- HFNC 装着中の離床は「開始条件・中止基準・記録」で安全に回す
- HFNC の特徴は「酸素化」だけでなく呼吸仕事量と加湿で見る
- 離床を検討する場面は「酸素化改善」より廃用予防と活動再開で決める
- 開始条件は 30 秒で「始める・下げる・見送る」を決める
- 観察は SpO2 だけでなく「崩れ方」と「戻り方」を見る
- 中止基準は「悪化が続く・休んでも戻らない」で共有する
- 運用フローは「回復できる段階」を確認しながら上げる
- 現場の詰まりどころは「SpO2 だけ判断」と「記録不足」で起きやすい
- 記録は「設定・反応・回復時間・次回方針」を 1 セットで残す
- HFNC 装着中リハ安全記録シートをダウンロードする
- よくある質問( FAQ )
- 次の一手|呼吸療法と早期離床の運用へつなげる
- 参考文献・資料
- 著者情報
HFNC 装着中の離床は「開始条件・中止基準・記録」で安全に回す
HFNC 下の離床は、運動メニューより先に「開始条件・観察・中止基準・記録」をそろえると安全に進めやすくなります。
呼吸療法の全体像を見るHFNC( High-Flow Nasal Cannula )装着中のリハビリでは、「どこまで動かすか」よりも、「今日は始めてよい状態か」「何を見て中断するか」「次のスタッフが同じ判断をできる記録になっているか」が重要です。酸素化だけを見て歩行距離を伸ばすと、呼吸仕事量や回復遅延を見落とすことがあります。
この記事では、成人の急性期〜回復期で HFNC 装着中に離床・運動療法を行うときの安全基準、観察項目、中止判断、記録の型を整理します。HFNC の機器設定そのものを深掘りする記事ではなく、リハ場面で「開始する・戻す・共有する」判断を標準化するための記事です。
HFNC の特徴は「酸素化」だけでなく呼吸仕事量と加湿で見る
HFNC は、加温加湿した高流量ガスを鼻カニューラから投与する非侵襲的な呼吸サポートです。リハ場面では、FiO2 だけでなく、高流量によって吸気流量要求に追いつきやすいこと、加温加湿により分泌物管理を支えやすいこと、マスクより会話やケアと両立しやすいことが実用上の利点になります。
ただし、HFNC を装着している時点で呼吸予備能は低い可能性があります。SpO2 が保たれていても、呼吸数増加、肩挙上、会話の途切れ、回復の遅さがあれば、運動負荷としては過量です。リハでは「SpO2 が保てるか」だけでなく、「休めば戻るか」「次回も再現できるか」を合わせて判断します。
離床を検討する場面は「酸素化改善」より廃用予防と活動再開で決める
HFNC 装着中の離床は、酸素化を上げるためだけに行うものではありません。目的は、臥床による廃用を防ぎ、呼吸状態を観察しながら、端座位・立位・歩行へ活動をつなげることです。特に ICU 退室前後や急性期後半では、動き始めの遅れが ADL 回復に影響しやすいため、段階的な離床を検討します。
- 安静時は安定しているが、端座位や立位で SpO2 が低下しやすい
- 通常酸素では動作時の息切れが強く、活動が止まりやすい
- 分泌物が多く、体位変換・座位・排痰を組み合わせたい
- 長期臥床を避け、端座位・立位の反応を早めに確認したい
一方で、強い努力呼吸、循環不安定、意識変容、デバイス抜去リスクが高い場合は、歩行よりも体位調整・呼吸介助・短時間座位などへ目的を切り替えます。
開始条件は 30 秒で「始める・下げる・見送る」を決める
開始前は、細かい数値を増やすよりも、意識・呼吸・循環・デバイスの 4 領域を毎回同じ順番で確認します。病棟や主治医の指示を優先したうえで、以下の表を「今日のリハを始めてよいか」の共通チェックとして使うと、判断のばらつきを減らせます。
| 観察 | 開始しやすい状態 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 意識・協力 | 指示が通り、危険行動が少ない | せん妄・不穏・理解低下がある場合は、目的と介助量を下げる |
| SpO2 | 安静時のベースラインが安定している | 開始前 SpO2 と目標域を確認し、低下幅だけでなく回復も見る |
| 呼吸 | 強い努力呼吸が目立たない | 呼吸数、肩挙上、陥没呼吸、会話の途切れを確認する |
| 循環 | 血圧・脈拍が極端に不安定でない | 起立性低血圧、頻脈の持続、冷汗、胸部症状を確認する |
| デバイス | カニューラ固定とチューブ余長が確保できる | 移動導線、酸素源、点滴台、チューブ牽引リスクを先に整える |
