認知症OTの二重課題|崩れ方の見方と負荷調整

臨床手技・プロトコル
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認知症の二重課題は「単一課題→崩れ方→調整」の順で見ます

認知症の方に二重課題を使うときは、最初から難しい同時課題を行うのではなく、まず2つの課題をそれぞれ単独で行ったときの反応を確認します。そのうえで二重課題にし、主課題・副課題のどちらが崩れたか、必要な手がかりや中断がどう変わったかを観察すると、次に調整すべき条件が見えやすくなります。

この記事では、認知症の作業療法で二重課題を用いる場面を想定し、単一課題の成立確認、崩れ方の見分け方、過程所見の記録、負荷・手がかりの調整、実作業やADLへのつなげ方まで整理します。紙面課題の正答率だけで生活能力を判断しないことが重要です。

二重課題を見る基本順序
① 2つの課題をそれぞれ単独で確認する
② 二重課題にして、主課題・副課題のどこが崩れたか見る
③ 正答率だけでなく、時間・再指示・中断・自己修正・疲労を見る
④ 次回に変更する条件を決める
⑤ 必要に応じて実際の作業・ADLで確認する

二重課題の前に、それぞれの単一課題を確認します

二重課題による影響を見たい場合は、先にそれぞれの構成課題を単独で確認します。単独でも課題理解や遂行が不安定な状態では、二重課題で生じた誤りを「同時に2つの課題を行った影響」と解釈しにくいためです。

二重課題を始める前に確認するポイント
確認すること 観察例 不安定な場合
課題理解 説明後に開始できるか、ルールを保持できるか 説明を簡潔にする、課題自体を見直す
主課題の単独遂行 正確性、速度、中断、再指示の有無 二重化せず、単独でどこが難しいか確認する
副課題の単独遂行 反応の正確性、遅延、聞き返しなど 副課題の内容や提示方法を調整する
感覚・運動条件 視認、聴取、書字、姿勢保持など 認知機能以外の要因を先に調整する
当日の状態 眠気、疲労、痛み、不安、拒否、環境刺激 実施条件や実施時期を見直す

ここで重要なのは、「単一課題で満点を取れなければ二重課題を行えない」という意味ではありません。二重課題にした前後で何が変化したかを解釈できるよう、単独時の反応を基準として把握しておくことが目的です。

二重課題では「主課題・副課題・両方」のどこが崩れたかを分けます

二重課題を「できた/できない」の2択にすると、次の調整につながりません。あらかじめどちらを主に保ちたい課題とするかを整理し、二重化したときに主課題・副課題・両方のどこで変化したかを分けて観察します。

認知症OTの二重課題で単一課題を確認し、主課題・副課題の崩れ方から負荷調整とADL確認へつなげるフロー
図:認知症OTの二重課題で、単一課題の確認から崩れ方の観察、条件調整、実作業・ADLの確認へつなげる流れ。

ここでいう主課題・副課題は標準化された分類ではなく、この記事で観察対象を整理するための便宜的な呼び方です。生活上で優先したい行為が明確な場合は、その目的に合わせて何を保ちたいのかを決めます。

二重課題でみられる崩れ方と次に確認すること
二重化後の反応 観察の意味 次に確認すること
主課題が主に崩れる 副課題が加わることで、優先したい課題の正確性や継続性が低下している 副課題の量・速度・ルール・手がかりを見直す
副課題が主に崩れる 主課題を続ける一方で、副課題への反応が遅れる、中断する、抜ける どちらを優先するよう理解しているかも確認する
両方が崩れる 二重化した条件で2課題とも精度・速度・継続性が低下している 課題量、同時性、環境刺激、手がかりなどを調整する
成績は保たれるが時間が延びる 時間をかけることで正確性を保っている可能性がある 所要時間や停止、確認行動を含めて記録する
両方とも大きく変わらない 現在の条件では二重化による明らかな変化が少ない 目的に必要なら条件を調整するが、難しくすること自体を目的にしない

正答率だけでなく「過程所見」を記録します

二重課題では、最終的な正答数が同じでも遂行過程が異なることがあります。時間をかけて修正できたのか、再指示が必要だったのか、一方の課題を止めたのかまで残すと、次回の課題設定につながります。

二重課題で記録しておきたい過程所見
観察項目 見るポイント 記録例
正確性 単独時と比べて誤りが増えたか 主課題10項目中8項目正答
所要時間・反応遅延 開始や回答が遅くなったか、停止が増えたか 副課題提示後に主課題が一時停止
再指示 ルールや課題継続の再説明が必要だったか 途中でルール再提示1回
中断・抜け 一方を完全に止める、反応を飛ばすことがあるか 副課題への反応を3回中1回省略
自己修正 誤りに自分で気づき修正できるか 誤反応後に自発的修正あり
優先配分 どちらか一方を優先している様子があるか 副課題提示中も主課題を継続し、口頭反応が遅延
疲労・情動反応 焦り、表情変化、拒否、集中低下など 後半に「難しい」と発言し反応数が減少

