SIAS の評価方法と採点| 22 項目・ 76 点を実務で使う

評価
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SIAS とは?(結論:何ができて、どう使うか)

SIAS( Stroke Impairment Assessment Set )は、脳卒中後の機能障害( impairment ) 9 領域・ 22 項目(最大 76 点)で短時間に整理する評価です。合計点は「全体の軽重」をつかむのに便利ですが、臨床では領域内訳(例:手指/体幹/視空間)を見て、介入とリスクを決めるのが実装しやすい使い方です。

採点は原則として初回のパフォーマンスを採用し、疼痛・理解困難・せん妄・既存障害などで評価が難しい場合は、点だけでなく評価不能の理由を所見として残します(「できない」を同じ 0 点でまとめない)。

早見:SIAS の評価領域と内訳( 22 項目・最大 76 点)

SIAS の評価領域と内訳( 9 領域・ 22 項目・最大 76 点)
領域 項目 配点 臨床での見どころ
運動(上肢)① 上肢近位(膝‐口)0–5近位の随意性と代償の出方。
② 上肢遠位(手指)0–5分離運動=巧緻 ADL の入口。
運動(下肢)③ 下肢近位(股関節)0–5挙上の質と体幹代償。
④ 下肢近位(膝伸展)0–5膝の選択性・スピード。
⑤ 下肢遠位(足パット)0–5歩行リズムにつながる交互性。
筋緊張⑥ 上肢筋緊張0–3速度依存・姿勢依存の影響。
⑦ 下肢筋緊張0–3立位・歩行前の調整指標。
腱反射⑧ 上肢腱反射0–3左右差・クローヌスの有無。
⑨ 下肢腱反射0–3左右差・クローヌスの有無。
感覚⑩ 上肢触覚0–3運動学習の「入力」低下を把握。
⑪ 下肢触覚0–3立位・歩行の安全性に影響。
位置覚⑫ 上肢位置覚0–3視覚代償の効きやすさを確認。
⑬ 下肢位置覚0–3足部コントロールの前提。
関節可動域⑭ 肩外転(他動)0–3拘縮・疼痛と上肢運動の解釈。
⑮ 足関節背屈(膝伸展位・他動)0–3歩行の前方移動・接地に直結。
疼痛⑯ 疼痛(脳卒中由来)0–3介入順序(鎮痛→再評価)。
体幹機能⑰ 垂直性0–3座位中間位と転倒リスク。
⑱ 腹筋0–3起居・移乗の基盤。
高次脳機能⑲ 視空間認知0–3無視傾向・逸脱のスクリーニング。
⑳ 言語(失語)0–3構音は除外し「失語」を評価。
健側機能㉑ 握力0–3全身予備能・訓練負荷の目安。
㉒ 健側大腿四頭筋力0–3立ち上がり・歩行の土台。

評価方法(手順):迷わない進め方

  1. 体位と安全:標準体位を優先し、転倒など安全上必要な場合のみ最小限の介助を加えます(介助の内容は所見に残す)。
  2. 実施順:上肢運動→下肢運動→筋緊張→腱反射→感覚→位置覚→ ROM →疼痛→体幹→高次脳→健側。
  3. 採点の原則:原則は初回反応。規定回数(例: 3 回、 2 回)がある項目は回数を守り、練習回数を増やしません。
  4. 評価不能の扱い:疼痛、理解、せん妄、既往の整形外科疾患などで評価が難しい場合は、点だけでなく理由と状況(体位・鎮痛の有無など)を所見に記載します。

現場の詰まりどころ:ここで精度が落ちやすい

  • 「練習してから採点」になりがち:初回反応を採る評価なので、説明とデモは簡潔にし、試行での学習効果を入れない。
  • 体位が揺れてスコアが変わる:座位保持の不安定さが強いと、上肢・下肢運動が「運動障害」ではなく「姿勢制御」で落ちる。体幹( ⑰ ⑱ )を先に観察し、解釈を分ける。
  • 手指( ② )の 1A/ 1B/ 1C が混ざる:「集団で動くか」「伸展が成立するか」「分離が一部でも出るか」を順に確認し、所見は文章で補う。
  • 足関節背屈 ROM( ⑮ )の条件抜け:膝伸展位の条件が外れると、腓腹筋の影響が抜けて過大評価になる。
  • 疼痛( ⑯ )の「由来」誤り:脳卒中後疼痛(肩手症候群、痙縮関連痛など)と、既往の腰痛・変形性関節症・内科的疼痛を分ける。鎮痛後の再評価もセット。
  • 失語( ⑳ )と構音の混同:「言葉が出ない(失語)」と「発音が不明瞭(構音)」を分け、構音は別所見として扱う。
  • 視空間( ⑲ )の測定が曖昧:距離(提示位置)と「中央からのずれ」を統一し、 2 回のうち大きい方を採るなど、ルールを固定して再現性を上げる。

