのリハ職がHFNC装着患者を離床するときに、「一般的な離床可否 → HFNC治療の安定性 → 負荷中の反応 → 休止後の回復」の順で確認し、中断・再評価・記録へつなげる方法を整理します。HFNC設定そのものの変更方法ではなく、リハ場面で安全に判断・共有することが目的です。

呼吸療法全体の位置づけから確認したい方へ

呼吸療法の全体像を見る

HFNC専用の離床基準はなく、一般的な重症患者の基準を土台にします

HFNC装着患者の離床では、最初に「HFNCだから動かせるか」ではなく、そもそも患者が離床・運動療法を検討できる状態かを確認します。

日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)は、生命を脅かす危機的状態から回復または安定したことを確認したうえで、離床・運動療法の開始を検討するとしています。一方、開始時期や開始基準、中止基準について統一されたコンセンサスが確立しているわけではなく、提案基準を参考に医療チームで総合判断する位置づけです。

したがって、J-ReCIP 2023などに示される数値を、そのまま「HFNC患者の歩行開始基準」として扱うのは適切ではありません。施設基準、主治医の指示、疾患・病態、患者固有の目標値を優先しながら使います。

HFNC装着患者で最初に確認する一般的な離床判断
領域 確認すること HFNC評価との関係
全身状態 原疾患が急速に悪化していないか、治療方針が安定しているか 呼吸サポート強化が必要な状態なら、離床より治療の再評価を優先する
意識・神経 指示理解、覚醒、急な意識変容、不穏や危険行動 カニューラや他デバイスの自己抜去リスクも確認する
呼吸 SpO2、呼吸数、呼吸様式、呼吸困難、気道・分泌物 HFNC設定とその推移を加えて評価する
循環 心拍数、血圧、不整脈、胸部症状、末梢循環 座位・立位での変化も含めて判断する
安全 ライン、チューブ、転倒リスク、介助量、移動導線 HFNC回路・酸素供給を維持できる範囲で実施する

ICU以外の急性期病棟などでHFNCを使用している場合も、J-ReCIP 2023の対象と完全に同一ではない点に注意し、施設内の離床基準や主治医・看護師との共有を優先してください。

開始前はHFNCの「設定値」より治療・呼吸状態の安定性を確認します

一般的な離床を検討できる状態であれば、次にHFNC使用中だからこそ確認したい情報を追加します。重要なのはFiO2や流量の1回の数値だけではなく、現在までどのように推移しているかです。

HFNC装着中に追加して確認する項目
確認項目 見るポイント 再評価につなげる変化
FiO2 現在値と直近の推移 酸素需要が増えている、短時間で設定が強化されている
流量 現在値、前回・直近からの変更 呼吸状態悪化に伴いサポートが強化されている
SpO2 患者個別の目標域と安静時ベースライン 目標域を維持しにくい、安静でも低下傾向がある
呼吸数 単回値だけでなく増減の方向 安静でも増加し続ける、負荷前から余裕が少ない
呼吸仕事量 肩挙上、頸部補助筋、陥没呼吸、腹部呼吸など 努力呼吸が新たに出現または増強している
呼吸困難 本人の訴え、会話のしやすさ、表情 安静時から強い、会話が保ちにくい
治療の方向 HFNCで安定しているか、呼吸サポート強化が検討されていないか NIV・挿管などを含む治療強化が検討される状態

たとえば同じFiO2でも、前日より低下して安定している患者と、直前まで設定を上げ続けている患者では意味が異なります。HFNC装着中の離床では、「何L/min・何%か」だけでなく「どちらの方向へ変化しているか」を確認します。

また、HFNCの流量やFiO2をリハ職が独自に変更して運動負荷を成立させることは避け、設定変更が必要と思われる場合は施設の運用に従って医師・看護師などへ共有します。リハ職は、どの設定でどの負荷を行い、患者がどう反応したかを記録して次の判断材料にします。

