記憶障害と遂行機能障害の違い|「覚えていない」と「使えない」を分けて考えます
記憶障害と遂行機能障害を見分けるときは、「いつ失敗したか」だけでなく、必要な情報そのものを覚えていないのか、情報は保持されているのに目標設定・計画・実行・自己修正へうまく使えないのかを分けて考えます。たとえば「手順を忘れた」と「手順は説明できるのに順番どおり進められない」では、次に確認したい機能が異なります。
この記事ではOTなど高次脳機能障害に関わる医療従事者向けに、生活場面と課題中の反応から両者を比較するポイント、混在している場合の考え方、次に確認したい評価を整理します。単一の反応だけで診断せず、注意・理解など他の認知機能も含めて見立てることが前提です。

まず比較|記憶障害と遂行機能障害は何が違う?
最初の分かれ目は、行動に必要な情報が保持されているかです。情報自体を覚えられない・思い出せない場合は記憶の問題を疑い、必要な情報を説明できても行動の組み立てや修正が難しい場合は遂行機能の問題を考えます。
| 見るポイント | 記憶障害を疑う反応 | 遂行機能障害を疑う反応 |
|---|---|---|
| 情報の保持 | 説明された内容や予定そのものを思い出せない | 内容は覚えている、または説明できる |
| 行動の開始 | 何をする予定だったか分からなくなる | 目的は分かっていても、自分から始めにくいことがある |
| 計画・順序 | 必要な手順そのものが抜ける | 手順を知っていても、優先順位や順番の組み立てが崩れる |
| 実行中 | 途中で次に何をするか思い出せなくなる | 脱線、同じ行動の反復、予定外の変更への対応困難などがみられる |
| エラー後 | 正しい手順や直前の行動を思い出せない | 誤りに気づきにくい、または気づいても修正方法を組み立てにくい |
| 支援したとき | 情報を再提示すると行動が改善することがある | 情報が見える状態でも計画・実行・自己調整でつまずくことがある |
「忘れたように見える=記憶障害」とは限りません。途中で作業が止まった場合でも、情報保持、注意、理解、開始、計画、自己監視など複数の要因が考えられます。反対に、遂行機能障害が疑われる場面でも、その背景に記憶障害や注意障害が影響していることがあります。
見分け方|生活場面と課題中の4つの反応を確認します
記憶障害と遂行機能障害を比較するときは、正答率だけでなく、情報保持→計画→実行→自己修正のどこで行動が崩れているかを観察します。
1. 必要な情報を後から説明できるか
まず、「何をする予定だったか」「どのような説明を受けたか」を本人が保持しているか確認します。少し時間を空けたあとに内容そのものが抜けている場合は、記銘・保持・想起など記憶機能の影響を考えます。
一方、「着替えてから歯磨きをして、最後に荷物を準備する」など予定を説明できるにもかかわらず、実際には順番が入れ替わったり途中で別の行動へ移ったりする場合は、記憶だけでは説明しにくくなります。
2. 情報が分かっている状態で計画できるか
次に、情報を保持できている状態で、目標に向けた手順や優先順位を組み立てられるか確認します。遂行機能には、目標設定、計画、行動の開始・継続、状況に応じた調整などが関係します。
たとえば調理に必要な材料を本人がすべて言える場合でも、作業順序を決められない、同時に行う作業を整理できない、時間配分が難しいといった反応がみられれば、遂行機能の関与を考える材料になります。
3. 自分の誤りに気づき、修正できるか
遂行機能を考えるうえでは、結果だけでなく自己モニタリングと修正も重要です。課題中に誤りが生じたとき、本人が違和感に気づくか、いったん停止して確認できるか、別の方法へ切り替えられるかを観察します。
「間違っていることは分かるが、どう直せばよいか整理できない」「同じ失敗を繰り返しても方法を変更しない」といった反応は、単純な情報の忘却とは異なる視点で評価する必要があります。
4. 情報を見える形にすると何が変わるか
口頭指示だけで崩れる場合は、手順や予定を紙面などで確認できる状態にして反応を見る方法があります。記憶への負荷を下げた条件で行動が安定するなら、記憶機能の影響を考える材料になります。
一方、必要な情報が目の前にあっても、どこから開始するか決められない、優先順位をつけられない、途中の誤りを修正できない場合は、遂行過程の評価が必要です。ただし、メモやチェックリストを自発的に確認できない理由には、展望記憶、注意、自発性、病識なども関係するため、「補助具を使えない=遂行機能障害」と単純化しません。
迷いやすい境界|「覚えているのにできない」をどう考える?
