身体機能評価の種類(結論)
本ページは「身体機能評価 種類」に特化し、目的 → 代表テスト → 使いどころ → 所要時間 → 機材の順で俯瞰できる早見を提供します。包括スコアの深掘りは個別記事に任せ、ここでは領域別の“入り口”を整理して、症例・場面に応じた第一選択を素早く決められるように設計しました。全体像の把握は評価ハブもあわせてどうぞ。
身体機能評価の全体像(早見)
| 領域 | 目的 | 代表テスト | 所要 | 機材 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|---|---|
| 筋力 | 各部位の最大筋力 / 実用筋力 | MMT、握力、30 秒椅子立ち上がり(CS-30) | 3–10 分 | 徒手、握力計、椅子 | 初期評価、経過観察、退院基準の検討 |
| バランス(静的 / 反応) | 立位・姿勢制御と外乱対応 | Berg Balance Scale、Functional Reach Test、Romberg | 5–20 分 | 台・メジャー等 | 転倒リスク層別化、在宅移行判断 |
| 動的バランス / 移動 | 移動時の姿勢制御・課題複合 | TUG、Dynamic Gait Index、Mini-BESTest | 5–20 分 | 椅子、10 m 通路、コーン等 | 屋内外移動の安全性、介助量見積り |
| 歩行能力 | 歩行速度・耐久・効率 | 10 m 歩行(快適 / 最大)、6 分間歩行( 6MWT ) | 5–10 分 | 距離表示、ストップウォッチ | 移動自立度、補助具 / 酸素の要否 |
| 持久力 / 運動耐容能 | 反復負荷への耐性 | 6MWT 、2MWT、階段昇段テスト | 6–10 分 | 通路、SpO2(任意) | 在宅復帰、外来リハの目標設定 |
| 柔軟性 / 関節可動域 | 関節機能の制限確認 | ROM(ゴニオ計測)、SLR、Thomas など | 3–10 分 | ゴニオメーター | 疼痛 / 機能制限の鑑別、介入方針の選定 |
| 起居・移乗・階段 | 基本動作の自立度 | 5 回椅子立ち上がり、床起立、階段昇降テスト | 5–10 分 | 椅子、階段 | 介護量 / 住宅改修 / 福祉用具選定 |
理学療法士(PT)身体機能評価
理学療法士が臨床で使用することができる身体機能評価を 5 種類解説していきます。
- 歩行テスト(歩行速度)
- 5 回椅子立ち上がりテスト
- Short Physical Performance Battery(SPPB)
- 6 分間歩行テスト(6MWT)
- Timed Up and Go(TUG)
これらの評価方法を対象者の状態に応じて組み合わせて使用することで評価の精度を向上させることができます。
歩行テスト(歩行速度)
歩行テストは、サルコペニアやフレイル以外にも、転倒、ADL 低下、栄養障害、認知機能低下などのさまざまな症状・病態と関連するため、身体機能評価の代表的な指標となります。
サルコペニア(AWGS 2019)やフレイル(J – CHS )の診断基準では、歩行速度が 1.0 m/s 未満を身体機能の低下という判断基準となっています。
そのため、歩行距離に拘るのではなく、歩行速度で結果を解釈します。
評価方法
歩行距離に決まりはありません。実際に多いのは 10 m だと予想しますが、6 m や 8 m、12 mで評価することもあります。
歩行距離については、リハビリテーションを実施する環境にも左右されるため、環境面によって距離は設定すれば問題ありません。
歩行速度の算出方法は以下の通りとなります。
歩行速度(m/s)=距離(m)÷ 時間(秒)
歩行テストは可能であれば 3 回実施し、3 回実施して得られた歩行速度の平均値を求めます。
カットオフ値、結果の解釈
歩行速度が 1.0 m/s 未満で身体機能の低下と考えることができます。
歩行テストを測定することで、「歩行速度」「歩数」「歩幅」「歩行率」などのデータをとることができます。
初期評価としての身体機能評価としても有効ですが、経過中の効果判定として利用することで、歩行能力に変化があったのか、何が良くなったかを客観的な数値として把握することができます。数値で表せるため、患者様へのフィードバックにも適しています。
また、歩行者用信号機の青信号の時間は、一般的に歩行速度 1.0 m/s で道路を横断できるように設定されています。歩行速度を評価することは屋外を歩行する場合のリスク基準としても繋がります。
5回椅子立ち上がりテスト
