認知症の実行機能課題|OTでの選び方・観察・生活行為へのつなげ方

臨床手技・プロトコル
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認知症の実行機能課題は「正解したか」より、どこで行動が止まったかを見ます

認知症者に実行機能課題を用いるときは、正答率だけでなく、行動開始・手順化・切替・抑制・自己モニタリングのどこで支援が必要になったかを観察することが重要です。紙面課題で誤りがあっただけでは、実行機能の問題と判断することはできません。

本記事ではOT向けに、実行機能をみる課題の選び方、課題中の観察ポイント、難易度の調整方法、得られた所見を更衣・整容・調理などの生活行為へつなげる考え方を整理します。紙面課題全体を使うか、何を目的に選ぶかは認知症OT紙面課題の運用で整理しています。

実行機能は5つの過程に分けると観察しやすくなります

実行機能課題では、成績を1つの点数にまとめるだけでなく、開始する、順序立てる、切り替える、不適切な反応を抑える、自分の行動を確認するという過程に分けて観察します。同じ誤答でも、どの過程で崩れたかによって次に確認する内容は変わります。

認知症の実行機能課題で観察する5つの過程
観察する過程 課題中に見る反応 次に確認したいこと
行動開始 説明後に自分から始めるか、開始の促しが必要か 生活場面でも行動開始に声かけが必要か
手順化 必要な順序を組み立て、途中まで手順を保てるか 複数工程の生活行為で順序が崩れないか
切替 条件が変わったあとに新しいルールへ移れるか 予定や方法の変更に対応できるか
抑制 不要な反応を止め、条件に合う行動を選べるか 確認せず行動する、手順を飛ばすなどがないか
自己モニタリング 誤りに気づき、自分で止まる・確認する・修正するか 生活行為中の失敗に気づき、修正できるか

この5分類は診断基準や特定の評価尺度の下位項目ではなく、課題遂行のどこで支援が必要かを整理するための実務上の観察枠組みです。実行機能は注意、記憶、言語理解、視覚認知などとも相互に影響するため、1つの反応だけで原因を決めないことが重要です。

課題は「確認したい過程」から選びます

実行機能課題を選ぶときは、難しい問題を与えることより、何を確認するための課題なのかを先に決めることが重要です。手順化を見たいのに切替や時間制限まで同時に加えると、どの条件で遂行が崩れたのか分かりにくくなります。

確認したい実行過程と課題の選び方
確認したいこと 課題の例 主な観察点
行動開始 簡単なルールを理解したあと、自分で開始する課題 開始までの様子、促しの有無
手順化 複数の工程を順序立てて扱う課題 順序の組み立て、工程の脱落、途中停止
切替 途中で分類方法や選択ルールが変わる課題 旧ルールの残存、新ルールへの移行
抑制 特定条件では反応しない、別の反応を選ぶ課題 条件確認、不要な反応を止められるか
自己モニタリング 途中または終了後に自分の反応を確認できる課題 誤りへの気づき、確認行動、自己修正

紙面課題は実行機能を観察する方法の1つですが、それ自体を日常生活能力の代わりにはできません。紙面上で特徴的な反応がみられた場合は、実際の生活行為でも同様の問題が起きているかを確認します。

正答率だけでなく「どの支援で変わったか」を見ます

実行機能課題では、正答率だけを残すと介入につながる情報が不足します。OTでは、どこで止まり、どのような手がかりで再開し、誤りへ自分で気づけたかを合わせて確認すると、次の評価や支援方法を考えやすくなります。

認知症の実行機能課題で課題選択、5つの視点での観察、生活行為での確認、支援方法の決定へつなげる流れ
実行機能課題の結果だけで判断せず、行動開始・手順化・切替・抑制・自己モニタリングを観察し、生活行為で確かめて支援方法へつなげます。
実行機能課題で残したい観察情報
記録すること 記録例 分かること
開始 説明後は開始せず、声かけ後に開始 自発的な開始に支援が必要か
手順 複数工程の途中で停止し、次の手順を確認 どの段階から遂行が崩れたか
切替 条件変更後も旧ルールで反応 新しい条件への移行が難しいか
手がかり 口頭指示では再開せず、選択肢提示で再開 どの種類の外的支援が有効か
自己修正 誤反応後に自ら確認して修正 誤りへの気づきと修正がみられるか

「再指示が何回なら重症」「正答率が何%なら次の段階」といった一律の基準は設けません。同じ成績でも、課題の複雑さ、理解力、体調、環境、手がかりの種類によって意味が異なるためです。

課題ができない原因を実行機能だけに求めません

課題の失敗は実行機能の問題だけでは説明できません。特に認知症者では、注意、記憶、言語理解、視覚認知、運動機能、疲労、心理状態、環境などの影響を受けるため、反応の背景を確認します。

