被動性検査のやり方|筋緊張の見分け方と記録法

評価
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被動性検査とは?何が決まる評価か

被動性検査は、検者が関節を他動的に動かしたときに手に感じる抵抗を、速度差・角度帯・抵抗の質で切り分けてみる評価です。この記事で決めるのは、痙縮・固縮・拘縮・低緊張を大まかに整理するための触り方と記録の残し方です。

一方で、 MAS の細かな採点練習や MTS の詳細手順を深掘りするページではありません。ここでは「どの順で動かすか」「どこでキャッチを取るか」「何を 1 行で残すか」に絞り、現場で再現しやすい流れに固定します。

被動性・受動性・他動の違い

似た言葉が並ぶため、ここを先にそろえると理解しやすくなります。この記事では次の意味で使います。

用語の違い(臨床での使い分け)
用語 この記事での意味 使いどころ
被動性 他動運動時に検者が感じる抵抗の性質 筋緊張の見分け方、抵抗の質の記録
受動性 一般語としての「外から働きかけられる」状態 補助的な説明に使うことが多い
他動 検者や器具など外力で関節を動かすこと ROM 検査、筋緊張検査、伸張時の観察

被動性検査のやり方( 5 ステップ )

被動性検査は、低速で終末域をみる → 中速で抵抗パターンをみる → 高速でキャッチをみる → その場で記録する順にすると迷いにくいです。まずは全体像を固定します。

被動性検査の 5 ステップ(何を見て、何を決めるか)
段階 何を見るか その場で決めること
セットアップ 体位、支持、痛み、脱力のしやすさ どの速度から入るか
低速 終末域感、痛み、拘縮の寄与 組織性の制限が強いか
中速 抵抗が連続か、断続か 固縮様か、痙縮様か
高速 キャッチ、 R1 、 R2 、速度差 動的成分が大きいか
即時記録 条件、角度、抵抗の型、痛み 再評価で比較できる形にする

ステップ 1 |前提セットアップ

基本体位は仰臥位です。近位側は関節軸がぶれないように確実に支持し、遠位側は包み込むように保持します。はじめに「ゆっくり → 普通 → 速く動かします。痛みがあれば教えてください」と短く伝え、既痛があればならしから始めます。

速度条件の目安と観察のねらい
速度 主目的 観察ポイント
低速( V1 ) 一定でゆっくり 拘縮 / 痛み / 終末域感 最終域のストッパー感、痛み誘発、近位のぶれ
中速( V2 ) 日常に近い速さ 抵抗パターン 連続抵抗か、断続的な引っ掛かりか、角度帯はどこか
高速( V3 ) できるだけ速く安全に 痙縮の速度差 キャッチ角度( R1 )、最大可動域( R2 )、キャッチ後の抵抗変化

ステップ 2 |低速で 1 往復する

最初の低速は、筋トーンそのものよりも痛みと組織性の制限を外す工程です。終末域で急に止まるのか、じわっと硬くなるのか、表情変化や防御反応が出るのかを見ます。

ここで近位支持が甘いと、筋緊張ではなく代償運動を触ってしまいます。低速で違和感が強ければ、いきなり高速へ進まず、条件調整を優先します。

ステップ 3 |中速で抵抗パターンをみる

次に中速で 1 往復し、抵抗が全域で続くのか、それともある角度帯で断続的に立ち上がるのかをみます。ここでの目的は厳密な診断ではなく、痙縮様か、固縮様か、拘縮が前景かを整理することです。

ステップ 4 |高速でキャッチと角度を確認する

高速では、安全を保ちながら明確に速く動かします。ここで見るのは、初めて抵抗が立ち上がる角度( R1 )と、ゆっくり動かしたときの最大可動域( R2 )です。

R2 − R1 の差が大きいと、組織性の短縮だけでなく、速度差で出る動的成分を疑いやすくなります。逆に差が小さければ、拘縮寄与を先に考えやすくなります。

ステップ 5 |その場で 1 行メモする

被動性検査は、直後に書かないと条件が抜けやすい評価です。最低限、体位、関節・方向、速度、角度帯、抵抗の型、痛みはその場で残します。

痙縮・固縮・低緊張・拘縮の見分け方

(表は横スクロールできます)

被動性検査で観察する所見の対比(成人・臨床実務の要点)
分類 速度差 抵抗の型 終末域の挙動 よくみる疾患 代表評価
痙縮 あり(速いほど出やすい) キャッチ、断続的な引っ掛かり 引っ掛かり後に抵抗が抜けやすい 脳卒中、脊髄損傷 など MAS、 MTS 、 R1 / R2 、 ROM
固縮 変わりにくい 連続抵抗(鉛管様 / 歯車様) 全域で一様に硬い パーキンソン病 など 筋トーン所見、 ROM、臨床所見
低緊張 抵抗が乏しい、保持しにくい 終末域で不安定になりやすい 小脳疾患、末梢神経障害 など 姿勢保持評価、 ROM、機能検査
拘縮 -(組織性) 終末域で急に増える ストッパー感が強い 長期不動、瘢痕、痛み関連 など ROM、関節包所見、疼痛評価

