身体機能評価は「何を判断するか」から選びます
身体機能評価は、ROM、MMT、TUG、10m歩行などを一通り実施することが目的ではありません。まず「歩行が不安定な原因を絞りたい」「移動能力の変化を数値で追いたい」など、今回の評価で判断することを1つ決め、その判断に最も合う評価を選びます。
本記事では、身体機能評価の種類を目的別に整理し、主に使う評価と必要に応じて追加する評価の選び方をまとめます。各検査の詳しい手順、採点、基準値、カットオフは個別記事で確認してください。
評価名や領域から記事を探したい方へ
身体機能評価を選ぶ基本は「目的・主評価・追加評価」です
評価を選ぶときは、最初に判断したいことを決め、その判断に直結する主評価を選びます。主評価だけでは原因や安全性を判断できない場合に限り、追加評価を組み合わせます。
「主評価1つ+追加評価1つ」は、公式に定められた本数ではなく、初回評価を整理しやすくするための実務上の考え方です。病態、安全性、生活課題、施設の運用によって、必要な評価数は変わります。
- 目的:今回の評価で何を判断するか決める
- 主評価:変化や能力を代表する指標を選ぶ
- 追加評価:原因、安全性、動作の質を補足する
- 条件固定:再評価で比較できる条件を記録する

身体機能評価の種類と目的別の選び方
同じ「歩けない」という訴えでも、筋力、関節可動域、バランス、感覚、持久力など、確認すべき身体機能は異なります。評価名から選ぶのではなく、何を判断したいかから候補を絞ります。
※表は横にスクロールできます(スマートフォン)。
| 判断したいこと | 主な評価候補 | 追加で確認すること | 選定時の注意 |
|---|---|---|---|
| 特定の関節に可動域制限があるか | 関節可動域測定(ROM) | 疼痛、エンドフィール、姿勢、隣接関節 | 動作制限に関係する関節を優先して測定する |
| 特定の筋群に筋力低下があるか | MMT、握力、筋力計測 | 疼痛、代償動作、筋緊張、疲労 | 動作能力そのものではなく、原因候補を確認する評価として使う |
| 立ち上がり能力や反復動作を確認したい | 5回椅子立ち上がり、CS-30 | 座面高、上肢使用、反動、疼痛 | 椅子や手の使用条件を固定する |
| 歩行速度の変化を確認したい | 10m歩行テスト | 歩行補助具、介助、歩数、歩容 | 快適速度と最大速度のどちらを測るか決める |
| 起立・歩行・方向転換をまとめて確認したい | TUG | 方向転換、ふらつき、着座、補助具 | 時間だけで転倒リスクや原因を断定しない |
| 複数課題によるバランス能力を確認したい | Berg Balance Scale、Mini-BESTest | 感覚、筋力、注意、補助具、環境 | 対象者の能力に対する床効果・天井効果を考慮する |
| 下肢機能を包括的に確認したい | SPPB | 歩行条件、立位条件、上肢使用 | 構成課題と採点条件を施設内で統一する |
| 歩行耐久や運動耐容能を確認したい | 6分間歩行テスト、2分間歩行テスト | 自覚症状、休憩、脈拍、酸素化、歩行補助具 | 実施前に安全性と中止条件を確認する |
| 感覚障害が動作へ影響しているか | 表在感覚、深部感覚、複合感覚検査 | 視覚代償、注意、理解、左右差 | 感覚所見と実際の動作を関連付ける |
| 運動の正確性や協調性を確認したい | 指鼻指試験、踵膝試験、反復運動 | 筋力、感覚、疼痛、理解、速度 | 失調だけでなく他の阻害因子を除外する |
症例像ではなく「判断したいこと」で主評価を決めます
診断名や病期だけで評価を固定すると、必要な答えが得られないことがあります。たとえば転倒歴がある患者でも、確認したいことが方向転換なのか、立位バランスなのか、下肢筋力なのかによって選ぶ評価は変わります。
| 臨床上の問い | 主評価の例 | 追加評価の例 |
|---|---|---|
| 歩行速度は改善しているか | 10m歩行テスト | 歩数、歩容、補助具、介助量 |
| 方向転換を含む移動が安全か | TUG | 方向転換の質、バランス評価、認知・注意 |
| 屋外移動に必要な耐久性があるか | 6分間歩行テスト | 自覚症状、脈拍、酸素化、休憩の有無 |
| 立ち上がり低下の程度を追いたい | 5回椅子立ち上がり | ROM、筋力、疼痛、動作観察 |
| 下肢機能を共通の合計点で共有したい | SPPB | 各構成課題の所見 |
| 関節制限が動作を妨げているか | 該当関節のROM | 疼痛、筋力、動作観察 |
| 筋力低下が介助量へ影響しているか | 該当筋群のMMTまたは筋力測定 | 実際の基本動作、代償、疼痛 |
主評価と追加評価は役割を分けます
主評価は、目標や経過を代表する指標です。追加評価は、主評価の結果だけでは判断できない原因、安全性、動作の質を補います。
主評価の役割
- 今回の目標と直接つながる
- 初回と再評価で同じ条件を再現できる
- 変化を数値または段階で共有できる
- 結果を次の介入判断へつなげられる
追加評価の役割
- 主評価が低下した原因を絞る
- 安全性や中止判断を補う
- タイムや合計点では分からない動作の質を確認する
- 介入ターゲットを決める
たとえば、主評価を10m歩行テストとした場合、ROMやMMTを無条件に追加するのではありません。歩幅低下、疼痛、膝折れ、ふらつきなど、歩行観察で得た仮説に応じて追加評価を選びます。
初回評価ではすべての項目を測る必要はありません