実行機能課題の失敗を解釈するときに確認する要因
課題中の所見 実行機能以外に確認したい要因
説明直後から誤る 言語理解、聴力、注意、課題ルールの理解
途中からルールが崩れる 記憶保持、持続性注意、疲労
刺激を見落とす 視力、視覚認知、探索方法、注意
開始しない 理解、不安、意欲、疲労、覚醒状態
反応に時間がかかる 処理速度、運動機能、課題への慣れ

例えば、ルール変更後に旧ルールが続いたとしても、それだけで「切替障害」と決めることはできません。新しいルールを理解できていたか、覚えていたか、刺激を十分に認識できていたかまで確認すると、解釈のずれを減らせます。

紙面課題の所見は生活行為で確かめます

実行機能課題の所見は、次にどの生活行為を観察するかを決めるための仮説として使うと臨床につながります。課題上の特徴と本人が実際に困っている活動を照合し、同じ遂行上の問題が生活場面でも再現されるかを確認します。

実行機能課題の所見を生活行為へつなげる例
課題でみられた反応 次に確認する生活行為 生活場面で見るポイント
開始に促しが必要 整容、更衣、食事準備 必要な物品があっても自分から開始するか
手順が途中で崩れる 更衣、整容、調理など 工程の抜け、順序の逆転、途中停止がないか
条件変更後も旧ルールを続ける 予定変更、移動方法や道具の変更 変更を理解したあと、行動を切り替えられるか
不要な反応を止めにくい 調理、服薬、金銭管理など 確認せず次へ進む、不要な操作を続けるなどがないか
誤りに気づかない 整容、家事、服薬など 終了前の確認や間違いの修正が行えるか

例えば、順序を扱う課題で途中停止が目立つ場合は、「手順化が難しい」と記録して終えるのではなく、更衣や整容など本人に必要な活動でも同様の停止が生じるかを確認します。生活行為でも再現される場合は、手順の単純化、視覚的な手がかり、物品配置など具体的な支援へつなげます。

調理や服薬管理など安全上のリスクを伴う活動は、対象者の状態や施設の運用に応じて、実場面の観察だけでなく模擬課題も用いながら安全を確保して確認します。

難易度は点数ではなく課題条件を調整します

難易度調整では「何点取れたら次へ進む」という共通基準を置くのではなく、対象者がどの条件なら目的とした実行過程を観察できるかを基準に考えます。

実行機能課題で調整できる主な条件
調整する条件 調整例 確認すること
工程数 一度に扱う手順を増減する 何工程から遂行が不安定になるか
ルール数 判断条件を単純化または追加する 条件数の増加で誤反応が増えるか
切替 同一ルールを続ける、途中で条件を変える 変更後に旧ルールが残るか
刺激量 選択肢や提示情報を増減する 情報量によって探索や判断が変わるか
手がかり 口頭、視覚、見本などを調整する どの支援で遂行が改善するか
環境 周囲の刺激や作業場所を調整する 環境刺激による影響があるか
時間条件 必要に応じて時間的な負荷を変更する 時間制約によって反応が変化するか

経時変化を比較するときは、前回から何を変更したのか分かるように条件を記録します。複数条件を同時に変更すると反応の理由を解釈しにくくなる場合がありますが、「必ず1要素だけ変更する」という認知症の実行機能課題に共通した公式基準があるわけではありません。

OTでは「課題→生活行為→支援」までつなげます

実行機能課題を臨床で使う場合は、紙面上の成績を記録して終了するのではなく、本人の生活上の困りごとへ戻して支援方法まで考えることが重要です。

  1. 生活上の課題を確認する:更衣、整容、家事、服薬など、本人や家族が困っている活動を把握します。
  2. 確認したい実行過程を決める:行動開始、手順化、切替、抑制、自己モニタリングのどこに仮説を置くか整理します。
  3. 課題を選ぶ:確認したい過程を観察しやすい条件を設定します。
  4. 反応過程を記録する:結果だけでなく、停止した場面、必要だった手がかり、自己修正を残します。
  5. 生活行為で確かめる:課題上の特徴が実際の活動でもみられるか観察します。
  6. 支援方法を検討する:環境、手順、道具、視覚的手がかり、声かけなど、生活場面で使える支援へ落とし込みます。

この流れにすると、「実行機能ドリルを実施すること」自体が目的になるのを避け、作業遂行の評価と介入へ所見を戻しやすくなります。

紙面課題そのものを介入のゴールにはしません

認知症に対する認知的介入では、似た言葉でも目的の異なる方法があります。特定の認知課題を反復する認知トレーニングと、本人にとって重要な生活目標を設定し、その遂行を支える認知リハビリテーションは分けて考える必要があります。

