痙縮リハビリは「評価・治療選択・再評価」を一続きで考える
痙縮のリハビリでは、筋緊張の強さだけを見るのではなく、本人が生活上で何に困っているのかを明確にし、増悪因子、身体所見、生活への影響を整理したうえで治療を選ぶことが重要です。
痙縮は、疼痛、感染、便秘、睡眠不足、装具の不適合などによって変動します。また、筋緊張を下げれば必ず動きやすくなるとは限らず、立位や歩行の安定に利用していた緊張を弱めることで、かえって動作が不安定になる場合もあります。
そのため、臨床では「痙縮を弱くすること」自体を目標にせず、更衣、整容、手指衛生、歩行、疼痛、介助量など、生活上の目標を起点に評価・介入・再評価を組み立てます。
この記事で分かること
- 痙縮・固縮・拘縮を整理する評価の順番
- MAS・MTSと生活指標を組み合わせる考え方
- 理学療法、装具、薬物・注射療法などの選び方
- 治療後に確認したい生活上の変化と不利益
脳卒中リハビリ全体の評価や介入を確認したい場合は、脳卒中リハビリ評価ハブもあわせてご覧ください。
痙縮の評価・運用を整理できる記録シート
痙縮は、評価時の肢位、他動運動の速度、装具の有無、疼痛、疲労、服薬状況などによって所見が変わります。前回との変化を正しく比較するには、数値だけでなく評価条件をそろえて記録することが必要です。
以下の記録シートでは、評価前に固定する条件、痙縮・固縮・拘縮の鑑別、MAS・MTS、疼痛、歩行、生活上の困りごとをA4用紙1枚にまとめています。
記録シートのプレビューを表示する
痙縮の典型パターンは生活上の困りごとと結び付けて見る
痙縮は、筋を一つずつ確認するだけでなく、姿勢や動作に現れるパターンとして捉えると、治療対象を整理しやすくなります。
| 部位 | 見られやすいパターン | 確認したい生活上の影響 |
|---|---|---|
| 上肢 | 肩関節の内転・内旋、肘関節屈曲、前腕回内、手関節・手指屈曲、母指内転 | 更衣、整容、手指衛生、爪切り、腋窩や手掌の皮膚管理 |
| 下肢 | 股関節内転、反張膝、尖足、内反尖足、足趾屈曲 | 立位、歩行、移乗、装具装着、靴の着脱、足部の皮膚管理 |
例えば、肘関節の屈曲が強くても、本人が困っておらず、疼痛や衛生上の問題もなければ、筋緊張の数値だけを理由に治療対象とする必要はありません。
一方で、「手掌を開けず洗いにくい」「袖に腕を通しにくい」「足部が内反して装具に収まらない」などの問題があれば、治療の優先度が高くなります。本人・家族・介助者の言葉を具体的に記録しておくと、治療目標と効果を共有しやすくなります。

評価は「問題・増悪因子・身体所見・生活指標」の順に行う
痙縮の評価では、いきなりMASを測るのではなく、生活上の問題を確認し、筋緊張を変動させる要因を除外してから、身体所見と生活指標を評価する順番が実用的です。
生活上の困りごとと治療目標を決める
最初に、本人や家族が何に困っているかを確認します。目標は「痙縮を改善する」ではなく、治療後に変化を判断できる具体的な表現にします。
- 手掌を開き、洗浄や爪切りをしやすくする
- 肘が伸びる範囲を確保し、更衣介助をしやすくする
- 足部を装具へ収めやすくする
- 歩行中の足部接地や膝の安定性を改善する
- 筋緊張に伴う疼痛や睡眠への影響を軽減する
目標が曖昧なままでは、MASが変化しても、その治療が本人の生活に役立ったか判断できません。
痙縮を増悪させる要因を確認する
痙縮は一定ではなく、全身状態や環境によって変動します。急に筋緊張が強くなった場合は、治療方法を追加する前に増悪因子を確認します。
| 確認領域 | 具体例 |
|---|---|
| 疼痛・皮膚 | 関節痛、褥瘡、発赤、装具による圧迫、巻き爪 |
| 感染・体調 | 尿路感染、呼吸器感染、発熱、脱水 |
| 排泄 | 便秘、尿閉、膀胱の不快感 |
| 生活・環境 | 睡眠不足、疲労、不安、不良姿勢、介助方法の変化 |
| 治療条件 | 内服変更、注射後の経過日数、装具設定の変更 |
増悪因子が見つかった場合は、その調整によって筋緊張が変化するかを確認します。発熱、感染、強い疼痛、急激な神経症状の変化などがある場合は、リハビリだけで判断せず医師や看護師へ共有します。
痙縮・固縮・拘縮を切り分ける
他動運動に対する抵抗があるからといって、すべてが痙縮とは限りません。まず、抵抗の出方と速度依存性を確認します。
| 所見 | 主な特徴 | 評価時の着眼点 |
|---|---|---|
