NPI/NPI-NH の結論:迷ったら「情報源」で決める(在宅=家族、施設=職員)
BPSD は「点数」より先に、情報源・観察期間・再評価間隔を固定すると回り始めます。まず全体像と入口を 1 本でそろえましょう。
BPSD 評価フロー(全体像)を開くNPI( Neuropsychiatric Inventory )と NPI-NH( Nursing Home version )は、認知症の BPSD(行動・心理症状)をドメイン別に整理し、頻度( 0–4 )× 重症度( 0–3 )で「重み」と「変化」を追う評価です。どの症状が、どの程度、どんな誘因で起きているかを共通言語にできるため、非薬物的介入(環境・ケア手順)と薬物療法の優先順位づけに役立ちます。
使い分けの本質は「内容」より情報源です。家族・キーパーソンから面接で情報を取るなら NPI、病棟・老健・特養などで職員観察を集約して回すなら NPI-NHが実務に乗ります。迷うときは「誰が、日常の事実を一番持っているか」で決めるのが最短です。
記録シート( PDF )
NPI/NPI-NH の採点と共有を 1 枚でそろえたいときのために、A4 の記録シートを用意しました。情報源・観察期間・採用ドメインを先に固定してから記入すると、再評価の比較がぶれにくくなります。
プレビュー(タップで開く)
自動計算ツール
合計点や上位ドメインをすばやく確認したい場面では、採点補助ツールを使うと便利です。原文設問は載せず、ドメインごとの頻度 × 重症度を入力して、合計点・負担スコア・上位 3 ドメインを自動で整理できます。
記事内でツールを開く(タップで表示)
5 秒で決める:NPI/NPI-NH の使い分け早見
※スマホは表を横にスクロールできます。
| あなたの場面 | 主情報提供者(中心) | まず選ぶ |
|---|---|---|
| 在宅・外来フォロー | 家族・キーパーソン | NPI |
| 病棟・老健・特養(施設ケア) | 介護・看護スタッフ(観察共有) | NPI-NH |
| 移行期(在宅→入所、病棟→施設など) | 情報が分散しやすい | 情報源を固定できる方(家族中心なら NPI、職員中心なら NPI-NH ) |
- まず「誰が日常の事実を一番持っているか」を決める(家族か、職員か)。
- 次に「観察期間」を固定する(例:過去 1 週間)。
- 最後に「再評価の間隔」を固定する(例: 1〜2 週間)。
NPI と NPI-NH の違い(ここだけ押さえれば運用が崩れません)
どちらも基本構造は同じですが、NPI は介護者面接(家族)、NPI-NH は施設の職員観察を前提に運用が組まれています。導入時に「情報源」「観察期間」「採用ドメイン( 10 or 12 )」をチームで決めておくと、カンファレンスの議論と経時比較がスムーズです。
なお、NPI は caregiver distress、NPI-NH は occupational disruptiveness(職員負担)という“負担の見える化”を併記でき、合計点とは別に追うと優先順位が決めやすくなります。
※スマホは表を横にスクロールできます。
| 項目 | NPI | NPI-NH |
|---|---|---|
| 主情報提供者 | 家族・キーパーソン | 介護・看護スタッフ(施設観察) |
| 拾いやすい場面 | 家庭内の生活史・こだわり・介護負担 | 食事・排泄・更衣・夜間など施設の具体場面 |
| ブレやすい要因 | 家族の観察量・表現の差 | 担当者差(勤務帯・経験差) |
| 対策(コツ) | 具体例を 1 件以上、時間帯と誘因つきで記録 | 観察ログを先に集約し、代表例で面接を進める |
| 合計点の扱い | 基本は 10 ドメイン合計(最大 120 )。必要時のみ 12(最大 144 ) | 基本は 10 ドメイン合計(最大 120 )。必要時のみ 12(最大 144 ) |
| 負担の見える化 | 介護者負担( caregiver distress )を別に追える | 職員負担( occupational disruptiveness )を別に追える |
| 所要時間(目安) | 約 10–20 分 | 約 10–15 分(観察共有で短縮しやすい) |
| スコア | 頻度( 0–4 )× 重症度( 0–3 )→ ドメイン( 0–12 ) | 同様(施設運用のルール化で再現性が出やすい) |