本人が必要な情報を覚えていても、生活行為が成立するとは限りません。記憶した情報を目的に合わせて選び、順序化し、実行し、結果を確認して修正する過程には遂行機能が関係します。
| 生活場面 | まず確認すること | 次の見立て |
|---|---|---|
| 予定を忘れて動けない | 予定そのものを覚えているか | 内容が抜けていれば記憶機能を詳しく確認する |
| 予定は言えるが準備が進まない | 開始、手順化、優先順位を確認する | 遂行機能の関与を検討する |
| 手順書があればできる | どの情報が補われたことで改善したか | 記憶負荷の影響と遂行過程を分けて評価する |
| 手順書があっても脱線する | 開始、順序、抑制、自己確認を観察する | 遂行機能や注意などを追加確認する |
| 同じ失敗を繰り返す | 前回の失敗を覚えているか、失敗に気づいているか | 記憶と自己モニタリングを分けて確認する |
重要なのは、「できなかった」という結果から症状名を決めないことです。同じ生活上の失敗でも、情報を覚えていない場合と、情報は保持されていても行動へ変換できない場合では、次に確認する評価が変わります。
記憶障害と遂行機能障害は混在することがあります
実際の高次脳機能障害では、記憶障害と遂行機能障害を二者択一で考えないことが重要です。注意、記憶、言語などの認知機能は互いに独立して働くわけではなく、下位の機能障害が複雑な生活行為や遂行機能の評価結果へ影響することがあります。
たとえば、手順を保持できないために複雑な作業が崩れている患者へ、計画課題だけを追加しても主な問題を捉えられない可能性があります。反対に、情報を十分覚えているにもかかわらず、目標設定や手順化、自己修正が難しい患者へ、記憶課題だけを反復しても生活上の問題と介入内容が一致しません。
そのため、混在が疑われる場合は「どちらが主症状か」を無理に固定するより、どの機能がどの生活行為を制限しているかを整理します。
記憶・遂行機能以外の原因も確認します
「忘れる」「段取りが悪い」という訴えだけでは、記憶障害と遂行機能障害を確定できません。特に、注意の持続や選択が難しい、指示の理解が不十分、疲労で成績が大きく変わるといった場合は、別の要因が行動を崩している可能性があります。
- 注意:そもそも情報へ十分注意を向けられていたか
- 言語理解:指示内容や課題ルールを正しく理解できていたか
- 失行・視空間認知:行為や空間処理そのものが妨げになっていないか
- 自発性・病識:開始や自己確認へ影響していないか
- 疲労・睡眠・情動:時間帯や体調によって反応が変化していないか
高次脳機能は複数の機能が重なって生活行為を支えています。検査所見だけ、あるいは生活場面の印象だけで結論を出さず、両者を照合することが大切です。
次に何を評価する?|仮説に合わせて確認方法を選びます
比較後は、「記憶障害か遂行機能障害か」というラベルをつけることより、どの仮説を追加評価する必要があるかを決めます。
| 観察した反応 | 考える仮説 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 説明内容そのものを保持できない | 記銘・保持・想起の問題 | 記憶機能、手がかりによる変化、生活上の忘却 |
| 内容は保持しているが計画できない | 目標設定・計画の問題 | 手順化、優先順位、時間配分 |
| 開始後に脱線する | 実行制御、注意などの問題 | 脱線する条件、刺激量、課題切り替え |
| 誤りを修正できない | 自己モニタリング・自己調整の問題 | エラーへの気づき、修正方法の選択 |
| 条件によって大きく成績が変わる | 注意、疲労、環境要因など | 時間帯、刺激量、指示方法、体調 |
必要に応じて標準化された神経心理学的検査を用いながら、検査室での成績と更衣、整容、服薬、スケジュール管理、調理など実生活での反応を照合します。遂行機能は複数の認知機能を利用する統合的な機能であるため、下位の注意・記憶などの影響を分けて考えることが重要です。
記録では「できなかった」より、どこで崩れたかを残します