| 痙縮 | 速く伸ばしたときに抵抗が強くなりやすい | 他動速度を変えたときの抵抗やキャッチの変化 |
| 固縮 | 他動速度による変化が比較的小さく、運動範囲を通して抵抗が続く | 速度を変えても抵抗が一定か、歯車様の抵抗があるか |
| 拘縮 | 関節や軟部組織の構造的な制限によって可動域が制限される | ゆっくり動かしても残る制限、終末感、疼痛、関節可動域 |
痙縮と拘縮が併存することもあります。速い他動運動とゆっくりした他動運動の両方を行い、神経学的な動的成分と、筋・腱・関節による固定的な成分を分けて考えます。
被動性検査の具体的な進め方は、被動性検査のやり方|筋緊張の見分け方で解説しています。
MAS・MTSで痙縮を定量化する
痙縮が生活上の問題に関係していると判断したら、MASやMTSを用いて所見を定量化します。
- MAS:他動運動時の抵抗を段階的に記録する
- MTS:異なる速度での反応を確認し、動的成分と固定的成分を整理する
同じ患者でも、肢位、他動運動の速度、測定者、疼痛、疲労、時間帯によって結果が変わります。再評価では、できる限り条件をそろえ、評価条件もカルテへ残します。
MAS・MTSの手順やR1・R2の考え方は、痙縮評価のMAS・MTS|違い・手順・記録例で詳しく確認できます。
生活・機能アウトカムを組み合わせる
MASやMTSは、筋緊張や他動抵抗を確認する指標です。これらの数値だけでは、更衣、整容、歩行、疼痛、介助量が改善したかまでは判断できません。
治療目標に応じて、以下のような指標を1〜2個選びます。
- 更衣、整容、手指衛生などの介助量
- 疼痛の強さや出現場面
- 関節可動域や装具への収まり
- 10m歩行、TUGなどの移動指標
- 立位や移乗の安定性
- 本人・家族が設定した目標の達成度
評価の要点:「MASが1段階下がったか」だけでなく、「手掌を洗いやすくなったか」「装具を装着しやすくなったか」「歩行が安定したか」を確認します。
ポジショニング・運動・装具は目的を決めて用いる
ポジショニング、関節運動、持続的な伸張、離床、装具は、痙縮そのものを単独で大きく低下させる万能な治療ではありません。疼痛を減らす、姿勢を整える、可動域を保つ、課題練習を行いやすくするなど、目的を明確にして用います。
ポジショニング
ポジショニングでは、強い痙縮パターンを無理に矯正するのではなく、疼痛や皮膚トラブルを避けながら、安楽に保持できる姿勢を探します。
- 肩、肘、手関節、股関節、膝、足部の支持状態
- 枕やクッションによる局所的な圧迫
- 姿勢保持後の疼痛、発赤、しびれ
- 本人や介助者が継続できる方法か
長時間保持する場合は、皮膚状態や疼痛を定期的に確認し、異常があれば姿勢や支持物を調整します。
関節運動と持続的な伸張
関節運動や伸張は、関節を動かす機会の確保、疼痛や不快感の確認、介助動作の準備などを目的に実施します。
ただし、長期間の伸張によって拘縮を十分に予防・改善できるかについては限定的な結果も報告されています。強い力で無理に伸ばすのではなく、疼痛、皮膚、軟部組織の反応を確認しながら行います。
課題特異的な練習
筋緊張を調整した後は、実際に改善したい動作を練習します。例えば、歩行を改善したい場合は、関節運動だけで終えず、立位、荷重、ステップ、歩行などの課題へつなげます。
上肢であれば、手を開く練習だけではなく、更衣、整容、物品操作など、設定した目標に沿った課題を組み合わせます。
装具・スプリント
装具は、痙縮を直接なくすためではなく、姿勢の保持、関節アライメントの調整、動作の安定化、課題練習の補助などを目的に用います。
装着後は、以下を確認します。
- 疼痛や圧迫感がないか
- 発赤や皮膚損傷がないか
- 装具によって立位や歩行が改善したか
- 装着や着脱を本人・家族が継続できるか
装具を使用すること自体が目的にならないように、生活動作への効果を再評価します。
治療は一直線の順番ではなく目標に合わせて組み合わせる
痙縮の治療は、「理学療法を行い、効果がなければ装具、その次に注射」という一方向の順番で決めるものではありません。
痙縮の分布、動的成分と固定的成分、生活上の目標、全身状態、副作用の可能性を踏まえ、複数の治療を組み合わせます。
| 治療 | 主な役割 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 運動療法・課題練習 | 動作能力を高め、治療によって得られた変化を生活動作へつなげる | 練習量、難易度、疼痛、代償動作、生活への一般化 |
