この記事でわかること(結論)
mRS(modified Rankin Scale)は、脳卒中後の日常生活自立度(転帰)を0〜6点で判定する世界標準の指標です。臨床では0–2=自立/3–5=要介助/6=死亡の層別がよく用いられます。
本記事は構造化面接と境界フロー(2↔3/3↔4)を備え、初めてでも明日から5分で評価・記録できる構成にしました。
▶ mRS 0〜6の定義(早見表)|▶ 評価手順(構造化面接・5分)|▶ 判定フローチャート(2↔3↔4)|▶ ケース別サンプル|▶ 記録テンプレ|▶ FIM/Barthelとの違い|▶ FAQ
※本記事は医療専門職向けの教育目的です。個別の患者評価・治療は施設手順書と主治医の指示に従ってください。
mRS 早見表(0〜6の定義)
スコア | 定義(要約) | 判定キーワード |
---|---|---|
0 | 症状なし(後遺症を自覚しない) | 制限なし |
1 | 症状はあるが実質的障害なし(日常生活・業務は通常どおり) | 仕事・家事・趣味ほぼ維持 |
2 | 軽度障害:身の回りは自立だが、以前の活動は全てはできない | ADL自立/IADLで制限 |
3 | 中等度障害:何らかのADLに人の助け(見守り含む)が必要。歩行は自立 | 部分介助あり/独歩可 |
4 | 中等度〜重度:歩行に介助が必要、かつ身の回りにも介助が必要 | 手引き歩行+ADL介助 |
5 | 重度:寝たきり、失禁傾向、常時看護・介助を要する | 終日ケア |
6 | 死亡 | — |
評価の手順(構造化面接・所要5分)
- 評価時点の確認:「現在の平均的な1日」で判定(研究目的では発症90日が推奨)。
- 発症前の状態(pre-mRS):発症前の自立度を1行で把握(例:pre-mRS 0)。
- 身の回り(ADL):食事・更衣・整容・トイレ・入浴で人の手伝い/常時見守りが要るか。
- 移動・歩行:屋内/屋外で人の介助が要るか(杖・装具・手すり等の道具は使用可=自立を妨げない)。
- IADL:家事・買物・金銭・服薬・通院での制限(ADL自立でも制限があれば2点の根拠)。
- 常時ケア:終日看護(体位変換・失禁対応など)が必要なら5点を検討。
- 合成判断:下のフローチャートで 2/3/4 を決定 → 0/1/5/6 も整合を確認。
- 根拠の明記:mRS 3(入浴・更衣に部分介助、屋内独歩) のように理由を括弧書きで記載。
判定フローチャート(2↔3↔4を外さない)
- 身の回りADLに手伝い/常時見守りが必要?
- はい → 3点以上
- いいえ → 2点以下
- 歩行に人の介助が必要?(屋内でも手引き・常時付き添い)
- はい → 4点
- いいえ(杖・装具で独歩可)→ 3点
- ADLは自立だが、以前の活動(仕事・家事・趣味)に制限?
- はい → 2点
- いいえ → 1点/0点
- 寝たきり・失禁傾向で常時看護が必要? → 5点
注:人の介助には安全確保の常時見守り・口頭指示も含みます。杖・装具・手すり・車いす自走などの道具使用は自立扱いとするのが標準です。
構造化面接テンプレ(Yes/Noで素早く)
- 発症前は身の回りを一人でできていましたか?(はい/いいえ)
- 今、食事・整容・更衣・トイレ・入浴で毎日手伝い/常時見守りが必要ですか?(はい/いいえ)
- 屋内歩行に手引きや常時付き添いが必要ですか?(はい/いいえ)
- 杖・装具・手すり等の道具を使えば一人で移動できますか?(はい/いいえ)
- 以前できた家事/買物/金銭管理/服薬/通院に今は制限がありますか?(はい/いいえ)
- 終日看護(体位変換・失禁対応等)が必要ですか?(はい/いいえ)
→ 回答を判定フローへ当てはめ、根拠つきmRSを決定します。
ケース別サンプル(境界の迷いを解消)
スコア | 典型例 | 判定理由 |
---|---|---|
2 | ADLは自立だが、通勤は短時間勤務・買物は家族同伴。 | IADLに制限 → 2 |
3 | 入浴と更衣で部分介助。屋内は杖で独歩、トイレは自立。 | ADLの一部に介助、歩行は自立 → 3 |
4 | 屋内移動に手引きが必要。トイレ・入浴も介助。 | 歩行に人手+ADL介助 → 4 |
5 | 寝たきり・失禁、終日看護を要する。 | 常時ケア → 5 |
記録テンプレ(コピーして使える)
【mRS まとめ】 pre-mRS:0 / 現状mRS:3(入浴・更衣に部分介助、屋内独歩) 根拠:ADLの一部に日常的な人の手伝いが必要。歩行は杖で独歩(人の介助なし)。IADLは買物・通院で家族同伴。 備考:平均的な1日で判定(最良/最悪日は除く)。
FIM / Barthel と mRS の違い(使い分け)
観点 | mRS | Barthel Index | FIM |
---|---|---|---|
目的 | 転帰の層別(自立/要介助/死亡) | ADL自立度(10項目) | ADL自立度(18項目:運動/認知) |
粒度 | 7段階(0–6) | 0–100点 | 18–126点 |
強み | 短時間・国際比較・研究アウトカム | 簡便・急性〜回復期で広く使用 | 詳細で変化検出に強い |
注意 | 面接の主観差→質問の標準化が鍵 | 施設間運用差あり | 所要時間・教育コストがやや高い |
FAQ(よくある質問)
- Q. 2点と3点の境目は?
- A. 身の回り(ADL)が完全自立なら2点。ADLのいずれかに人の手助け/常時見守りが要るなら3点です。
- Q. 3点と4点の境目は?
- A. 歩行に人の介助が要る(屋内でも手引き・常時付き添い)なら4点。歩行は自立だがADLで手助けがある場合は3点です。
- Q. 道具は使ってよい?
- A. はい。杖・装具・手すり・車いす自走などの道具使用は自立を妨げません。重要なのは人の介助の要否です。
- Q. 研究・登録ではいつ評価?
- A. アウトカムでは発症90日(3か月)が推奨です。臨床では退院時や外来でも可。