初回評価では、安全性と生活上の課題を確認したうえで、仮説を確かめるために必要な身体機能を選びます。全身のROMやMMTを一律に測定しても、生活上の問題や介入方針へつながらなければ、評価の優先順位は決まりません。
情報収集、リスク確認、観察、身体機能、基本動作・ADLまで含めた初回評価全体の進め方は、理学療法士の初期評価の進め方で整理しています。
再評価では数値だけでなく条件を固定します
再評価で重要なのは、同じ検査名を使うことだけではありません。補助具や介助方法、椅子、靴、声かけなどが変わると、患者の変化ではなく測定条件の違いが結果へ表れます。
少なくとも、次の条件を記録します。
- 補助具・装具
- 介助量と介助位置
- 靴や履物
- 椅子の高さや肘掛け
- 測定距離と通路
- 開始姿勢と終了条件
- 試行回数
- 声かけ
- 疼痛、疲労、息切れ
- 必要に応じて時間帯や酸素条件
| 不十分な記録 | 比較しやすい記録 |
|---|---|
| TUG 18秒 | TUG 18.2秒。四点杖使用、右側見守り、普段の速度、方向転換時に2歩の踏み直しあり |
| 5回立ち上がり 15秒 | 5xSTS 15.4秒。座面高42cm、上肢支持なし、3回目以降に体幹反動増加 |
| 10m歩行 12秒 | 快適10m歩行 12.0秒。歩行器使用、見守り、助走・減速区間あり、測定区間10m |
身体機能評価の記録シート(A4 PDF)
初回評価と再評価の条件をそろえるために、身体機能評価の記録シートを用意しています。評価の目的、主評価、追加評価、測定条件、再評価時の変化をA4用紙1枚へまとめられます。
PDFを記事内でプレビューする
身体機能評価でよくある失敗
評価が多すぎることよりも、「何を判断するために測ったか」「結果から何を決めたか」が不明確になることが問題です。
| よくある失敗 | 起こる問題 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 評価名から選ぶ | 測定結果と生活課題がつながらない | 最初に「何を判断するか」を1文で決める |
| ROMやMMTを全身一律に測る | 時間がかかり、重要な原因が埋もれる | 動作観察から原因仮説を作り、必要な部位を選ぶ |
| TUGやBBSの点数だけで転倒を判断する | 認知、環境、服薬、転倒歴などを見落とす | 評価結果を転倒歴や実際の動作と合わせて解釈する |
| 数値だけを記録する | 介入対象や再評価条件が分からない | 代償、ふらつき、疼痛、疲労、介助条件を1行追加する |
| 初回と再評価で条件が変わる | 変化が患者によるものか条件差か判断できない | 補助具、介助、環境、試行回数、声かけを固定する |
| 負荷の高い評価を先に行う | 疲労によって後半の結果が低下する | 安全確認後、低負荷から高負荷へ順序を決める |
迷ったときの身体機能評価選定フロー
評価を絞れないときは、次の4段階で整理します。
| 段階 | 確認すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 1 | 生活上・動作上の問題は何か | 病棟内歩行で方向転換時にふらつく |
| 2 | 今回何を判断したいか | 方向転換を含む移動能力の変化を確認する |
| 3 | 主評価と追加評価を選ぶ | 主評価:TUG、追加評価:方向転換の動作観察 |
| 4 | 再評価条件を固定する | 四点杖、見守り、普段の速度、同じ椅子と通路 |
身体機能評価の選び方でよくある質問
初回評価では何項目くらい実施すればよいですか?
一律の本数はありません。安全性と生活上の課題を確認し、判断に必要な主評価を選びます。原因や安全性を補足する必要がある場合に、追加評価を組み合わせてください。
TUGだけで転倒リスクを判断できますか?
TUGは起立、歩行、方向転換、着座を短時間で確認できますが、転倒は認知、服薬、環境、視覚、感覚、転倒歴など複数の要因に影響されます。TUGの時間だけで転倒の有無を断定せず、動作観察や背景因子と合わせて判断します。
ROMやMMTは全身を測った方がよいですか?
スクリーニングが必要な場合を除き、すべての関節や筋を一律に詳しく測る必要はありません。生活課題と動作観察から原因仮説を作り、関係する部位を優先して測定します。
主評価は途中で変更してもよいですか?
評価目的や患者の状態が変わった場合は変更できます。ただし、以前の主評価を中止する理由と、新しい評価で何を確認するかを記録しておくと、経過を共有しやすくなります。
再評価では同じテストだけ行えばよいですか?
同じテストを行うだけでなく、補助具、介助、椅子、通路、速度、声かけなどの条件をそろえます。数値に加えて、動作の質や症状の変化も確認してください。
次の一手
身体機能評価の選び方が決まったら、次は必要な個別評価の手順と記録方法を確認します。
参考文献
- 木藤伸宏, 梅原拓也, 岩本義隆, 小澤淳也. 理学療法における評価・効果判定の目的とは. 理学療法学. 2021;48(1):143-151. J-STAGE
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- Middleton A, Fritz SL, Lusardi M. Walking speed: the functional vital sign. J Aging Phys Act. 2015;23(2):314-322. DOI / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

