関節のエンドフィール一覧|正常/異常の違いと判別表

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エンドフィールとは?(結論)

エンドフィールは関節の他動最終域で触れる「終末感」です。正常は 硬い(骨性)・弾性(関節包/靭帯)・柔らかい(軟部圧迫)、異常は empty(疼痛先行)・spasm(筋防御)・springy(弾発)・boggy(血腫/滑膜炎) など。この記事は一覧表+因子対応表で、原因鑑別と再現性の高い評価手順を 1 ページで押さえます。

エンドフィールの種類一覧(正常/異常)

※ 表は横スクロールできます。

エンドフィールの種類(成人・徒手評価の一般例)
種類(JP / EN) 区分 典型の組織・機序 代表関節例 観察ポイント・注意
硬い / Hard(骨性) 正常 骨と骨の明瞭な衝突 肘伸展・膝伸展 カチっと明確に停止。痛みは少ない/なし。
弾性 / Firm(関節包・靭帯) 正常 線維組織の張力で制動 肩屈曲・外旋、股伸展 「張る」「伸びる」緊張感。停止はややソフト。
柔らかい / Soft(軟部圧迫) 正常 筋・脂肪などの圧迫 肘屈曲・膝屈曲 ふわっとした接触感で停止。痛みは通常なし。
empty 異常 疼痛が先行し抵抗を感じる前に停止 炎症期の各関節 抵抗感はほぼなし。強い痛みで評価中止が妥当。
spasm 異常 反射性/防御性の筋収縮 急性外傷・神経症状随伴時 ガツンと止まる。痛み/防御あり。過圧は禁忌。
springy 異常 関節内の弾性物(例:半月板片) 膝伸展末 ばね様の反発で戻される。機械的ブロックを示唆。
boggy 異常 血腫・滑膜炎・浮腫で海綿様の抵抗 外傷後の膝・肘など どろっと粘る感触。炎症/腫脹所見を伴いやすい。
早期終末感(早期 hard/firm) 異常 関節包短縮・線維化・骨性変化など 肩外旋・股伸展 ほか 可動域が狭い段階で硬い/弾性の停止が出現。

ROM 制限因子 × エンドフィール対応表

※ 横スクロール可。

制限因子と想定されるエンドフィール・次の一手
制限因子 想定エンドフィール 追加で拾う所見 次に確認すること / 徒手検査
関節包短縮・線維化 弾性(早期 firm) 関節包パターン、エンドレンジ痛± 関節モビ後の変化、関節包伸張テスト
筋短縮・過緊張 弾性 / spasm 二関節筋の影響、伸張での痛み 筋長テスト、PNF 伸張、随意弛緩の可否
皮膚・瘢痕・筋膜制限 弾性(表在の突っ張り) 創部・癒着、皮膚可動性低下 皮膚ロール・瘢痕モビ・創部ケア
浮腫・血腫・滑膜炎 boggy 熱感・腫脹・関節水腫徴候 RICE/安静位、炎症所見のモニタ
疼痛(炎症/損傷/恐怖回避) empty 痛み先行、筋防御、夜間痛 痛み評価、鎮痛後に再評価、教育
関節内遊離体・半月板損傷 springy 引っかかり感、ロッキング 屈伸での再現、クリック音、機械的徴候
骨性変化(骨棘・関節面不整) 早期 hard きしみ音、可動域の非対称 端座位牽引での変化、関節線圧痛の有無
痙性・錐体路徴候 spasm 様(catch) 速度依存の抵抗、クローヌス MAS 等の緊張評価、速度調整で再評価

部位別の典型例(臨床の引き出し)

  • 肩外旋:正常は弾性。早期 firm → 関節包短縮を示唆。痛み先行なら empty。
  • 肘伸展:正常は硬い。柔らかいなら浮腫/血腫、痛み先行は empty。
  • 膝屈曲:正常は柔らかい。boggy で粘る → 関節水腫を疑う。
  • 膝伸展:springy → 半月板片/遊離体を示唆。繰り返すロッキングを確認。
  • 足関節背屈:弾性(アキレス腱・後方関節包)。早期 hard/firm は関節包/骨性変化を示唆。

評価手順( overpressure のかけ方・記録テンプレ)

  1. 評価体位を整え、代償(脊柱・肩甲帯・骨盤)を手でブロック
  2. ゆっくり可動域末に到達 → 1–2 秒静止 → 痛みを確認。
  3. 必要に応じて 穏やかな overpressure を数ミリ追加し、抵抗の「質(硬い/弾性/柔らかい)」「弾発」「粘り」「筋防御」を触診。
  4. 反対側と比較(左右差/患者既往の標準を把握)。
  5. 記録テンプレ:
    「右膝伸展:springy、痛み ±、クリック音 +、再現性 +」
  6. 中止基準:激痛・患者不安増大・急な筋痙攣・熱感/腫脹の増悪・神経症状出現。

評価の全体像や他のスケール整理は 評価ハブ も参照してください。

原因鑑別フロー(30 秒版)

痛みが先行? → はい:empty(炎症/損傷/恐怖)|いいえ:次へ
急な筋収縮で止まる? → はい:spasm|いいえ:次へ
ばね様に跳ね返る? → はい:springy(関節内機械的)|いいえ:次へ
海綿様/粘る? → はい:boggy(水腫/滑膜炎)|いいえ:硬い/弾性/柔らかい の正常か、早期出現なら包/骨性変化を疑う。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

empty と spasm の違いは?

empty は抵抗が出る前に痛みが先行して停止します。spasm防御性の筋収縮でガツンと止まり、触診で筋緊張の急上昇を感じます。鎮痛/安心づけで empty が改善する場合、spasm では筋のトーン調整が先です。

springy は半月板以外でも出ますか?

はい。関節内遊離体、関節唇片、関節内襞の挟み込みなど機械的ブロックで生じ得ます。ばね様反発の再現性とクリック/ロッキングの有無を確認します。

boggy があるときの運動処方は?

炎症/腫脹サイン(熱感・浮腫・発赤)を優先評価し、痛みと腫脹が落ち着くまでは強い end-range 反復や過圧は避け、痛み可及的最小の範囲内で可動域・ポンピング・圧迫/挙上などを検討します。

痛みが強くて ROM を測れないときの記録例は?

「右肩屈曲:empty(中間域で疼痛先行)、反対側比較 −、疼痛 NRS 7/10、腫脹 +、保護肢位 +」。まず痛み介入後に再評価します。

キャプラーパターンとエンドフィールの違いは?

キャプラーパターンは「関節包性病変で出やすい可動域の減少パターン」、エンドフィールは「最終域で触れる抵抗の質」です。前者はROM配分、後者は抵抗の性状を示し、鑑別では両者を併用します。

overpressure はどのくらいの力ですか?

最終域からの微小追加(目安 1–2 mm)で十分です。痛みNRS 2/10 を上限に、速度はゆっくり一定。反対側と同条件で比較します。

エンドフィールは信頼できる所見ですか?

単独の確定診断には用いませんが、再現手順(体位/速度/固定)と左右比較、介入→再評価をセット化することで臨床推論の精度が上がります。記録は「質+痛み+再現性+随伴所見」の4点で残します。

参考文献

  • Magee DJ. Orthopedic Physical Assessment. 6th ed. Elsevier; 2014.(評価総論・エンドフィールの臨床的解釈)
  • Hengeveld E, Banks K. Maitland’s Peripheral Manipulation. 6th ed. Elsevier; 2014.
  • Kaltenborn FM. Manual Mobilization of the Joints. 7th ed. Norli; 2009.
  • Gajdosik RL, Bohannon RW. Clinical measurement of range of motion review of goniometry. Phys Ther. 1987;67(12):1867–1872. PubMed
  • Boone DC, Azen SP. Normal range of motion of joints in male subjects. J Bone Joint Surg Am. 1979;61(5):756–759. PubMed
  • Seffinger MA, Najm WI, et al. Reliability of diagnostic palpation and passive motion assessment: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2004;5:11. PubMed DOI

実践チェックリスト(3 分で準備 OK)

  • 評価目的を 1 行で言える(例:膝伸展制限の機械的因子の有無)。
  • 体位と固定を先に決める(代償のブロック手順まで)。
  • 他動は「ゆっくり一定速度」→最終域で 1–2 秒静止。
  • overpressure は 1–2 mm 程度の微小可動で十分。痛み 2/10 を閾値にする。
  • 感触のをことばにする(硬い/弾性/柔らかい/ばね様/粘る/筋防御/痛み先行)。
  • 左右比較は同じ体位・同じ速度・同じ手。
  • 「最終域の音」も拾う(click/grind/snap)。
  • 1 回目で迷ったら一度戻し、再現性を取りにいく(2 回目)。
  • 所見は質+痛み+再現性+随伴所見の 4 点セットで記録。
  • 介入(モビ/鎮痛/ポンピング)→再評価まで 1 セットで完結。

レッドフラッグ & 中止基準(Yes なら評価中止)

  • 急性外傷後で骨折/脱臼疑い、強い夜間痛や安静時痛が増悪。
  • 発熱・発赤・著明な腫脹や熱感など感染/滑膜炎の強い所見。
  • 術後直後で主治医の可動域制限指示がある(TKA/腱修復など)。
  • DVT/塞栓症状が疑われる(腫脹非対称・圧痛・息切れなど)。
  • 神経学的赤旗(進行性筋力低下、感覚消失、膀胱直腸障害)。
  • 評価中に激痛・筋痙攣・失神前駆・クリックの急増など異常反応。

触診の言語化ヒント(感触→推定)

感触の表現と推定因子の対応(現場用メモ)
感じたことば 推定因子 次の 1 手
カチッと止まる 骨性(正常)/骨性変化(早期 hard) 牽引での変化確認、骨性圧痛の有無
張って止まる 関節包/靭帯(弾性) 軽いモビ後の可動・痛み変化を見る
ふわっと接触 軟部圧迫(柔らかい) 浮腫/肥厚の確認、圧迫挙上
跳ね返される springy(半月板/遊離体) 屈伸で再現、ロッキング/クリック確認
どろっと粘る boggy(血腫/滑膜炎) 炎症徴候の評価、過圧は避ける
ガツンと筋が固まる spasm(防御)/痙性 速度を落とす・呼吸誘導・鎮痛後に再評価
痛みで止まる(抵抗前) empty(疼痛先行) 痛み評価→先に鎮痛や教育

ミニケース 3 例(所見→解釈→対応)

  1. 膝伸展で springy、クリック +、屈伸で再現 → 半月板/遊離体を示唆。
    屈曲位で痛み軽減する姿勢で ADL 指導、必要に応じ整形外科情報共有。
  2. 肩外旋で早期 firm、エンドレンジ痛 ±、モビ後に可動 + → 関節包短縮優位
    モビ+自動伸張(home ex)を処方、48–72 時間で再評価。
  3. 肘屈曲で boggy、熱感 +、夜間痛 + → 炎症優位
    過圧は避け、疼痛・腫脹コントロールを優先。

記録テンプレ(そのまま使える 8 例)

  • 右膝伸展:springy、痛み ±、クリック +、再現 +。
  • 左肩外旋:早期 firm、end-range 痛 +、モビ後 ROM +10°。
  • 右肘屈曲:柔らかい、痛み −、浮腫 +(下腿周径 +2 cm)。
  • 右足関節背屈:弾性、腓腹/アキレス緊張 +、筋長介入で改善。
  • 左膝屈曲:boggy、熱感 +、アイシング後に再評価予定。
  • 右肩屈曲:empty(中間域で疼痛先行)、教育/鎮痛後に再評価。
  • 左肘伸展:硬い(正常)、疼痛 −、可動左右差 −。
  • 右手関節背屈:spasm、速度↓で防御軽減、深呼吸誘導で再評価可。

1 週間の練習メニュー(各 10 分)

  1. Day1:膝(屈曲/伸展)で正常 3 種の違いを左右で確認。
  2. Day2:肩(屈曲/外旋)で弾性と早期 firm の弁別訓練。
  3. Day3:肘(屈曲/伸展)で硬い/柔らかい/empty の言語化。
  4. Day4:足関節背屈で overpressure の量を 1–2 mm に統一。
  5. Day5:症例 1 名にチェックリスト→記録テンプレで記載。
  6. Day6:介入(モビ/鎮痛)→再評価まで 1 セットを実施。
  7. Day7:ミニケースの再現練習+所見の再現性チェック。
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