土肥・アンダーソンの基準とは?(リハ中止・注意の安全な目安)
臨床で迷わない判断の型をまとめて見る(PT キャリアガイド)
土肥・アンダーソンの基準(アンダーソンの運動基準/土肥の変法)は、運動療法や積極的離床の場面で「どこで止めるか」を整理し、チームで判断をそろえるための安全管理フレームです。数値を暗記するだけでなく、症状 と バイタルの変化(経過) をセットで見て、禁忌/即時中止/一時中断 に分けて考えるのがポイントです。
ただし、同じ数値でも背景(既往、内服、ベースライン、酸素投与、疼痛・感染、検査直後など)で意味が変わります。最終判断は主治医指示と施設プロトコルを優先しつつ、この記事では「現場で迷いにくい運用の型」を作れるように、早見表・判断フロー・記録の残し方までまとめます。
土肥・アンダーソン基準の要点(早見表)
まずは開始前(禁忌)、実施中(即時中止)、境界(いったん止めて再開) の 3 つで整理すると、現場の判断が速くなります。以下は成人の「目安」で、個別の目標値・薬剤・病態で調整してください。
| 判断区分 | 所見・指標(例) | 現場での動き |
|---|---|---|
| 開始を見合わせる(禁忌) |
|
その場で「やらない」判断。主治医と再開条件(数値・症状・酸素条件)をすり合わせます。 |
| 実施中に即時中止 |
|
即中止 → 座位(可能なら)で安静 → BP / HR / SpO₂ を再測 → 経過を記録 → 主治医へ報告します。 |
| 一時中断(回復後に再開) |
|
いったん止めて回復待ち。2 分安静で改善しなければ当日中止、改善すれば低強度で再開します。 |
中止・注意・継続の判断フロー(迷う所をつぶす)
数値だけで「○/×」にすると、チーム内で基準がぶれやすくなります。迷いやすい場面は、次の順番でつぶすと判断がそろいます。
- 開始前:「安静の条件をそろえた測定」→ 症状の有無 → 禁忌に該当しないかを確認します。
- 実施中:「症状」→「変化の大きさ」→「回復するか」の順に観察します(変化が小さくても症状が強ければ中止)。
- 止める判断:即時中止に該当したら、その日の負荷は終わり。境界なら一時中断 → 回復後に低強度で再開します。
- 次回に活かす:「どの姿勢で」「どの強度で」「どの時点で」「何が起きたか」を残し、再開条件を明文化します。
| 詰まりどころ | 起きやすい失敗 | 対策(運用の型) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 数値だけで判断 | 「120 /分」「200 mmHg」だけで機械的に止める/逆に無視する | 絶対値+「ベースラインからの変化」+「症状」の 3 点で判定 | 安静値、実施中の推移、症状の出現時刻 |
| 測定条件がバラバラ | 座位が安定する前に測る/会話しながら測る/姿勢が毎回違う | 体位と安静時間を固定(例:同一体位で 5 分) | 体位、測定時刻、酸素条件( L /分 など) |
| β 遮断薬や AF で迷う | 心拍が上がらない=安全と誤解/不規則で追えない | RPE・症状・BP・SpO₂ を主指標にし、心拍は補助に | RPE、息切れ、胸部不快、SpO₂ 低下の有無 |
| 中止の学びが残らない | 「中止」だけ記載して、次回も同じ議論になる | 中止の根拠と回復経過を短く残し、再開条件を決める | 中止理由、安静での回復、医師指示の内容 |
実施前チェック(バイタル測定のコツと、見落としやすい点)
土肥・アンダーソン基準を運用するときに一番大事なのは、測定条件をそろえて「変化」を拾うことです。条件が揃わないと、正しい判断ができません。
- 測定順:安静 BP → HR(規則性も確認)→ SpO₂ → 体温 → 自覚症状
- 体位と安静:同じ体位で 5 分ほど安静。脚組み・会話・直前の体位変換を避けます。
- 酸素条件:酸素投与がある場合は、流量とデバイスを必ずセットで記録します。
- 起立性低血圧が疑わしい:臥位→座位→立位で段階的に確認し、めまい・冷汗・悪心が出たら即中断します。
続けて読む:リハビリの血圧中止基準と、前後バイタル測定のプロトコル
よく迷うケース(β 遮断薬・心房細動・SpO₂ 低下)
「数字は大丈夫なのに不安」「いつも中止ばかりで進まない」は、判断の軸が 1 つしかないと起きやすいです。迷う症例は、心拍だけに寄せないのがコツです。
- β 遮断薬:心拍反応が鈍いことがあります。心拍よりも、RPE(自覚的運動強度)・症状・BP・SpO₂ の推移を重視します。
- 心房細動( AF ):規則性が崩れるので「数」より「変化」と「症状」。RVR など急に速くなる、めまい・胸部不快を伴う場合は中止優先です。
- SpO₂ が下がる:「低下量」と「回復するか」を見ます。姿勢調整(前傾、座位保持)や休息で回復しない場合は中止し、呼吸状態の評価へ切り替えます。
中止判断を“次回につなげる”記録(SBAR で崩れない)
中止判断は「止めた」だけではもったいないです。次回の安全と効率を上げるには、誰が読んでも同じ判断になる情報を短く残します。
| 項目 | 書き方(例) | ねらい |
|---|---|---|