秒数や正答率に一律のカットオフを設定するのではなく、単独時と二重課題時、前回と今回で何が変化したかを比較します。正答率が保たれていても、反応遅延や再指示、中断が増えていれば、同じ遂行とは限りません。

負荷調整は「何を変えたか」が追える形にします

二重課題が難しかった場合、「簡単なレベルへ戻す」だけでは次回の設定根拠が曖昧になります。どの条件が負荷になった可能性があるのかを考え、比較可能性を保てる範囲で変更する要素を整理します。

二重課題で調整できる主な条件
調整する条件 軽くする例 負荷を加える例
課題量 項目数を減らす、実施範囲を短くする 項目数や継続時間を増やす
ルール 条件を単純化する 選択条件や切り替えを加える
提示速度 副課題の提示間隔を広げる 反応可能な範囲で提示間隔を狭める
同時性 交互・順番に行ってから同時化する 2課題の重なる時間を増やす
手がかり 視覚提示、復唱、ルール提示などを加える 不要になった手がかりを減らす
環境 雑音や周囲刺激を減らす 必要に応じて生活場面に近い条件へ移す

変更要素を必ず1つに限定しなければならないという公式ルールはありません。ただし、経時比較を目的とする場合は条件を一度に大きく変えすぎない方が、反応が変化した理由を追いやすくなります。

たとえば主課題が止まった場合でも、すぐに別教材へ変更するのではなく、副課題の提示間隔を広げる、ルールを簡潔にする、手がかりを増やすなど、観察した反応に対応する調整を検討します。

紙面での反応は、実作業・ADLで確認して意味をつなげます

紙面二重課題で崩れたことは、そのまま「日常生活でも二重課題ができない」ことを意味しません。紙面では視覚探索、読解、書字、聴覚理解など複数の要素が影響するため、生活上の困りごとと対応させて確認します。

紙面二重課題の所見を生活場面へつなげる例
紙面でみられた反応 生活で確認する候補 確認するポイント
声をかけると主課題が止まる 更衣・整容・片付け中の会話 声かけ後に元の作業へ戻れるか
副課題への反応が抜ける 家事中の呼びかけや確認 作業を続けながら必要な情報へ反応できるか
両方の誤りが増える 複数情報を扱う準備・片付け 情報量を減らすと遂行が変化するか
自分で一方を止めて対処する 実際の生活課題 一度止まって対応する方法を生活場面でも使えるか

特に歩行しながら会話する、物を運びながら周囲へ注意するといった運動+認知の二重課題を確認したい場合、紙面課題の結果だけから判断しません。身体機能、転倒リスク、環境、安全管理を踏まえ、目的に近い課題で別に確認する必要があります。

認知症への作業療法では、紙面課題上の成績だけでなく、本人にとって意味のある作業、ADL・IADL、環境、残存能力、必要な支援へつなげる視点が重要です。1

本サイトのL1〜L3は教材内の区分であり、公式の進級段階ではありません

rehabilikunblogでは、認知症OT向けの紙面課題として二重課題L1〜L3を用意しています。ただし、これらは標準化された認知機能評価尺度や公式の難易度分類ではありません。

L1〜L3では扱う刺激やルールなど複数の条件が異なるため、すべての対象者で「L1ができたらL2、L2ができたらL3」と進む必要はありません。対象者の生活上の課題と、今回確認したい反応に合わせて教材を選びます。

L1〜L3 PDFを使用する場合

二重課題を含む紙面教材のPDFは、認知症OT紙面課題PDF集にまとめています。PDF上の正誤だけで認知機能や生活能力を判定せず、必要だった支援や実作業での反応と合わせて使用してください。

記録は「条件・崩れ方・支援・次の確認」を残します

記録では「二重課題実施、正答8/10」のような結果だけでなく、単独時との違いと次の判断につながる情報を残します。何を組み合わせ、どちらが崩れ、どの支援で反応が変わったかが分かると、再評価にも使いやすくなります。

記録例
紙面課題と口頭課題を各々単独で実施した際は、説明後に遂行可能。二重課題では口頭刺激提示後に紙面課題が数回停止し、再開時に1回再指示を要した。副課題への反応は保たれていた。自己修正あり、著明な疲労・拒否なし。次回は副課題の提示間隔を広げ、主課題の継続性を再確認する。生活場面では作業中に声かけを受けた後の再開状況を確認する。