そのまま使える記録の型

再評価で使える記録は、「強い」「硬い」ではなく、条件つきで言語化された記録です。最低限の型をそろえるだけで、読み返しやチーム共有がかなり楽になります。

被動性検査の記録テンプレ(最低限そろえたい 6 項目)
項目 何を書くか 記載例
体位 仰臥位、座位など 仰臥位
関節・方向 どの筋群をどちらへ伸ばしたか 足関節背屈(底屈筋)
速度 低速 / 中速 / 高速 高速
角度帯 R1 、 R2 、終末域の位置 R1 0° / R2 10°
抵抗の型 連続 / 断続 / 乏しい / ストッパー感 0° でキャッチ後に抵抗低下
痛み 有無、部位、表情変化 痛みなし
  • 「膝屈筋(伸展):高速 20° でキャッチ → 抵抗低下。痛みなし。 MAS 1+、 R1 20° / R2 120°」
  • 「手関節掌屈筋:速度差は小さく、全域で連続抵抗。固縮様」
  • 「足背屈(底屈筋):低速では終末域硬さ軽度、高速で明確なキャッチ。 R1 0° / R2 10°」

被動性検査|記録シート PDF

今回の配布物は、患者情報 → 速度条件 → 所見記録 → 再評価メモまでを A4 1 枚で残せる記録シートです。記録の抜け漏れを減らしたいときや、再評価条件をそろえたいときに使いやすい構成にしています。

被動性検査 記録シート PDF

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現場の詰まりどころと対策

よくある失敗を見る回避のコツを見るMAS と MTS の使い分けを見る

被動性検査は、速度や支持が少しぶれるだけで所見が変わって見えます。迷いやすいのは「痛みが混ざる」「速度差が曖昧」「近位支持が抜ける」の 3 つです。

よくある失敗

(表は横スクロールできます)

被動性検査で詰まりやすいポイントと対策
つまずき 起きやすい原因 対策 記録のコツ
防御性収縮が混ざる 説明不足、痛み、呼吸停止 短い説明 → ならし → 低速から始める 「痛みあり / 防御疑い」を先に書く
速度差が曖昧 低速と高速の差が小さい 高速は明確に速く、ただし安全最優先 V1 / V2 / V3 を残す
近位支持が不足する 遠位だけを動かしてしまう 片手は常に近位支持、軸ぶれを減らす 体位と支持の方法を 1 行書く
拘縮の寄与を見落とす トーン所見だけで判断する 低速で終末域感と痛みを先に確認する 「終末域で急増 / ストッパー感」を併記

再現性を上げるコツ

  • 毎回、同じ体位と同じ支持点から始める
  • 低速で 1 回、中速で 1 回、高速で 1 回の順番を崩さない
  • 迷ったら「どの速度で、どの角度で、どんな抵抗か」の 3 点だけは残す

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q. MAS と角度記録( R1 / R2 )は、どちらを優先すべきですか?

共通言語として共有したいなら MAS は便利です。ただし、被動性検査の読後価値を上げるのは、どこで引っ掛かったかが残ることです。迷ったら R1 / R2 を優先し、そのうえで必要に応じて MAS を併記すると、後から判断しやすくなります。

Q. “キャッチ”はどの角度で書けばいいですか?

R1(初めて抵抗が立ち上がる角度)を度数で記録します。可能なら R2(最大可動域) も併記し、差をみます。

Q. 痛みで力が入ってしまう場合は、どう進めればいいですか?

いきなり高速へ進まず、ならし → 低速 → 中速の順で進めます。痛み由来の防御が強い日は、無理に痙縮判定まで進めるより、疼痛条件つきの所見として残した方が安全です。

Q. 固縮と痙縮をその場で見分けるコツはありますか?

まず速度差で変化するかをみて、次に抵抗が連続か断続かをみます。高速で明確なキャッチが出るなら痙縮を疑いやすく、速度差が小さく全域で連続抵抗なら固縮様として整理しやすくなります。

次の一手


参考文献

  1. Pandyan AD, Gregoric M, Barnes MP, Wood D, Van Wijck F, Burridge J, et al. Spasticity: clinical perceptions, neurological realities and meaningful measurement. Disabil Rehabil. 2005;27(1-2):2-6. DOI
  2. Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207. DOI
  3. Patrick E, Ada L. The Tardieu Scale differentiates contracture from spasticity whereas the Ashworth Scale is confounded by it. Clin Rehabil. 2006;20(2):173-182. DOI
  4. Shu X, McConaghy C, Knight A. Validity and reliability of the Modified Tardieu Scale as a spasticity outcome measure of the upper limbs in adults with neurological conditions: a systematic review and narrative analysis. BMJ Open. 2021;11(12):e050711. DOI
  5. Fujimura K, Mukaino M, Itoh S, Miwa H, Itoh R, Narukawa D, et al. Requirements for Eliciting a Spastic Response With Passive Joint Movements and the Influence of Velocity on Response Patterns: An Experimental Study of Velocity-Response Relationships in Mild Spasticity With Repeated-Measures Analysis. Front Neurol. 2022;13:854125. DOI

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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