離床が進まない原因は、患者の耐久性だけでなく、チューブ余長、固定、酸素源の位置、介助者配置にあることも少なくありません。開始前に 1 分だけ導線を作ると、立位や移乗時のトラブルを減らせます。
観察は SpO2 だけでなく「崩れ方」と「戻り方」を見る
HFNC 装着中の離床では、SpO2 の最低値だけを記録しても安全判断としては不十分です。大切なのは、どの段階で崩れたか、休止で戻ったか、戻るまでに何分かかったかです。特に呼吸困難を言語化しにくい患者では、見た目の呼吸仕事量を重視します。
- SpO2:最低値、低下幅、休止後の回復時間
- 呼吸:呼吸数、肩挙上、陥没呼吸、鼻翼呼吸、会話の途切れ
- 循環:脈拍上昇、血圧低下、冷汗、顔色、めまい
- 分泌物:粗い呼吸音、喀痰量、吸引の必要性
- 安全:ふらつき、起立耐性、ライン・チューブ牽引
たとえば SpO2 が目標域でも、呼吸数が上がり続け、肩挙上が強く、会話が途切れる場合は、酸素化より呼吸仕事量が限界に近い状態です。歩行距離を伸ばすより、座位へ戻して回復を確認し、次回の段階を調整します。
中止基準は「悪化が続く・休んでも戻らない」で共有する
HFNC 装着中の中止判断は、単一の数値で一律に決めるより、「悪化が続く」「休止しても回復しない」「症状が重なる」をチーム共通語にすると運用しやすくなります。以下は成人リハで使いやすい中止・中断の目安です。
| 観察 | 中止を検討する状態 | まず行う対応 |
|---|---|---|
| SpO2 | 低下が続く、休止しても回復が遅い | 休止、体位調整、呼吸介助、必要時は設定変更を相談する |
| 呼吸 | 努力呼吸が増える、会話困難に近い | 負荷を下げて座位または臥位へ戻し、回復を優先する |
| 循環 | 著明な頻脈・徐脈、血圧低下、冷汗 | 臥位へ戻して報告し、起立性低血圧や薬剤影響も確認する |
| 胸部症状 | 胸痛、強い息切れ、意識変容 | 直ちに中断し、医師・看護師へ報告する |
| デバイス | チューブ牽引・抜去リスクが高い | 導線と固定を再構成し、介助者追加または段階を戻す |
運用フローは「回復できる段階」を確認しながら上げる
HFNC 装着中の離床は、歩行から逆算するより、端座位・立位・歩行の各段階で「休めば戻るか」を確認しながら進めます。回復できる段階が確認できれば、翌日以降の再現性が上がります。
- 開始前:SpO2・呼吸数・脈拍・症状・HFNC 設定を確認する
- 端座位:2〜3 分で呼吸・循環・チューブ牽引を確認する
- 立位:短時間で反応を見て、歩行へ進む日か判断する
- 足踏み・歩行:短い距離で終了し、無理に延長しない
- 終了後:回復時間と次回の段階を記録する
端座位では安定するのに立位で SpO2 が低下し、戻りが遅い日は、立位を続けるより端座位で回復確認を反復するほうが安全です。距離や回数よりも、回復可能な負荷を見つけることを優先します。
現場の詰まりどころは「SpO2 だけ判断」と「記録不足」で起きやすい
解決の導線: 開始条件 / 中止基準 / 関連:ICU 早期離床の運用
| よくある失敗 | 起きる理由 | 対策 |
|---|---|---|
| SpO2 は保てるのに苦しそう | 呼吸仕事量が増えているが、酸素化だけで判断している | 呼吸数、努力呼吸、会話の途切れを併記し、負荷を 1 段階下げる。 |
| 立位で急に低下して戻りが遅い | 体位変換、分泌物移動、循環要因が重なる | 端座位で回復できることを確認してから立位へ進む。 |
| チューブが短くて動けない | 導線設計、固定位置、酸素源の準備が不足している | 開始前に車椅子・点滴台・酸素源の位置を整え、必要時は介助者を増やす。 |
| 終了後の疲労が強い | 終了後の回復を見ずに、実施量だけで評価している | 回復時間を記録し、次回は同段階反復または 1 段階戻す。 |
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の型をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
評価・記録・報告の型を見直したい方へ
PT キャリアガイドを見る記録は「設定・反応・回復時間・次回方針」を 1 セットで残す
HFNC 装着中のリハは、「端座位実施」「歩行実施」だけでは次の判断につながりません。最低限、HFNC 設定、開始前の状態、実施段階、最小 SpO2、回復時間、呼吸仕事量、次回方針を残すと、チームで同じ判断を再現しやすくなります。
