mRS とは?(0–6 点の早見と結論)
mRS(修正ランキンスケール)とは、脳卒中の転帰(生活自立度)を 0–6 点で評価する指標です。別名 Modified Rankin Scale/修正 Rankin スケール/修正ランキンスケール(mRS)。おおまかに「0–2=自立」「3=要介助」「4–5=全介助」「6=死亡」と押さえると、病期を問わず説明と研究比較がスムーズです。途中で詰まったら臨床運用の流れをまとめた内部ガイドも活用してください。
判定基準と 0–6 点の要約
| mRS | 要約 | 代表的な生活像 |
|---|---|---|
| 0 | 症状なし | 以前と同等の生活・就労・学業が可能 |
| 1 | 症状はあるが実質的な障害なし | 日常活動はほぼ通常通り(軽い不便は自力で補える) |
| 2 | 軽度の障害(自立だが一部活動が制限) | 身の回りは自立、以前の活動の一部は困難 |
| 3 | 中等度の障害(何らかの介助が必要) | 移動は自立~見守りだが、更衣・入浴などに手助けが要る |
| 4 | 中等度~重度(多くの身辺で介助が必要) | 歩行やトイレなど基本動作に常時介助が要る |
| 5 | 重度の障害(全介助に近い) | 臥床中心/全介助・見守りが常に必要 |
| 6 | 死亡 | — |
上表は臨床で迷いを減らすための要約です。実生活の像から逆算して総合的に判定しましょう。
標準化面接(mRS-9Q)の観点と手順
評定者間のばらつきを減らすには、標準化面接の視点が有効です。以下は実施時に確認したい観点の例です。
- いま感じる症状(困りごと)の有無と具体
- 仕事・学業・家事の遂行(質と量の変化)
- 趣味・社会参加の継続状況
- 屋内外移動(歩行補助具・見守りの要否)
- 更衣・入浴・整容など身辺処理の介助量
- 食事・排泄の自立度と見守り
- 金銭管理・服薬・家事など IADL の可否
- 認知・コミュニケーション(失語・注意・遂行機能)
- 総合的な見守り・口頭指示の頻度(常時/時々)
- 代理回答(家族・介護者)を許容し、通常の生活像で判定。
- 数日でぶれる場合は最も重い日常像を基準に。
- 失語・認知障害では、できる活動でも常時の言語的支援が必要なら自立とはみなさない。
境界で迷う症例ミニケース(100–150字×4)
- 入浴のみ常時介助だが他は自立:移動は自立でもmRS3(要介助)。
- 屋外は車椅子・屋内は移乗全介助:身辺ほぼ介助でmRS5。
- 歩行自立だが頻回の声かけ・監視が必要:見守りは介助に含め、状況によりmRS3–4。
- 職場復帰はしたが業務量を大きく制限し、複雑作業は困難:身辺は自立でも活動制限ありでmRS2(1 との差を明確化)。
落とし穴:「歩ける=自立」ではありません。入浴・排泄・服薬・安全配慮など、見守りや口頭指示の頻度を必ず聞き取ってください。
mRS と BI/FIM の使い分け
| 指標 | 主目的 | スコア範囲 | 粒度 | 臨床での使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| mRS | 転帰・自立度の鳥瞰 | 0–6 | 7 水準(粗い) | 初期像の要約、退院時の説明、研究の主要転帰 |
| BI | 基本 ADL の量的把握 | 0–100 | 項目別(中粒度) | 介助量の評価、短期変化の把握 |
| FIM | ADL・認知を含む包括評価 | 18–126 | 項目別(細かい) | 多職種共有、介入効果の詳細評価 |
方針:「mRS=転帰の見出し」、「BI/FIM=本文」。経時変化は BI/FIM で追い、節目で mRS を記録すると説明が通ります。
研究での読み方(shift 解析など)
- mRS は順序尺度のため、二値化(例:0–2 vs 3–6)だけでなく、シフト解析/比例オッズモデルが推奨されます。
- 構造化面接や smRSq(簡略質問票)は評定者間一致の改善に寄与します。
- 近年はユーティリティ加重 mRSや反復測定の解析も議論されています。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
mRS の「3」と「4」の差はどこで決める?
身辺の多くで介助が恒常的に必要なら 4、一部の ADL に介助(または頻回見守り)が必要なら 3 が目安。移動の自立だけで 3 とは限りません。
誰が評価する?
医師・看護師・療法士など、訓練を受けた医療者が評価します。標準化面接(mRS-9Q や smRSq など)を活用すると、評定者間一致が向上します。
失語や認知障害がある場合のコツは?
できる活動でも常時の言語的支援が必要なら自立とはみなしません。代理回答や行動観察を組み合わせ、最も重い日常像で判定します。
外来・電話で評価してよい?所要時間は?
構造化面接や smRSq は対面・電話双方での妥当性が報告されています。状況によりますが、1–3 分程度で実施可能です。
リハ目標設定にどう落とし込む?
急性期研究ではmRS≤2を機能回復の指標に置く例が多く、病棟では「mRS の目標水準」+「BI/FIM の項目目標」で運用すると説明しやすいです。
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参考文献
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