5 回椅子立ち上がりテストは歩行テストのように環境、設備に左右されることなく居室内や在宅でも実施できることが特徴となります。
身体機能の全般的な評価、特に下肢筋力や転倒リスクの指標として、有効なテストになります。
評価方法
安定した椅子やプラットフォーム上に腰掛けた状態から 5 回の立ち上がりに要した時間を計測するテストになります。
対象者には両下肢を肩幅程度に広げて座ってもらい、両腕は可能であれば胸の前で組んでもらいます。
回数のカウント方法としては、立ち上がってから着座のタイミングで 1 回とカウントします。そのため、5 回目の着座のタイミングまでを計測します。
立ち上がりや着座は座面の高さで難易度が変わる性質上、座面の高さは 43 ~ 47 cm 程度が望ましいとされています。
テストの説明方法
テスト実施者への説明方法の例は以下のようになります。
「足は肩幅ぐらい開いておきましょう。腕を胸の前で組んで、できる限り速く、5 回連続立ち座りを繰り返して下さい。立ち上がる時は膝は完全に伸ばし、座る時はお尻を座面にしっかりとつけて下さい。」
カットオフ値、結果の解釈
AWGS 2019 の診断基準では、5 回椅子立ち上が
りテストが 12 秒以上で身体機能低下と判定します。
年代別平均値や若年者、健康高齢者、脳卒中後遺症者などのデータもありますが、まずは 12 秒というラインを意識して使用してみると良いのではないでしょうか。
Short Physical Performance Battery(SPPB)
Short Physical Performance Battery(SPPB)は、高齢者の下肢機能を評価する目的で、National Institute on Aging(NIA)によって開発され、1994 年に発表された評価尺度になります。
近年では、サルコペニアの診断基準としても用いられており、AWGS 2019では SPPB 9 点以下が身体機能低下の1つの判断材料となっております。
Short Physical Performance Battery(SPPB)は、立位バランス、歩行、立ち座り動作の 3 課題から成るパフォーマンステストになります。各課題の達成度を 0 ~ 4 点で採点し、合計点を指標とします。
各項目の評価方法について、わかりやすく解説していきます。
立位バランステスト
杖や歩行器などの歩行補助具は使用しないでバランスを評価します。「閉脚立位」「セミタンデム立位」「タンデム立位」の 3 種類の姿勢で判定を行います。
《 閉脚立位 》
両足の内側をつけた状態で 10 秒保持
- 10 秒可能:1 点
- 10 秒未満:0 点
- 実施困難:0 点
《 セミタンデム立位 》
片脚の踵ともう片脚の親指をつけた状態で 10 秒保持
- 10 秒可能:1 点
- 10 秒未満:0 点
- 実施困難:0 点
閉脚立位とセミタンデム立位がどちらも 0 点(10 秒未満あるいは実施困難)だった場合、テストは終了となり、立位バランステストの記録は 0 点となります。
《 タンデム立位 》
片脚の踵ともう片脚のつま先をつけた状態で 10 秒保持
- 10 秒可能:2 点
- 3 ~ 9.99 秒:1 点
- 3 秒未満:0 点
- 実施困難:0 点
閉脚立位、セミタンデム立位、タンデム立位の3項目を合計した点数が立位バランステストの合計点(最高 4 点、最低 0 点)となります。
歩行テスト
SPPB における歩行テストの距離は、4 m となります。4 m を歩くのにかかった時間から点数を算出します。テストは 2 回行い、2回実施して良い方のタイムを記録とします。
SPPB の歩行テストにおいては、歩行補助具を使用することもできます。その場合は 2 回とも同じ歩行補助具を使用する必要があります。評価者は評価用紙にテストの際に使用した歩行補助具を記載します。
また、歩行テストというとできるだけ早く歩くというイメージがあるかもしれませんが、SPPB における歩行テストの歩行速度は至適速度(普段歩いているような速さで無理なく歩く)で計測します。
- 4.82 秒未満:4 点
- 4.82 ~ 6.20 秒:3 点
- 6.21 ~ 8.70 秒:2 点
- 8.70 秒以上:1 点
- 実施困難:0 点
立ち上がりテスト
安定した椅子やプラットフォーム上に腰掛けた状態から 5 回の立ち上がりに要した時間を計測するテストになります。
立ち上がりや着座は座面の高さで難易度が変わる性質上、座面の高さは 43 ~ 47 cm 程度が望ましいとされています。
回数のカウント方法としては、立ち上がってから着座のタイミングで 1 回とカウントします。そのため、5 回目の着座のタイミングまでを計測します。