NICEの認知症ガイドラインでは、軽度〜中等度認知症の機能的能力を支える方法として、認知リハビリテーションまたは作業療法を検討するとしています。一方、軽度〜中等度Alzheimer病を治療する目的で認知トレーニングを提供することは推奨していません。

Cochraneの2023年レビューでは、軽度〜中等度認知症に対する個別化された認知リハビリテーションについて、介入で目標とした本人にとって重要な日常活動の遂行改善が示されています。ただし、すべての日常生活能力や認知機能へ同じように効果が一般化するとは限りません。

そのため、本記事では紙面課題を繰り返すこと自体を目的とせず、課題から得た所見を本人の具体的な生活目標と支援方法へつなげることを重視します。

二重課題とは「何を確認したいか」で使い分けます

実行機能課題と二重課題は重なる要素がありますが、同じものではありません。実行機能課題では手順化、切替、抑制、自己モニタリングなどの遂行過程を整理しやすい一方、二重課題では2つの課題を同時に行ったときの干渉や注意配分が主な観察対象になります。

「ルールを切り替える場面で崩れているのか」「同時に2つを処理すると崩れるのか」で迷う場合は、実行機能課題と二重課題の使い分けで整理しています。

実行機能課題で避けたい4つの使い方

認知症の実行機能課題で起こりやすい解釈のずれ
避けたい使い方 問題点 修正方法
正答率だけで評価する どの過程で支援が必要か分からない 開始、手順、切替、手がかり、自己修正を観察する
誤答をすべて実行機能の問題と考える 注意、記憶、理解など他の要因を見落としやすい 失敗した条件と他の認知・身体要因を確認する
難しい課題へ進むことを目的にする 本人の生活目標との関係が薄くなる 確認したい過程と生活上の困りごとから課題条件を決める
紙面課題だけで介入を完結する 生活場面でも同じ問題が起こるか確認できない ADL・IADLで再確認し、環境や手順の支援へつなげる

よくある質問

紙面課題で失敗すれば、実行機能障害と判断できますか?

紙面課題だけでは判断できません。注意、記憶、言語理解、視覚認知、疲労などでも成績は変化します。どの条件で失敗したかを整理し、実際の生活行為でも同様の問題がみられるか確認します。

正答率は何%あれば次の課題へ進めますか?

認知症の実行機能課題全般に共通する進級率はありません。正答率だけでなく、手がかり量、誤り方、自己修正、疲労、課題の目的を確認し、同じ条件で再評価するか、条件を変更するかを判断します。

課題が簡単すぎる場合は何から難しくしますか?

工程数、ルール数、切替、刺激量、手がかり、環境、時間条件などを調整できます。経時比較を行う場合は、どの変更が反応へ影響したか分かるように変更内容を記録します。

実行機能課題の結果はカルテにどう残しますか?

課題名や正答数だけでなく、「どこで停止したか」「どの手がかりで再開したか」「誤りへの気づきや自己修正があったか」「次にどの生活行為を確認するか」を簡潔に残すと、再評価や多職種共有につながります。

まとめ

認知症の実行機能課題では、難しい問題を解かせることよりも、行動開始・手順化・切替・抑制・自己モニタリングのどこで支援が必要になるかを整理することが重要です。

課題中の失敗をそのまま実行機能の問題と判断せず、注意、記憶、理解、疲労などの影響も確認します。そして、紙面上で得られた所見を更衣・整容・調理など本人に必要な生活行為で確かめ、環境調整、手順の工夫、視覚的手がかりなど具体的な支援へつなげます。

実行機能課題は「何点だったか」で終えるのではなく、次に何を生活場面で確認し、どの支援を試すかを決めるための材料として使うと、OTの評価・介入へつなげやすくなります。


参考文献

  1. Smallfield S, Metzger L, Green M, Henley L, Rhodus EK. Occupational Therapy Practice Guidelines for Adults Living With Alzheimer’s Disease and Related Neurocognitive Disorders. Am J Occup Ther. 2024;78(1):7801397010. doi:10.5014/ajot.2024.078101.
  2. Kudlicka A, Martyr A, Bahar-Fuchs A, Sabates J, Woods B, Clare L. Cognitive rehabilitation for people with mild to moderate dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2023;6:CD013388. doi:10.1002/14651858.CD013388.pub2.
  3. Clare L, Kudlicka A, Oyebode JR, et al. Goal-oriented cognitive rehabilitation for early-stage Alzheimer’s and related dementias: the GREAT RCT. Health Technol Assess. 2019;23(10):1-242. doi:10.3310/hta23100.
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NICE guideline NG97. London: NICE; 2018.

著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、リハビリテーション専門職の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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