SIAS の読み方:点数を次アクションに変える

合計点(最大 76 点)は「軽重の見取り図」に有用ですが、臨床で効くのは低得点領域の理由です。たとえば「 ② 手指」が低い場合は巧緻 ADL と環境調整、「 ⑰ 垂直性」「 ⑲ 視空間」が低い場合は転倒・逸脱対策と監視強度の再設計、というように介入の順序が決まります。

所見から次の一手へ(例:領域内訳で意思決定する)
所見の例 解釈の方向性 次アクション例
② 手指が低い(分離が乏しい) 巧緻 ADL のボトルネック 課題特異的練習+把持補助(太柄、滑り止め、固定の工夫)
⑰ 垂直性が低い 中間位保持が崩れやすい 端座位の中間位再学習、移乗の誘導線を統一
⑲ 視空間が低い 無視/注意の偏りが疑わしい 視覚スキャン、掲示・物品配置の調整、歩行時の監視強化
⑯ 疼痛が強い 運動の評価が痛みで歪む ポジショニング・鎮痛・装具調整を優先し、その後に再評価

各項目の要点(定義・手順・採点の目安)

ここでは実務で迷いやすい部分を中心に、「手順」と「採点の見方」を簡潔にまとめます。院内の運用シートに表現差がある場合は、最終的に院内基準を優先してください。

① 上肢近位(膝‐口)| 0–5

手順:座位で、患側の手を対側大腿付近→口へ運び→元へ戻す動作を規定回数実施。拘縮がある場合は可動域内で評価し、制限の影響は所見に記載。

見方:「まったく出ない」→「わずか」→「共同運動が優位」→「到達できるがぎこちない」→「ほぼ対称」→「正常」の順で段階づけます。

② 上肢遠位(手指)| 0–5( 1A / 1B / 1C を含む)

手順:母指から小指へ順に屈曲、次に小指から母指へ順に伸展(分離運動)を確認。

見方: 1 点台は「集団でしか動かない/伸展が出る/分離が一部出る」を区別して記録すると、後の介入が決めやすくなります。 2 点以上は分離が成立し、 3–5 点は質(速度・拙劣・代償)の差で段階づけます。

③ 下肢近位(股関節)| 0–5

手順:座位で股関節屈曲を規定回数実施(座位保持の介助は安全の範囲で許容)。

見方:足部の離床、到達範囲、代償(体幹後傾・骨盤回旋)で段階づけます。

④ 下肢近位(膝伸展)| 0–5

手順:座位で膝を屈曲位から伸展し、規定回数実施。

見方:足部が床から離れるか、伸展が十分か、拙劣さや速度低下があるかで段階づけます。

⑤ 下肢遠位(足パット)| 0–5

手順:踵接地を保ち、背屈・底屈を規定回数行った後、できるだけ速い背屈反復で律動性を確認。

見方:背屈が出るか、テンポが保てるか、誤動作(足指屈曲の代償、股関節で「ごまかす」)が増えるかで段階づけます。

⑥–⑦ 筋緊張(上肢/下肢)| 0–3

手順:肘・膝の他動運動で抵抗を確認します。

見方:「著明な亢進」→「中等度の亢進 or 低下」→「軽度の亢進」→「左右差なし」の順に整理し、体位や速度で変わる場合は所見に残します。

⑧–⑨ 腱反射(上肢/下肢)| 0–3

見方:左右差、亢進の程度、クローヌスの有無を中心に段階づけます。検査条件(肢位・リラックス)を揃えると再現性が上がります。

⑩–⑪ 触覚(上肢/下肢)| 0–3

手順:軽刺激を用い、視覚代償を避けて確認します。

見方:「強刺激でも不明」→「中等度以上の低下」→「軽度低下/異常感覚」→「正常」の順に整理します。

⑫–⑬ 位置覚(上肢/下肢)| 0–3

手順:指・足趾を他動的に動かし、上下方向の弁別を確認します。

見方:大きい動きならわかる→小さい動きでもわかる、の順で段階づけます。院内シートで閾値表現が異なる場合があるため、運用ルールを固定してください。

⑭ 肩外転 ROM(他動)| 0–3

見方:角度の閾値で段階づけます。疼痛や拘縮がある場合は、運動( ① ② )の解釈が変わるため所見で補います。

⑭ 肩外転(他動)の採点目安(角度閾値)
目安
0 60° 以下
1 90° 以下
2 150° 以下
3 150° 以上
⑮ 足関節背屈 ROM(膝伸展位・他動)| 0–3

