RASS(リッチモンド興奮鎮静スケール)の使い方:10 段階の早見表と 3 ステップ評価フロー
ICU を中心とした鎮静管理では、RASS( Richmond Agitation-Sedation Scale )で覚醒/興奮〜鎮静の深さを客観的に共有することが重要です。本稿は +4〜−5 の 10 段階早見表と、現場で迷いやすい評価フロー(観察→声かけ→短時間の身体刺激)を“貼るだけ”で使える図解つきで整理しました。評価と介入は必ず施設 SOP/主治医指示を優先してください。
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RASS 10 段階の早見表(+4 〜 −5)
表はスマホで横スクロールできます。記録例の 1 行を目安に「所見の書き方」を合わせて共有しましょう。
| スコア | 定義(要約) | 記録例(短文) |
|---|---|---|
| +4 | 闘争的:暴力的/スタッフに危険 | 「ライン抜去試み・制止困難」 |
| +3 | 高度な不穏:ラインを引く/攻撃的行動 | 「CV 抜去企図あり」 |
| +2 | 不穏:目的のない運動/呼吸器との不同調 | 「四肢多動・同調不良」 |
| +1 | 落ち着きがない:不安・心配だが攻撃的ではない | 「表情不安・会話成立」 |
| 0 | 穏やか・清明 | 「覚醒良好・理解可」 |
| −1 | 傾眠:声で開眼・アイコンタクト ≥ 10 秒 | 「呼名で開眼・視線 12 秒持続」 |
| −2 | 浅い鎮静:声で開眼・アイコンタクト < 10 秒 | 「呼名で開眼・視線 6 秒で逸れる」 |
| −3 | 中程度鎮静:声で動くがアイコンタクトなし | 「呼名で上肢挙上、視線合わず」 |
| −4 | 深い鎮静:声で反応なし/身体刺激で反応 | 「声反応なし・僧帽筋つねりで逃避」 |
| −5 | 反応なし:声・身体刺激とも反応なし | 「呼名・身体刺激とも無反応」 |
図解|RASS の評価フロー(観察→声かけ→短時間の身体刺激)
まず観察で 0 / + 側を判定。覚醒していない場合は声かけで −1〜−3、反応が無いときに限り短時間の身体刺激で −4/−5 を判定します。
図解|RASS“はしご”早見(上=興奮/下=鎮静)
多くの状況で軽鎮静(例:RASS −2〜0 付近)が目標となる文脈があります(具体のレンジは施設 SOP を優先)。
図解|−1/−2/−3 の境界(声かけ後のアイコンタクト)
実施手順(現場メモ)
- 観察:落ち着き・多動・呼吸器不同調の有無を観る(0 / + 側の判定)。
- 声かけ:大きめの声で呼名し、開眼とアイコンタクトの有無/持続を確認(−1〜−3)。
- 短時間の身体刺激(必要時のみ):僧帽筋つねり 1–2 秒または爪床圧迫で反応(逃避・表情・体動)を確認(−4/−5)。
※胸骨こすりは皮膚損傷等の観点から避ける。刺激は最小限・短時間で。 - 目標鎮静と差分、実施時刻、介入、再評価予定を短文で記録(例:09:00 RASS −2(視線 6 秒)/ 目標 −2〜0 / ミダゾラム 1 mg / 09:30 再評価)。
目標鎮静の考え方(light sedation を基本に)
多くの状況で軽鎮静(例:RASS −2〜0 付近)が推奨される文脈があります。鎮静は「苦痛の原因(痛み・不安・呼吸困難・せん妄・機器不快)を評価して対処したうえで最小限」に保つのが原則です。鎮痛先行(Pain First)を徹底し、鎮静薬は目標鎮静に合わせて漸調・中断・再評価を繰り返します。※具体的なレンジや薬剤は施設 SOP/主治医指示を必ず優先してください。
鎮静スケールの比較(RASS/Ramsay/SAS/MAAS)
RASS は「興奮側(+1〜+4)」も評価でき、現場運用性に優れます。以下は用途と構成の違いを横並びで整理したものです。
| スケール | 段階 | 興奮側の評価 | 主な特徴 | ひと言の使い分け |
|---|---|---|---|---|
| RASS | 10(+4〜−5) | あり(+ 側) | 観察→声かけ→身体刺激で判定。共有が容易 | 標準的に推奨・運用しやすい |
| Ramsay | 6 | 限定的 | 古典的で簡便。興奮側の妥当性は限定 | 歴史的に使用/簡便性重視時 |
| SAS | 7 | あり | 数値化が明瞭。看護運用で実績 | 施設慣習・看護主導の場面 |
| MAAS | 6 | あり | 動作反応中心。ICU リハでも参照 | 反応性の粗い把握に |
意識スケールと鎮静スケールの違い
意識スケール(例:JCS/GCS)は「鎮静していない状態の脳の覚醒レベル」をみます。一方、鎮静スケール(RASS 等)は「意図した鎮静の深さ」をみます。深く鎮静中に JCS/GCS を使うと全員が最下位に張り付くため評価として機能しません。運用はRASS → CAM-ICU(せん妄スクリーニング)の順で行うのが一般的です。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
−2 と −3 の境界はどこで見分けますか?
開眼後のアイコンタクトの有無が第一の分かれ目、10 秒の持続時間(≥10 秒=−1、<10 秒=−2)が第二の指標です。開眼するが視線が合わない/すぐ逸れる場合は −3 を検討します(図「−1/−2/−3 の境界」参照)。
痛み刺激は何を使えばよいですか?胸骨こすりは?
僧帽筋つねり 1–2 秒または爪床圧迫など、短時間・最小限の身体刺激を推奨します。胸骨こすりは皮膚損傷等のリスクから避けます。刺激後は必ず再評価の予定(時刻)まで記録します。
挿管中で発声できない患者はどう評価しますか?
発声は不要です。開眼・視線・運動反応で判定できます(−1〜−3)。呼吸器不同調や表情・体動などの所見も補助情報として記録に残します。
RASS と CAM-ICU の使い分けは?
まずRASS で覚醒度を評価し、適切な覚醒(多くは −2〜0)を確保した上でCAM-ICU でせん妄をスクリーニングします。深鎮静のままの CAM-ICU は偽陰性に注意。
おわりに
実地では「観察→声かけ→短時間の身体刺激→再評価・記録」のリズムをチームで揃えることが安全と連携の鍵になります。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック(A4)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。配布物のダウンロードはこちら。また、RASS → CAM-ICUの順で運用し、深鎮静のまま CAM-ICU を実施しないようチームで足並みを揃えましょう。
参考文献
- 卯野木健, 芹田晃道, 四本竜一. 成人 ICU 患者においてはどの鎮静スケールが有用か?—文献を用いた 4 つの鎮静スケールの比較—. 日集中医誌. 2008;15:179-188.
- 卯野木健, 桜本秀明, 沖村愛子, 竹嶋千晴, 青木和裕, 大谷典生, 望月俊明, 柳澤八恵子. Richmond Agitation-Sedation Scale 日本語版の作成. 日集中医誌. 2010;17:73-74.
- 戸谷昌樹, 鶴田良介. ICU におけるリハビリテーション医療に必要な鎮静・鎮痛に対する薬剤の知識. Jpn J Rehabil Med. 2019;56:860-864.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