| ポジショニング・装具 | 姿勢保持、アライメント調整、動作や介助の補助 | 疼痛、皮膚、装着時間、生活場面での使いやすさ |
| 電気刺激 | 筋活動や課題練習を補助する | 刺激部位、目的、課題との組み合わせ、皮膚状態 |
| 経口薬 | 広範囲の筋緊張や関連症状を調整する | 眠気、筋力低下、ふらつきなどの全身的な影響 |
| ボツリヌス毒素治療 | 選択した筋の過活動を局所的に調整する | 対象筋、生活目標、効果判定時期、筋力低下などの不利益 |
| 髄腔内バクロフェン療法 | 重度で広範囲な痙縮を調整する選択肢 | 適応、管理体制、全身状態、治療後の動作変化 |
| 外科的治療 | 固定変形や機能上の問題に対する選択肢 | 適応、術後の装具、リハビリ計画、生活目標 |
局所的な痙縮が更衣、衛生、装具装着、歩行などを妨げている場合は、ボツリヌス毒素治療と課題練習を組み合わせることがあります。広範囲で重度の痙縮では、経口薬や髄腔内バクロフェン療法などが検討される場合があります。
いずれも医学的な適応判断が必要です。理学療法士は、対象となる動作、筋緊張が動作へ与えている影響、治療前後に測定する指標を整理し、医師や多職種へ共有します。
再評価では効果だけでなく不利益も確認する
治療後の再評価では、筋緊張が弱くなったかだけでなく、設定した生活目標を達成できたか、治療による不利益が生じていないかを確認します。
| 評価領域 | 確認内容 |
|---|---|
| 身体所見 | MAS・MTS、関節可動域、疼痛、筋力、姿勢 |
| 生活動作 | 更衣、整容、手指衛生、装具装着、移乗、歩行 |
| 介助・参加 | 介助量、家族の負担、生活範囲、本人の満足度 |
| 不利益 | 筋力低下、立位・歩行の不安定化、転倒、疼痛、皮膚障害、眠気 |
例えば、下肢の筋緊張が低下しても、立位保持に利用していた伸展活動が弱まり、膝折れや介助量の増加につながることがあります。そのため、治療前にベースラインを記録し、同じ条件で比較することが重要です。
再評価の時期は、治療内容、薬効、目標、患者さんの状態によって異なります。全症例を一律に週1回や治療後2週間と決めるのではなく、治療計画に合わせて評価時期を設定します。
記録の型:「目標動作」「評価条件」「用いた治療」「生活上の変化」「不利益」「次の方針」をセットで残すと、多職種で経過を共有しやすくなります。
痙縮リハビリで起こりやすい失敗
痙縮への対応がうまく進まない場合は、手技の不足よりも、評価と目標設定のずれが原因になっていることがあります。
| よくある失敗 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| MASだけを追う | 生活上の効果を判断できない | 更衣、衛生、疼痛、歩行などの目標指標を追加する |
| 増悪因子を確認しない | 感染、便秘、疼痛などによる一時的な変化を治療不足と誤認する | 急な変化では全身状態と環境を先に確認する |
| 痙縮と拘縮を混同する | 動的成分に対する治療だけでは可動域が改善しない | 他動速度を変え、固定的な制限を切り分ける |
| 筋緊張を下げることを目的にする | 立位や歩行に利用していた緊張まで弱める可能性がある | 治療前後で筋力、立位、歩行、介助量を確認する |
| 治療後に課題練習を行わない | 得られた変化を生活動作へつなげにくい | 治療目標に対応した動作練習を組み合わせる |
| 評価条件が毎回違う | 本当の変化と条件差を区別できない | 肢位、速度、装具、時刻、疼痛などを記録する |
多職種共有は「目標・所見・変化・次の方針」をそろえる
痙縮は、リハビリ場面だけでなく、更衣、清潔ケア、移乗、排泄、睡眠、装具管理など多くの生活場面に影響します。本人・家族、医師、看護師、リハビリ職、義肢装具士などで情報を共有する必要があります。
共有時は、以下の4点を簡潔にそろえると伝わりやすくなります。
- 目標:何をできるようにしたいか
- 所見:痙縮・拘縮・疼痛がどの動作を妨げているか
- 変化:治療前後で何が変わったか
- 次の方針:継続、調整、医学的治療の相談のいずれか
共有例
右手掌の衛生管理を目標としています。手指屈筋群の抵抗に加え、手関節の他動可動域制限があります。ポジショニング後は手掌を開きやすくなりましたが、清拭時の疼痛が残っています。疼痛原因を確認しつつ、治療選択について医師へ相談します。
痙縮リハビリに関するよくある質問
各項目名をタップすると回答が開きます。
痙縮の評価は何から始めればよいですか?