ドメイン(領域)の見取り図:何を拾う評価か
ドメインは「症状名を付ける」ためではなく、「介入優先度を決める」ための整理枠です。合計点の高さだけでなく、どのドメインが高いかを見て、誘因(時間帯・場面・人物)とセットで共有します。
運用では 10 ドメイン(最大 120 )で回し、睡眠・食欲( 2 ドメイン )は必要時のみ足す、という形にするとブレが減ります。
- 妄想( Delusions )
- 幻覚( Hallucinations )
- 興奮・攻撃性( Agitation / Aggression )
- 抑うつ・ディスフォリア( Depression / Dysphoria )
- 不安( Anxiety )
- 多幸( Euphoria / Elation )
- 無関心・アパシー( Apathy / Indifference )
- 脱抑制( Disinhibition )
- 易刺激性・感情不安定( Irritability / Lability )
- 異常行動(常同行動・目的のない歩行など/ Aberrant Motor )
- 夜間行動・睡眠( Night-time Behavioral Disturbances )
- 食欲・摂食異常( Appetite / Eating Abnormalities )
採点と解釈:見るのは「合計点」より「上位ドメイン」
各ドメインで 頻度 0–4と重症度 0–3を掛け合わせ、ドメインスコア 0–12 点を算出します。合計点は“概況”の目安にはなりますが、介入設計は 上位 1〜3 ドメインと具体例が主役です。
合計点の上限は、採用ドメインで変わります。基本は 10 ドメイン(最大 120 )。睡眠・食欲を含める場合は 12 ドメイン(最大 144 )です。チーム内の様式に「採用ドメイン( 10 or 12 )」と「観察期間」を明記し、再評価も同条件で比較します。
計算例:妄想=頻度 3 × 重症度 2= 6 点、無関心= 2 × 3= 6 点、易刺激性= 2 × 2= 4 点 … → 合計 24 点。合計点が同じでも、上位ドメインが変われば「介入の当て方」が変わります。上位 1〜3 ドメインを先に決め、誘因(時間帯・場面・人物)と対処(声かけ・環境)もセットで記録します。
- 基本:10 ドメイン合計( 0–120 )で回す
- 必要時:睡眠・食欲を含めて 12 ドメイン合計( 0–144 )
- 負担:NPI は caregiver distress、NPI-NH は occupational disruptiveness を“別枠”で追う
聞き取りの型:有無 → 具体例 → 頻度 → 重症度の順で迷いません
聞き取りは、いきなり点数を決めにいくとブレます。まず有無を確認し、次に代表的な具体例を 1 件以上(時間帯・場面・誘因つき)で固め、その具体例をもとに頻度と重症度を決めます。
ポイントは「具体例が先」です。具体例がそろうと、点数が“次の行動(介入・共有)”に変わります。
※スマホは表を横にスクロールできます。
| 順番 | 確認すること | 記録のコツ |
|---|---|---|
| 1 | そのドメインはあるか(有無) | 迷ったら「直近 1 週間で 1 回でもあったか」で統一 |
| 2 | 代表的な具体例(いつ・どこで・何の直後に) | 時間帯/場面(食事・排泄・更衣・夜間)を必ず入れる |
| 3 | 頻度( 0–4 ) | 「週に何回か」「ほぼ毎日」などをチームの言葉で固定 |
| 4 | 重症度( 0–3 ) | 介助量・安全リスク・中断の有無を軸に判断するとブレにくい |
施設で回すコツ:観察ログを集めてから NPI-NH を回す
施設版( NPI-NH )で一番起きやすい失敗は、担当者ごとに「見ている場面」が違い、結果としてスコアがぶれることです。対策は、面接の前に観察ログ(時間帯・場面・誘因・対応・結果)を集約し、代表例をそろえてから回すことです。
加えて、職員負担( occupational disruptiveness )を“別枠”で追うと、「どこを優先するか」の合意が取りやすくなります(合計点に混ぜない運用が基本)。
- 準備:直近 1 週間の具体例を、日勤・夜勤それぞれ 1 件以上集める(時間・場面・誘因・対応・結果)。
- 面接:代表例を確認しながら、有無 → 頻度 → 重症度を決める(情報源は職員に固定)。