- 11.19 秒未満:4 点
- 11.20 ~ 13.69 秒:3 点
- 13.7 ~ 16.69 秒:2 点
- 16.7 ~ 59.99 秒以上:1 点
- 60 秒以上:0 点
- 実施困難:0 点
カットオフ値、結果の解釈
- 立位バランステスト
- 歩行テスト
- 立ち上がりテスト
各項目の得点範囲は 0 ~ 4 点となります。3 項目の合計点(0 ~ 12 点)から、下肢機能のパフォーマンスの水準を出すことができます。
- 0 ~ 6 点:低パフォーマンス
- 7 ~ 9 点:標準パフォーマンス
- 10 ~ 12 点:高パフォーマンス
SPPB については先行研究によって、さまざまなエビデンスが報告されています。以下に例を示します。
- AWGS 2019 の診断基準では、SPPB が 9 点以下で身体機能低下と判定される
- 回復期病棟の脳卒中患者では、歩行自立の カットオフ値が SPPB 7 点となる
- 地域在住の維持期脳卒中患者における活動量の低下および低栄養に関するカットオフは SPPB 8 点以下となる
SPPB については、他の記事で詳しくまとめています!《【SPPB】バランス、歩行、立ち上がりの3要素による身体機能評価》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
6分間歩行テスト(6MWT)
6 分間歩行テスト(6 MWT)は 1982 年に開発された運動耐容能を評価するフィールド歩行テストになります。
2002 年には ATS(アメリカ胸部医学会)から 6 分間歩行テストのガイドラインが発表され、方法の統一が提案されています。
さまざまな疾患や病態に対して使用することができるテストになりますが、その中でも呼吸器疾患や心疾患患者の運動耐容能の評価として、臨床的にも研究にも標準的な検査となっています。
特に、中等度から重症の呼吸器・心疾患治療の効果判定や日常生活における機能障害の重症度評価、在宅酸素療法を施行中の方や導入を検討されている方の運動耐容能等の評価および治療方針の決定などに用いられます。
評価方法
30 m の平坦な直線コースを用意します。区間の両端に折り返し地点となるようにコーンなどを設置します。6 分間でできるだけ速く、長い距離を往復歩行してもらい、その歩行距離から運動耐容能を評価します。
実施環境によっては 30 m のコースが準備できない場合もあります。そのような場合にも最低 15 m のコースが利用できればテストの実施が可能となります。
テスト中の声かけの方法
6 分間歩行テスト(6 MWT)では以下のタイミングで決まった内容の声かけを行うことが推奨されています。このタイミング以外では原則、声をかけないでテストを遂行します。
- 1 分後「うまく歩けています。残り時間はあと 5 分です。」
- 2 分後「その調子を維持してください。残り時間はあと 4 分です。」
- 3 分後「うまく歩けています。半分が終了しました。」
- 4 分後「その調子を維持してください。残り時間はもうあと 2 分です。」
- 5 分後「うまく歩けています。残り時間はもうあと 1 分です。」
- 残り 15 秒「もうすぐ、止まってくださいと言います。私がそう言ったらすぐに立ち止まってください。」
- 6 分後「止まってください。」
カットオフ値、結果の解釈
一般的には、「 400 m 以下になると外出に制限が生じ、200 m 以下では生活範囲が極めて身近に制限される」と報告されています。
6 分間歩行テストの基準値の一例を以下に示します。
- 401 ~ 500 m:高齢日本人の平均的な距離
- 301 ~ 400 m:外出制限あり
- 201 ~ 300 m:ほとんど外出できない
- 200 m 以下:生活範囲が身の周りに限定
体格も疾患も異なる中、歩行距離の結果のみで他者を比較することは難しい要素もあると思います。
6 分間歩行テスト(6 MWT)では、人と人を比べるよりも、同一被検者において歩行距離の変化を評価することが重要であると考えられます。
Timed Up and Go(TUG)
Timed Up and Go(TUG)は歩行能力や動的バランス、敏捷性などを総合的に判断する尺度としてPodsiadlo & Richardson(1991)らが考案したテストになります。
Timed Up and Go(TUG)は、様々な研究者によって研究成果が報告されていますが、一般的には転倒リスクの高い方を判断するのに有用なテストとされています。