見方:膝伸展位での背屈角度を閾値で段階づけます。膝屈曲位で測ると過大評価になりやすい点に注意します。

⑮ 足関節背屈(膝伸展位・他動)の採点目安(角度閾値)
目安
0 −10° 以下
1 0° 以下
2 10° 以下
3 10° 以上
⑯ 疼痛(脳卒中由来)| 0–3

ポイント:既往の整形外科的・内科的疼痛や、軽い伸張時のみの痛みは区別し、脳卒中後の疼痛として臨床判断できるものを中心に評価します。

見方:睡眠を妨げるレベル→中等度→軽度(加療不要)→問題なし、の順で段階づけます。

⑰ 垂直性| 0–3

手順:座位保持で側方への傾きと、指示による修正可否を確認します。

見方:座位不可→指示でも修正できず介助が必要→指示で修正・維持できる→正常、の順で整理します。

⑱ 腹筋| 0–3

手順:座位で体幹を後傾させた位置から、垂直位まで起き上がる課題。必要に応じて大腿の固定など安全配慮を行い、抵抗量の段階で評価します。

見方:起き上がれない→抵抗なしなら可→軽い抵抗なら可→強い抵抗でも可、の順に整理します。

⑲ 視空間認知(テープ中央)| 0–3

手順:一定長のテープを一定距離で提示し、中央を健側指で指示してもらい、中央からのずれ量で段階づけます( 2 回実施し、大きいずれを採用する運用が一般的です)。

⑲ 視空間認知の採点目安(中央からのずれ量)
ずれ量の目安
0 15 cm 以上
1 5 cm 以上
2 3 cm 以上
3 3 cm 未満
⑳ 言語(失語)| 0–3

ポイント:評価対象は失語であり、構音障害は含めません。

見方:コミュニケーションが成立しない→重度(感覚性/運動性など)→軽度→問題なし、の順に整理します。

㉑ 握力| 0–3

手順:座位で握力計を用い、健側の値( kg )を記録します。

見方: 0 kg → 10 kg 以下→ 10–25 kg → 25 kg 以上、のように閾値で段階づけます(院内の年齢・性差補正ルールがある場合は併記すると便利です)。

㉒ 健側大腿四頭筋力| 0–3

手順:座位で健側の膝伸展筋力を評価します。

見方:重力に抗せない→中等度低下→軽度低下→正常、の順に整理します。

FAQ(よくある質問)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

SIAS と NIHSS / FIM の違いは?

SIAS は機能障害( impairment )を、NIHSS は急性期の神経学的重症度を、FIM は ADL の自立度( disability )を主に評価します。目的が異なるため、同じ患者でも「何を意思決定したいか」に合わせて併用すると整理が速くなります。

所要時間の目安は?

標準化できていればおおむね 10 分前後で実施可能です。回数規定のある項目は回数を守り、練習で点が変わる状況を作らないのがポイントです。

評価不能のときは 0 点にしてよい?

評価不能を一律に 0 点へ落とすと解釈が歪みやすくなります。評価不能の理由(疼痛、理解、せん妄、既往障害など)を所見として残し、可能な範囲の情報(例: ROM 制限、疼痛の性質、介助量)で補足する運用がおすすめです。

「合計点が高いのに歩行が不安定」になるのはなぜ?

合計点が高くても、体幹( ⑰ ⑱ )視空間( ⑲ )が低い、あるいは ⑮ 足関節背屈 ROM が不足していると、歩行の安全性は落ちやすいです。合計点ではなく「低得点領域の理由」を拾うと、次の介入が決まりやすくなります。

おわりに

SIAS は、安全の確保→標準体位→初回反応で採点→領域内訳で介入を決める→再評価のリズムで回すと、短時間でも情報の取りこぼしが減ります。次の職場選びや面談準備まで一気に進めたいときは、マイナビコメディカルの面談準備チェックと職場評価シートを使うと、条件の棚卸しと比較がスムーズです。

参考文献

  • Chino N, Sonoda S, Domen K, et al. Stroke Impairment Assessment Set ( SIAS ). Jpn J Rehabil Med. 1994;31(2):119–125. PDF
  • Liu M, et al. Psychometric properties of the SIAS. Neurorehabil Neural Repair. 2002;16(4):339–351. DOI
  • Yagihashi K, et al. Pattern of item score change in SIAS. Jpn J Compr Rehabil Sci. 2020;11:79–84. PMCID
  • 慶應義塾大学リハビリテーション医学教室: SIAS の概要。Web

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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