- 共有:上位 1〜3 ドメインに絞って、非薬物的介入(環境調整・ケア手順)を決める。
- 再評価:1〜2 週間後に同じ期間・同じ情報源で取り直し、具体例の変化も併記する。
現場の詰まりどころ:点数より「条件固定」が先です
詰まりやすいのは、①情報源が一定でない(家族と職員が混在)、②観察期間が曖昧(いつの話かが混ざる)、③具体例がなく点数だけが残る、の 3 つです。これが起きると、合計点の増減が「症状変化」なのか「評価条件の変化」なのか分からなくなります。
対策は、情報源・観察期間・再評価間隔を固定し、上位ドメインには必ず具体例(時間帯・場面・誘因・対応・結果)を 1 行で添えることです。点数は「介入の優先度」と「変化」を見える化する道具として機能しやすくなります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.NPI と NPI-NH はどう使い分けますか?
結論は「情報源」です。家族・キーパーソンの面接で情報を取れる在宅・外来は NPI、日々の観察を職員から集約して回せる病棟・老健・特養などは NPI-NH が実務的です。移行期は「どちらの情報源を固定できるか」で先に決め、記録に明記して混乱を防ぎます。
Q2.合計点は 120 と 144 のどちらを使えばよい?
採用するドメイン構成で上限が変わります。基本は 10 ドメイン合計(最大 120 )で回し、睡眠・食欲を含める必要があるときは 12 ドメイン(最大 144 )にします。重要なのは、チームで「採用ドメイン( 10 or 12 )」と「観察期間」を決め、評価用紙と記録様式に明記し、再評価も同条件で比較することです。
Q3.職員負担( occupational disruptiveness )は合計点に入れますか?
基本は“別枠”で扱います。合計点(頻度 × 重症度)と混ぜると、症状の重みと「体制の負担」が分離できなくなるためです。上位ドメインと並べて「負担が高い項目」を 1〜2 個だけ残すと、カンファレンスで優先順位が決まりやすくなります。
Q4.短時間で概況だけ把握したいときは?
短時間なら NPI-Q が選択肢になります。ただし、介入設計や効果判定まで行うなら、上位ドメインと具体例が整理できる NPI/NPI-NH のほうが「次の一手」を決めやすくなります。
次の一手(全体像 → 実装 → 環境点検)
評価は「点を取る」より、同条件で回して“変化を説明できる”形にするほど強くなります。次は、全体像と実装のどちらに進むかを 1 本選んでください。
参考文献
- Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: Comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. DOI: 10.1212/WNL.44.12.2308
- Wood S, Cummings JL, Hsu M-A, et al. The NPI—Nursing Home version ( NPI-NH ): Development and validation. Am J Geriatr Psychiatry. 2000;8(1):75–83. DOI: 10.1097/00019442-200002000-00010
- Kaufer DI, Cummings JL, Christine D, et al. Validation of the NPI-Q, a brief clinical form of the Neuropsychiatric Inventory. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2000;12(2):233–239. DOI: 10.1176/jnp.12.2.233
- Cummings J. The Neuropsychiatric Inventory: Development and Applications. J Geriatr Psychiatry Neurol. 2020;33(2):73–84. DOI: 10.1177/0891988719882102
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