最初に、本人や家族が生活上で困っている動作を確認します。次に、疼痛、感染、便秘、睡眠不足、装具の不適合などの増悪因子を確認し、他動運動で痙縮・固縮・拘縮を切り分けます。痙縮が問題に関与している場合はMAS・MTSで定量化し、生活指標と組み合わせて評価します。
ストレッチやROM運動だけで痙縮は改善しますか?
ストレッチやROM運動だけで、慢性的な痙縮や拘縮を大きく改善できるとは限りません。関節を動かす機会の確保、疼痛の確認、姿勢調整、課題練習の準備など、目的を明確にして用います。必要に応じて装具、電気刺激、薬物・注射療法などと組み合わせます。
装具は痙縮を下げるために使用しますか?
装具の主な役割は、姿勢や関節アライメントの調整、動作の安定化、課題練習の補助です。痙縮を直接なくすことだけを目的にせず、装着後に歩行、更衣、介助量などが改善したかを確認します。疼痛や発赤がある場合は装着条件を見直します。
ボツリヌス毒素治療後のリハビリでは何を確認しますか?
治療前に決めた目標動作、MAS・MTS、関節可動域、疼痛、介助量などを再評価します。筋緊張が弱くなったかだけでなく、更衣、衛生、装具装着、歩行などが改善したかを確認します。筋力低下や立位・歩行の不安定化などの不利益にも注意します。
痙縮は毎週評価した方がよいですか?
すべての患者さんを一律に毎週評価する必要はありません。状態の変化、治療内容、注射後の経過、装具調整、目標などに応じて再評価時期を決めます。重要なのは、評価条件と評価時期を事前に決め、治療前後を比較できるようにすることです。
次に確認したい記事
痙縮の全体像を確認した後は、筋緊張の鑑別とMAS・MTSの評価手順を個別記事で確認すると、実際の評価へつなげやすくなります。
痙縮の評価と治療選択を深めたい方におすすめの本
痙縮は、筋緊張の評価だけでなく、動作への影響、治療の適応、介入後の課題練習まで含めて理解する必要があります。ここでは、痙縮治療を直接学べる本と、脳卒中理学療法を体系的に確認できる本を2冊に絞って紹介します。
痙縮治療ポケットマニュアル
ボツリヌス療法、髄腔内バクロフェン療法、リハビリテーションを横断して確認したい方に向いています。痙縮治療に関わる選択肢と、リハビリ職が押さえておきたい実務を整理する際に使いやすい一冊です。
脳卒中理学療法の理論と技術 第5版
痙縮を単独の症状としてではなく、運動麻痺、姿勢制御、上肢機能、歩行などとの関係から体系的に学びたい方に向いています。脳卒中理学療法の評価と治療を一冊で確認したい場合の基本書です。
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参考文献
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- Marcolino MAZ, Hauck M, Stein C, Schardong J, Pagnussat AS, Plentz RDM. Effects of transcutaneous electrical nerve stimulation alone or as additional therapy on chronic post-stroke spasticity: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Disabil Rehabil. 2020;42(5):623-635. doi:10.1080/09638288.2018.1503736.

