有酸素運動リハの基本|強度設定と中止基準

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

有酸素運動(運動耐容能)リハの基本|強度設定・中止基準・記録まで 1 ページで

有酸素運動(運動耐容能)リハは、「安全確認 → 強度( FITT )決定 → 実施 → 反応を記録 → 再設定」の循環で質が上がります。心肺・代謝の改善だけでなく、退院後の運動習慣化にも直結する一方で、現場では「強度が低すぎる/高すぎる」「中止判断が曖昧」「記録がバラバラ」で詰まりがちです。

本ページでは、 RPE / Talk test /心拍を共通言語にして、中止基準最低限の記録までを “そのまま運用できる形” に整理します(表は横スクロールで閲覧してください)。

5 分で回す基本フロー(安全確認→強度→実施→記録→再評価)

結論:まずは “手順を固定” すると迷いが減ります。特に、毎回ゼロから考えるのではなく、 5 分フローで回すと再現性が上がります。

  1. 安全確認:症状(息切れ/胸部症状/めまい/疼痛)、バイタル(必要時 SpO₂・血圧・脈拍)、禁忌の有無を確認
  2. 強度決定: RPE と Talk test を先に決め、心拍は “補助” として使う
  3. 実施:ウォームアップ → メイン → クールダウン(途中で RPE と会話可能性を再チェック)
  4. 記録: FITT と反応( RPE・SpO₂・症状)を最小セットで残す
  5. 再評価: 1 週間/ 2 週間単位で “強度を上げる根拠” を作る(同条件の評価 or 運動時反応)

強度設定の基本( FITT / RPE / Talk test /心拍)

強度設定は、「安全に続けられる負荷」を作る作業です。患者さんの理解・自己管理のしやすさを考えると、まずは RPE と Talk testを軸にすると運用が安定します。心拍は有用ですが、薬剤( β 遮断薬など)や不整脈、測定誤差の影響を受けるため、 “心拍だけで決めない”のがコツです。

有酸素運動の強度設定|現場で使う 4 つの指標(成人・一般的な目安)
指標 目安 使いどころ 注意点
RPE( Borg ) おおむね 11〜13(軽い〜ややきつい)
慣れてきたら 13〜15 を検討
在宅・自主トレの “共通言語” 説明を揃える(例: 0〜10 版か 6〜20 版か)
Talk test 会話は可能だが、歌うのは難しい程度 測定機器がなくても使える 息切れが強い日は “会話の可否” を最優先
心拍( HR ) 安静時+ HRR の一部(例: 40〜60 % HRR から) 運動負荷を段階化したいとき 薬剤・不整脈・測定誤差でズレる
SpO₂ ベースラインからの低下がない範囲
必要時は下限を施設ルールで統一
呼吸器・心不全・重症者の安全管理 プローブ不良・末梢循環で値が不安定

FITT の最小セット(まず “続く処方” を作る)

FITT は、頻度( Frequency )強度( Intensity )時間( Time )種類( Type )の 4 要素です。最初は “完璧” より、守れるルールを優先します。

  • F :週 3〜5 回(まずは週 2 回でも “固定” する)
  • I : RPE 11〜13 + Talk test OK
  • T : 10 分 × 2 回など “分割” から開始 → 合計 20〜30 分へ
  • T :歩行、ノルディック、エルゴなど(安全に継続できるもの)

中止基準と安全管理(いつ止めるかを先に決める)

安全管理は “気合” ではなく基準の統一で担保します。中止基準は、患者さんに説明することで自己管理にもつながります。施設や主治医の方針がある場合は必ずそちらを優先し、この表は “院内ルール作りの叩き台”として使ってください。

有酸素運動リハの中止判断|症状・観察所見で迷わない(一般的な考え方)
区分 中止・中断を考えるサイン その場の対応 記録ポイント
胸部症状 胸痛、胸部圧迫感、冷汗、放散痛、強い動悸 直ちに中止 → 安静 → バイタル確認 → 施設手順に従う 症状の出現タイミング(何分・何負荷)
呼吸 会話困難な息切れ、喘鳴、呼吸苦の急増、チアノーゼ 中止/強度を大きく下げる → 体位調整 → 必要時 SpO₂ Talk test の可否、 RPE、 SpO₂ の推移
神経 めまい、ふらつき、失神前駆、意識レベル低下、強い頭痛 即中止 → 転倒防止 → 安静 → 施設手順へ 前駆症状の有無、姿勢・環境
循環 顔面蒼白、極端な血圧変動が疑われる、脈の乱れが増える 中止 → 安静 → 必要時 血圧・脈拍を確認 測定値、症状との一致
運動器 痛みの急増、跛行の悪化、関節の熱感・腫脹が強い 中止/種目変更(荷重↓)→ 疼痛の要因を再評価 痛み部位・増悪動作・フォーム