特に、高齢者の運動機能に関しての信頼性は高く、下肢の筋力、バランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高いことが示唆されています。そのため、医療現場だけでなく、介護現場でも良く使用されています。
評価方法
Timed Up and Go(TUG)では起立着座能力、直線歩行能力、方向転換能力、所要時間、歩数など移動に関連したさまざまな要素を評価することができます。
日常生活では、まっすぐ歩くだけなどの状況は少なく、方向転換や立ちしゃがみなどの動作を複合的に行う応用歩行が必要となります。TUG は日常生活により近い場面を想定した評価となっています。
【評価の手順】
- 開始肢位は背もたれに軽くもたれかけ、肘かけがある椅子では肘かけに手を置いた状態、肘かけが無い椅子では手を膝上においた状態とする
- 両足が床につくように配慮する
- 椅子から立ち上がり、3 m 先の目印を回って、再び椅子に座るまでの時間を測定する(身体の一部が動き出すとき→お尻が接地するまで)
- 一連の動作を「通常の歩行速度(安全で快適な速度)」と「最大の歩行速度」の 1 回ずつ計 2 回を測定する
- 2 回の測定のうち、速い時間を採用し、秒数の小数点以下1桁までを記録する
- コーンの回り方は、右回り・左回りどちらでも可
- 日常生活において歩行補助具を使用している場合は、普段通り使用して測定する
カットオフ値、結果の解釈
TUG のカットオフ値は多くの研究によって報告されています。カットオフ値の研究を下記に一部抜粋します。
- Shumway-Cook:転倒経験者と非経験者のカットオフ値は 13.5 秒
- Bischoff:地域在住高齢者と施設利用者のカットオフ値は 12 秒
- 介護予防事業(2005):要支援の高齢者の平均値は 12.2 秒
- 運動器不安定症のカットオフ値は 11 秒
TUG のアウトカムとしては様々な報告が挙げられていますが、主には「高齢者の転倒リスクの測定値」と「運動器不安定症の診断基準」になります。
つまり歩行のアウトカム評価として TUG を実施することで、転倒・骨折の危険性を早期に発見し、要介護状態となることを防止することに繋がります。
どれを選ぶ?(最短ルート)
| 症例像 / 目的 | まず取るテスト | 補助 / 代替 |
|---|---|---|
| 回復期・転倒リスク推定 | TUG、Berg | FRT、5 回立ち上がり |
| 在宅復帰の移動自立 | 10 m 歩行(快適 / 最大) | 6MWT 、DGI |
| フレイル疑い・筋力把握 | 握力、CS-30 | MMT(部位別) |
| 疼痛 / 拘縮の関与評価 | ROM(該当関節) | 徒手検査(SLR / Thomas 等) |
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SPPB はなぜここで深掘りしないの?
SPPB は包括評価の代表で、項目構成・判定・活用はボリュームが大きいため、個別ページで詳述します。本ページは“種類の俯瞰と初期選択”に特化します。
時間がないときの最小セットは?
転倒リスク中心なら TUG + Berg、移動自立なら 10 m 歩行 + 6MWT、筋力なら 握力 + CS-30 を起点にします。
測定の順序はどう決める?
バイタル・疼痛を確認し、安全性の高い項目 → 疲労影響の少ない項目 → 高負荷項目の順で実施します。歩行や持久系は最後に回し、必要に応じて休憩を挟みます。
参考文献
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: a test of basic functional mobility. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142–148. PubMed
- Berg K, et al. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992;83 Suppl 2:S7–11. PubMed
- ATS Statement: Guidelines for the Six-Minute Walk Test. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166:111–117(更新版あり). PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