離床中はSpO2だけでなく「どこで崩れたか」を見ます

HFNC装着中の離床では、SpO2が目標域に入っていることだけでは負荷耐容性を判断できません。呼吸数、努力呼吸、呼吸困難、循環、意識、動作の質を合わせて確認します。

特に重要なのは、どの負荷段階で変化したかです。端座位では安定していたのに立位で呼吸数や努力呼吸が増えた場合と、安静時から呼吸状態が悪化している場合では、その後の対応が異なります。

離床・運動中に確認する反応
観察 確認内容 記録したい情報
酸素化 患者個別のSpO2目標から外れていないか 開始前値、負荷中の変化、最低値、回復
呼吸 呼吸数、呼吸仕事量、呼吸様式の変化 どの動作から増悪したか
症状 呼吸困難、胸部症状、めまい、疲労感 出現した負荷段階と休止後の変化
循環 心拍数、血圧、顔色、冷汗など 座位・立位・歩行での変化
意識・行動 反応低下、不穏、指示理解の変化 開始前との違い
デバイス カニューラ、回路、酸素供給、他ラインの安全 牽引・外れ・移動制限の有無

SpO2が保たれていても、呼吸数が増え続け、肩挙上などの努力呼吸が強くなり、会話が途切れる場合は、負荷を継続できる状態とは限りません。逆に、一時的な変化だけを単独で捉えるのではなく、負荷を軽くしたときにどの程度回復するかまで確認します。

実施は「離床可否 → HFNC安定性 → 負荷反応 → 回復」の4段階で考えます

HFNC装着中のリハを標準化するときは、特定の歩行距離や実施時間を共通基準にするより、判断する順番を固定するほうが実務に落とし込みやすくなります。

HFNC装着中の離床判断を、一般的な離床可否、HFNC治療の安定性、負荷中の反応、休止後の回復の4ステップで確認する図
HFNC装着中の離床判断は「一般的な離床可否 → HFNC治療の安定性 → 負荷中の反応 → 休止後の回復」の4段階で整理します。
  1. 一般的な離床可否:意識、呼吸、循環、全身状態、デバイスを確認する
  2. HFNC治療の安定性:流量・FiO2とその推移、目標SpO2、呼吸数、呼吸仕事量、呼吸困難、治療強化の必要性を確認する
  3. 負荷中の反応:端座位・立位・移乗・歩行など、その日に選択した段階で呼吸・循環・症状を確認する
  4. 休止後の回復:負荷を下げたあとにベースライン方向へ戻るかを確認し、次回方針へつなげる

端座位、立位、歩行を必ず同じ時間・同じ順番で進める必要はありません。その日の病態、前回反応、介助量、デバイス環境を踏まえて負荷を選択します。重要なのは、進んだ距離より「どの段階なら反応を確認しながら実施できたか」を共有することです。

中断・再評価は単一の数値ではなく、悪化の組み合わせで判断します

離床中に患者の状態が変化した場合は、まず負荷を止める・下げることを優先します。J-ReCIP 2023には重症患者一般の中止基準案がありますが、これもHFNC専用の基準ではありません。患者固有の目標値や開始前状態と合わせて判断します。

HFNC装着中の離床で中断・再評価につなげる変化
状況 代表的な変化 対応
その場で中断して共有 急な強い呼吸困難、意識変容、胸部症状、明らかな循環不安定、デバイス事故・抜去リスク 安全な体位へ戻し、必要な初期対応を行い、医師・看護師へ共有する
負荷を下げて再評価 SpO2が個別目標から外れる、呼吸数や努力呼吸が増える、息切れ・疲労が強くなる 座位・立位・歩行などの負荷を下げ、反応を再確認する
再開を検討 症状、酸素化、呼吸、循環が開始前の状態に近づく 同じ段階を反復するか、さらに負荷を下げるかを判断する
その日は進行を見送る 休止後も回復が乏しい、複数の悪化所見が持続する、呼吸サポート強化が必要になる 離床の進行を止め、病態・治療方針を再評価して共有する

