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鎮静スケールとは
集中治療室(ICU)における鎮静管理は、重篤な状態にある患者の身体的・精神的苦痛を緩和し、治療の安全性や円滑な実施を支える極めて重要な医療になります。
適切な鎮静は患者の快適性・安全性の確保に加え、酸素消費量や基礎代謝の抑制、人工呼吸管理の改善、褥瘡リスクの低減といった臨床的メリットがあり、さらには ICU 在室日数の短縮や鎮静薬の使用量の減少を通じて、医療資源の有効活用にも寄与することが報告されている。
鎮静管理の中心には「適切な鎮静度のコントロール」があり、その評価には信頼性・妥当性が確立された鎮静スケールが不可欠となります。2002 年に SCCM(米国集中治療医学会)が公表したガイドラインでも、患者ごとの目標鎮静度を設定し、標準化されたスケールで評価することが推奨されています。
主な鎮静スケールとして、1974 年に発表されたRamsay Scale、Sedation-Agitation Scale(SAS)、Motor Activity Assessment Scale(MAAS)、そして比較的新しい Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS)があげられます。
特に RASS は、信頼性・妥当性に優れ、他のスケールと比べても使用しやすいと高く評価されており、多くの ICU 現場で導入されています。“ゴールデンスタンダード”といえる鎮静スケールは現時点ではありませんが、最も近しいスケールが RASS になります。
また、鎮静は単に患者を「眠らせる」ために行うのではなく、不安や痛み、呼吸困難、せん妄、挿管・カテーテルによる不快感など、苦痛の原因を見極め、それに対する適切な介入を行うことが前提となります。薬物療法だけでなく、非薬物的手段も含めた包括的な苦痛緩和が求められます。
意識と鎮静評価の違い
意識状態の評価と鎮静の評価は混同されがちですが、それぞれ目的や使用されるスケールが異なります。
意識状態の評価は、主に患者が「鎮静されていない」状態での脳の覚醒レベルを把握するために行われます。代表的なスケールには JCS(Japan Coma Scale) や GCS(Glasgow Coma Scale) があり、救急搬送時や初期評価で活用されます。
一方で、ICU では人工呼吸器管理や不快な治療介入に対して意図的に鎮静が行われることが多く、意識レベルではなく、鎮静の深さを評価する必要があります。
深く鎮静された患者では、JCS や GCS を使っても全員が「JCS 300」「GCS:E1V1M1」となってしまい、評価として有効に機能しません。そのため、ICU など鎮静状態では鎮静スケールが使われます。
医療従事者であったとしても鎮静スケールに馴染みがない人も多くいると思います。「意識レベルのスケール」と「鎮静スケール」は別物であることを理解し、状況に応じて適切に使い分ける必要があります。
RASSとは

RASS とは Richmond Agitation- Sedation Scale の頭文字からつけられた略称であり、Sessler らによって 2002 年に発表された鎮静スケールになります。RASS は医師・看護師・薬剤師という多職種によって開発されています。
鎮静薬を使用している患者の鎮静状態を評価するためのスケールであり、鎮静中に 1 時間 ~ 数時間の間隔で評価を行うことで適正な鎮静が行われているか評価する場合や、鎮静度の目標を決めて鎮静薬の調節を行う際の評価にも使用されることがあります。
鎮静は、気管挿管などの侵襲的な治療を受ける患者さんの苦痛を和らげたり、せん妄などで危険な行為におよぶ可能性のある対象者を落ち着かせて安全性・快適性を確保する目的で行われます。
鎮静薬にはさまざまな種類がありますが、いずれも対象者が快適に過ごせるよう個々に合わせて調整していくことが重要となります。
評価方法

RASS は合計 10 段階のクライテリア(+4 ~ −5)で構成されています。
評価・判定のための介入が少なくなるように考慮されており、平穏・不穏あるいは落ち着きのなさ(restless) を示す「0 ~ +4」は息者の行動を観察するだけで評価・判定が可能となっています。
軽度の鎮静状態では声掛けに対するアイコンタクトを重視しており、声掛けに対してアイコンタクトが可能か、持続時間はどの程度かによって「−1 ~ −3」を評価・判定します。
声掛けに対して反応がない場合、物理的刺激を与えることによって「−4 ~ −5」を評価・判定します。
判定基準
RASS の 10 段階のクライテリア(+4 ~ −5)は以下のように設定されています。
【+4:闘争的】明らかに闘争的であるか、暴力的である。スタッフへの危険が差し迫っている。
【+3:高度な不穏】チューブまたはカテーテルを引っ張ったり抜いたりする。または、スタッフに対して攻撃的な行動が見られる。
【+2:不穏】頻繁に目的のない動きが見られる。または、人工呼吸器との同調が困難である。
【+1:落ち着きがない】不安、あるいは心配そうであるが、動きは攻撃的であったり、激しく動くわけではない。
【0:意識が清明で穏やか】
【-1:傾眠】完全に覚醒はしていないが、声に対し持続的に開眼し、アイコンタクトがある(10 秒を超える)。
【-2:浅い鎮静】声に対し短時間開眼し、アイコンタクトがある(10 秒未満)。
【-3:中程度鎮静】声に対してなんらかの動きがある(しかし、アイコンタクトがない)。
【-4:深い鎮静】声に対し動きは見られないが、身体刺激で動きが見られる。
【-5:覚醒せず】声でも身体刺激でも反応はみられない。
評価の手順
- 患者を観察し、【0:意識が清明で穏やか】に該当するかどうかを判断する
- 患者は落ち着きがない、あるいは不穏とされるような行動が見られる場合には【+1 ~ +4】のどれに該当するのかを判定する
- もし患者が覚醒していない場合、大きな声で患者の名前を呼び、開眼するように指示し、こちらを見るかを確認する。必要であれば再度行う。こちらを持続的に見るかを確認する。
- 開眼し、アイコンタクトがとれ、10 秒以上継続するのなら【−1】
- 開眼し、アイコンタクトがとれるが、それを 10 秒を超えて継続しない【−2】
- 開眼するがアイコンタクトがとれないのなら【−3】
- 患者が呼びかけに反応しないのなら、肩をゆする。それに反応しないのならば胸骨を圧迫する。
- 患者がこれらに反応するのならば【−4】
- 反応しないのならば【−5】
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!この記事では「RASSの評価方法」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
鎮静スケールは、ICU における適切な鎮静度を評価するための指標で、治療の安全性や患者の快適性を保つ上で重要となります。
RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)は、+4(闘争的)から −5(無反応)までの 10 段階で評価し、観察や声かけ、身体刺激を用いて判定します。
特に RASS は信頼性が高く多くの現場で使用されています。鎮静スケールは意識レベルを評価する JCS や GCS とは異なり、鎮静の深さを把握するために用いられます。
こちらの記事が日常の診療に少しでもお役に立つと幸いです。
参考文献
- 卯野木健,芹田晃道,四本竜一.成人ICU患者においてはどの鎮静スケールが有用か?—文献を用いた4つの鎮静スケールの比較—.日集中医誌.2008,15,p179-188.
- 卯野木健,桜本秀明,沖村愛子,竹嶋千晴,青木和裕,大谷典生,望月俊明,柳澤八恵子.Richmond Agitation-Sedation Scale日本語版の作成.日集中医誌.2010,17,p73-74.
- 戸谷昌樹,鶴田良介.ICU におけるリハビリテーション医療に必要な鎮静・鎮痛に対する薬剤の知識.Jpn J Rehabil Med.2019,56,p860-864.