評価指標の選び方( “評価して終わり” にしない)

評価は “点数をつける” ためではなく、処方(次の負荷)を決める根拠を作るために行います。運動耐容能は、同じ指標を同条件で繰り返すほど変化が見えます。

  • 歩行耐久: 6 分間歩行( 6MWT )など
  • 主観:運動時 RPE、息切れ( Borg スケール等)
  • 日常:活動量(歩数、 Ex など)
  • 安全:運動時の SpO₂・血圧・症状の “出方”

記録テンプレ(最低限これだけ残す)

記録が散らかると、強度調整の根拠が消えます。まずは 1 行テンプレで十分です。院内の書式がある場合は、それに合わせて “項目だけ” を転記してください。

有酸素運動リハの記録|最小セット(例)
項目 書き方(例) 狙い
Type 歩行/ノルディック/エルゴ 再現性
Time 10 分 × 2(間 3 分休憩) 量の把握
Intensity RPE 12(ピーク 13)/ Talk test OK 強度の固定
Response 息切れ軽度、胸部症状なし、ふらつきなし 安全性
Next 次回:合計 25 分へ( RPE 12 を維持) 介入デザイン

現場の詰まりどころ・よくある失敗(ここを直すと伸びる)

有酸素運動が “続かない” ときは、本人の意志よりも運用設計が原因になっていることが多いです。よくある詰まりどころを、対策とセットで押さえます。

有酸素運動リハの “詰まり” と対策( PT 視点 )
よくある詰まり 起きる理由 対策(次アクション) 確認する指標
強度が低すぎる 安全優先で “軽すぎ” が固定される RPE 11〜13 を目安に “話せる範囲” で段階的に上げる RPE、 Talk test、運動後の回復
強度が高すぎる 心拍だけで設定/頑張り過ぎ Talk test を優先し、分割( 10 分 × 2 )に切り替える 会話の可否、息切れ、症状
記録が残らない 項目が多すぎて継続不能 “ 1 行テンプレ” に落とす( Type / Time / RPE / 反応 / Next ) 次回の処方が立つか
在宅で途切れる 道具・環境・手順が複雑 最初は “歩行” か “分割エルゴ” で成功体験 → 種目を広げる 週回数、実施率、活動量

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 心拍が測れないときは、どう強度を決めればいいですか?

まずは RPE(体感のきつさ) Talk testで決めるのが実務的です。目安は RPE 11〜13 で、会話が続く範囲に収めます。心拍は補助として使い、測定できる日だけ “確認” する運用でも十分回ります。

Q2. 10 分も連続で歩けません。処方はどうしますか?

分割で OK です。たとえば 5 分 × 3 回 10 分 × 2 回のように “合計時間” を作り、まずは週回数を固定します。連続時間は、反応( RPE・会話の可否・症状)を見ながら徐々に伸ばします。

Q3. 運動中に息切れが出ます。どこまで許容していいですか?

会話ができる範囲( Talk test OK )を基本にし、息切れの増え方が急な日は強度を落とします。呼吸器疾患や心不全などでは、 SpO₂ や主治医指示が優先です。迷うときは “中止基準を先に決める” と判断が安定します。

Q4. 有酸素運動は毎日やった方がいいですか?

理想は “継続できる頻度” です。週 3〜5 回が一般的な目安ですが、まずは週 2 回でも “固定” できれば十分価値があります。量より先に、反応を見ながら “やり切れる設計” を作ることが重要です。

おわりに(次アクション)

有酸素運動(運動耐容能)リハは、安全の確認 → 強度設定 → 段階的な実施 → 反応の記録 → 再評価のリズムで回すと、患者さんの “続く運動” に変わります。面談や見学で「運動処方をどう回している職場か」を整理したいときは、面談準備チェックと職場評価シートも活用してみてください。

参考文献

  • American Thoracic Society Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories. ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(1):111-117. DOI: 10.1164/ajrccm.166.1.at1102
  • Borg G. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. DOI: 10.1249/00005768-198205000-00012
  • American College of Sports Medicine. ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription.(最新版は版により内容が更新されるため、施設ルール作成時は該当版を参照)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました