時計描画テスト(CDT)河野法9点のやり方と採点
認知機能評価の全体像から確認する
CDTは単独で診断を確定する検査ではありません。認知機能評価全体の中で、CDTをどのように組み合わせるか迷う場合は、先に総論を確認してください。
時計描画テスト(Clock Drawing Test:CDT)は、時計を描く過程から、視空間認知、構成能力、注意、指示理解、遂行機能などを観察する認知機能スクリーニングです。
この記事では、河野法(9点法)で使用するA・B・Cの3種類の用紙、実施手順、採点方法、質的所見、記録方法を整理します。重要なのは、白紙1枚に円・数字・針を順番に追加するのではなく、A・B・Cを別々の用紙で実施することです。
河野法では、Aは白紙に時計全体を描き、Bは円だけが印刷された用紙に数字を入れ、Cは数字入り文字盤に10時10分の針を描きます。合計点だけでなく、どの段階で崩れたかを記録すると、追加評価や多職種共有につなげやすくなります。

河野法9点の要点
| テスト | 用紙 | 依頼する課題 | 主に採点する部分 | 配点 |
|---|---|---|---|---|
| A | 白紙 | 時計全体を描く | 円の構成 | 1点 |
| B | 円のみ印刷 | 1〜12の数字を入れる | 数字の記入と配置 | 6点 |
| C | 数字入り文字盤 | 10時10分の針を描く | 針の本数と位置 | 2点 |
河野法の準備|A・B・Cの3種類の用紙を用意する
河野法では、A・B・Cの3種類の用紙を別々に用意します。同じ用紙に円、数字、針を順番に描き足す方法ではありません。
- 用紙A:白紙
- 用紙B:中央に円だけを印刷した用紙
- 用紙C:円と1〜12の数字を記入した文字盤
- 筆記具:描いた線を確認しやすいペン
- 環境:机上で安定して筆記できる静かな場所
原著ではB5判の用紙と直径8cmの円が用いられています。施設内で経時比較する場合は、用紙サイズ、円の大きさ、教示、採点方法を統一してください。
開始前に確認する条件
CDTの結果は認知機能だけでなく、視力、聴力、上肢機能、姿勢、疲労などの影響も受けます。開始前に、少なくとも以下を確認します。
- 眼鏡や補聴器の使用状況
- 利き手と使用した手
- 麻痺、振戦、失調、疼痛、巧緻性低下
- 机と椅子の高さ、上肢を支持できるか
- 教示を聞き取り、課題を開始できる状態か
- せん妄、強い眠気、疲労など一時的な影響がないか
これらの条件は、採点とは別に記録します。同じ得点でも、認知要因による崩れと運動要因による崩れでは、解釈と次の評価が異なります。
河野法のやり方|A・B・Cを順番に実施する
河野法は、Aで時計全体、Bで数字、Cで針を確認します。各用紙を別課題として提示し、どの段階で困難が生じたかを観察してください。
テストA|白紙に時計全体を描く
白紙の用紙Aを渡し、時計の絵を描いてもらいます。
教示例:「時計の絵を描いてください」
Aでは、時計という概念をどのように構成するかを観察します。採点の中心は円ですが、数字、針、描き始め方、途中の停滞、修正なども質的所見として残します。
「円を描いてください」「1から12を書いてください」など、完成形を細かく分解して先に伝えると、自由描画であるAの条件が変わります。追加説明を行った場合は、その内容を記録してください。
テストB|円の中に1〜12の数字を入れる
円だけが印刷された用紙Bを渡し、時計の文字盤になるように数字を記入してもらいます。
教示例:「この円の中に、時計の数字を入れてください」
Bでは、1〜12の数字がそろっているかだけでなく、順序、間隔、左右の偏り、円との位置関係、重複、欠落、逆方向への配置などを観察します。
テストC|数字入り文字盤に10時10分の針を描く
1〜12の数字があらかじめ記入された用紙Cを渡し、10時10分を示す針を描いてもらいます。
教示例:「10時10分を示すように、時計の針を描いてください」
Cでは、2本の針を描けるか、長針と短針を区別できるか、中心から適切な方向へ伸ばせるかを確認します。
河野法では10時10分を使用する
CDTには複数の実施法と採点法があり、11時10分など別の時刻を使用する方法もあります。ただし、河野法では10時10分を使用するため、本記事では10時10分で統一します。
異なる時刻や採点法で実施した結果を、同じ尺度の点数として単純に比較しないでください。経時比較では、採点法、用紙、教示、指定時刻をそろえる必要があります。
河野法9点の採点方法|Aは1点・Bは6点・Cは2点
河野法は、Aの円を1点、Bの数字を6点、Cの針を2点として、合計9点で採点します。最終得点だけでなく、減点につながった異常と質的所見を併記してください。
| テスト | 満点 | 得点の基本 | 確認する異常の例 |
|---|---|---|---|
| A:円 | 1点 | 時計の輪郭となる円を評価する | 円がない、極端な大きさ、強い歪み、二重線、閉じない |
| B:数字 | 6点 | 連続する数字2個を1点として評価する | 欠落、重複、順序違い、偏り、逆回転、円外への配置 |
| C:針 | 2点 | 針1本につき1点を基本として評価する | 針がない、1本のみ、3本以上、方向違い、中心から外れる |
Aの採点|円を1点満点で評価する
Aでは、時計全体を自由に描いてもらいますが、定量得点の中心は円の構成です。適切な円が描けていれば1点を基本とし、円の欠如や形態異常があれば、原著の分類に沿って減点します。
数字や針に異常があっても、AではそれらをB・Cの得点へ置き換えません。Aで認めた数字や針の異常は、質的所見として記録します。
Bの採点|数字を6点満点で評価する
Bでは、1〜12の数字を確認し、連続する数字2個を1点として、最大6点で評価します。
数字が記入されているかだけでなく、以下の異常を確認します。
- 数字の欠落や重複
- 1〜12以外の数字や記号
- 数字の順序違い
- 時計回りではなく逆方向に並ぶ
- 片側へ集まる、間隔が極端に不均等
- 数字が円の外へ大きくはみ出す
- 同じ位置に複数の数字を重ねる
複数の異常がある場合の減点方法は、河野法原著の異常分類に沿って判断します。施設内で独自の簡略採点へ変更する場合は、河野法の正式な9点と混同しないよう、採点方法を記録に明記してください。
Cの採点|針を2点満点で評価する
Cでは、針1本につき1点を基本とし、最大2点で評価します。針の本数だけでなく、10時10分を表しているか、中心から伸びているか、長針と短針を区別できているかを確認します。
- 針が2本あるか
- 長針が「2」の方向を示しているか
- 短針が「10」付近を示しているか
- 針が文字盤の中心付近から伸びているか
- 長針と短針の長さを区別しているか
- デジタル表記や数字だけで時刻を示していないか
3本以上の針、1本だけの針、方向の誤り、長針と短針の逆転などを認めた場合は、得点とともに所見を残します。
得点だけで認知症を診断しない
河野法原著では、合計点に基づく判定の目安が提案されています。ただし、CDTには複数の実施法・採点法があり、得点は視力、運動機能、失語、注意、教育歴、疲労、せん妄などの影響も受けます。
CDTの点数だけで認知症を確定したり、認知症を除外したりすることはできません。得点が保たれていても認知機能低下が否定できるとは限らず、低得点であっても認知要因以外の影響を確認する必要があります。
必要に応じて、MMSE、HDS-R、生活機能評価、視空間認知評価、遂行機能評価、家族や介護者からの情報と統合して判断します。
点数と一緒に残したい質的所見
CDTの実務的な価値は、合計点だけでなく、円・数字・針がどのように崩れたかを観察できることです。同じ6点でも、数字の偏りと針の概念的な誤りでは、次に確認する評価が異なります。
| 所見 | 描画の例 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 左右の偏り | 数字が片側へ集まる、一側の数字が抜ける | 視野、半側空間無視、探索行動 |
| 順序の混乱 | 数字が飛ぶ、逆方向に並ぶ、同じ数字を繰り返す | 注意、系列処理、遂行機能 |
| 配置計画の崩れ | 最初に数字を詰めすぎ、後半が入らなくなる | 計画性、修正能力、自己監視 |
| 針の概念的誤り | 10と2を線で結ぶ、時刻を数字で書く | 課題理解、時計概念、抽象化 |
| 運動性の崩れ | 振戦、線の途切れ、著しい書字困難 | 上肢機能、巧緻性、姿勢、疼痛 |
| 開始・持続の困難 | 開始できない、途中で止まる、課題を忘れる | 覚醒、注意、指示保持、疲労 |
CDTだけで特定の障害を断定せず、描画所見から追加評価の優先順位を決めるために使用します。
河野法を実施するときのよくある失敗
河野法で最も避けたいのは、別のCDT方式と手順を混在させることです。用紙、教示、指定時刻、採点法をそろえないと、過去の結果と比較できなくなります。
A・B・Cを同じ用紙で続けて実施する
Aで描いた時計に、そのままBの数字やCの針を追加すると、河野法のA・B・Cを分けて評価できません。必ず3種類の用紙を別々に提示します。
必要以上にヒントを追加する
「数字は12個です」「針は2本です」「2の方向へ長い針を書きます」などのヒントは、結果を変える可能性があります。
教示を理解できない場合や追加説明が必要な場合は、説明した内容と回数を記録します。追加説明後の結果を、無条件に同じ条件の得点として扱わないことが重要です。
採点法を書かずに点数だけ記録する
CDTには複数の採点法があります。「CDT 6点」とだけ記録しても、何点満点のどの方法か分かりません。
記録には、少なくとも「河野法9点」と明記します。別のCDT方式を使用した場合も、方式名、満点、指定時刻を残してください。
眼鏡・麻痺・振戦などの条件を記録しない
線の歪みや数字の配置異常が、認知機能によるものか運動・視覚要因によるものか判断しにくくなります。利き手、使用手、眼鏡、麻痺、振戦、失調、疼痛、支持条件を併記します。
合計点だけで評価を終える
合計点が同じでも、円が描けない場合、数字が片側へ偏る場合、針を概念的に理解できない場合では意味が異なります。得点と質的所見をセットで残してください。
記録例と再評価の考え方
CDTは、採点法・得点・質的所見・実施条件をまとめて記録します。再評価では、同じ用紙、同じ教示、同じ採点方法を使用し、条件差をできるだけ減らします。
記録例
実施条件:右手使用、眼鏡装用。座位保持可能。軽度の右上肢振戦あり。教示の聞き返し1回。
結果:CDT河野法 6/9点。Aでは円の歪み、Bでは数字の左側への偏りと11の重複、Cでは長針と短針の方向誤りを認めた。
次の確認:運動要因を考慮したうえで、視空間認知、探索行動、遂行機能を追加評価する。
最低限記録したい項目
- 採点法:河野法9点
- A・B・Cそれぞれの得点
- 合計得点
- 円、数字、針の質的所見
- 使用手、眼鏡、麻痺、振戦、疼痛などの条件
- 追加説明や再教示の内容
- 途中中止の有無と理由
- 結果を受けて追加する評価
再評価するタイミング
CDTの再評価時期を、すべての対象者で一律に決める必要はありません。以下のように、認知状態や支援方針が変化する場面で検討します。
- 覚醒、注意、せん妄など一時的な影響が改善したとき
- 認知機能や生活機能に変化がみられたとき
- 入院、転棟、退院など支援環境が変わるとき
- リハビリテーションや環境調整の効果を確認するとき
- 前回評価との違いが支援内容に影響するとき
再評価では、前回と同じ方法を使ったかを確認します。方法や条件が異なる場合は、点数の変化をそのまま認知機能の変化と判断しないでください。
時計描画テストの記録シートPDF
CDTの実施条件、A・B・Cの得点、質的所見を同じ順序で記録できる、A4縦1ページの記録シートPDFです。
採点法、得点、円・数字・針の所見に加えて、眼鏡、補聴器、使用手、麻痺、振戦、疼痛、再教示などの実施条件も記録できます。経時比較や多職種への申し送りにご活用ください。
使用前に、施設で採用しているCDTの方式、用紙、教示、採点基準と一致しているか確認してください。異なる方式を使用する場合は、記録上も区別します。
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時計描画テストのよくある質問
各質問をタップすると回答が開きます。
河野法は白紙1枚で実施しますか?
白紙1枚だけではなく、Aの白紙、Bの円だけを印刷した用紙、Cの数字入り文字盤の3種類を使用します。A・B・Cを別々に実施し、円、数字、針を分けて採点します。
10時10分と11時10分のどちらを使いますか?
河野法では10時10分を使用します。11時10分を使用するCDTもありますが、異なる実施法です。経時比較では、使用する方式、指定時刻、採点方法を統一してください。
Aでは数字や針も採点しますか?
Aは時計全体を描く課題ですが、河野法9点の定量評価では円を中心に採点します。Aで認めた数字や針の異常は、得点へ重複して加えず、質的所見として記録します。
ヒントや再教示をしてもよいですか?
追加説明によって結果が変わる可能性があります。再教示が必要だった場合は、説明した内容と回数を記録し、標準条件と同じ結果として単純比較しないようにします。
麻痺や振戦がある場合でも実施できますか?
実施できますが、描画の崩れに運動要因が影響します。利き手、使用手、麻痺、振戦、疼痛、失調、姿勢、上肢の支持条件を記録し、認知要因と分けて解釈してください。
低得点なら認知症と判断できますか?
CDT単独では診断できません。得点と質的所見を確認し、MMSE、HDS-R、生活機能、視空間認知、遂行機能、家族情報などと統合して判断します。
次の一手
参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に、臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