一時的なSpO2低下だけで自動的に「中止」と判定したり、反対にSpO2が保たれているから継続したりするのではなく、呼吸仕事量、症状、循環、意識を統合します。施設で具体的な開始・中止基準が定められている場合は、その基準を優先してください。

「戻り方」を確認すると、次回の負荷設定につながります

この記事で特に重視したいのが、負荷中の最低値だけでなく休止後の回復です。回復は単純な安全・危険の判定ではなく、「今回の負荷が患者にとってどの程度だったか」を次回へ引き継ぐための情報として扱います。

休止後に確認する項目
確認項目 見ること 次回判断への使い方
SpO2 個別目標・開始前値の方向へ戻るか 同じ負荷を再現できるか検討する
呼吸数 負荷終了後も高い状態が持続しないか 次回の段階・負荷量を調整する
呼吸仕事量 肩挙上などの努力呼吸が軽減するか SpO2だけでは分からない負荷反応を共有する
呼吸困難・疲労 休止後の症状変化 患者が耐えられる段階を検討する
回復に要した時間 開始前状態へ近づくまでの経過 前回との比較や負荷調整に利用する

「何分以内なら安全」というHFNC専用の回復時間基準を設定するのではなく、同じ患者の前回値、当日の開始前状態、その後の回復経過を比較します。回復が以前より明らかに遅い場合は、次回の負荷を上げる前に病態や治療状況を再確認します。

よくある失敗は「設定値だけ」「SpO2だけ」「実施量だけ」で判断することです

HFNC装着中リハで起こりやすい判断の偏り
よくある判断 問題点 修正する視点
FiO2だけで離床可否を決める 病態・設定の推移・呼吸仕事量を反映できない 一般的離床判断とHFNC設定の推移を統合する
SpO2が保たれているから継続する 呼吸数増加や努力呼吸を見落とす可能性がある 呼吸仕事量、症状、循環も同時に確認する
歩行距離だけを成果にする どの負荷で状態が変化したかが残らない 負荷段階とそのときの反応をセットで記録する
最低SpO2だけ記録する 休止後の回復や次回方針につながらない 開始前、負荷時、回復、次回方針まで残す
毎回同じ時間で端座位・立位を行う 固定時間が患者固有の状態を反映しない 時間ではなくその日の反応に合わせて段階を調整する

記録は「設定・開始前・負荷反応・回復・次回方針」を1セットにします

HFNC装着患者では「端座位実施」「歩行○m」のような実施内容だけでは、次の担当者が同じ判断を再現できません。少なくとも、HFNC設定、設定の推移、患者個別のSpO2目標、開始前状態、実施した負荷、負荷中の反応、休止後の回復、共有事項・次回方針をセットで残します。

HFNC装着中リハの記録項目
項目 記録内容 目的
HFNC設定 流量、FiO2、直近からの変更 呼吸サポートの状態を共有する
開始前 目標SpO2、実測SpO2、RR、HR、BP、呼吸困難、呼吸仕事量など 当日のベースラインを固定する
実施段階 端座位、立位、移乗、足踏み、歩行など どの負荷に対する反応か分かるようにする
負荷中の反応 SpO2、RR、HR、症状、努力呼吸、循環変化 負荷耐容性を共有する
回復 休止後のSpO2・RR・症状・呼吸仕事量と回復経過 次回の負荷設定へつなげる
次回方針 同段階を反復、負荷を下げる、進行を検討、治療チームへ相談など 担当者が変わっても判断を引き継ぐ

記録例:HFNC 流量[ ]L/min、FiO2[ ]%。直近より設定[不変/減量/増量]。目標SpO2[ ]%、開始前SpO2[ ]%、RR[ ]回/分、HR[ ]回/分。[端座位/立位/歩行]でSpO2[ ]%、RR[ ]回/分、呼吸仕事量[変化なし/増加]、呼吸困難[ ]。休止後[ ]分で開始前状態に近づく。次回は[同段階/負荷調整/治療状況確認後に再評価]。