| 状況( S ) | 「歩行練習 3 分で息切れと動悸が出現」 | いつ・何で起きたかを固定 |
| 背景( B ) | 既往、内服(β 遮断薬など)、酸素条件、安静値 | 同じ数字でも意味が違うため |
| 評価( A ) | BP / HR / SpO₂ の推移、症状の強さ、顔面蒼白・冷汗など | 中止根拠を再現可能に |
| 依頼( R ) | 再開条件、負荷上限、観察指示、追加検査の要否 | 「明日どこまでやってよいか」を明文化 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 「積極的なリハ」と「無理をさせる」は何が違いますか?
積極的なリハは、機能回復に必要な刺激を安全域の中で十分に入れることです。無理をすることではありません。土肥・アンダーソン基準を使うと「止めどころ」が明確になり、むしろ安全に攻めるための共通言語になります。
Q2. 心拍が上がらない(β 遮断薬)ときは、何を見ればいいですか?
心拍だけで強度を決めると過小/過大評価になりやすいです。RPE( 6–20 スケール)、息切れや胸部不快、BP と SpO₂ の推移を主軸にし、心拍は補助として扱うと判断が安定します。
Q3. 一時中断のあと、どれくらいで再開してよいですか?
目安は「安静で回復するか」です。軽症状でも回復しなければ当日は中止が安全です。回復して再開する場合は、負荷を落として短時間から再開し、再発しないかを確認します。
Q4. SpO₂ が下がりやすい人は、最初から止めるべきですか?
「低下しやすい」こと自体より、低下量と回復性が重要です。姿勢や休息で回復するなら低強度で継続できる場合があります。回復しない、症状が強い、いつもより明らかに低い場合は中止し、原因評価へ切り替えます。
おわりに
土肥・アンダーソン基準は、安全の確保 → 段階的に刺激 → 症状とバイタルの経過観察 → 中止判断 → 記録 → 条件をそろえて再評価という臨床のリズムを作るための道具です。判断に迷ったときは、次回につながる記録を残し、チームで「明日どこまでやってよいか」を言語化しておくと、現場が一気に回りやすくなります。
あわせて、面談準備チェックと「働く環境の見える化」に使えるシートも置いています:/mynavi-medical/#download
参考文献
- Fletcher GF, Balady GJ, Amsterdam EA, et al. Exercise Standards for Testing and Training. Circulation. 2001. DOI: 10.1161/hc3901.095960
- American Thoracic Society; American College of Chest Physicians. ATS/ACCP Statement on cardiopulmonary exercise testing. Am J Respir Crit Care Med. 2003;167(2):211-277. DOI: 10.1164/rccm.167.2.211 / PubMed: PMID: 12524257
- Taylor JL, Myers J, Bonikowske AR. Practical guidelines for exercise prescription in patients with chronic heart failure. Heart Fail Rev. 2023;28(6):1285-1296. DOI: 10.1007/s10741-023-10310-9 / PubMed: PMID: 37071253
- Borg GA. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. DOI: 10.1249/00005768-198205000-00012 / PubMed: PMID: 7154893
- Pinkstaff S, Peberdy MA, Kontos MC, Finucane S, Arena R. Quantifying exertion level during exercise stress testing using % age-predicted maximal heart rate, rate pressure product, and perceived exertion. Mayo Clin Proc. 2010;85(12):1095-1100. DOI: 10.4065/mcp.2010.0357 / PubMed: PMID: 21123636
- Nayor M, et al. Blood Pressure Responses During Exercise: Physiological Correlates and Clinical Implications. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2023. PubMed: PMID: 36384270
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