比較評価の記録では、症状名だけを書くより、情報保持と遂行過程を分けて事実を残すと再評価しやすくなります。
| 記録項目 | 残したい内容 |
|---|---|
| 生活上の困りごと | どの場面で、何ができなかったか |
| 情報保持 | 指示・予定・手順を後から説明できたか |
| 遂行過程 | 開始、計画、順序、脱線、完遂の様子 |
| 自己修正 | 誤りへの気づきと修正の有無 |
| 支援による変化 | 再提示、手順の可視化、声かけなどで何が変わったか |
たとえば「更衣準備困難」だけでは原因が分かりません。「更衣に必要な物品3点は再生可能。開始後に手順の入れ替わりを認め、誤りへの自発的な気づきなし。手順を視覚提示しても順序化に支援を要した」のように、観察事実を分けて残すと次の評価につながります。
介入を選ぶ前に、問題となる機能を整理します
記憶障害が中心と考えられる場合は、記銘・保持・想起の特徴や、内的方略・外的記憶補助具などを検討します。一方、遂行機能障害が中心であれば、目標設定、計画、問題解決、自己モニタリングなど、生活行為のどこを支援するかを整理します。
ただし、この記事では具体的な課題設定や難易度調整までは扱いません。比較によって仮説を絞ったあと、それぞれの各論で介入方法を確認してください。
よくある質問
Q1. 記憶障害と遂行機能障害は同時に起こりますか?
はい。高次脳機能障害では複数の認知機能の問題が混在することがあります。遂行機能を評価するときも、注意や記憶など下位機能の影響を確認し、生活場面でどの機能が行為を制限しているかを整理します。
Q2. 手順を覚えているのに実行できない場合は遂行機能障害ですか?
遂行機能の関与を疑う材料にはなりますが、それだけでは判断できません。開始、計画、注意、失行、理解、疲労など他の要因も確認します。「覚えている」という事実と、「なぜ実行できないか」という解釈を分けることが重要です。
Q3. メモやチェックリストを使えない場合は遂行機能障害ですか?
必ずしもそうではありません。メモの存在を思い出せない、注意が向かない、使う必要性を認識していない、自分から行動を開始しにくいなど複数の理由が考えられます。補助具の有無だけでなく、どの段階で使用が止まっているかを観察します。
次の一手|見立てに合わせて各論へ進む
生活場面と課題中の反応を比較して、記憶機能の影響が大きいと考えた場合は、記銘・保持・想起と補償手段の選び方を確認します。情報は保持できているものの、目標設定・計画・実行・自己修正で崩れる場合は、遂行機能障害の各論へ進みます。
参考文献
- Sato M. 高次脳機能障害―注意障害・記憶障害・遂行機能障害を中心に―. ディサースリア臨床研究. 2023;13(1):30-34. doi: 10.69359/dysarthria.13.1_30
- Suzuki M. やさしい高次脳機能の診かた. 神経心理学. 2016;32(3):224-228. doi: 10.20584/neuropsychology.32.3_224
- Jeffay E, Ponsford J, Harnett A, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part III: Executive Functions. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi: 10.1097/HTR.0000000000000834
- Velikonja D, Ponsford J, Janzen S, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83-102. doi: 10.1097/HTR.0000000000000837
※INCOG 2.0は主として外傷性脳損傷後の認知リハビリテーションを対象としたガイドラインです。本記事では、記憶・遂行機能を整理する際の参考文献として使用しています。
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