HFNC装着中リハ 記録・再評価シート A4 v2

今回の判断フローをベッドサイドで使いやすい形にまとめた記録・再評価シートです。HFNC専用の固定的な開始・中止カットオフ表ではなく、一般的な離床可否、HFNC設定とその推移、負荷中の反応、休止後の回復、共有・次回方針を1枚で確認できる構成にしています。

HFNC装着中リハ 記録・再評価シート A4 v2

Excel版は院内運用に合わせた入力・調整用、PDF版は印刷して記入する場合に利用できます。

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シートの項目は、すべての患者に一律の可否判定を与えるものではありません。施設基準、主治医の指示、疾患・病態、患者固有の目標値を優先し、経時変化を記録するために使用してください。

よくある質問

Q1. HFNCを装着したまま歩行してもよいですか?

HFNC装着そのものだけで歩行不可とは判断しません。一般的な離床・運動療法を検討できる全身状態かを確認し、さらにHFNC設定の推移、患者個別のSpO2目標、呼吸数、呼吸仕事量、症状、循環を確認します。歩行中も回路や酸素供給を安全に維持できる環境が必要です。

Q2. FiO2が何%なら離床できますか?

HFNC患者だけに適用できる「FiO2○%以下なら離床可能」という統一基準はありません。J-ReCIP 2023には重症患者一般の開始基準案がありますが、HFNC専用基準ではありません。FiO2の現在値だけでなく、その推移、SpO2目標、呼吸状態、原疾患、施設基準を統合して判断します。

Q3. SpO2が保たれていれば運動を続けてよいですか?

SpO2だけでは判断できません。SpO2が目標域でも、呼吸数が増え続ける、努力呼吸が強くなる、会話が困難になる、呼吸困難や循環変化が出る場合は負荷を下げて再評価します。休止後の回復も合わせて確認してください。

Q4. HFNCの流量やFiO2はリハ中に変更してよいですか?

設定変更は各施設の指示・権限・運用に従います。リハ職が独自に設定を変更して離床を成立させるのではなく、設定変更が必要と思われる場合は医師・看護師などへ共有します。どの設定でどの負荷を行い、どのような反応がみられたかを記録することが重要です。

次の一手|重症患者全体の離床判断を確認する

HFNC特有の追加確認だけでなく、ICU・重症患者全体の開始・中止・再開判断を整理したい場合は、早期離床の運用記事で全体像を確認してください。

参考文献・資料

  1. Unoki T, Hayashida K, Kawai Y, et al. Japanese Clinical Practice Guidelines for Rehabilitation in Critically Ill Patients 2023 (J-ReCIP 2023). J Intensive Care. 2023;11:47. doi:10.1186/s40560-023-00697-w
  2. 日本集中治療医学会. 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023). 日本集中治療医学会 公開資料
  3. Oczkowski S, Ergan B, Bos L, et al. ERS clinical practice guidelines: high-flow nasal cannula in acute respiratory failure. Eur Respir J. 2022;59(4):2101574. doi:10.1183/13993003.01574-2021
  4. Moya-Gallardo E, Fajardo-Gutiérrez J, Acevedo K, et al. High-flow nasal cannula in adults with chronic respiratory diseases during physical exercise: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open Respir Res. 2024;11(1):e002431. doi:10.1136/bmjresp-2024-002431

※ J-ReCIP 2023は重症患者一般の離床・運動療法に関する資料です。ERSガイドラインは成人急性呼吸不全におけるHFNCを含む呼吸サポートの選択を扱うもので、HFNC装着中の離床開始・中止基準を定めたガイドラインではありません。また、運動時HFNCの研究には慢性呼吸器疾患を対象とした研究が含まれるため、急性期HFNC患者の離床基準へ直接一般化せず参考情報として位置づけています。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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