| 項目 | 記録例 | 目的 |
|---|---|---|
| 実施前 | HFNC:流量 / FiO2、開始前 SpO2、呼吸数、脈拍、症状 | ベースラインを固定する |
| 実施内容 | 端座位 3 分 → 立位 1 分 → 足踏み 10 回 | 段階を再現する |
| 反応 | 最小 SpO2、呼吸数ピーク、肩挙上、会話の途切れ、ふらつき | 安全性を共有する |
| 回復 | 休止後 2 分で開始前値へ回復/回復遅く中断 | 次回負荷を決める |
| 次回方針 | 同段階で反復/端座位中心/歩行は見送り | チームで前進する |
記録例:HFNC 流量〇 L/min、FiO2 〇%。開始前 SpO2 〇%、RR 〇回/分、HR 〇/分。端座位 3 分で SpO2 最低〇%、肩挙上軽度、休止 2 分で開始前値へ回復。立位では呼吸数増加あり、歩行は見送り。次回は端座位延長から再評価。
HFNC 装着中リハ安全記録シートをダウンロードする
開始前の確認、段階ごとの反応、回復時間、次回方針を 1 枚で残せる A4 記録シートです。印刷してベッドサイドやカンファレンス前の共有用として使えます。
HFNC 装着中リハ安全記録シート(A4・1枚)
PDFを開く(ダウンロード)中身をプレビューする
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. HFNC のまま歩行してよい数値基準はありますか?
単一の数値で一律に決めるより、開始前のベースライン、症状、休止後の回復で判断します。SpO2 が保てても、呼吸数増加や努力呼吸が強い場合は負荷を下げます。
Q2. SpO2 は保てるのに、呼吸数が増えて苦しそうです
酸素化は保てていても、呼吸仕事量が増えている可能性があります。呼吸数、肩挙上、会話の途切れを確認し、座位へ戻して回復を優先します。
Q3. 端座位で安定しない日は中止した方がよいですか?
歩行は見送っても、体位調整、呼吸介助、短時間座位、排痰支援へ目的を変更できます。回復が遅い場合や症状が重なる場合は中断し、医師・看護師へ共有します。
Q4. 記録で最低限残すべき項目は何ですか?
HFNC 設定、開始前 SpO2・呼吸数・脈拍、実施段階、最小 SpO2、呼吸仕事量、回復時間、次回方針を残します。特に回復時間は、次回の負荷設定に直結します。
次の一手|呼吸療法と早期離床の運用へつなげる
- 全体像を確認する:呼吸療法(コンディショニング)
- 早期離床のチーム運用を見る:ICU 早期離床の運用プロトコル
参考文献・資料
- Oczkowski S, Ergan B, Bos L, et al. ERS clinical practice guidelines: high-flow nasal cannula in acute respiratory failure. Eur Respir J. 2022;59(4):2101574. doi:10.1183/13993003.01574-2021( PubMed: 34649974 )
- Moya-Gallardo E, Fajardo-Gutiérrez J, Acevedo K, et al. High-flow nasal cannula in adults with chronic respiratory diseases during physical exercise: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open Respir Res. 2024;11(1):e002431. doi:10.1136/bmjresp-2024-002431( PubMed: 39438081 )
- Paolucci T, Patrizio G, Pietrantonio D, et al. Utility of High Flow Nasal Cannula during Pulmonary Rehabilitation in COVID-19 Patients in Acute Respiratory Failure. Appl Sci. 2022;12(9):4637. doi:10.3390/app12094637
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