この記録で重要なのは「何点だったか」だけではなく、どの条件で何が崩れ、どの支援で変化し、次に何を確認するかが追えることです。

二重課題の研究結果と、紙面ドリル自体の効果は分けて考えます

認知症や軽度認知障害を対象とした二重課題訓練については、認知機能や身体機能への効果を報告した系統的レビューがあります。一方、研究ごとに二重課題の組み合わせや介入条件が異なり、2024年の系統的レビューでも最適な訓練プロトコルは明らかになっていません。3

また、研究上の二重課題には「運動+認知」「運動+運動」「認知+認知」など複数の形式があります。2025年のネットワークメタ解析でも複数の二重課題形式が検討されていますが、介入内容や対象には幅があります。4 そのため、一般的な二重課題訓練の研究結果を、そのまま本サイトのL1〜L3紙面教材の効果として扱うことはできません。

認知症への作業療法では、紙面上の成績そのものを目的にするのではなく、対象者の目標、残存能力、生活環境、ADL・IADLを踏まえて支援へつなげる視点が重要です。日本作業療法士協会の「作業療法ガイドライン―認知症 増補版」でも、認知症に対する作業療法について日常生活活動などを含むエビデンスが整理されています。1

NICEでは、軽度〜中等度認知症の機能能力を支えるために認知リハビリテーションまたは作業療法を検討する一方、軽度〜中等度Alzheimer病を治療する目的でcognitive trainingを提供しないよう推奨しています。2 紙面二重課題を認知症そのものを治療する標準手段とみなすのではなく、反応を観察し、本人に意味のある生活行為の支援へつなげるための一つの課題として位置づけます。

二重課題で迷いやすいポイント

認知症OTの二重課題で避けたい解釈
迷いやすい場面 注意したいこと 次の対応
単独でも難しい課題を二重化する 二重課題による影響と単独課題そのものの難しさを分けにくい 各構成課題の単独時の反応を確認する
正答率だけで判断する 時間延長、中断、再指示、自己修正が見えない 過程所見を併記する
L1から順番に進めることを目的にする L1〜L3は標準化された進級基準ではない 観察目的と対象者に合わせて選ぶ
紙面課題の結果をADLへ直接当てはめる 実生活では身体・環境・道具・習慣など別の要因が加わる 意味のある実作業で確認する
難しくすることを目標にする 生活目標と関係のない負荷増加になりやすい 何を確認・支援したいかから条件を決める

よくある質問

単一課題が不安定でも二重課題を行ってよいですか?

実施自体が一律に禁止されるわけではありません。ただし、二重課題によって何が変化したかを確認したい場合は、先に各構成課題の単独時の反応を把握しておく方が解釈しやすくなります。単独時から課題理解が不安定な場合は、まず課題内容や手がかりを調整します。

L1から始める必要がありますか?

ありません。L1〜L3はrehabilikunblogの紙面教材内での便宜的な区分であり、標準化された進級段階ではありません。対象者の能力、観察したい反応、生活上の課題に合う教材を選びます。

紙面の二重課題ができれば、歩きながら会話することもできますか?

紙面課題の結果だけでは判断できません。歩行を伴う二重課題では、バランス、歩行能力、疲労、環境、転倒リスクなどが加わります。実際に確認する場合は安全管理を行い、目的に近い運動+認知課題として別に評価します。

正答率が下がらなければ負荷は適切ですか?

正答率だけでは判断できません。所要時間が大きく延びる、一方の課題を一時停止する、再指示が増える、疲労や焦りが強くなるなどの変化も確認します。

次は「紙面課題全体の選び方」または「実行機能との違い」を確認します

二重課題を使う前の紙面課題全体の選択・観察方法を整理したい場合は、認知症OT紙面ドリルの運用プロトコルを確認してください。

「実行機能課題と二重課題のどちらを選ぶか」で迷う場合は、実行機能と二重課題の使い分けで役割の違いを整理しています。


参考文献

  1. 日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン―認知症 増補版. 2025. 日本作業療法士協会
  2. National Institute for Health and Care Excellence. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NICE guideline NG97. NICE
  3. Yu D, Li X, He S, et al. The effect of dual-task training on cognitive ability, physical function, and dual-task performance in people with dementia or mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2024;38(4):443-456. doi:10.1177/02692155231216621. PubMed
  4. Hao Y, Zhao Y, Luo H, et al. Comparative effectiveness of different dual task mode interventions on cognitive function in older adults with mild cognitive impairment or dementia: a systematic review and network meta-analysis. Aging Clin Exp Res. 2025;37(1):139. doi:10.1007/s40520-025-03016-5. PMC

著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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